星めぐりのうた




ふぁいやー!
「そそ、そこそこ。うまいよほたるちゃん・・・
なーにやってんのぉちびうさ、またやられてんじゃん」
 「うるさいなぁ、外野は口挟まないでよ〜」
 だいやきゅーと!
 「ほらもーそこじゃなくって、もう一つ右よ右・・・あーもうじれったいなぁ、そこ違うってば!」
 「少しは黙ってよ、気が散るじゃない・・・ってあ〜〜っ!」
 ばよえーん!!
「ぷはぁ〜、まーた負けたぁ」
 あたしはゲーム機のコントローラーを放り投げて、居間の絨毯敷きの床に寝転がった。
 あたしの隣に座っているほたるちゃんは、小首をかしげてそんなあたしをちょっと申し訳無さそうな顔で見てる。
 ・・・そんなに気になんかしなくっていいのに。
 「5戦全勝。やっぱりほたるちゃん強いねぇ。ホントにぷよぷよ初めて?」
 あたしがひょいと起き上がると、あたし達の後ろで観戦していた(そしていらない口出しをたくさんしてきた)うさぎが聞いた。
 「え、ええ。ゲームをしたのも初めてです」
 ほたるちゃんはちょっと照れくさそうに笑う。
 「そっかー、じゃあやっぱり頭いいんだね。どっかの誰かさんと違って」
 「なによぉ、うさぎだって一学期の数学の成績、まーた落っこちたくせにぃ」
 「ちょ、ちょっと、な・ん・であんたがあたしの通信簿の中身知ってんのっっ!」
 ・・・と、いつもの姉妹ゲンカ(本当は「親子ゲンカ」だけど)モードになりかけた所であたしはようやく、
ほたるちゃんがあたし達の顔を見比べて、止めようかどうしようかとおろおろしているのに気が付いた。
 「あ、ほたるちゃん、これ位いつもの事だから気にしなくっていいよ」
 あたしは慌ててフォローする。
 「そうそう、こんなのの事なんかいちいち気にする事ないって」
 「・・・ちょっと、『こんなの』って一体誰の事?」
 「さぁねー、鏡にでも訊いてみたら?」
 という訳で再びにらめっこ状態になったあたし達だったけど、突然クスクスと笑い声が聞こえてきて思わず顔を見合わせた。
 見ると、しばらく呆然としてあたし達を見ていたほたるちゃんがついに耐え切れずに笑い出してしまっていた所だった。
 「あ・・・ご、ごめんなさい。なんだか、ついおかしくて・・・」
 顔を真っ赤にして笑いつづけるほたるちゃんを見てたら、何だかあたしまでおかしくなってしまった。
 「あーらぁちびうさちゃん、まだゲームやってたの?そろそろ一時間よ」
 うさぎまで加わってしばらく3人で笑い転げてると、隣の台所で夕飯の後片付けをしていた育子ママが顔を覗かせてきた。
 「う〜ん、後1回だけ!」
 「しょうがないわねぇ、じゃ、それで最後になさいね。
お風呂も沸いたから、終わったら入りなさい」
 「はーい」
 育子ママがいなくなると、あたしはほたるちゃんを振り返った。
 「ね、ほたるちゃんいいでしょ?もう一勝負」
 「ええ、いいわよ」
 ほたるちゃんはにっこり笑って応えてくれた。
 「まだやるの?あんたも凝りないわねぇ・・・。
じゃ、あたし先にお風呂入っちゃうよ」
 そう言いながらうさぎは立ち上がった。
 「うん、いーよ」
 はぁ、これでやっと邪魔者がいなくなる・・・。
 「ちびうさ、今何か言った?」
 「別にぃ・・・」


夏休みが始まってしばらくたった8月のある日、ほたるちゃんがあたしのうちにお泊まりに来た。
 折角のお休みだから一日中たっぷりほたるちゃんと遊びたくて、あたしが誘ったんだ。
ほたるちゃんのパパの許しが出るかどうか心配だったけど、なんとか大丈夫だったみたい。
 謙之パパの車でちょっと遠くの大きな公園まで遊びに行ったり、家でお昼ご飯やおやつのクッキーを
育子ママに教えてもらいながら一緒に作ったり、
あたしの昔の写真のアルバムを見たり、暗くなったら庭で花火をしたりと、目一杯楽しんだ。
 あんまりいろいろ連れ回しすぎて、却ってほたるちゃんを疲れさせちゃったんじゃないかと心配になるくらい。
 でもほたるちゃんの体の調子は今日はずいぶんいいみたいだったし、何よりほたるちゃんはいっぱいいっぱい笑ってくれた。
いつも遊んでいる時よりもはしゃいでいた位だった。
 よかった。喜んでもらえたみたい。

――ほんとうに、よかった。
 ほたるちゃんは、あたしと遊んでてもいつもどこか寂しそうで、どこか影があって。
もしかしたらあたしといても楽しくないんじゃないかなって、時々心配になった。
 でもそんなことほたるちゃんに聞いても答えはいつも同じ。『ううん、そんなことないよ』って、あの静かな微笑みを浮かべて言うんだ。
 ・・・あたしじゃ、駄目なのかな。
 時々そうも思った。あたしじゃほたるちゃんの心にかかった影を払う事なんて、ほたるちゃんの寂しさを無くすことなんて出来ないのかもしれない。
 けれど、それでもやっぱり、あたしの何とかしたいと思う気持ちは変わらなかった。
 あたしはほたるちゃんと一緒にいられていつも楽しいし、何よりほたるちゃんとお友達になれたことが嬉しかった。
 もし出来ることなら、ほたるちゃんにもそんな風に感じてもらえたら・・・。
 無理かも知れないけど、あたしはそう願っていた。


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