| 宝物を抱いて眠る 2013.12.30(冬コミ)発行 A5/36P/300円/R-18 本文サンプル |
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※本編からの抜粋です。 「よう、よく来たな」 政宗が、二人へと近付きながら声をかける。すると、おさげの少女がぱっと振り返った。 「蒼いお侍!」 「元気そうだな、いつき」 政宗は優しく微笑むと、自分よりずっと低い位置にある少女の頭をぽんぽんと撫でる。 奥州筆頭として国と民を守る立場にありながら、実際には領民と気軽に接する機会がほとんどない。だからだろうか、政宗はたまたま知り合った農民の少女のことを何くれとなく気に掛けている。年の瀬が迫り、農民たちが困窮してはいないか、気になっていたのだろう。 もっとも、彼女をわざわざ城に呼んだのは、単純に楽しませたいからという彼の茶目っ気も多分に働いている。 政宗はいつきの隣に立ち、ともにクリスマス・ツリーを見上げる。その横顔は自慢気に輝いていて、どちらが子どもか解ったものではない。 「どうだ、気に入ったか」 「うん! すっごくきれいだべ!」 「クリスマスって言ってな、南蛮の祭みてえなものだ。夜には明かりをつけてもっと綺麗になるぜ」 「夜……」 見てみたいけれど、暗くなるまでには村に帰るつもりでいたであろう少女は、残念そうに肩を落とす。それを政宗は見越したように話を続けた。 「今日は城に泊まっていけ。寝るときに靴下……足袋は持ってなさそうだな、まあ何でもいいから袋になるものを枕許に置いとけよ」 「なしてだべ?」 「サンタクロースがプレゼントを届けに来るのさ」 「さんた? ぷれぜんと?」 「クリスマスの夜に、子どもに贈り物をしてくれる、気のいい爺さんがいるんだよ」 適当な説明がざっくばらん過ぎて、一歩間違えると不審者だとしか思われないのではと小十郎は苦笑したが、いつきは、贈り物という部分に反応を示したようだ。 「すっごいべ! 神様みたいだべ!」 そう認識してくれるなら手っ取り早いだろう。 「バッカじゃねーの」 すると、それまでやり取りを見ていた蘭丸が、あいかわらず生意気な口調で茶々を入れてきた。いつきと同じ年頃の蘭丸は、彼女が政宗に懐くのが面白くないらしい。その理由など、小十郎には手に取るように解るのだが。 「サンタなんて本当にいるわけないだろ。俺は知ってるんだぜ。夜中にこっそりと信長様がプレゼント置いてくれるの見たもん」 「ええっ」 落胆するいつきだったが、それでも希望を捨てていない。 「で、でも、蒼いお侍が言ってるんだし、きっとこの奥州にはいるんだべ」 「こんな田舎にいるわけねーだろ」 「田舎は関係ねえべ!」 他愛のない言い争いをしている子どもたちの様子は、ただただ微笑ましいものだ。政宗もさすがに割って入るような真似はしない。しかし、聞くつもりがなくても聞こえてくる蘭丸の得意げな暴露については、頬を引き攣らせている。 「織田軍がクリスマスだと……?」 「しかも魔王みずからサンタの役をやっていたようですな……」 政宗が受けている衝撃に、小十郎もそっと同意する。泣く子も黙る第六天魔王がプレゼントを配って回る姿など、いったい誰が想像できようか。 しかし蘭丸は魔王とその妻から破格の扱いで可愛がられていたらしく、織田軍が滅んだ今でも時折、魔王の面影を追うような素振りを見せる。あれほど残酷な戦に従軍させられていたのに、それでも彼らを親のように慕う姿は、年相応のいじらしさを感じてしまう。 蘭丸は、屈託のない顔で、きししと笑う。 「でさー、この木を最後にぱーっと燃やすんだぜ」 「燃やさねぇよ! てめぇんとこの焼き討ちパーリィと一緒にするな!」 溜まりかねたらしく、政宗が声を張り上げる。 すると蘭丸がべぇっと舌を出して挑発するものだから、政宗もつい大人げなくむきになってしまう。いつきを挟んで睨み合う二人の間に、見えない火花が散る。 小十郎はやれやれと、こめかみを指で押さえた。 