ミオパチー (myopathy) 神経内科臨床講義教材 12/9/96
myopa.html
ミオパチーの概念
筋肉自体の病変により,筋の脱力など筋症状を呈する疾患をミオパチー (myopathy) と呼ぶ.
ミオパチーの基本的な診断
- 神経学的診察で,筋疾患の主要症候である筋力低下と筋萎縮を認めることが重要.
- 多くの場合,近位筋優位の筋力低下を示す(ただし,例外的に遠位部優位の脱力を示す場合もある).
- 補助的診断法として,筋電図,筋病理所見,および生化学的異常所見を確認すること.
- 筋電図:筋原性変化(低電位,short
duration, polyophasic)
- 生化学的所見:筋逸脱酵素の上昇 (CK, aldolase, LDHなど)
- 筋生検:筋線維の大小不同,壊死線維,再生像,細胞浸潤など.
筋力低下の診断のフローチャート
ミオパチーの分類
1.遺伝性筋変性疾患
進行性筋ジストロフィー
2.先天性ミオパチーおよび関連疾患
3.筋緊張症
筋緊張性ジストロフィーなど
4.代謝性筋疾患
a. 糖原病
b.
脂質代謝異常症
c. その他のエネルギー代謝異常症
d. 電解質代謝異常症
e.
その他
5.内分泌疾患に伴うミオパチー
6.炎症性筋疾患
7.他の内科疾患に伴うミオパチー
8.外傷,中毒に伴うミオパチー
9.筋の腫瘍
10.原因不明のもの
ミオパチーのベッドサイドでの診察のポイント
- 病歴上,ミオパチーの患者は,筋萎縮に気づくことより,筋力低下を訴える場合が多い.
- 発病年齢
- 筋力低下と筋萎縮の分布
- 筋力低下と筋萎縮が四肢の近位筋群に目立つのがミオパチーの特徴.逆に四肢末端から筋萎縮が始まるのが神経原性の筋萎縮である.問診では,できるだけ詳しく,どこから始まったか,その広がりはどうであるかを聞く.
- 経過:症状が進行性であるか,変動があるか,非進行性であるかなどを聞く.
- 全身疾患の関与
- 甲状腺や副腎などの内分泌異常,悪性腫瘍などの全身疾患の有無,膠原病の有無などを聴取する.甲状腺や副腎などの内分泌異常,悪性腫瘍などの全身疾患の有無,膠原病の有無などを聴取する.
- 薬剤の関与
- 遺伝性(家族性)の疾患の有無
- 近親結婚の有無,家族内類症の有無を聴取する.もしも家族内類症のある場合はその遺伝形式についても考察を加える.
発症時期から見たミオパチー
1.
新生児 先天性ミオパチー
2. 幼児期
Duchenne型進行性筋ジストロフィー
先天性ミオパチー
糖原病
3. 小児期
顔面・肩胛・上腕型筋ジストロフィー
Duchenne型進行性筋ジストロフィー
思春期
肢帯型筋ジストロフィー
家族性周期性四肢麻痺
4. 成人型 肢帯型筋ジストロフィー
遠位型ミオパチー
外眼筋ミオパチー
筋緊張性ジストロフィー
甲状腺中毒性ミオパチー
5. 年齢不定 重症筋無力症
多発筋炎皮膚筋炎
薬物中毒性ミオパチー
遺伝から見たミオパチー
- 伴性劣性遺伝性
- Duchenne/Becker 型進行性筋ジストロフィー (Becker型の原因遺伝子ははDuchenne型と同じで dystrophin
遺伝子の異常による.Becker型の場合,dystrophin の異常は軽く,dystrophin
タンパクは何とか作られ,部分的な欠損にとどまる場合が多い.
- Emery Dreifus型筋ジストロフィー
- 常染色体性優性
- 顔面・肩胛・上腕型筋ジストロフィー
- 筋緊張性ジストロフィー
- 家族性周期性四肢麻痺
- 常染色体性劣性
- SCARMD (severe childhood autosomal recessive muscular dystrophy)
- 肢帯型筋ジストロフィー(常染色体優性遺伝もり遺伝形式の点では多様性がある).
- 先天性ジストロフィー(福山型)
- 三好型遠位型筋ジストロフィー
- 糖原病
- Pompe病
- McArdle病
- Tarui (垂井)病
原因遺伝子の判明しているものは,Duchenne/Becker 型進行性筋ジストロフィー,Emery
Dreifus型筋ジストロフィー,筋緊張性ジストロフィー,家族性周期性四肢麻痺,SCARMD (severe childhood autosomal
recessive muscular dystrophy),Pompe病,McArdle病,Tarui (垂井)病
顔面・肩胛・上腕型筋ジストロフィーは原因遺伝子そのものはまだ同定されていないが,第4染色体長腕の部分的な deletion
mが同定されており,このdeletion の程度と臨床像の間には相関関係,すなわち,deletion
が大きいほど,発症年齢が早くなり,重症であることが知られている.しかしながら,このゲノム領域内に mRNA をコードする部分などは見いだされておらず,この
deletion と発症機構との関係については未解決である.
福山型筋ジストロフィー,三好型筋ジストロフィーは連鎖解析により遺伝子座が確定しているが,原因遺伝子そのものはまだ見いだされていない.
ミオパチーの診断
- まず,系統的な神経学的診察が必要.筋力低下,筋萎縮は,運動ニューロン,末梢神経,神経筋接合部,筋肉のいずれの障害によっても起こるので,まず系統的に神経学的診察を行い,神経原性であるのか筋原性であるのかについての鑑別を行う.
- 筋力低下ミオパチーでは,原則として,体幹近位筋に筋力低下が見られ,fasciculationや感覚障害はない.
- 筋力の評価
- 5:正常
- 4:重力に抗してfull-range動くが,筋力低下あり.
- 3:重力に抗してfull-range動く
- 2:重力に抗してfull-rangeまでは動かないが,途中まで動く.
- 1:筋の収縮のみで関節運動にいたらない.
- 0:全く動かない
- こつとしては,1, 3, 5 の段階をよく理解する.2 は1と3の間,4は3と5の間と覚えればよい.
- 筋萎縮
- 筋萎縮の分布,fasciculationを伴うかどうかなどに注意する.
- 筋の仮性肥大
Duchenne型進行性筋ジストロフィーでは,下腿筋,すなわち,下腿後面の筋群(腓腹筋およびヒラメ筋)に初期から仮性肥大が現れる.
- 筋病変に随伴する異常所見
- 筋の圧痛:筋痛は多発筋炎に特徴的な症状で,発病初期,急性期に多く見られる.
- 有痛性けいれん (muscle cramp) 糖原病の中でも,McArdle病,Tarui病でよくみられる.運動によって muscle
crampが生じる.
- 筋浮腫(myoedema)筋を叩打すると,筋がもりあがってみえる.(mounding phenomenonともいう)
- 拘縮 進行性筋ジストロフィーやミオパチーの進行期にみられることあり.機能的には大きな障害になることがある.
- 易疲労性や周期的な筋力低下重症筋無力症は易疲労性が特徴.周期性四肢麻痺では筋力低下が周期的に出没する.
- 歩行動揺性歩行 (Waddling gait) 立ち上がるときのGowers徴候陽性.
ミオパチーの鑑別診断のフローチャート
last modified: 12/25/96
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