悪戯は伊達にアラズ
(イタズラハ ダテニ アラズ)

2011.12.29(冬コミ)発行
A5/52P/500円/R-18


本文サンプル








 主君の帰還は、門の見張り役によって速やかに城内に伝えられる。城門をくぐって表玄関に辿り着いた時には、ずらりと出迎えの者たちが並んでいた。
「筆頭、お帰りなさいま……せ!?」
「えええええええっ、西海の鬼いいいぃぃぃっ!?」
 政宗が連れて来た他国の集団を目の当たりにして、家臣たちはひっくり返りそうなほど仰天してしまった。すわ敵襲かと身構える者が続出したが、事前に何も連絡がなかったのだから当然の反応だろう。
 騒然となった部下たちを、政宗は鶴ならぬ独眼竜の一声で納めてしまう。
「安心しろ、これでも一応、客だ」
「だから一応ってのが引っ掛かるんだよな」
 ぶつぶつと文句を付けつつも、元親は伊達軍の居城をもの珍しそうにジロジロと眺め回していた。
「ところで何なんだこの城は? あっちこっちにカボチャが飾ってあるぜ」
「今日はハロウィンだからな」
 城を離れている間に、例のカボチャ灯籠は次々と完成したらしく、城内のあちこちに飾り立てられていた。政宗が口にした、ハロウィンというものに関係するらしいが、小十郎には耳慣れない言葉だった。
「ああ、南蛮の祭りか」
 合点がいったように頷く元親を、政宗は意外そうに聞き返す。
「知ってるのか?」
「舶来品は大事なお宝のうちさ。物と一緒に南蛮の文化やら風習やらも入ってくるんでな。まあ、俺が興味があるのは、祭よりもカラクリの方だけどな」
 玄関にどんと置かれたカボチャの前に、小さな紙包みの詰まった籠が置かれているのを見付けると、元親は大きな掌で、むんず、と掴み取った。
「おらおら野郎ども、鬼は外ーっ!」
 そう声を張り上げつつ、自分の子分たちに向かって景気よく紙包みをばらまいた。
「ア・ニ・キー! ア・ニ・キー!」
「おおよ!」
 わっと歓声をあげて包みに群がる子分を嬉しそうに眺める元親を横目に、政宗が呆れた顔をする。
「それじゃあ節分だ。しかも鬼はお前だろ」
「あぁ? 細けぇことは言うなって。それにしても、この飴は甘えなァ」
 紙包みの中身は飴玉である。元親は一つを勝手に口に放り込んで、予想以上の甘さに顔をしかめている。
「毒が入ってるかも、とか考えねぇのか?」
「奥州の竜ってぇのは、戦で勝てないからって毒を盛るのか?」
「んなわけねぇだろ!」
「だろう?」
 元親は大口を開けて笑っている。
 むすっとした政宗は、城内の者に長曾我部の一行の世話を押し付けると、さっさと自分の兜の顎紐をほどいた。
 屋敷に上がる前に、まずは手足を清めなくてはならない。言うまでもなく、そのための盥は既に用意されていた。
 手を洗った後、上がりかまちに腰掛ける主君の前に小十郎は跪いた。
 城には小姓や侍女が幾らも控えている中で、城主の身の回りの世話は軍師がやるべき仕事ではないだろうが、これは傅役の頃から続けてきた習慣のようなものだった。小十郎は手際良く政宗の草鞋と足袋を脱がせると、丁寧に足を水に漬ける。
 濡れた足を拭かせたまま、政宗は言った。
「俺の着替えは小姓にやらせるから、お前もさっさと陣羽織を脱いで来い。広間にパーリィの用意をさせてある。奴らのおかげで頭数が増えちまったが、適当に何とかしてやってくれ」
「承知いたしました」
 さっぱりした裸足で屋敷に上がっていく政宗を見送った後、小十郎は城の裏手に回って厨の勝手口に立ち寄ると、いつきから分けて貰った米などを渡す。
 城の台所では、宴会の料理と酒の支度で大わらわだった。忙しく立ち回る侍女に来客が増えたことを告げると、卒倒しそうになりつつも何とか引き受けてくれた。
 その後、自室に引き取るために屋敷内を移動していたときのことである。
「片倉ぁぁぁっ!」
 ドドドドド、と地鳴りのような勢いで押し寄せて来たのは、伊達軍の中でも古参の家臣たちだった。
 いずれの面々も、頭の毛は白いか禿げあがっているかのどちらかだが、身体の方はかくしゃくとしている。先代どころか先々代の治世から伊達家に仕えている、筋金入りの重鎮である。
「片倉っ、どういうことじゃ!」
 予想通りの叱責を受ける。仕方なく、小十郎は城に戻ってくる間に考えておいた言い訳を、とうとうと口に乗せた。
「お騒がせしまして申し訳ございません。四国の長曾我部殿は交易の途中で寄港したとのことで、敵意は無い模様です。城内の妙な飾りにつきましては、政宗様のお指図でしょう。政宗様にはきちんと元に戻すように後ほど……」
「そんなことを言っておるのではない!」
「……は?」
 板張りの廊下では、人の声はよく通る。一喝された小十郎よりも、近くに居合わせた他の使用人たちがぎょっとして振り返ってくる有様だった。
「いや、ここではまずい」
 衆目に気付いた老臣たちは、小十郎を手近にあった部屋に押し込んだ。
 狭い一室でいよいよ小十郎に詰め寄ると、彼らは単刀直入に話を切り出した。
「筆頭が女に会いに行かれたとは、まことかっ」
「しかも農民の娘と言うではないか」
「いやこの際、身分などはどうでもよいわ」
 次々とまくしたてられ、小十郎は唖然として立ち尽くした。
「……どこからそのような噂を」
 どっと全身の力が抜けるような思いを味わった後、呆れたいのを抑えつつ取りなした。言ってきたのが若い部下だったら、馬鹿馬鹿しいと笑って部屋を出ることもできるのだが、いかにせん相手は面倒な年寄り連中だった。









*サンプル終わり*
Novel by 秋原みゆり


Back
無断複製/転載禁止