RFアンプ各種FETのIMD3特性の実験 

UP dated 2016.03.21

●RFアンプ各種FETのIMD3特性の実験

HFマルチバンドトランシーバ(CW/SSB)を試作中ですが、各ステージの RFリニアアンプとして、どのような素子を使うのが良いかということをテーマに各種Ampの実験をしました。自作機器の定番であった2SK241、2SK192以外 J211、BF256B等のFETについてもデータを取りました。備忘録としてHPにUpします。
このページは、今後も都度データを追加していきます。

アマチュア局のHF帯の無線設備規則では、平成34年11月30日以降は、新基準が適用され、帯域外領域におけるスプリアス発射強度の許容値も規定され「50mW以下でかつ、基本周波数の平均電力より40dB低い値」と定義されています。

 (帯域外領域;;中心周波数から必要周波数帯幅の±250%離れた周波数を境界に、必要周波数帯の外側からこの境界までの帯域外領域)

例としてSSBであれば、必要周波数帯幅は、3kHzで、その上限、下限周波数からそれぞれ、±6.0kHzが、帯域外領域となり、IMD3(3次相互変調ひずみ)が問題となります。 CWの場合は、IMD3は、基本周波数そのものと同じ周波数に落ちてきますので、問題には、なりません。

実例として、下に掲載する2種のRF Ampは、いずれもIMD3特性の良好なものです。
 

左側;OPアンプLMH6702 PG10dB Amp
 このICのSOPパッケージが、秋月で入手できる。50MHz程度までは、リニアリティーが期待できる。+13.4dBm(22mW)まで IMD<-40dBc 

右側;J310 2Para x Push-Pull GG Amp
 J310は、2SK125とコンパチ。RXの初段Ampによく使われるがTX初段への使用検討のため実験。+18.1dBm(65mW)まで IMD<-40dBc

 

<IMD3(3次相互変調ひずみ)とは?>

左;2SC2053 Amp 出力+15.7dBm(37mW)時のIMD特性
 2Tone(900Hz, 1900Hz)で変調した 7055kHz USB信号。IMD3は、-40dBc低い値となっている。

IMD3(3次相互変調ひずみ)とは、2倍高調波と基本波が、増幅素子の内部で相互に変調し、基本波近傍に発生する不要輻射波(スプリアス)で、 左図の具体例で補足します。

キャリア波周波数 7055kHzを 2Tone(900Hz, 1900Hz)で変調したUSBなので、f1=7055+0.9 (kHz)、f2=7055+1.9 (kHz) が基本波となり、IMD3は、
2xf1-f2=7055-0.1(kHz) および
2xf2-f1=7055+2.9(kHz)
となります。

同様に、奇数次数の IMD5, IMD7, IMD9,・・・が、基本波近傍に発生し、これらは、LPF等で除去できないので、発生させないような増幅素子を選択するしかありません 


各種RFリニアアンプの評価としては、IMD3を 対メイン信号で-40dBc確保できる範囲内での最大出力値(dBm)と そのときのPG(増幅ゲインdB)を測定しました。。

●IMD3(3次相互変調ひずみ)測定機器構成

全体の測定機器構成は、下図のとおりです。2トーンで変調したSSBトランシーバ出力信号を可能な限り低ひずみで取り出し、それを入力信号源とします(-30dBm〜+10dBm可変)。それを被測定当該Ampで増幅し、その出力をAD8307_dBm電力計<K2>と パソコンFFTで観察します。
入力信号を徐々に増やしていくと、あるところから、基本信号とIMD3信号の差が、40dBcに近づき、悪化してくるので、そのときの入力電力(dBm)と 出力電力(dBm)を測定します。

高価なスペアナではなく、自作機器の組み合わせでIMDを測定しようというものですが、このなかで、2 Tone Generatorの準備が一番ハードルが高いかと思います。2Tone(900Hz, 1900Hz)のAF発振器ですが、いい加減に作ると、主信号900Hzの高調波が、-20dBcでずらりと並び、IMDを観察するときに、どれが、IMDで、どれが900Hzの高調波なのか区別が難しくなります。AF主信号900Hzとその高調波レベルは、-50dBc以下としたいものです。キーポイントは、AF発振器の正帰還量を調整するVRを設け、発振強度を発振するぎりぎりのレベルまで下げることです。 感覚としては、電源投入直後は、発振起動せず、1秒位経って、やおら発振開始する感じの調整です。


