| 月夜のCurtain Call 2013.8.12(夏コミ)発行 A5/60P/600円/R-18 本文サンプル |
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※舞台「宴」、ゲーム「3」「宴」からのネタバレを含みますのでご注意ください。 「ああ、いい月だ」 浮き橋に見立てた渡り廊下の中ほどで、政宗は足を止めて夜空を見上げた。 まるく大きな望月が中空にのぼり、墨色の闇を払うがごとく輝きを放っている。細い雲が僅かにたなびいている隙間には、小さな星々もよく見えて、月見をするには絶好の天候だった。 しかしこの美しい月を心ゆくまで愛でるには、少々、この場の環境は落ち着かなかった。既に夜半に差し掛かる時刻だというのに、今宵に限ってはいまだに城内が寝静まる様子はなく、廊下を照らす灯りも数多い。 政宗は、ふっと息を抜いた。 「フルムーンだってのに、あいつらときたら月になんて見向きもしねえ」 屋根付きの渡り廊下は、屋敷の棟と棟を繋いでいる。政宗が渡ってきた棟は表向きのまつりごとに使われている大きな館で、城で一番の大広間があった。そこで繰り広げられている賑やかな喧噪が、ここまで離れてもありありと届いてくる。 今宵、奥州伊達軍の居城では内々の宴が催されていた。 荒くれ者揃いと評されるつわものたちが、一同に集まって酒を酌み交わすのである。広間はあっと言う間に荒くれた男達の歓声で沸き返った。ひしめき合う熱気を逃がすため、何枚もある襖や障子はあらかた開放されているが、わざわざ縁側に出て月を眺めようという風流心のある者は皆無だった。 政宗もつい先程まではその宴席に身を置いていたのだが、夜風に当たりたいと口実をつけて中座してきたのだった。 酒が入ってうっすらと赤みがのった頬を擦り抜ける空気が心地良い。隻眼を細めて月を眺める政宗の背後には、夜の静けさに似た気配を纏った男が控えていた。 声を掛けずとも、視線すら向けなくとも、政宗が立ち上がっただけで男は心得たように付き従ってきた。そして、それを不思議に思う者は誰もいなかった。 政宗は振り返らずに男の名を呼んだ。 「なあ小十郎、お前も見ろよ」 「月見酒をご所望でしたら、お部屋に用意させましょうか」 そう言いながら携えていた羽織を広げて肩に掛けてくる。政宗は腕を組んだまま身を任せていたが、男の手が肩から離れると、後ろへと顔を向けた。 「いや、酒はもういい。ちいっと飲み過ぎた」 政宗がくだけた口調で告げると、小十郎は政宗の体調を慮る眼差しを向けた。 「それほど過ごされているようにはお見受けしませんでしたが、お疲れが溜まっていましたか?」 「お前、俺が何杯飲んだかなんて数えてるのか?」 「当然です」 即答する実直な態度を、政宗は鼻で笑った。 「Ah? 見てもいないくせに適当だな。宴会芸の仕切りに付きっきりだったじゃねぇか。お前は背中にも目玉がついてるのかよ」 暗に自分をほったらかしにしていたことを非難めいて言い返せば、小十郎は少し肩を竦めて見せた。 「生憎と。ですが、貴方が何を召し上がって、酒盃を幾度空にされて、誰に酌をさせたのかも存じております」 「お前が側にいなかったからだろ。俺に手酌をしろとでも?」 「国境に代々の土地を持つ古参の御仁ですが、近頃また最上軍からの嫌がらせを受けているそうです。政宗様直々の労いにいたく感激しておられました」 「そいつを俺の近くに座らせたのはお前だろ」 そう言って政宗は唇の端をにやりと歪めた。 家臣たちに羽根を伸ばさせてやる一方で、伊達軍への帰属意識を煽ることも忘れない。たかが身内の宴における小十郎の幹事としての如才無さは軍師としてのそれと変わらず、鷹揚に上座に着く政宗はあるじがどう振る舞うべきかを存在で体現していた。 「嫌がらせとやらの件は、背後関係を洗って早急に手を打て。だが、とりあえず今はあのジェントルマンの面は思い出したくねえ」 「御意に」 「せっかくの良い気分が台無しだ」 それきり、政宗は再び夜空を見上げて黄金色に輝く輪郭を視線でなぞっていたが、ふと、先程までの盛り上がりを思い出して、クスクスと笑みを零した。 