「秋の天皇賞にて古馬と競演」之巻

 北海道から帰ってきたスズカはまずは神戸新聞杯という菊花賞の前座の舞台に立つ。しかし、次に目指す舞台は菊花賞ではなく天皇賞である。神戸新聞杯では修行の成果を試そうと逃げるが、相棒ワラウカドを差し置いて出世した関西大手お笑い軍団マチカネ新喜劇所属のフクキタルに先着させる。まあまあの結果だろう。

 そして府中劇場で行われる大舞台天皇賞へ。初めての新人舞台以外への出演である。しかも新人は自分一人。でも、緊張というよりはぞくぞくする。

 枠順は新人のときからこの舞台で活躍している風船ガム野郎という大物と、紅一点の大物女優空気溝(この女優はスズカの同期のライバル空気根性の事務所の先輩にあたり、空気根性はいつもいじめられているとスズカに愚痴っている)とのちょうど中間の枠である。

 ここで十八番の「ゲート潜り」でも披露するか、と考えるが、ここは魔のコース府中10ハロン。外枠は大幅に不利だ。だから「ゲート潜り」をやって外枠発走になるわけにはいかない。そう考え「ゲート潜りがしたくてたまらない」という芸人魂からくる衝動を必死で押さえながら、スタートを待つ。

 そしてスタート。「おりゃー、俺様がサイレンススズカ様だ!」と叫びながらがんがん逃げる。「師匠見ていて下さい」とつぶやきながらさらに馬鹿逃げ。モニターに映し出される。観客席からは大歓声。気をよくしたスズカはますます他の馬を突き放す。場内からはモニターに映し出されるだびに、大歓声に喝采の嵐。芸人冥利に尽きるとはまさにこのことだ。

 そして4コーナーを回ったところでお約束通り失速。結果は6着という本賞金は出ないが、付加賞金は出るという中途半端なもの。

 帰りの車に向かう途中スズカはマネージャー(厩務員)に一言。「お笑いのギャラは安いねぇ。一番場内を沸かしたのは俺じゃねぇかよ。(ブツブツブツ)」


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