それからいろいろあって、僕はお姉さんのことを先生と呼ぶようにした。
なぜかその方がしっくり来るような気がしたからだ。
そして僕は、志貴と呼ばれるようになった。
体を安定させるためこっちの名前で居たほうがいいらしい。
そんな、ある日、僕は先生を驚かせようと、目の前にあった木を壊した。
「すごいでしょ。ボロボロになって壊れ安そうに見えるところに触るとどんなものでも壊せるんだよ」
「志貴!」
ばん、と頬をたたかれた。
「先生・・・?」
「君は今とても軽率なことをしたわ」
先生はすごく真剣な目をして見つめてた。
理由はわからなかったけど。僕は、いま自分がしたことが、とてもいけないことなんだということを思い知った。
「ごめんなさい・・・」
物を壊すときはとても楽しい。
でも、それは安易に、やってはいけない事だと心の中でわかっていた。
それを今までは知らない振りを自覚しないようにしていたのだろう。
しかし、それを他人に指摘され自覚したとき、僕は泣いていた。
「誤る必要はないわ。確かに君は怒られるようなことをしたけど、決して君が悪いわけじゃないんだから」
先生はしゃがみこみ。
「でもね。今誰かが、君をしかってないと、きっと取り返しのつかないことになる。だから私は謝らない。そのかわり、あなたは私を嫌ってもいいわ」
とんでもないことだった。先生が僕を嫌いになることはあっても僕が先生を嫌いになることなんて絶対にありえない。
「先生を嫌うなんてありえないよ」
「そう。本当によかった。君に出会ったのはひとつの縁だったみたい」
先生は僕が見えているものについて聞いてきた。
この目に見えているものについて話すと、先生は僕を抱きしめ。
「君が視えているのは、本来、視えてはいけないものなのよ。物にはやがて死がやってくる。君はその死の瀬戸際が視えて、それを呼び寄せてしまってる。君はアカシックレコードに接続してしまってるの」
「アカシ・・・て何かわからない」
「わからなくていいの。その本質に触れてしまってはいけない、そういうものなの」
「触れるって言ってもわからないけど、先生は普通に視えるよ」
「それは、あなたがそこまで、深いところに入り込んでない証拠よ。私の最後を見るようになってしまってはもう手遅れなの。だから、さっきみたいなことはしないで」
「うん。わかった。先生の言うとおりにするよ」
「今の約束忘れないで。そうしていれば、君は必ず幸せになれるんだから」
そうして先生は、僕から離れた。
「でも先生。こんなものばかり見えてちゃ、本当に頭がおかしくなりそうだよ」
「そうね。その問題は私が何とかするわ。どうやらそれが、私がここにきた理由のひとつらしいし」
はあ、とため息をつきながら、
「明日は君にとっておきのプレゼントをあげる。私が君を以前のとまでは行かないけど、普通の世界には戻してあげるわ」
次の日。
先生は僕に一つのめがねを渡した。
「僕目が悪いわけじゃないよ」
「これは目が悪い人がかけるメガネじゃないんだよ。君が見えているものを見えなくしてくれる特別なめがねなの」
「え?じゃあこれをかけていれば、もう人が死ぬところとかいろいろ見なくてすむの?」
「すべてが見えなくなることは無いけど、まあたいした力を持っていない占い師くらいまでには下げれるはずよ」
「じゃあじゃあ、あの気味の悪い青くて丸いものも?」
「あ、それは無理。あきらめなさい」
「ええ!?」
肝心なところはホローしてくれないのは先生らしい。
そして、先生とのお別れのときも突然やってきた。
僕は先生を泣きながら行かないでくれと引き止めたが。
先生は、
「もう君は私がいなくとも一人で立って進めるようになったの。私がここにいては、君はずっとそこから進みことができない」
「でも・・・」
「大丈夫。君ならやれる」
先生からそう言われると何故だかやる気が溢れてくる。
「それじゃもう行くわね。っと、まだあなたに伝えないといけないことがあったんだった」
「え、なに?」
少しでも長く先生と話せるのなら何でも良かった。
「あなたのその力はとても強力なものなの。あなたはいつか大きな渦に巻き込まれることになるわ。何度も挫けそうになるかもしれない。でも踏みとどまって、あなたなら何でも超えられるはず。それだけの力をあなたは持っているわ」
「でも・・・」
「あなたは不可能を可能にするそういう男になる。私が保障する。だから、自信を持ちなさい」
「うん。わかった。僕がんばるよ」
「よし、それじゃあ、もう二度と会えないかもしれないけど、じゃあね」
そういうと先生はまるで霧が晴れるようにそこからいなくなっていた。
「いっちゃった」
僕は日が暮れるまでただただ、そこに立っていた。
それから数年後。
親戚のうちへ預けられていた僕に突然、遠野から帰ってこいと連絡が入り、遠野の屋敷へ帰る(実際、暮らした記憶は薄いのだが・・・)ことになった。
正直、遠野の屋敷へ帰りたいとは思わなかったが、いつまでもこの家にいるわけにはいかないので僕は帰ることにした。
遠野の屋敷内に入るとそこには、髪の長い女性が待っていた。ちなみに胸はない。
「おかえりなさい」
「え、あ。た、ただいま?」
反射的に僕は答えた。
それにしても、この家の人だろうか?
僕の事知っているようだけど?
