「こちらが、志貴様のお部屋になります」

琥珀さんは、2階にある扉のひとつを示し言った。

「お荷物を置いたら一階に、下りてきてくださいね。すぐにご飯の支度ができますので」

「ありがとう」

僕はお礼をいい。ドアノブに手をつけた。

「ああそれと、なるべくお手柔らかにお願いしますね~」

「え?」

いったい何のことだろう?

そう思いながら扉を開け驚いた。

そこには、メイド服フル装備で、無表情な琥珀さんが立ってから・・・。

「え!?え、え、えぇぇぇぇぇ!?」

僕にできたのはとりあえず混乱するだけ。

だって、さっき扉の外で別れて、階段を下って行っているのを確認してから、僕はこの部屋に入った。

なのに、なぜ扉を開けると、すでに琥珀さんが待機してるんだ!?

「はじめまして志貴様」

そういって、琥珀さんは丁寧にお辞儀した。

「は、はじめまして」

僕も釣られて挨拶をした。

ってあれ?初めまして?よく見ると、どこかさっきまでと違うような・・・。

「え~と、君、琥珀さんじゃないの?」

僕がそういうと彼女は少し眉を顰めながら(ひそめながら)

「琥珀は私の姉です。姉さんから私のことは何も?」

僕は、うんうんと首を縦に振り肯定する。

すると彼女はまた無表情な顔に戻り。

「そうですか。それでは自己紹介を行わせていただきます」

「あ、お願いします」

僕がそういうと、彼女はたたずまいを直し、

「名は翡翠と申します。志貴様付きの付き人としてここに、仕えさせていただき、主に、料理以外の家事全般を任されております」

志貴付きの付き人・・・つまり、僕付きのメイドさんということですか。

・・・・・・・。

「って、うぉい!」

ビシッ!

一人で空中に突っ込みを入れてしまった。

いやだって自分付きのメイドだよ?

普通ありえないことだよ?

漫画の世界でそうそう無い。夢のシチュエーションだよ?

僕はエロゲーの主人公かよ!って突っ込みを入れたくなるのも仕方ないよ。

「どうかしましたか?」

一人で突っ込みを空中へ入れ一人であれやこれや考えて頭を抱えている僕を見、翡翠さんは怪訝そうな(ちょっと怯えが入った)表情をし、尋ねてきた。

ヤバイ。このままではまた変なイメージをもたれてしまう。

「い、いや。気にしないで。そんなことよりも、僕は、君の事を翡翠さんって呼べばいいんだね?」

とりあえず、話題を進め疑問の余地を持たさないようにする。

「いえ、敬称をつけず、翡翠と呼んでいただければ・・・・」

何とかさっきの失敗は誤魔化せたようだ。

このまま一気に突っ走る。

「そう?じゃあ僕のことはごしゅ・・・」

「ごしゅ?」

「いやいやいやいや。志貴と呼び捨てで呼んでくれない?」

危ない危ない。危うく自分の趣味を、バラすところだった。

今度から有彦に、メイドさんがメインで出る。ゲームやアニメを借りるのは自粛することにしよう。

だって本気で危ない発言しそうになりそうだし・・・。

「そうですか。わかりました。それでは志貴様。夕食の時間になりましたら。お呼びいたします」

わかりましたとか言いながらまったく言ってることが変わってないよ・・・。

まあ、おいおい変えてもらうことにするとして。

「わかったよ。ああ、それと、つまらないことを聞くけど」

「なんでしょうか?」

「この屋敷にネットにつなげるところある?できれば光回線が良いんだけど」

それを聞き、翡翠は珍しく困ったような顔をして視線を漂わせた。

「ネットですか・・・?」

「うん。どういても、今日中にHPにアップしたいものがあるんだけど・・・」

実はそれは目的のひとつに過ぎないんだけどほかは言わない。

というか、いえない。

僕の言葉を聞き、翡翠は、さらに困った顔をし、

「すみません。そのようなものを引いている部屋は・・・」

「そうか・・・。じゃあ電話線は?どこにある?」

電話線さえあればどうにでもできるし。

「電話は、居間にひとつだけ・・・」

居間、ですか・・・・。そうですか。

そんなところで繋げるわけ無いよなぁ・・・。

僕の妹だって言う人もいるし。

さすがに恥ずかしい。

「うん。わかった。今日はあきらめるよ」

今日はおとなしく、一人でパソゲーでもしてよう。

「・・・・姉さんの部屋ならあるかもしれません」

「え?何が?」

「そのネット回線というものです」

え~と、琥珀さんの部屋にそれがあるということは、琥珀さんはPC持ってる?

