前書き

この作品はhollowの一部のシーンを改変したものです。

Hollowをプレイしていない方は見ないことを進めます。

 

 

夜の選択

 

一人で

 

大橋

 

 

橋を渡って新都に向かう。

この時間、歩道橋を利用する人間はいない。

今夜は道路を行く自動車もなく、風の音だけが響いていた。

「ますます半年前の焼き直しだな。あの時も、こうやって」

セイバーと遠坂と一緒に新都に向かったんだった。

あのころは言葉もなく、どこへ連れて行かれるか不安でもあり、新しい出来事を歓迎してもいたのだ。

だが今は、町の様子がおかしい、と誰もが気がついている。

何がおかしいのか、何が間違っているかも知らずに、

こうして再開された聖杯戦争に馴染んでしまっている。

「まあ、理由もなしにけんかをふっかけてくる奴がいないのはいい事だけど」

戦う理由は無い。

だから命の危険も無い。

憎しみ合う相手は・・・・。

ヒューン    ビッ!

「ハハハハ!フィッシュー!!」

町全体に聞こえると思われるほどの歓声が聞こえた。

そして次の瞬間。

ヒューン

「えっ・・・・・!!!!?」

一瞬何が起こったかわからなかった。

さっきまで橋の上にいたはずなのに今は、

その橋のはるか上空にいる。

落ちていく中、俺の目は無意識にそれを捉える。

戦う理由が無いから殺される恐れは無い、と考えていた。

間抜けな俺をうれしそうに見つめる赤い服装の釣り人。

「ヤロウ―――

それが俺の最後の一言となり、

俺は・・・、

落ちて。

落ちて。

落ちて。

落ち・・・グチャ!

 

DEAD BAD END

 

デッドブリッジ

一人で行動してはいけない。

次は剣と共に・・・・。

 

 

夜の選択

 

セイバーと

 

大橋

 

 

橋を渡って新都に向かう。

この時間、歩道橋を利用する人間はいない。

今夜は道路を行く自動車もなく、風の音だけが響いていた。

「懐かしいなぁ。あの時もこうやって、セイバーと一緒に教会にいったんだっけ?」

俺は独り言のようにつぶやいた。

「ええ。まだマスターの自覚がなかったシロウと、まだあなたのサーヴァントになっていなかった私と、まだ敵であった凛。

こうして振り返ると、さぞかしおかしな三人組だったでしょうね」

くすりと微笑しながら俺の言葉に答えるセイバー。

まあ実際のところは、幽体化した赤い奴も居たんだが、まあ気にしないで、俺も彼女と共に半年前の夜を懐かしんで笑っていよう。

今でも、いや、この先もずっと覚えている。

あの夜は特別だったんだ。

セイバーと一緒にいるときは、ずっと特別だけど、あの夜はその始まりなんだから・・・。

と、突然。

「シロウッ――――!!!!」

ヒューン   ガキン!!

「なっ!!!」

はじけ合う剣と光。

衝撃の余波は、大気と橋全体を震わせる。

「下がって!敵サーヴァントの攻撃です!」

ヒューン   バキン!!!

2回目!!!

何が起きているのか把握できない。

セイバーは俺の前に立ち、どこからか飛来してくる銀色の何かを剣ではじく。

「敵サーヴァントだって!!?くそっ!いったいどこのどいつが!」

ヒューン ガキン!!!!

三回目!!!

またも銀色の何かを弾くセイバー。

まずい。何がまずいかは分からないが、このままでは非常にまずい。

今はまだ防げているが、このまま行けばいずれ○○○○○される。

セイバーが一人であるなら、あるいは、あれを弾きながら前進し、倒される前に敵を打ち倒せるかもしれないが。

狙われているのは俺だ。

セイバーが俺から離れた瞬間あれは俺を捕らえるだろう。

しかし、セイバーは俺を守っている限り、ここから前へ進めない。

―――いや。

下手すると深山町に撤退することもできず、俺のせいで、何回目かに○○○○○されることだって・・・。

ヒューン  バキン!!!!!