パソコンFFTの箇所は、下図のとおりです。ダイオードDBMとオーディオ変換USBとパソコンで構成されます。

 ダイオードDBMは、自作しましたが、市販されているもの(SBL1等)でOKです。DBMには、RFポート、Loポート、IFポートの3つのポートがありますが、肝要なことは、オーディオ信号を取り出すのは、DC(0Hz)から有効な IFポートからとすることです。もうひとつは、DBM自身も IMDを発生させますので、無視できるレベルまで入力信号を下げることです、自作DBMを測定したところ、IPIP3(3次歪インターセクトポイント・入力信号ベース)=+14dBmでした。 主信号とIMDの差を-50dBc以上とするには入力信号を、+14dBm-(50dB/2)= -11dBm以下に抑えることです。

 局発信号Loは、+10dBmを出力できるSSG、<K9>AD9850 SG等、を準備します。SSGがなければ、2SC1815ピアースB-E水晶発振回路でもOkです。 Loが固定周波数となりますので、入力信号源のSSBトランシーバ側で周波数を、”Lo固定周波数 + 5kHz”に合わせます。

 オーディオ変換USBアダプターは、ヘッドセットをUSB経由でパソコンに接続する用途で販売されているもので、パソコン店に行けば、2000円〜3000円で入手できます。USBアダプターなしでPCのマイク端子に直接接続することも可能ですが、USBアダプターのほうが、フロアーノイズレベルが低いので、USBアダプターを推奨します。
測定に使わないときは、半田ごてをにぎりながら、Youtubeの歌をヘッドフォン聞く、というのにも重宝しますHi。

オーディオ変換USBアダプターは、1mVrmsレベルのコンデンサマイク(ECM)の信号を処理するものなので高感度で別途のアンプは不要です。DBMの出力信号=1mVrms/50Ωというのは、RF信号、P=E^2/R=(1mV)^2/50=-47dBmに相当します。-100dBm以下の微小な被測定RF信号も 表示されます。

 パソコンFFTは、専用アプリ”Wave Spectra"をDLします。インストール後 WS.exeをクリックするのみで使用できます。 このようなアプリがfreeで使えるのに感謝です。
 

●RF Amp実験対象のFET

左表のFET Ampを対象としました。

市場から消えつつありますが、自作リグで定評のあるカスコードMOS FETの2SK241GR、J-FETの2SK192A_Y、それから2SK192Aの代替となりそうなJ211、BF256B(それぞれ秋月で入手可)、および GGアンプで定評のある2SK125とJ310です。
Idss、Id(mA)が0となる、ゲートピンチオフ電圧Vgs、相互コンダクタンスgm、をデータシートから読み取って一覧表としました。

BF256Bのデータシートには、Id_Vgs特性が記載されていないので、2本についてVgsを0.5Vピッチで変化させてId(mA)を、左図グラフのとおり計測しました。

また、データは掲載しませんが、FETによるHF/VHFのコルピッツ発振回路を組み、水晶(無調整25MHz)、およびコイル(VC可変により8MHz〜26MHz)による発振の強度を測定しました。J211は、2SK192A_GRとほぼ同等に代替が可能です。BF256Bも同様に使用できますが、ゲインが小さく、少し発振し難いようです。2SK241GRは、強力に発振します。


●各種RFアンプの回路

上記の各種FET以外、手元にあったTR、IC各種アンプも含め、測定しました。それらの回路図を下段に示します。

AMP A,B,C,D,E,F
A〜Fの6種類のFETは、入力側に1:3のステップアップ、出力側に 3:1のステップダウントランスを接続した広帯域アンプで、入・出力ともに50Ω負荷で計測している。
入力側は、ステップアップにより電圧ゲインを3倍稼ぎ、FETのドレイン側負荷はRL=450Ωとなる。
例としてgm=5mSであると、そのときの予想ゲインPGは、(3x gmx RL)^2=(3x 5x 0.45)^2=45倍=16.5dB
IMD3を考慮すると、FETにより異なるが、概ねPG=15dB、最大Output=+5dBm(3mW)使用が、妥当なところか。
2SK241は、ゲインは大きいが、IMD特性は悪く、最大Output=+0dBm(1mW)程度で使うのが、適当かと。



AmpG, H
2SC2053は、175MHz帯で 4mWを200mWに増幅(PG=17dB)するアンプとして定評があるが、NFBを掛けた状態でも、出力15.7dBm(37mW)で IMD3は、40dBcに達し、これ以上の出力では、IMDが悪化する。
 NFBなしではPG=32.4dBもあるので、CW専門機であれば、0.1mWを200mWに増幅するQRP機には有用である。



