香港公演之巻

 「なあスズカ、香港へいって見ないか」とマネージャーは言った。

 「えっ、まだG1シーズンですよ。海外旅行にいくのはオフになってからにしましょうよ。」とスズカ。

 「バカ。遊びに行くんじゃないよ。」

 「というと、仕事っすか?」

 「そう。その通り。香港には世界各地から俳優や芸人を呼んで競演させる舞台があるんだよ。君には日本だけではなく世界の舞台で活躍して欲しいと思っている。『世界のスズカ』になるためにはまず『アジアのスズカ』になることだ。だから、その舞台に推薦してくれるように頼んでみるよ。」

 子供の頃ハリウッドの舞台にあがることを夢みていたスズカは「世界が俺を呼んでいる」と思い、2つ返事でOKした。見事に推薦されて、スズカは香港の舞台に立つことになった。香港はアヘン戦争以来競馬の本場イギリスの領土だった関係で、こうした大舞台も用意されている。この年7月イギリスから中国に返還されて、世界で最も人口が多い国の中の最も栄えてる都市になったのだ。

 そしてスズカは空路香港へと向かった。中国語での芸名は無聲鈴鹿である。お笑い界の先輩栄進珊珊も一緒だ。

 そして香港シャティン劇場での舞台に立った。香港でもスズカはお家芸を披露。馬鹿逃げである。後続を4馬身5馬身と突き放す。「我亜州逃馬哉(俺がアジアの逃げ馬だ)!」と、うろ覚えの中国語で叫びながら逃げる。そして、4コーナーを回ったところでまだ先頭。3馬身ぐらいリードしている。このまま勝っちゃうんじゃ、、、と思わせておいて結局下がっていった。それでも5着と大健闘。

 「世界のスズカ」になるための布石として香港での公演を成功させ、胸を撫で下ろしながら帰りの飛行機へと乗り込むスズカであった。

 


前へ 次へ

もどる もっともどる