「シロウ、敵の攻撃は私が防ぐ!今はそのまま動かないでください!」

4回目!!!

セイバーの声に焦りが生じる。

的は弱点が俺だと知っている。隙だらけの俺を攻めるあれを、セイバーは無理な体勢で、はじき流す。

―――このままではセイバーが倒される!

やるべきことははっきりしているんだ。

要は俺が、自分の身は自分で守れれば良い。

神経を集中する。

さっきからアレは見えている。見えているのなら、防ぐこともできるはずだ。

以前の俺ならいざ知らず。

聖杯戦争を生き抜いた衛宮士郎は、それを可能とする経験と力量がなくてはならない。

ヒューン ビッ!

そしてついにセイバーは剣ごとは、○○○○○され、

「くっ・・・・!!!!」

空中に投げ出されるセイバー。

―――間違いない。

アレは、最新型ロットによる遠距離投下!

いかにセイバーと言え、あの糸と針から逃れ切ることはできない。

セイバー一人なら剣で弾くことなどせずに、いくらでもやり過ごせただろうに!

―――!セイバー危ない!」

橋のはるか上空に投げ出されたセイバーを助けようと駆け出そうとする。

しかし、

「く、だめだシロウ、逃げてください!」

あの高さから落下するものを、しかも甲冑を着込んだ人間を、受け止められるはずもないが。

「なめるな!俺だって!!!!」

魔力を流し、体を○○する。

あれ?○○ってなんだ?

まあいい。そんなことよりも今はセイバーだ。

そして・・・。

セイバーの落下地点へ向かう俺めがけて、投擲される釣り針。

しまった。

セイバーは俺に対する撒き餌か!

いや、しかし見えている。

それは見えているのだから後は・・・・。

「・・・・・あれ?」

ど忘れした。

あとは何をすればいいんだっけ?

ヒューン  ビッ!

「ハハハハ!間抜けだな!フィッシュー!!」

町全体に聞こえると思われるほどの歓声が聞こえ、

ヒューン

体が浮き上がる感覚が全身を襲う。

このままでは、前と同じように空中に投げ出され地面に叩きつけられ死ぬことになるだろう。

しかし、今回は違う。

今回はセイバーが共にいるんだ。

きっとセイバーが俺を・・・ゴ・グシャッ!

「ガッ・・・・・!!!」

後頭部に衝撃を感じ、何かがつぶれたような音が聞こえる・・・。

「・・・・!・・・・・・、・・・・・・・!!!!!!」

・・・しくじった。

ここは橋の上ではなく、その横にある公道。

わざわざ地面に叩きつけるまでもなく、俺を殺せるものはそこら中にあったんだ。

そして、俺は何かを忘れているのか、まだ知らないのか。

衛宮士郎という人間が持つ性能とその根源的な部分をどこかで拾い損ねたのか。

潰れた後頭部から脳漿が飛び散っている。

「         」

彼女の声が良く聞こえない。

何を失念していたのかわカラない。

いしキが、トオのク。

ヨッカメヲムカエルマデモナクダツラク・・・。

 

 

DEAD BAD END



デッドブリッジ

・・・何かが足りない。

足りないものを補い。

赤い釣り人に宣戦布告をし、万全の体制で挑むべし。

 

 

 

9日 柳洞寺

何気なく裏山を目指す。

天気はいいし、今日は栗でも拾いに行くかな。

この木々のカーテンを抜ければそこには、山のような栗が・・・。

視界が開ける。

・・・・・栗の代わりに死骸が詰まれてました。

それを見つめるように、衛宮士郎と起源を同じにする男が、忌まわしげにそれを見上げていた。

視界を焼く白い光。

柳洞寺にはまだ夏が残っている。

「っ、まぶしい・・・・」

強い光の性で目がやられたのだろう。

ネガポジが反転したように、一瞬だけ景色が黒く見えてしまったのだ。

とうに俺に気がついているだろうに、奴は振り向きもしない。

さっきの風景は目眩による錯覚だったが、あの男は錯覚ではなかった。

「・・・・・・」

お互い、無言で周りの様子を見る。

ショックだった。

去年まではあんなに栗が拾えたこの場所は、今は見る影もなく更地になっていた。

奴もよっぽどこの光景がショックだったのだろう。

一言も声を発しない。

見慣れた背中を観察する。

そういえば、なぜ奴は栗を取りにくるのに、つり道具をフルセットで持ってきているのだろう?

