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十二月三日(日)あこがれの
ひとり席 ブルマン香る 師走かな
十二月。今年も星乃珈琲に「あこがれのブルーマウンテンブレンド」の季節がやってきた。
十二月十三日(金)初台古典派週間
九~十三日の平日五日間は、初台古典派週間+大曲(おおまがり。たいきょくにあらず)。
まずはオペラシティ三晩に新国立劇場と、初台に四日通い続け。九日はパーヴォ&ドイツカンマーフィルでベートーヴェン&モーツァルト、十と十一日はイザベル・ファウスト&イル・ジャルディーノ・アルモニコでモーツァルトのヴァイオリン協奏曲全曲、十二日はネトピル指揮《魔笛》。そして十三日は大曲のトッパンホールで、イル・ジャルディーノ・アルモニコのハイドン。
すべて気持ちのよいコンサートで、これらに挿入されていたシューベルト、グルック、ペルト、シャイトは、視野を広げてくれる面白さ。ガット弦はやはり耳に心地よい。
《魔笛》以外の公演三種はレビューのご依頼をいただいているので、感想はそちらにいずれ。この三種、どれも掲載先が違うのに依頼がまったくバッティングせず、きれいに分かれてくれたのが嬉しかった。依頼を断るのは、フリーランスができるかぎりしたくないことなので。
《魔笛》は、なんといってもネトピルの自然に呼吸する指揮がよかった。
二〇二二年十二月に読響に客演したとき、モーツァルトの交響曲第二十五番が絶品で、こんな指揮でモーツァルトのオペラを聴いてみたいと思っていたので、念願がかなって嬉しい。二期会の《コジ・ファン・トゥッテ》とともに、派手な話題性はないが良質なモーツァルト歌劇に、今年は二つ接することができた。
ケントリッジの演出は二〇一八年十月の大野監督就任第一作として初演され、今回が三回目の定評あるもの。タミーノがト書きに「狩人の服」とあるのに合わせて、二十世紀前半の西洋人がアフリカにハンティングに行くときのような扮装をしているのが、この作品に帝国主義的な独善の危険性を読みとろうとする演出によく合っている。
ところで、このト書きの言葉に一七九一年初演時には「日本の」と読める形容詞がついていたことから、これは公家の着る狩衣ではないかといわれてきた。
突拍子のない話だとずっと思っていたが、先日の藝大公演で知ったイエズス会の「日本劇」が、ウィーンでもさかんに上演されていたことを思えば、自然なつながりなのかもしれない。
なお、この日は夜にオペラシティのホールにドイツカンマーフィルが登場し、《ドン・ジョヴァンニ》序曲と《パリ》交響曲を演奏した。《魔笛》に続けて、「勝手に初台モーツァルト音楽祭」の締めにする手もあったが、さすがに原稿を書かないとまずいので断念。
少しディスクの話。イザベル・ファウスト&イル・ジャルディーノ・アルモニコのディスクでは、ロカテッリ作品集を愛聴している。
今回の演奏会では、グルックのバレエ音楽《ドン・ジュアン》もとても楽しかった。そのグルック、厳めしいだけで楽しくないと思っていた歌劇《トーリードのイフィジェニー》への目を開かせてくれたのは、ショヴァン指揮ル・コンセール・ド・ラ・ロージュの全曲盤だった。
また、先日の『ピエタ』の余韻で、ヴィヴァルディの《調和の霊感》のCDを聴き続けている。一九九七年録音、現代の古典的名盤というべきビオンディ&エウローパ・ガランテと、二〇二〇年録音のアレッサンドリーニ&コンチェルト・イタリアーノ。
今の自分には、ヴァイオリン七、計十七人のビオンディ盤よりも、ヴァイオリン四、計十人のアレッサンドリーニ盤の親密さのほうが気分に合う。
演奏が新しいのも魅力だし、バッハ編曲の六曲を挿入しているのも変化が出て楽しい。よく見ると、そのヴァイオリンのトップはイル・ジャルディーノ・アルモニコの来日公演でコンサートマスターをつとめたステファノ・バルネスキ。指揮に合わせて演奏を変えつつ、見事。
十二月十四日(土)ほな、さいなら