「えぇ〜と」
「どうしたんですか?」
その女性は不機嫌そうな声で僕の言葉に反応した。
「君誰?」
その瞬間僕は吹き飛んでいた。
「ぶふぅぇ!!!!」
きりもみ回転しながら10メートルは吹き飛び、
「ぐふぅぅぅぅ!!」
扉にぶつかりようやく地面に付いた。
「は、八年間も連絡を寄越さずにいて、あまつさえ、私のことを、完全に忘れてるなんて!!!」
女性は完全に切れていた。怒気によって周りの温度が一気に下がったような気さえする。
「って!さむ!なんだよこれ!?」
突然、体中の力が抜けていき、ただただあわててた僕に、
「あらあら、志貴さん。帰って早速、兄妹げんかですか?ほどほどにしとかないと。命がいくらあっても足りませんよ〜?」
くすくすと笑いながら、メイドさん(なぜメイドさんだとわかるかというと。世に言うメイド服なるものをその女性は着ていたからだ。ちなみに割烹着を上に着ている)が口を袖で隠しながら現れた。
突然現れたことよりも何よりも、メイドって本当に実在するんだ。ということの方が僕に衝撃を与えた。
「それにしても、秋葉さま。再会して早々、右ストレートから略奪のコンボはさすがにやばいですよ」
「だって兄さんが、私に誰?とか言うのよ?」
「あ〜それは怒りたくもなりますね〜」
「そうでしょ。だから私は・・・・」
二人を眺めながら会話を聞いていた僕に、
「お前は知らないかもしれないがあいつはお前の妹だという設定だ」
突然、青くて丸いやつ・・・、(このごろはドラと呼んでいる)が話しかけてきた。
ここ数ヶ月は何も言ってこなかったのにな。
そう思いながら僕は、
「あの人は僕の妹なのか・・・」
「ああ、そういう設定だ」
「そうか。そういう設定・・・。設定!?」
設定ってどういうことだよ!
「気にするな」
「気になるわ!」
思わず怒鳴ってしまった僕に、先ほどまで僕に気を向けていなかった二人は、かわいそうなものを見るように僕を見ていた。
「え?何?」
「「いえなにも」」
二人は声をそろえていった後に、
ヒソヒソ
「ちょっと秋葉さま。いくらなんでも強く殴りすぎですよ」
ヒソヒソ
「だって、忘れてるとか言うから、ついカーとなって。それに私はそこまで強く殴ったつもりは無いわよ」
ヒソヒソ
「じゃああの症状はどうなんですか?かわいそうに志貴さま見えないお知り合いと会話をしてらっしゃいますよ」
ヒソヒソ
「私が悪いって言うの?」
ヒソヒソ
「そうです」
ヒソヒソ
「メイドの分際で!!」
ヒソヒソ
「あ〜ごめんなさいごめんなさい。」
ヒソヒソ
「・・・・とりあえず、兄さんを医者に見せた方がいいわね」
ヒソヒソ
「そうですね」
全部聞こえてるって・・・。
「兄さん、頭の傷がひどいようですし、とりあえずお医者様に見てもらいましょう」
「そ〜ですよ。志貴さま。まずはお医者様に」
とりあえずここは安心させないとな。
「あ〜気にしないで。いつものことだから」
その瞬間、また声をそろえて、
「「いつものこと!!?」」
そういうと再びヒソヒソ話を始めた。
ヒソヒソ
「いつもってちょっと・・・」
ヒソヒソ
「あ〜やっぱり数年前の事故のせいでしょうかねぇ?」
ヒソヒソ
「事故って、あの時は頭にショックなんて受けて無かったわよ」
ヒソヒソ
「いや〜。頭にショックを受けてなくとも、血液不足によって脳が貧血を起こして障害が出ることもありますからねぇ」
ヒソヒソ
「たしかに、死んでもおかしくない傷を負ったんだしね。ほかの事に障害が出てないだけ奇跡ね・・・」
ヒソヒソ
「そ〜ぅですよ。見えないお友達とお話しするくらい規定の範囲内ですよ」
ヒソヒソ
「じゃ、じゃあ、あれは私のせいじゃないわよね?」
ヒソヒソ
「さ〜それはどうでしょうか?」
ヒソヒソ
「どっちなのよ!!」
ヒソヒソ
「どっちでもいいじゃないですか。とりあえず、今後は志貴さまの頭部へのダメージは極力避けるようにしましょう」
ヒソヒソ
「そうした方がよさそうね」
うんと二人してうなずくと(例によって会話は丸聞こえ)、
「志貴さま。悲しいけどこれ現実なのよね。って言った人もいますし、現実と向き合って、生きていきましょう」
それは戦争なのよね、だったはずなんだけど、てか言った人が現実の人じゃないし・・・。
「ちょ、琥珀!ストレートすぎでしょ!」
いや十分、君もストレートだと思うよ?
「気を取り直して、兄さん。逃げるな。生きる方が戦いだ!って、言った人もいますし、強く生きましょう!」
いやいや逃げてないって。というかそれも現実の人じゃないし・・・。
「ま、まあとりあえず、荷物を置いて来たいんだけど。どこにおけばいいのかな?」
「あ、はいそれでしたら私が案内しますよ」
そういって、琥珀と呼ばれたメイドさんに、僕の部屋として割り振られた場所に連れて行ってもらうことになった。
僕は、初日から
これだと先行き不安だなと思ってしまった。