ここは山奥だ。

魚なんていやしないのに、栗を取りにくるついでに、魚も釣ろうと考えていたのだろうか?

なんてがめつい。

・・・・それにしても諦めが悪い奴だ。

さっきからずっとこの光景を眺めているとは・・・。

いい加減、俺もイライラしてきた。

「おい。お前さ、ここにはもう栗はないし、魚もいないぞ。あきらめてさっさと帰れ」

「私はここに栗を取りに来たわけでもなければ、釣りに来たわけでもない!」

だったら、その格好でここに、何しにきたんだよ。

と言う言葉を飲み込む。

こいつにあったのなら、他に言うべき事がある。

「まあいい。それより、お前さ、その格好で高いところにいなかったか?」

叩き割られた後頭部が、いずれ知る痛みを思い出す。

「いたが、なんだ?範囲内でお前の姿を見たことはないはずだが?」

「だろうな。俺だって夜におまえを見たことなんてない。そういう気がしただけだ」

とにかく、起きえることは全て起こさなくてはならない。

釣るか、釣られるか。

どちらも起こしてしまえば、後は都合のいいほうを選べば良い。

「・・・私も尋ねるが。おまえはまた、深夜にセイバーと巡回してるのか?」

「してるよ。何でかまだ新都にはいってないけどな」

正確にはいけてないのだが。

「やめておけ。夜中の新都には近づくな。越えようとすれば、いらぬ攻撃を受ける」

「は?なんだよそれ?お前が釣りでもしてるのか?」

「新都一帯は私のテリトリだ。入ってくる者は容赦なく釣り上げ、キャッチアンドリリースだ」

すでに何体ものサーヴァントを釣り上げたらしい。

おかげで、ランサー、ライダー、キャスターの3名は夜の新都には近寄れないようだ。

まあ、それはともかく。

「・・・・へえ。それは俺も?」

「お前は例外だ。お前には容赦なく、キルアンドリリースか、リリースアンドキルかだ」

偽りはない。

釣師の殺意は本物だ。

「あきれた。まだ俺を殺したがってたんだ。遠坂がいない今がチャンスってことか」

「言うまでもない。凛はお前を釣り上げること自体を嫌ってるからな。いない今が、お前を釣り上げ殺すチャンスだ」

まあそうだろうな。

あいつがいたら、絶対そんなことさせないとか言ってるだろうな。

「でだ。お前はこの状況どう思う?」

「サーヴァントとして戦うつもりはないが、この状況見過ごすつもりもないな」

こいつは、他のサーヴァントよりこの状況に積極的らしい。

「ふぅん。じゃあお前は単に新都を守る釣り人って事でいいんだな?」

「ああ、もっとも、お前に関しては例外だがな。夜を待つ必要もない。なんならここで殺しあうか?」

俺は待ってましたとばかりに口元をニヤリと歪ませ、

「ここで戦うきはねぇよ。それにだ。これが聖杯戦争の延長なら戦うのならよるじゃないと」

さらっと、奴のさっきを受け流した。

よっぽど以外だったのだろう。

奴の表情に困惑の色が浮かび上がる。

はっ!ざまーみろ。たまには逆の立場を味わえ。

「話はここまでにしとこう。じゃあまたどこかでな」

裏山を後にする。

「いいだろう。お前に関しては俺は本気だ。全力でお前たちを倒しにかかる」

声には挑発と覚悟がある。

俺一人ではなく、セイバーとそのマスターを相手にする、と釣師は言い放った。

上等。準備ができたらまた合おう。

 