国立能楽堂の普及公演。
・狂言『察化(さっか)』松本薫(大蔵流)
・能『通小町(かよいこまち)』豊嶋彌左衞門(金剛流)
自らの恋心をもてあそんだ小町への、深草少将の深い恨みと怒りが、オーラのように全身から揺らぎたつ。
特に印象的だったのは最後。少将も妄執を離れて成仏するのだが、観世流ではシテの少将が手を合わせるときに、ツレの小町も同時に手を合わせていたような記憶がある。ところが今回は、小町はさっさと橋掛りに行ってしまい、舞台上で手を合わせる少将を見ているだけ。
小町にとっては、少将は自らの成仏の障碍だったというだけの、どうでもいい存在なのだ。もう関係ない。金剛流のやり方なのだろうが、とても納得。
十二月十五日(日)薔薇と妹背山
ミューザ川崎でノット指揮東京交響楽団の《ばらの騎士》。上質の公演で、終演後は場内熱狂。この作品を演奏会形式で見るのは初めてなので、その点でも勉強になった。
帰路にアトレの有隣堂に寄り、『結 妹背山婦女庭訓 波模様』を購入。先日ここで購入した『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』の続篇。今度はカバーを臙脂色にしてもらう。早稲田カラーだ(笑)。
十二月十八日(水)第九と平日の青
公演プログラム掲載のルイージのインタビューを担当した、「N響の第九」初日。熱く歌って、壮大ないい第九。
行き帰りは年末恒例の「青の洞窟」。これもすっかり定着。見物人がいつもより少ないと思ったら、平日水曜の夜だからだった。週末以外にNHKホールに来るのは、考えてみればほとんどない。
十二月二十八日(土)年末回顧
「2024年のクラシック音楽を振り返る」。五年ぶりの教室開催も無事、いやぜんぜん時間足りなかったが(笑)、とにかく終わった。おいでくださったみなさま、オンラインで視聴してくださったみなさま、ありがとうございました。
以下は講座内で紹介したもの。
「二〇二四年の印象に残った公演」
・ブルックナー:交響曲第九番(終楽章完成版)
インバル指揮東京都交響楽団
・ヴェルディ:《アッティラ》
ムーティ指揮東京春祭
・モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲全曲演奏会
イザベル・ファウスト(vn)アントニーニ&イル・ジャルディーノ・アルモニコ
「二〇二四年の印象に残ったディスク」
・ブルックナー:交響曲第四番《ロマンティック》
エラス=カサド指揮アニマ・エテルナ・ブリュッヘ(ハルモニア・ムンディ)
・マスカーニ:歌劇《カヴァレリア・ルスティカーナ》(初稿版)
ヘンゲルブロック指揮バルタザール・ノイマン管弦楽団&合唱団(PROSPERO)
・『協奏曲で描くヴィヴァルディの生涯』
ド・スワルテ(vn)、ル・コンソール(ハルモニア・ムンディ)
十二月三十日(月)今年最後の
星乃珈琲の「ブルマン&チョコレートパフェ」からの、井上道義さよなら公演with読響。
レビューは「音楽の友」に書くが、本プロ最後のショスタコーヴィチの祝典序曲のクライマックス、P席&RA席&LA席最上段にずらりと並ぶ各十人、計三十人のプロの金管群によるバンダの輝かしい響きは、二度と聴くことがないかもしれない大迫力だった。終演後に行なわれたパーティで、早速この部分が放映されたが、やはりあの立体的な音響はナマのあの空間の、あの瞬間だけのもの。
それよりも、最後の自ら撃つシンバルの映像に合わせて、パーティ会場の舞台で逆立ちしてみせた井上さんがすごかった(笑。写真撮り忘れた)。
ということで、今年最後のコンサート通いも終わり。
「音楽の友」恒例のコンサートベストテンのために集計した、昨年十二月から今年十一月までに通った公演は、オーケストラ九十九、室内楽&リサイタル七十五、オペラ三十三、ほかに能楽など二十六で、計二百三十三となった。
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