At the Ocean Terrace



誕生日に何か欲しいものある?と聞いたところ、とりあえず時間が欲しい、と何とも色気のない回答が返ってきた。
論文の提出期限が迫っているという今の状況では仕方のないことかもしれないけど、時空の戦士の発言としてはどうかという気も、ほたるにはしないでもない。
けれどもよりによってその〆切が10月29日、せつな自身の誕生日だというのは、さすがにちょっとかわいそうだった。おかげで10月に入ってからというもの、せつなは家にいるよりも研究室にいる時間の方が多く、そうして帰ってきている間も食事もそこそこに自室にこもりきりになるのが、ここ最近の常であった。
相手が論文では、さすがのほたるにもどうにもしようがない。今日もまた、週末を研究室で過ごすため、荷物をいっぱい抱えたせつなを、玄関先で見送っているところだった。
「忘れ物はない?」
うん、と生返事をするせつなの表情は、出掛ける前から疲労の色が濃い。
もう一声掛けようとしたことばを、ほたるは思わず飲み込んてしまった。

と、不意のその沈黙に気づいたか気づかなかったか、動作を止めたせつなが不意に顔を上げる。
「…ほたる、今日は何か用事あったっけ?」 
一瞬考え、特に無いけど、とこたえる。
そう?とちょっと頷いて。唐突にせつなはぐいっとほたるの袖を引っ張った。
「それじゃあ、ちょっと付き合って」
どこに?と問うほたるに、せつなは微笑んで応える。
気分転換に、と。

ノートパソコンと資料と着替えの山は駅のロッカーに放り込み、港が見わたせるホテルのビュッフェで少し早めの昼食。ついで近くの遊園地へと繰り出す。
幸い天気はよく、少しある海風も却って心地よく感じられた。
シューティングで高得点をたたき出し、ウォーターライドでもお化け屋敷でもキャーキャー騒ぎまくるせつなのはしゃぎっぷりは久々に見るもので、逆にほたるの方が戸惑うほどだった。
「あ、ほら、富士山が見える!」
観覧車に乗り、遠くを指差すせつな。
その本気で楽しんでいる横顔を見て、論文平気なの、などと水をさすことはほたるには出来なかった。

その後も観光船に乗り、公園を散策し・・・とやっているうちに、あっという間に夕方になった。
ロッカーから取り出した荷物をよいしょと担ぐようにして、せつなは改札で見送るほたるをにこやかに振り返る。
「それじゃ、行ってくるわね」
いってらっしゃい、と応えて手を振り返したほたるは、先ほど玄関で言えなかったことばをようやく口にできた。
「・・・せつな、論文がんばってね!」
ありがとう、と笑うその笑みに。
ほたるは、自分の方がプレゼントをもらってしまったような気分になった。

'05.02.12 by かとりーぬ

(あとがき執筆中)


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