殺意は高潔な決意でかき消された。

お互いの氏を認め合う殺人許可証。

カタチのない果たし状を、確かに俺たちは渡しあった。

 

 

夜の選択

 

セイバーと

 

大橋

 

 

深山町と新都の境界に踏み入る。

いつか聞いたヤツの言葉が思い出される。

(新都一帯は私のテリトリだ。入ってくる者は容赦なく・・・・)

幾度釣り上げられたのか。

1回か、数回か。

この橋を渡るたびに、

(お前は例外だ。お前には容赦なく、キルアンドリリースか、リリースアンドキルだ)

俺は、お前に敗北を喫してきた。

(俺は本気だ)

心臓の鼓動が高まる。

眠っていた血潮、さび付いた魔術回路が起動する。

随分待たせたな、相棒。

そして、土蔵に眠っていたこれ。

まさかこんなものを使う日が来るとは・・・藤ねえに感謝しないとな。

準備は整った。俺は今度こそお前をしとめる。

この時間、歩道橋を利用する人間はいない。

今夜は道路を行く自動車もなく、風の音だけが響いていた。

「懐かしいなぁ。あの時もこうやって、セイバーと一緒に教会にいったんだっけ?」

俺は独り言のようにつぶやいた。

「ええ。まだマスターの自覚がなかったシロウと、まだあなたのサーヴァントになっていなかった私と、まだ敵であった凛。

こうして振り返ると、さぞかしおかしな三人組だったでしょうね」

くすりと微笑しながら俺の言葉に答えるセイバー。

まあ実際のところは、幽体化した赤い奴も居たんだが、まあ気にしないで、俺も彼女と共に半年前の夜を懐かしんで笑っていよう。

今でも、いや、この先もずっと覚えている。

あの夜は特別だったんだ。

セイバーと一緒にいるときは、ずっと特別だけど、あの夜はその始まりなんだから・・・。

「それにしてもあの時の格好はなっとくいか・・・?」

「セイバー、上!」

ヒューン  ガキン!!

はるか四キロ先から飛んでくる釣り針を弾くセイバー。

魔術回路をスタートさせる。

眼球に強化の魔術を叩き込む。

「見えているぞ、アングラー」

交わるはずのない視線が交わる。

お互いに見えるはずのない敵を認識する。

俺は、水中の魚から脱した。

ここからだ。

俺はやっとスタート地点にたどり着いたにすぎない。

俺は今夜、この橋を渡りきる。

「ぐっ!?シロウ今のはいったい!?

いえ、どうやって私より早く感知したのです!?」

「はなしはあとだ、次がくる!

ここじゃ狭すぎるし、ヤバイ。上まで運んでくれセイバー!」

「う、上?上とはどこのことでしょう、シロウ?」

困惑したように聞き返すセイバー。今はこんな話をしている時間すら惜しい。

「ここより高くて広い場所だ。気が利いている、今夜は俺たちの貸切らしい」

ばっ!

言い終わるか終わらないかで、セイバーは俺を抱え橋の上まで跳躍する。

「橋の上の自動車道。なるほど確かにここなら足場も視界たしかですが・・・」

「セイバー、十時の方向!目標を確認しろ!!」

ヒューン バキン!!

二投目!!

投下まで20秒。たった今、脳裏を掠めた記録が、三発と訴える。

「か、確認しました!

事態はつかめませんが、センタービルの屋上に赤い何者かがいる!」

さすがセイバー。

今の一撃で敵の位置を確認してもらえたのは大きい。

「どういうことです!?アレは・・・いいえ、こんなことが出来るのは一人だけだ!

まさか、アングラーともあろうものが聖杯戦争に乗ったと言うのですか!?」

失望したと言うような様子で尋ねてくるセイバー。

「しらない。俺にわかるのはあいつが本気だって事だ。あいつは本気で俺たちと勝負に来ている。今はそれ以上の理由が必要か?」

「あなたの言うとおりだシロウ。失態の罰は後ほど。今はアングラーの追撃に全力を!」

ヒューン ガキン!!!!

三投目!!