「以前、姉さんの部屋へ行ったときに・・・」

以下翡翠の回想

「姉さん何をしてるのですか?」

「今、2ちゃんねるって所で書き込みしてるの」

「いや、そういうことじゃなくて」

「翡翠ちゃんもこれを見てみてよ。笑えるから」

「ふぅ。・・・・・どれを見たらいいの?」

「この245って数字の横」

「えぇ~と、実家へ帰れば、僕付きのメイドの一人や二人いるんだよ。お前らみたいな奴らとは血統が違うんだよ血統が!でいいの?」

「そうそう、馬鹿みたいよね~。実際そんなものが、そうそういるわけ無いのにね~」

「姉さん・・・姉さん自身もそのメイドに、当てはまる存在だと思うのですが・・・」

「私たちは例外よ~。遠野家レベルのお屋敷がそうそう、この世に実在するわけないんだからぁ」

「はぁ、そうですか。まあほどほどにしておいてくださいね」

「わかってるわかってる。とりあえず、はいはいワロスワロスっと」

回想終了

「とまあ、そのときの姉さんは私には理解できない生き物になっていました。その時に、姉さんが、回線がぁぁぁとか、やっぱり、ネットは良いわねぇ~相手の顔が見えないしとか言っていたので、姉さんの部屋ならあるかと」

うん。今の話で、琥珀さんの部屋にはネット回線が、引かれてることは確定したなぁ。

でも、ちょっとネット繋がせてくれぇいとか言えないよなぁ。

そして何より、さっき話の中に出てきた発言者。ほぼ確実に僕だ。

あの発言のあと相当叩かれたよなぁ・・・。

しかも一番ひどかったのは、はじめに、はいはいワロスワロスって言ってたIDの人。

つまり、琥珀さんだ。

そんな琥珀さんの部屋で繋ぐなんて恐ろしいことできるわけが無い。

「うん。やっぱり、夕食まで自分の部屋にいるよ。翡翠だって忙しいだろ?」

翡翠ははい、と頷き、静かに戸を開け部屋を出て行った。

 

 

 

夕食前、僕は、自分の妹だと言う人に名前を聞くのを忘れていたので、改めて聞いた。

結果は、まあ、火を見るより明らかで、

「名前すら忘れたですってぇぇぇぇぇぇ!!!」

ドグゥ

「ぐふぉ!」

彼女は、僕の両肩を持ち、勢いよく膝蹴りを鳩尾にかましてきた。

僕がうめき苦しんでいると琥珀さんが来て。

「あらあら、私が何度も秋葉さまって言っていたの聞いていませんでした?」

聞いていませんでした・・・。

言われて思い返すと何度もそう言ってたような気がするなぁ。

まあ、あの時は、そんな細かいこと気にする余裕は無かったんだけど。

と、それよりも、

「琥珀さん。なぜに和服なんですか?」

さっきは、割烹着の下は、メイド服だったはずなんだけど・・・。

「私はもともと和服を主に着ているんですけど。メイド服のほうがインパクトあるかなぁと思いまして」

いやいや。和服でも十分インパクトあると思うんだけどね。

「それに・・・」

それに?

「志貴様はメイドフィチなんだと思いまして」

・・・・。

実はばれてる?僕の趣味・・・。

 

 

 

 

夕食は僕と秋葉と顔を合わせてのものだった。

当然といえば当然の話なんだけど、翡翠と琥珀さんは僕たちの背後に立って世話をするだけで一緒に夕食を食べることは無かった。

・・・・自分の趣味としては夢の再現なんだけど。

なんというか。なんともいえない緊張感があってぜんぜん堪能できない。

さらに、僕はテーブルマナーというものをまったく覚えていない。

よって、テーブルマナーに則るような食べ方はできないわけで、

こっちの一挙一動のたびに向かい側に座った秋葉の眉がどんどん、どんどん、釣りあがっていくのを見て、とてもスリリングというか生きた心地がしないというか。

こんなのが毎日続くと思うと胃に穴が開きそうになる・・・・。

あぁ本当に欝だ・・・。

 