「政宗様……控えられよ」 「うっせ、わかってる」 耳打ちするように釘を刺すと、政宗は苦虫を噛みつぶしたような顔をした。いくら何でも、幾つも年下の少年と本気で喧嘩をする真似はしないはずだ。 政宗は気を取り直したのか、あえて大人を誇示するように、堂々とした風情で両腕を組んで見せる。まったく負けず嫌いな御方だと、小十郎は思わず内心で吹き出しそうになった。 「とにかく、今夜は城を挙げてのクリスマス・パーリィだ。いつきと、ついでにそこのクソガキも、Partyを思いっきり楽しんでいきな」 「いえーいっ!」 いつきが両手を振り上げて歓声を上げる。伊達軍と知り合ってからというもの、彼女も口真似で南蛮語を操るようになってしまった。 政宗は、ぐるりと周囲を見渡すと、その場にいた伊達軍の面々に向かって檄を飛ばす。 「もちろん、お前らもだぜ?」 「筆頭ォッ!」 「Are you ready, Guys!? 」 「イェヤッハー!」 今度は一斉に野太い雄叫びが沸き上がる。伊達軍に所属する連中は、揃いも揃って血の気の多い荒くれ者ばかりだ。筆頭、筆頭と口々に呼び掛けては、宴会を待ちきれずに大騒ぎしている。 いつもながらの男くさい光景に、小十郎は苦笑しながらも眼を細めた。 人の輪の中心になって皆を引っ張る彼こそが、誰よりも一番楽しそうにしていた。 城を挙げてのクリスマス・パーティーは、それは盛大なものだった。 元よりお祭り騒ぎの好きな連中ばかりの伊達軍である。今宵も飲めや歌えやの盛り上がりを見せ、若手の家臣団は朝まで飲もうぜと騒いでいた。さすがに、いつきや蘭丸といった子どもたちは、腹いっぱいにご馳走を食べさせたところで部屋に送らせ、政宗も深夜になる手前で上座から引き揚げた。 自室に引き取った政宗は、ほろ酔いに頬を染めながらも、むっすりと不機嫌だった。 正確に補足すると、パーティーの席ではとても上機嫌だったのだ。しかし部屋に戻って、再び酒盃を傾けつつ、今夜の計画を小十郎に相談したところで、一気に急降下したのである。 「俺がサンタをやりたかったのに」 「城主が深夜に隠れて城内を徘徊するなど、万が一にも誰かに見咎められたら、示しがつきませぬ」 「こっそり配るから楽しいんじゃねえか」 「ご安心召されよ。小十郎がきちんと役目を果たして参ります」 「俺も一緒に行く」 「なりません」 「お前、ほんと、つまんねえ奴」 政宗が口を尖らせる。 政宗と小十郎が膝を突き合わせるその間には、酒器の他にも漆塗りの盆が置かれ、その上には幾つかの巾着が載せられている。 手の中に納まるくらいの巾着の中身は、京から取り寄せた金平糖だ。実のところ大人でも滅多に口にできない高級品だが、政宗はそういったことに頓着しない性質だった。甘い菓子はきっと子どもたちに喜ばれるだろう。 これをクリスマスプレゼントと称して、いつき達が眠る枕許に届けてやろうというのが政宗の計らいなのだが、まさか城主が夜中に忍び込むような真似を認めるわけにもいかない。うっかり警備の者にでも見つかったら、何と言い訳をするつもりか。 第一、冬の夜更けの寒さは、日中の比ではない。あるじの寝所から遠く離れている彼らの宿舎まで、屋外とほぼ変わらない外廊下を延々と歩かせるなど言語道断である。よって、小十郎が代わりの役目を、なかば強制的に申し出たのである。 「俺が寒さに負けるとでも思ってるのかよ」 「後で風邪を召されても知りませんよ」 「今なら酒で身体があったまってるから平気だ」 「ならば尚更、御身を冷やすわけには参りませんな」 そういう無防備な状態の時こそ、風邪をひきやすいのだ。年末年始が迫っている今、多忙な奥州筆頭を寝込ませるわけにはいかない。もっとも、時期に限らず、政宗に風邪をひかせるつもりなどない。 「チッ……てめぇもたいがいしつこいな」 一歩も引かぬ言い合いに、政宗は舌打ちをする。その後に繰り出されるであろう反撃に身構えた小十郎をよそに、政宗が続けた言葉は意外なものだった。 *サンプル終わり* Novel by 秋原みゆり |
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