残る猶予はあと二投。

セイバーは五投目で釣り上げられ、六投目で俺は死ぬ。

それは、この戦法では逃れようのない結末だ。

アングラーのロットとリールは、一投ごとにその値段が上がっていき、糸の強度も増していく。

そして釣り針は、より凶悪に変化していった。

セイバーに防がれるたびに、より多くの魔力をこめているためか?

今のが25秒、おそらく次は30秒。

この次までの投擲にかかる時間がヤツの弱点だ。

一撃防いだあと、次の装備に切り替える前にこちらから打って出れば、同じ結末は避けられる。

だがどうする?

直線距離にして4キロメートル、道なりに向かえばその倍はかかるだろう。

セイバーの宝具をもってすれば対抗できるが、エクスカリバーでは範囲が広すぎる。

そもそも相手はアングラーだ。

セイバーを知り尽くしたヤツなら、エクスカリバーに対する防備もしているはずだ。

卓越した。釣師に対し有効な手段は、同じフィールドに立ってからの攻撃だ。

つまり接近してからの白兵戦へ持ち込まなければならない。

しかしヤツに気づかれないように近づくのは不可能だ。

ならば・・・釣師が対応する前に、超スピードを持って剣の間合いに肉薄するだけのこと!!!

「セイバー!」

つよく、思いをこめて凝視する。

ヤツが鷹の目を持つと言うのなら、唇の動きで悟られてしまう。

勝負は一瞬だ。こちらの意図を読まれるわけには行かない。

「可能です。ですが私の魔力だけでは足りない。失礼ですが、シロウの魔力を足しても十分では・・・」

「十分だ。こっちにはこれがある」

左手には、ひとつだけ残った令呪。

「シロウ!いけない、それは最後の手段だ!

それに、うまくいったところで誰があなたを守るのです!」

強い口調で述べるセイバー。

「その案には賛同できない!ここは撤退して体勢を立て直せば!」

「そっちこそだめなんだ。何しろ一度試した」

セイバーだけなら逃げることも出来るだろう。

けど俺がいては二人とも倒されてしまう。

この橋を越えるには、このタイミングで、この刹那に全てをかけるしかない。

はじめからやり直しは出来ても、ここだけのやり直しは出来ないのだ。

ゆえに、持ちえる全てを注ぎ込む。

令呪を失うのは大事ではない。

重要なのは一度でも倒したと言う事実のみ。

ヒューン  ギャーン!!!!!

4投目!!

セイバーが満足に弾き返せる限界が来た。

令呪でバックアップする。それに俺の力も加えるつもりだ。いけるなセイバー」

時間がない。

毎度の事ながらこれでも最善のスピードだ。

「まったく、あなたの判断はいつも突然だ」

大きく構えを落とすセイバー。

その体勢は、力を溜める肉食獣そのものだ。

ガシャン

「指示をマスター。この身はあなたの剣ですから」

風王結界を開放し、エクスカリバーの刀身が露わになる。

剣にかかる余分な魔力をカットし、セイバーは自らの肉体のみに全魔力を注ぎ込む。

「次の投擲に合わせるぞ!あと15秒!」

俺も自分のその声にあわせ、魔力を集中させ、撃鉄を落としていく。

「令呪装填」

10秒。

ロッドとリール、糸と針を作り出す。

ロッドはしなやかさを、リールは巻き上げることよりも遠くに飛ばせることを、糸は決して切れない強さを、針には必要に応じて着け外しできる柔軟さを!

