Interlude
聖杯は破壊した。
これでこの戦争は終わったんだ。
そして、それは同時に彼女との別れを意味していた。
分かっていることだった。そして決断していることだった。
頭は理解している。でも、心は理解していなかった。
いや出来なかったと言った方が良いだろう。
だって俺が初めて本当に好きになった女性なんだから。
理解できるわけもなく、
「シロウ。私はあなたを愛していました」
などと言われた時には、頭が考えるより体が先に動いていた。
消えようとしていた彼女に俺は手を伸ばした。
そんな俺の行動が彼女の決心を鈍らせたのだろう。
彼女も俺に手を伸ばし、そして・・・・。
Interlude
 out
空間のゆがみから現れた赤毛の少年と金髪碧眼の少女・・・・。
もう言わないでも分かるわね!
でも一応解説しておくわ。
赤毛の少年は、衛宮士郎。第5回聖杯戦争の優勝者で、セイバーのマスター且つ私の下僕。
「おい!俺が、いつ遠坂の下僕になったんだ!?」
さすがアーチャーの元になった人間。人の心をさらっと読む。
一発分殴ってやろうかと思ったけど、横でセイバーが目を光らせていたのでやめた。
命拾いしたわね。
で、金髪碧眼の少女は、もう名前出しちゃったけどセイバーね。
それにしても、このかわいさ反則よ。もう、食べちゃいたいくらいだわ。
「う!何か寒気が・・・・」
ぶるっと体を震わせるセイバー。
ああん、もう可愛すぎぃぃぃぃぃぃ!!!!!
「凛・・・・・。セイバーに悶えるのは、その辺にして涎をふけ、危ない人間に見えるぞ」
は!危ない危ない。セイバーが可愛すぎてトリップしてたわ。
って、士郎、その異質な者を見るような目は何!?
そして、なんで、私の視線からセイバーを守るように立つのよ!!!
「私には当たり前の行動に見えるのだが・・・・」
「それはどぉぉぉいう事よ!!!!」
ぼこ!
「ぐげぇ」
虫の居所がわるい時に、いつものいらぬ一言を言ったアーチャーに、ラリアットをぶちかましてやった。
その光景を見ていた士郎は、微妙に震えている。
士郎、震えるのはまだ早いわ。
そう、この攻撃には続きがある。と言うか、この私がこの程度で終わらせるはずがない!
私は、ラリアットの体勢から、流れるような動きで、口から血の泡を吹いているアーチャーの首を掴み、
タワーブリッジに繋いだ。
ぎしぎしぎしぎし。
「ぐがががががががが」
ちょっと両手に力を入れるだけでアーチャーは苦しみの声をあげた。
あぁぁ。カ・イ・カ・ン。
「り、凛。私が悪かった。だから、だからこれを解いてくれ」
もう本当に限界ですと言う声で謝ってきたので、降ろしてやった。
ていうか、あんたそろそろ懲りなさいよ。
そう思いながら、ふと士郎がいた方を見る。そこには士郎の姿がなかった。
何処に行ったんだろうと辺りを見回すと、士郎が、セイバーを連れて玄関から逃げ出そうとしている姿が映った。
「士郎、逃げたらコロス」
私がそう言うと、士郎はビクッと体を震わせ立ち止まった。
よし、ちゃんと恐怖を刷り込めたようね。
やっぱり人をうまく使うには恐怖が必要よねぇ。
って、いつから私はこんなキャラになったの!?
私は清く正しく、そして美しい、可憐なパーフェクト美少女のはずよ!!
「胸はないけどな」
「黙れ!どちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
タッタッタッタッタ。トン。ドゴォォォォォォン!!!
「へぶぅぅぅぅぅ!」
士郎はちょっと離れた位置にいたので、助走をつけ、ジャンプキック!
俗に言うライダーキック。その威力200t!
