結局最後のゲームも、あたしの完敗に終わった。 まだうさぎがお風呂に入っていたので、先にお布団の準備をすることにして、あたしとほたるちゃんはゲーム機を片付けて2階に昇る階段を上がった。 と言っても行き先はあたしの部屋じゃなく、2階の更に上の屋根裏部屋。 あたしの部屋のベッドだと2人並んで寝るのはちょっときついし、ベッドの隣りに布団を敷いてもいいんだけど、それじゃあ寝ながらお喋りとかしにくいしね。 だから今日は特別に、いつもは使っていない屋根裏部屋を掃除しておいてもらって、そこで布団を並べて寝ることにしたんだ。 2階の廊下にある梯子を昇ってはね蓋を上げると、ちょっとかび臭いような独特の匂いが鼻を突いた。 部屋の中は小さい明かり取りの窓が二つあるだけなので薄暗く、体を引っ張り上げて中に足を踏み入れると、板張りの床がちょっとギシギシいった。 後から上ってくるほたるちゃんに手を貸して昇るのを手伝ってあげてから、あたしは低い天井からぶら下がっている裸電球の 笠の上についているスイッチをひねって電気をつけた。 明るくなると、上げておいてもらっていた二組の布団や、部屋の隅の方におかれているダンボールとかのいろんな荷物が目に入った。 「ね?面白いでしょう?普段は物置くらいにしか使ってないんだけどね」 物珍しげに辺りを見回すほたるちゃんにあたしは言った。 「ほんと。すごいわね、ちびうさちゃんち、こんな所があるんだ」 「ふふふ、いいでしょ? ・・・さてと、じゃあ布団敷いちゃお。ほたるちゃん、悪いけどそっちの窓、開けてくれる?」 ほたるちゃんはうなづいて、窓に向かっていった。あたしも反対側の窓を開けに行く。 サッシを開けると、夕方から出てきた風が部屋の中に入ってきた。この分だったら、網戸だけ閉めて寝れば結構涼しいかも。 「――あ、ちびうさちゃん、見て」 ほたるちゃんが呼ぶのであたしが駆け寄ると、ほたるちゃんが窓から少し身を乗り出して空を指さしていた。 「月が出てるよ、ほら」 あたしも窓から顔を出すと、外の街灯の明かりの向こうに、少し傾き掛けた半月が浮かんでいた。 空には雲一つないので小さい月がよく見えた。 ・・・街灯さえなければね。そしたらもっとよく見えたんだけどなぁ。 布団を敷き終わって、二人でその上に寝転がっていろいろおしゃべりしてた時に、ほたるちゃんが突然聞いてきた。 「ね、ちびうさちゃんは天の川見たことある?」 「天の川・・・って、夜空の、あの天の川?」 本当は30世紀で見たことがあるけど、まさかそんな事ほたるちゃんに言うわけにはいかないし。 「うーん無いなぁ。ここじゃちょっと明るすぎて、星なんて全然見えないもん。 ほたるちゃんは?見たことあるの?」 「私はね、一度だけあるの。ずっと昔のことだけど。 2年生の夏に、パパとママの3人で旅行に行った時に、山の中の、大きな建物も明かりも全然無い所に泊まったの。 夜になると空が頭の上一杯に広がってて、星が数え切れないくらいまたたいてたの」 「ふー・・・ん」 「私それまで、空にはそんなに沢山お星様があるなんて知らなかったから、すごく驚いちゃって。 ママに風邪引くわよって言われるまで、ずっと空を眺めていたの」 「うん、あたしも謙之パパに写真見せてもらったことがある。 すっごいすっごいきれいだよね!」 「吸い込まれそうなくらいの真っ暗闇の中に、誰かが宝石をばらまいたみたいに・・・ほんとに・・・すごく、綺麗だった・・・」 そうつぶやいて窓の外を見つめるほたるちゃんの眼には、きっと十番の町の、灯りが明るすぎてぽつぽつ申し訳程度にしか星のない空じゃなくて、 その山の中での満面に輝く星空が映っていたんだと思う。 もしかしたら、その時のことを懐かしんでいるのかもしれない。 |