そして、令呪はサーヴァントの一時的な強化を可能とする。

その膨大な魔力を、サーヴァントの活力として変換する力技だ。

セイバーの膨大な魔力回路を満たすほどの力。

伝説の時代、あらゆる戦場を制した騎士王がよみがえる。

令呪による命令は飛行

何の比喩でもない。文字通り、セイバーはここからセンタービルの屋上めがけて飛ぼうとしている。

「聖杯の誓約に従い、第七のマスターが命じる」

5秒。

俺はセイバーに針を引っ掛け、ヤツから見えない位置で竿を構える。

対するは無名の釣師。

投影した最高の道具を使用する漁師の英霊。

今度こそはと、アングラーの作り出した道具たち。

ロットは、竜のひげで作ったと言われる伝説の竿。

リールは、現代の最先端技術を集結させ作り上げられたと言う最強のリール。

糸は、オリハルコンを細く伸ばし作ったと言う絶対に切れないとまで言われる無敵の糸。

針は、あのジョーズすら容易く捕らえると言われるほどの一品。

それはまさに理想とされる最強の装備。

ググググググ

修正、プラス5秒。

さらにためが長い。限界まで引き絞った弓のように反らされた体はセイバーの魔力年少に対抗するため、より力を増していた。

だから、問題はタイミング。

先に飛んでも同時でも危うい。

セイバーが飛んでいく以上、アングラーが釣り針を放つ前に飛んではセイバーが危ない。

ゆえに狙いは投擲の直後。

ヤツが投擲する瞬間、0,1秒差でスタートする。

ロットを振り下ろしているその瞬間の硬直にあわせ、直接剣を叩き込む。

お互いの魔力が咆哮をあげる。

 

 

5  まだはやい

 

 

3  緊張で令呪がもげそうだ。

 

 

1  ぎし、ヤツの視線が狙いを定める。

 

 

セイバー!!!

「行け、あのヤロウを切り伏せろ!!」

ヒューン ド・グーン!!!!

俺力の限りセイバーを飛ばし、そして、セイバーは、それに答えるように、空中で魔力を開放し、さらに加速する。

その姿はまさに閃光。

4千メートルの時間を無にする一閃。

対するアーチャーの釣り針はどんなものでも捕らえると言われる釣り針。

漁師たちの想いが詰まったそれはまさに概念武装。

セイバーに弾かれようと、釣師が狙い続ける限り襲い掛かってくる。

セイバーが守りにはいったところで結果は変わらない。

否、セイバーが弾いた瞬間にこそ、ソレは標的に向かって咆哮をあげるのだ。

セイバーが防御に徹している限りはアングラーの勝利は変わらない。

そう、セイバーが防御に徹している限りは・・・。

―――!」

それは秒にも満たない瞬間。

釣師の後ろから目の前へ針が現れる瞬間だった。

標的からセイバーが消えたのは。

釣師は狙いを看破する。だが遅い。

すでにお前は餌に食いついている。

勝利を確信したのはどちらだったか。

数百メートル先の得物を釣り上げる釣師であろうと、動かぬ定理がある。

それはひとつの針では2匹はつれないということだ。

いかなる名人でもそれは覆せないものだ。

されど、それを克服してこそ、釣りの英霊・・・・。

「っ―――!?」

針の先にはアワビが取り付けられ、周りにはウニやイセエビ・・・、海の高級食材たちが撒き餌として散らばっている。

さすが釣師。

得物の好みを網羅している。

定理は返り、セイバーはそれらを無視できない。

食いついたら最後、針は腹ペコ王ごと俺の元へ飛んでくる。

もはや何人たりとも覆せぬ死の運命。

されど、それを凌駕してこそ、腹ペコ王!

ギューン バクバクバクバク!

交差する光と光。

セイバーは見事、餌だけを取り釣り針を退けた。

青光は勝利を歌うように天上へ。

赤光は敗北をつげるように、奈落へと直下する。

ヒューン ド・ゴーン!!         ズズズズズ

衝撃をともなってセイバーが解き放たれる。

タイミングは完璧だった。

だが、これだけではこの橋は突破できない。

橋全体を揺るがす強風に視界を覆われながら、迫りくる釣り針をにらむ。

時間が止まる。

令呪使用から実に1秒。

このときのために取っておいたこの秘密兵器。

鉄に対し最強の力を誇るこの

超強力ポスター型磁石

を強化する!

家中の電化製品を死滅させ、封印されたこの忌まわしきポスター。

しかし、今は俺の最後の砦!

