今年の秋はことのほか、雨が多い。
三連休最後の日も朝から大粒の雨が降りしきり、ほたるは憂鬱な気分で窓ガラスの向こうの暗い空を見上げていた。
いっこうに止む気配の見せない雨雲にむかってほたるは思わず、秋って嫌だな、とつぶやいた。
「そう?」キッチンから戻ってきたせつなが、テーブルにティーカップを置いて静かに微笑んだ。「私は、秋好きだけど」
「ま、食べ物はおいしいよな」皿に盛られたリンゴを一切れつまみ、はるかは頬張った。
「芸術の秋、でもあるわよ」みちるも読んでいた楽譜を軽く掲げてみせる。
「うん・・・。なんか、雨ばっかでつまんないなって」窓際から戻り、湯気とほのかな香りとを上げるカップを受け取りながら、ほたるはせつなを見上げた。
「ねぇ、せつなはなんで秋が好きなの?」
「そうねぇ、自分の誕生日だからというのもあるけど・・・」軽く考え込み、それから続けた。「明日晴れてくれれば、ほたるにもわかってもらえるかもね」
そりゃ晴れてくれれば嬉しいけどさ・・・とつぶやきながら、ほたるは紅茶を口に含んだ。
*
せつなの願いが通じたのか、翌日は見事に晴れ渡った。
連休が終わってから晴れなくったっていいじゃない、と少し腹立たしく思いながら、ほたるはランドセルを背負って玄関のドアを開けた。
そして次の瞬間――ほたるは、ふと足を止めた。
昨日までの雨を含む空気が柔らかな陽光に照らされて生まれる、限りなく澄んだ瑞々しさ。
その中のどこからか漂う金木犀の花の香と、風で少し散らされて、庭の隅に積もている濡れた枯れ葉の匂い。
外へ出たほたるを包むそれらは、夏の限りなく強い日光とも、冬の身の引き締まるような寒さとも、春の朗らかな陽気とも違う、秋独特のものだった。
ほたるは、ふと振り向く・・・玄関先には、せつながにこやかにほほえみながら立っていた。
「行ってらっしゃい」
ほたるもつられて笑いながら手を振った。
「いってきまぁす!」
(終)
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