ある日、桜の部屋で1冊の本を見つけた。
「なんだこれ?」
どこかで一度同じような、体験したような気もしないでもないが、
気にせず手にとってみる。
その瞬間、体中になんとも得ない寒気を感じた。
体中の細胞が継げる。
それは見てはいけない禁書。
開いた瞬間もう後戻りは出来ない。
命が惜しくば、今すぐこの場を去れと。
俺は体の意思を汲み取り本を置き、部屋を出ようとした。
しかし、
「体が動かない?」
どんなに力を入れて体を動かそうとしても言うことを聞かず、
指一本・・・瞳すらも動かすことが出来ない。
まさか、ライダーの魔眼?
と思いもしたが、石化させられるときとは感じが違う。
あれは体がずっしり重くなり押さえつけられてる感がひしひしと伝わってくるが、
今はまったくそんな感じはしない。
どちらかと言うと力が入らないとか抜けるとかそんな表現がしっくり来る。
ライダーの魔眼の力ではないとしたら今の状況は一体なぜ起きているのか。
原因は何か。
いや、逃げるのはよそう。
俺の体が動かないのは、魔術を掛けられたのでもなければ、ライダーの魔眼を浴びせられているからでもない。
おれ自身の意思で、ここから出て行くことを拒んでいるからだ。
危険を察知している体と本能を、この本に対する好奇心が押さえつけ、本を見ることなく出て行くことを拒んでいるのだ。
・・・そんな事、本当は初めから分かっていた。
ただ誰かのせいにしたかっただけなのだ。
ここまで来たのはおれ自身の責任ではないとそう思い込みたかったのだ。
だって、俺はもう後には引けない。
ごくりっ
からからに、渇いたのどが鳴る。
冷や汗がたれる。
これを開けば本当に後戻りは出来ない。
引くなら今しかない。
それでもやるのか。
答えはイエス。
俺にはもうそれを開く以外の道が考えられなくなっているのだから・・・。
歪んだ心 桜編
開いたその本はちょっと分厚い日記帳だった。
俺は1ページ目から恐る恐る読み始めた。
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・
○月■日
今日、コンビニでアルバイトを始めた。
初めてのアルバイト。
うまく出来るだろうか。
正直不安だ。
○月×日
アルバイトを始めて数日たった今日。
兄さんが、お店へやってきた。
一体何をするのだろう?と思っていたら、高校生が買ってはいけない本を買い、わざわざ私のいるレジに持ってきてニヤニヤしていた。
許せない。
死ねばいいのに。
○月□日
姉さんとセイバーさんとイリヤちゃんと先輩がお店へやってきた。
どうやらどこかに出かけた帰りのようだ。
私だけ仲間はずれ。
あの笑顔が憎い。
○月◇日
また兄さんがやってきた。
今度は何のようだろうと見ていたら、から揚げ弁当を購入して出て行った。
別に嫌がらせに来たわけじゃなかったんだと、
ほっとしていると再び来店し、
「これ、から揚げが入ってるんだけど。僕をなめてるのか?」
とクレームをつけてきた。
から揚げ弁当にから揚げが入ってるのは、当たり前だと分からないほどこの人は馬鹿なのだろうか?
それともただの嫌がらせ?
そうだとしたら許せない。
●月◇日
今日は、ビールが冷えてるとクレームをつけてくる客がいた。
冷えてるビールのどこがいけないんだろう。
冷えてるのが嫌なら外でほっとけばいいのに。
●月■日
今日はとても素敵なことがあった。
なんと来週、先輩たちとみんなで旅行に行くことになったのだ。
旅行なんて合宿か修学旅行以外に行ったことがない。
とても楽しみだ。
●月□日
旅行の日にバイトが入っていることに気がついた。
慌てて変わりにシフトに入ってくれる人を探す。
いつも変わりにシフトに入ってるんだ。
誰か変わってくれるだろう。
●月△日
・・・誰も変わりに入ってくれなかった。
いつも変わりに入ってあげてるのに、こう言うときに助けてくれないなんて。
ランサーの奴、許せない。
●月▲日
今日は、本当は旅行に行く日だった。
でも、私だけバイトがあるので留守番。
サボることも考えたけど迷惑が掛かるので私には出来なかった。
第一、先輩が許してくれないだろう。
憂さ晴らしにランサーを飲み込んでやった。
ふふ、あまりおいしくはなかった。
●月▼日
先輩たちが笑顔で帰宅。
許せない。
◇月◇日
姉さんがやってきた。
笑顔が硬いといって牛乳を買って出て行った。
許せない。
◇月●日
セイバーさんがやってきた。
大量のお菓子を買って出ていった。
あんなに食べても太らないなんて、
許せない。
◇月×日
兄さんがやってきた。
存在が許せない。
◇月○日
店長が、
「シャナがーシャナがー」
などといいながら、メロンパンばかり注文する。
許せない。
◇月□日
今日またクレームをつけられた。
つなぎを着たクソ親父が弁当を二つ購入したから箸を2本つけると。
「この店は箸すらケチるのか」
と怒鳴ってきた。
慌てて、
「すみません。何本ですか?」
と答えると。
「15本」
こんなどうしようもないクレームをつけるなんて、
許せない。
だから、15個の肉片に分けて食べてあげた。
まずかった。
〜月□日
立ち読みしている客がいる。
許せない。
だから全員食べてやった。
〜月○日
店長がファンタメロンの入荷をストップさせた。
帰りにあれを買って帰るのが私の楽しみだったのに。
許せない。
だから殺してやった。
さて誰から給料をもらおう。
〜月□日
客が来た。
許せない。
〜月■日
本店社員が来た。
私に口を聞いてきた。
許せない。
〜月◇日
同級生がやってきた。
許せない。
〜月▼日
兄さんが私の日記を見ていた。
許せない。
「し、慎二もこいつを見たんだ・・・」
慎二がどうなったかは書いてなかった。
正直想像もしたくない。
そんなことを考えながらページをめくる。
ぱらっ
「あれ?次のページがない」
そこから先は、白紙のページだった。
どうしてだろう・・・。
「当たり前ですよ先輩。その先は先輩のことが書かれるんですから」
突如後ろから投げかけられる声。
体中の筋肉が一瞬にして凝縮し、心臓が止まる。
ついに終わりのときが来たようだ。
俺は、死を覚悟し、後ろを振り向く。
するとそこには・・・・。
終
タイガー道場
「ぶるぶる。桜ちゃん怖い子」
「桜の暗黒度は計り知れないっすからねぇ」
「私も桜ちゃんを怒らせないようにしておかないと・・・」
「どうっすかね。もう手遅れじゃないっすか?」
「不吉なことを言うなぁぁぁぁぁぁぁ」
ばこんっ
「す、すみません師匠」
「まあいいわ。とりあえず、今回のエンドの回避方法は?」
「今回はホロウ仕様なんで回避は不能っす」
「うわ。私たちの存在意義真っ向から否定ね」
「とまあこれだけだと少し寂しいので、一言」
「「他人の日記は盗み見るべからず」」
「正論ね」
「正論っすね」
「正論も言ったところで今回はこれで終了。またどこかで会いましょう」
「と、閉めたところ悪いっすけど、それは何っすか?」
「え、これ?さっきそこで拾ったんだけど、士郎の事とか書いてて面白いのよ」
「シロウのこととか書いてるって・・・それってまさか桜の・・・」
クスクスクスクス
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ桜がぁぁぁぁああああ」
完
後書き
久々の更新でした。
友達から聞いたバイト先での話をそのまま使わせてもらいました。
よってクレーム系の話と店長の話は実話です。
殺してはないけど・・・。
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