釣り針は、鉄で出来ていると言う概念が、人々の中には根強く残っている。

あの釣り針もそれの呪縛からは逃れられない。

いや、人々の概念が作り出したあの釣り針だからこそその運命からは逃れられないのだ。

「強化開始!」

チューン グググググググググ! ドーン!

 

 

その光景を、アングラーは確かに見た。

呼吸する力すら全身に力込め放った1投。

ポスターに吸い寄せられるようにくっつき離れないジョーズすら捕らえると言われる釣り針。

強化されすぎた磁力により全身の鉄分が固まり、あたかも内部から剣で切り裂かれたように全身傷だらけ。

死を恐れぬ追撃を持って、やつは一度きりの防御を成功させたのだ。

本来なら未だ釣師の方にこの勝負、分がある。

しかし、それは彼が健在ならばと言うことだ。

「第5投目から2秒弱。

6投目を構えるばかりか、銛を構えることも出来ぬとは。

すこしばかり、本業に戻りすぎたようだ」

 

皮肉な話だ。

もとより釣り人ならぬ釣り人がこの男のスタイルだった。

釣り竿よりも銛による直接漁獲を好んだサーヴァントは、本来の方針の戻ったがゆえに、セイバーの一撃に対応し切れなかった。

「見事でしたアングラー。もしあなたに中華料理人(凛)がついていれば血がう結果になっていたかもしれません」

「は、馬鹿を言うなセイバー。アレがいたのなら、そもそもお前たちとは戦えん」

 

礼賛に笑いで返す。

「ち、いかんな。もう保たん。他に言うことはないかセイバー。勝者の責務だ、疑問があるなら問いただせ」

 

ざらりと砂の散る音がする。

「ならばひとつだけ。なぜ撒き餌は魚介類ばかりだったのですか?ほかのものも用意すればあるは・・・」

く、とアングラーから笑いが漏れる。

「俺は漁師だからな。魚介類に拘るのは避けられん」

「そうですか。わかりました。他に言うことはありません。潔く散りなさい」

「ふ、先に行くぞセイバー。せいぜい、この俺にだまされていろ」

潔く散ることなどせず、最後まで恨みを残してアングラーは消滅した。

こうして俺はこの橋を突破することが出来た。

 

 

 

 

後日

ランサーに合いにいつもの港へ向かうと・・・。

「一人増えてるぅぅぅぅううう!!!?」

ランサーの背後。

頼れる背中がきらりと光る、あの褐色の男は間違いなく新たなる暇人。

「ふ、イナダ216匹目フィッシュ!良い漁港だ。面白いように魚が取れる。ところでそこの男今日はそれで何フィッシュ目だ?」」

ランサーにちょっかいをかける赤い人。

どうでもいいけどなんでお前は釣り竿を持たずに銛で魚を取ってるんだ?

しかも何気に大量だし・・・216匹ってなんだよ!!!?

あと、銛で取ってるのにフィッシュってのはどうかと思うぞ?

「300匹目フィッシュ!!」

俺の疑問をまったく無視し、ひゃほほーいとはしゃぐ赤い人。

あれ?なんだろ、なんか涙が出てきたおかしいなぁ。

かなしいことなんてないはずなのになぁ。

「はっはっは。この分では夜明けを待たずして勝負がつくな。なあランサー。別にこの港の魚を捕りつくしても構わんのだろう?」

やめろ!

お前が言うと本当になりそうで怖い。

「やめろ。本当にお前ならやりかねぇ。そんなことされたら俺の楽しみはどうするんだ」

ランサーもこいつならやりかねないと思ったのだろう。

珍しく否定しない。

「はっはっは。ついに負けを認めたか。まあいい。お前に頼まれんでも実行するつもりだ。フィッシュー!!!」

ああ。明日まで、この一帯に魚が生存してられるのだろうか?

そして、アングラー・・・・お前の名前は今日からサバイバーに改名な。

 

ちなみに次の日。漁港からは魚の姿が消えていたと言う・・・。

 

後書き

釣師エミヤっていうのをみてこれだぁと思いつきで書いた作品です。

感想などいただけたらうれしいです。