 

 

夕食を食べ僕はやることが何も無かったので、もう寝ることにした。

ふぅ早く学校へ行きたい。ここにいたらぜんぜん気が休まらない。

 

 

次の日

僕は、朝食も食べずに学校へ向かった。

一刻も早く気の休まるところへ行きたかったからだ。

そして学校へ着いたとき、時間はまだ授業が始まる1時間も前だった。

やることもなかったので、掃除道具入れからほうきを出し、一人ダースモールごっこをして遊んだ。

・・・・むなしくなった。

ガラガラガラガラ

突如、教室の扉が開かれた。

真っ先に、さっきの行動を見られてたらもう学校にも来れねぇ。と思い身構えた。

本当に恥ずかしすぎるし。

結果から言うと、その心配は杞憂だった。

だって扉を開いて現れたのは、有彦だったから。

「なんだよ。俺が一番乗りじゃないのか」

などといい。僕の手に持っているものを見。

「そうか。そういうことか」

と全てを理解したような表情をし、掃除道具入れから箒を取り出し、僕へ切りかかってきた。

「一人でダースベーダーごっことは寂しいやつめ。まあ、俺もお前の友人だ。その遊びに付き合ってあげようじゃないか」

おしい。ダースモールごっこだ。

どっちもかわらないだろという人もいるかもしれないけど。

僕にも、こだわりがあるのでそれだけは譲れない。

「有彦お前。自分がダースベーダーごっこやりたいだけだろ」

「何のことかなぁ?」

突如、不自然に口笛を吹だす有彦。

ばればれだって言うの!

お前が無類のちゃんばら好きだって、みんなが知ってるんだから隠さないでもいいのに。

と言うかな。お前は楽しむだけ楽しんで、僕を切り捨てるつもりなんだろ?

僕は切り捨てられる気なんてさらさらない。

だから有彦に付き合わず寝ることにした。

「あ!てめぇ。俺にこれだけ期待させておいてそのままかよ」

と有彦の本音が、聞こえるが無視する。

そして気が付くとホームルームが、終わり授業が、始まろうとしていた。

「やっと起きたか。お前が寝たせいで、俺は一人で箒を持って暴れている変な人って、見られたんだぞ」

それはお前が悪いだろ。

などと思いつつ。僕は授業に集中することにした。

そして、3時間目が終わるころ。

「おい。そろそろ学校から出ろ。あいつに会う時間だ」

突如、ドラが話しかけてきた。

「あいつって誰だよ」

いつものことなので、慌てず聞き返す。

「そんなことはどうでもいい。今すぐここから出ろ」

「無理だって。もう少しでこの授業が終わるから待ってろよ」

「くどい。早く出ないのならばこの拳をお前に叩き込むぞ」

「わ、わかったよ・・・」

以前、ドラの話を無視したときは本当にやばかった。

ドラの拳は、体を突き抜けるんじゃないのか?と思うほどの勢いで体に突き刺さった。

あの時は本気で死ぬかと思った。

ドラ曰く、

「あれは本気じゃない。相当手を抜いてやったのだ」

じゃあ本気だったらどれくらいなんだよ!と突っ込みそうになった。

そして、それ以来、僕はドラの言葉を無視できない。

「それにしてもどういって抜け出すべきか・・・」

と独り言を言っていると、突如有彦が。

「先生。遠野がまた例の発作に襲われています。帰したほうがいいかと」

「む。それはいかんな。遠野つらいのならちゃんと言いなさい。先生は君の味方だぞ」

抜け出す理由を考えなくてもよさそうだ。

でもなぜだろ?すんなり目的が達成できるというのに、涙が出てくる。

「遠野。俺は、お前がどんな幻を見てようとお前の味方だぜ」

有彦。お前のその言葉が僕の傷をさらにえぐっていることに気づいてくれ。

そんなことを思いながら、僕は、荷物をまとめ教室を出た。

その際、みんなから浴びせられるかわいそうなものを見る視線がとても痛かった。

 

 

 

 

僕はドラに導かれるまま、公園までやってき、

「で、そのお前が、言ってた人物って、どこにいるんだ?」

ドラに尋ねた。

「慌てるな。もうすぐ来る」

そうドラが言って1分も経たないうちだった。

目の前を金髪の外人の女性が通りかかったのは・・・。