AmpJ
バイポーラ・モノシリックICで 1.8GHzまでの広帯域でPG=24dB、Output=+19.5dBmの仕様となっているNECのμPC1677Cは、IMD特性も良好で、7.05MHzで実測した左記アンプでは、Output=+13dBm(20mW)で IMD3は、-40dBcであった。出力側に-3dBのATTを挿入しているので、IC単味の実力は、+16dBm(40mW)である。
このAmpは、電流80mAの大食いなので、Rig組込みには敬遠されがちであるが、一つ製作しておくと、ちょっとした計測用、テスト用の補助アンプとして大変役立つ。
製作するときに、注意することは、安易にユニバーサル基板に作ると、ほぼ間違いなく異常発振を起こす。5つあるGNDピンは、全ピンを最短で同電位ベタアース・パターンに半田づけし、Vccのパスコンをその同電位パターンに、最短で接続する配慮が必要。また、低周波数0.5MHzまで使えるように、出力側のインダクタンスは、UHF用として0.33uHチップ、低域用としてFB801コア・インダクタンスを直列に接続する。



AmpK
高速OPアンプ LMH6702を使用したもので100Hz〜50MHzで使用できる。上記μPC1677Cアンプと同様に、実験用に有用。Max Output=+10dBm(10mW)以下で使用すると、IMD3<-50dBc、2倍、3倍高調波<-45dBcという驚異的な性能を発揮する(偶数倍高調波は特に抑制されている)。他社のOPアンプAD8045もほぼ同様な性能を有する。 ディスクリート部品でこのような高性能の回路を組むことは、まず不可能。
 製作するときに、注意することは、絶対最大供給電圧が一般的に低く、12V程度なので、念のため電圧レギュレータ78L08等を入れておく。Outputピンの出口には必ず50〜25Ωの抵抗を挿入する。これがないと出力に誘導性、または容量性の負荷が繋がったときに位相ずれにより、回路内の470ΩNFB信号が負帰還ではなく正帰還となり異常発振を起こすことがある。



AmpM
これは説明するまでもなく、IMD3、高調波抑制が良好。PGは10dB稼ぐのが精一杯であるが、最大Output=17.3dBm(54mW)で IMD3<-40dBcである。RX初段アンプとして有用のみならず、TXの 5mW→50mWのアンプとしても活用できる。



AmpN, P
上記の GGアンプをプッシュプルにしたもので、PG≒10dB、最大Output≒18dBmで IMD3<-40dBcを達成する。
Outputは、AmpMと大差ないが、プッシュプルの特徴である 偶数倍、2倍、4倍・・の高調波が抑制されている。TXのドライバーとして使うときに、次段への入力高調波成分が低いということなので、次段アンプのIMDの発生の抑制に多少なりとも寄与するのではないかと期待する。
FETは、2SK125x4(回路電流65mA) もJ310x4(回路電流60mA)も性能に大差ない。

蛇足であるがGateを接地するGGアンプではなくソース接地のプッシュプルアンプとすると、PGは増えるが、IMD性能は、ボロボロとなる。

●各種RFアンプのIMD3性能

上記の 13種類のアンプについて、IMD3を 基本信号に対して-40dBc以下のレベルに維持できる範囲内での最大Output(dBm)と そのときのInput(dBm)、PG(増幅ゲインdB)を測定し、一覧表にしました。

2SK241GRでは最大出力;+3.5dBm、
J211,BF256Bでは出力;+10dBm、
2SK125、J310では出力;+11dBm
という結果となった。

2SK192A_Yが、出力;+3.7dBmと低いのは、Idssが小さい 192A_Yであるがためであろうと思う。192A_GR, 192A_BLであれば、電流は2倍以上となり、出力にして4倍、+6dB改善され、J211と同程度になると思う。

2SK241GRの出力が小さいのは、2SK241が内部でカスコード接続となっており、ゲインは大きいが、増幅直線性が良好ではないためかと思う。

●2SK125 x2para xPushpull アンプのOutput vs. IMD3性能

上で紹介したAmpN,P について出力を2dBステップで増やした時の IMD3の特性を以下の写真に示します。最大+27.5dBm(562mW)まで出力しますが、IMD3は-12dBcまで悪化し、左右に 順次IMD5,7,・・・がずらりと並びます。
この悪化の原因として、FETの性能そのものの影響以外、本回路の場合の主要因は、出力トランスのインピーダンス RL=450Ω(50Ωx9)が関係します。電源電圧を Vc(B+12Volt)、増幅素子の DS間飽和電圧を Vds(≒1Volt)とすると、
Po= (Vc-Vds)^2 / (2xRL) =(12-1)^2 / (2x450)=0.134=134mW
より、出力134mW以上は 伝送トランス部で波形がクリッピングするので、その影響と考えられます。
現状の出力伝送トランス「6t:2t」 を「4t:2t」にすれば、PGは下がるが、IMDを悪化させない範囲でのMax.Outputは多少は増えると思う。


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