「それにしても、今日の宴会芸はなかなかCoolだったな」 「勿体なきお言葉です」 「謙遜しなくていい。お前が意外と芸達者だっていうのは知ってるぜ」 * * * 「おいジェントルマン、誰の城だって?」 「んん? 誰か我輩を呼んだかね?」 横合いから突っ込まれ、怪訝そうに最上が振り向く。己の視線の先に政宗を見つけると、一呼吸を置いたのちに盛大に飛び上がった。 「ままま政宗君ではないかね!? どうして貴公が我輩の城にいるのかねっ? まさか我輩の留守に羽州を乗っ取るつもりなのかい。なんたる卑怯、まったく紳士の風上にも置けないよ」 最上の勘違いぶりに、政宗は早くもうんざりする。 「寝言は寝て言えよ、ここはテメェの城なんかじゃねえ」 「なんと!」 最上は飛び上がって仰天すると、今さらのように四方八方へと目を向けた。改めて周囲の景色を見るなり、みるみるうちに顔を青ざめさせていく。 「まさか……まさかここは奥州……!?」 今さらにして、最上は呆然と声を震わせている。 わざわざ、そうだと肯定してやる義理は政宗にはなかった。見たままの風景が真実を物語っているのだ。 己の失態に落胆して消沈するかと思いきや、最上義光はそんな殊勝な人物ではなかった。 「一体どういうことかね、出てくる場所が違うではないか」 癇癪を起こして地団駄を踏んでいるのは、装甲車の鉄板の上である。ガンガンと踏み鳴らしていると、パカッと足下近くの蓋が開き、最上軍の兵士がヌッと顔を出した。 「申し訳ありません探題様、角土竜の方向設定が間違っていたようです」 角土竜という呼び名の通り、地中を潜って進軍することができる頑丈なカラクリ戦車だ。恐ろしい能力を持った兵器だが、どんな武器でも活かせるかどうかは扱う人間の腕前に懸かっている。 どうやら進路を間違えて奥州に迷い込んでしまったらしい。 「どこから湧いて来たのか知らねぇが、不法侵入とはいい度胸だな」 言いながら、政宗は携えた刀の柄に手を掛ける。 「HELL DRAGONでぶっ飛ばしてやる」 スラリと刀を抜いて構えると、その場で力を溜める。庭を挟んだ縁側からの距離でも充分に射程範囲内だった。 体内の気が高まるにつれて、政宗の周囲に青い閃光がパチパチと纏わり付き始めた。その現象は握っている刀にも乗り移り、刀身がじわじわと光を帯びていく。 「待った! 待ちたまえ政宗君っ」 最上は慌てて両手を左右に振って喚き立てたが、ふと、手近にいる存在を思い出したのか、まつの腕を掴んだ。 「きゃっ」 「貴公はこの奥方殿がどうなってもいいのかね!」 まつを前面へと押し出し、自分はちゃっかり後ろに隠れながら最上は牽制する。 「Ah……? アンタは確か風来坊のところの……」 見覚えのある女性の姿に、政宗は眉を潜めた。 いつも一緒にいるはずの夫である前田利家の姿はなく、彼女はたった一人きりで最上軍に囲まれているようだ。傍目にも有り得ない状況のうえに、まつの両手が後ろで縛られ拘束されているのを確認して、政宗にはおおよその想像がついた。 「かよわき女性に刃を向けるとは、紳士道にもとる行いだよ?」 「女を攫って盾にするのが紳士道なのかよ」 「残念だが貴公の相手をしている暇はないのだよ。すごくて賢い我輩が本気を出せば、貴公が奥州筆頭などと威張っていられるのは今のうちだよ。いずれこの奥州も我輩のものになるのだからねっ、せいぜい名残を惜しんでいるといい」 「Ha? どういう意味だ?」 「さあ、貴公はそこでおとなしく我輩の華麗なる旅路を見送ってもらおうではないか」 「Shit!」 傍若無人に振る舞う最上に政宗は舌打ちする。しかし、羽州の狐の言うとおりに従うつもりなど毛頭ない。政宗は刀を構えたまま、縁側を裸足で飛び出した。 *サンプル終わり* Novel by 秋原みゆり |
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