多治見−岐阜県

 1931(昭和6)年8月13日、小杉放庵(放菴)は、『美濃と飛騨の旅』(著:田中純/画:小杉放庵/発行:日本風景協会)の口絵を描くための取材旅行において、自動車で岐阜から各務原を経由して美濃太田に至り、そこから犬山まで木曽川を下り、さらに鉄道で多治見に向かっている。

  自動車 岐阜を発す かゞみが原を過ぐ
  太田に到りてきそ川下りの船 三時犬山 でんしや 下
  つた処をさかのぼりて多治見 虎渓山に詣る
  土岐川に一浴 老和尚とあふ 観音堂開山
  堂特覧(後略)

小杉放菴の『日記』(昭和6年8月13日の項)より

 多治見市にある虎渓山は、夢窓国師が開創し、仏徳禅師を開山とする臨済宗南禅寺派の寺院。「虎渓三笑」の故事で有名な、中国の江西省・廬山の虎渓にあやかって虎渓山と名付けられた。小杉放菴も、しばしば「虎渓三笑」をテーマにした作品を描いている。

虎渓山永保寺・国宝観音堂

虎渓山永保寺・国宝観音堂

『美濃と飛騨の旅』口絵より

『美濃と飛騨の旅』口絵より

木漏れ日の射す永保寺の参道

木漏れ日の射す永保寺の参道

 近年の古虎渓の風景。秋には紅葉も楽しめる。ここでも、小杉放菴は、実際に目にすることができる風景より、少し視点を高い位置にとって、俯瞰的な構図で描いていることが理解される。

永保寺境内の落葉

永保寺境内の落葉

撮影:2008年11月29日[小杉放菴研究舎]

古虎渓の風景

古虎渓の風景

『美濃と飛騨の旅』口絵より

『美濃と飛騨の旅』口絵より

 小杉放菴は、多治見市街から4キロほど南西にある土岐川沿いの古虎渓の渓谷にも足を伸ばし、本の口絵として収録されたスケッチを描いている。むしろ、作品としての《虎渓三笑》のイメージにふさわしい情景は、こちらの方かもしれない。

古虎渓の風景と『美濃と飛騨の旅』の口絵

古虎渓の風景と『美濃と飛騨の旅』の口絵

 近年の古虎渓の風景。秋には紅葉も楽しめる。ここでも、小杉放菴は、実際に目にすることができる風景より、少し視点を高い位置にとって、俯瞰的な構図で描いていることが理解される。

撮影:2008年11月29日[小杉放菴研究舎]

調査:1996年3月9日[小杉放菴記念日光美術館(準備班)]