そんな攻撃を受けた士郎は、その場に踏み留められるはずもなく吹き飛んで行った。
「シロウ~!」
と言いながら、遥か向こうでピクピクと痙攣を繰り返すシロウの元へ駆け寄るセイバー。
そして、士郎の襟首を掴み、
「胸が、胸が小さい事はそんなにいけないことなのですかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
と叫びながらガクガクと士郎を振り始めた。
「あぁ~。あれは死ぬはね、きっと」
「何を冷静に見てるんだ!あいつがここに来たと言う事はあいつが我々のリーダーなんだぞ。
あいつが死んだ時点で我々の負けは確定してしまうんだぞ!?」
「そ、そうだったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
やばい!どうしよう。一時の怒りに身を任せて大ポカやっちゃった!!
さっきからアーチャーをボコボコにしていたせいで、すっかり手加減をする事を忘れてたと言うのも在るけど。
普通の人間にやるべき攻撃じゃなかったわ。
「急げ凛。早くセイバーを止めないと本当に手遅れになるぞ!!」
「そ、そうね。急ぎましょうアーチャー!」
・・・・・・・・・・・・
7
月21日
私たちが、セイバーの元にたどり着いたとき、士郎は既に心肺停止状態で、呼吸もなく、大変危険な状態だった。
しかし、一晩にも及ぶアーチャーの必死な、そうとても必死な蘇生行為により、なんとか一命を取りとめ、今は、
セイバーに看病され客間で寝ている。
ちなみに、一息ついた段階でセイバーには今回のあらましを伝えた。
セイバーは、この事態を重く捉え、快く私たちに賛同してくれた。
そして現在。居間にいるのは私とアーチャーだけ。
「昨日は、ほんと散々だったわ。突然、あなたが来て、散々長い話をして、長い話が終わったかと思えば、いきなり、
士郎とセイバーが召喚されるし。挙句の果てに、召喚された士郎は死にかけるわ。もうご飯を食べる暇すら無かったわよ」
ついつい愚痴ってしまう。すると既にパターン化されたことだが、アーチャーが口を挟む、
「最後のは君が悪いと思うが・・・。って落ち着け。早まるな!続きをちゃんと聞け!」
そういわれ、とりあえず右手に持った有刺鉄線つきバットを収める。
ふぅ。アーチャーは、安心したようにため息をつく。
・・・・・やっぱり殴ろうかしら?
「何故かまだ殺気を感じるが・・・まあいい。昨日は本当に君に迷惑をかけたからな。だからと言ってはなんだが、ささや
かながらだが、感謝の気持ちとして、朝食を作らせてもらったよ」
そう言うとアーチャーは、テーブルの上に次々に料理を用意していった。
しかし、これだけの料理を作る材料、家にあっただろうか?
「ああ、材料は朝一番で、私がひとっ走りして買ってきておいた」
まめな事で。
私は、賞賛半分あきれ半分で、次々に料理を並べていくアーチャーを眺めていた。
それにしても、朝から少し作り過ぎじゃ無いだろうか?
「アーチャー。まだ食べてはダメですか?」
・・・・作り過ぎじゃ無いわね。むしろ足りないかも。
と言うか、あなたいつの間に、そこに座ってるのよ。
数秒前まではこの部屋自体に、いなかったでしょ。
「リン。食卓とは戦場です。そして、戦場で出遅れると言う事は、即、死に直結します」
熱く語るセイバー。さっきまで必死に看病していたのに、食事になると瞬時にこちらへ来るところを見ると。
セイバーにとって、食事>士郎らしい。
士郎・・・・・哀れね。
そうこうしているうちに、食事の用意が終わり、私たちは朝食を食べ始めた。
しかし、本当にセイバーはよく食べるわ。あれだけあった料理が次々に消えて行き、すでに
半数以上がセイバーの胃袋へ行っていた。私の胃袋は大宇宙だとでも言いそうね。
でも本当に食べてるときのセイバーは輝いているわ。もう、朝食の代わりに食べちゃいたい。
そんな感じで、私が、悦に入りながら、セイバーの、ものすごい食べっぷりを眺めていると、
背後で扉が開く音が聞こえ、
「リン。ご飯を頂けないでしょうか?お腹が減ってしかたがありません」
そう言ってセイバーが入ってきたのだった。