[肺癌3]

[肺癌(肺野型腺癌・高分化型)で手術を受けたが再発した]
[。A期の肺癌(腺癌)で手術を受けたが、化学療法はすべきか?]

[塵肺に併発し肺癌の手術を受けたが痛みが強くなる]

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[肺癌(肺野型腺癌・高分化型)で手術を受けたが再発した]

(相談)1999.1.11
数野先生へ、拝啓、時下益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。はじめてメールさせて頂きます。ホームページで、先生の親身なご相談を拝見し、お忙しいところ申し訳ないと思いましたが、ぜひ御意見をお聞かせ頂きたくメールさせて頂きました。

彼女の父親(現在60歳)なのですが、平成7年に腺癌肺野型(高分化型腺癌)と診断され、平成7年6月に左上葉の一部を切除する手術を実施しました。翌年平成8年に検査を実施したところ、左下葉に少し影があると言われました。平成9年は特に変化はないとの診断でしたが、平成10年12月にCTによる検査で、影が少し大きくなった(7mm程度)と診断されました。このため、担当医師は手術をして患部を摘出した方がよいと言うのですが、年齢のこと、担当医師が言う左肺全摘出を実施した場合は、体力の低下等が心配です。(一番は、執刀して頂いた担当医が退職されたこと、後継の先生が自信を持って治療法を提示して頂けないのが不安なのですが・・・)そこで、上記の内容だけでは不十分だとは思いますし、誠に勝手なお願いだと思いますが、次の点について先生に御意見をお聞かせ頂ければと思います。
1.治療方法について
上記の症状に有効と考えられる治療方法をお教え下さい。
2.手術を実施する場合について
患部を摘出する場合、手術の内容・程度とその場合のリスクについてお教え下さい。
3.方針決定までに本人及び家族が実施すべきこと、考えておくべきことがあれば、アドバイスを頂きたくお願い申しあげます。

新年早々何かとお忙しいとは思いますが、今月の24日迄には方針を決定することになっておりますので、宜しくお願い申しあげます。敬具

(答え)1999.1.11
お答えします。

1.治療方法について「上記の症状に有効と考えられる治療方法をお教え下さい。」
治療をするとすれば、手術です。大きさ7mmの肺の腫瘤に対して、すぐに手術をすべきかかどうかは問題だと思います。手術は癌と証明されてからのことだと思います。もし癌だとすると、当然、初回手術の癌の転移と考えられますので、他にも出てくる可能性がありますので、もう少し経過を見るということも考えられます。
2.手術を実施する場合について「患部を摘出する場合、手術の内容・程度とその場合のリスクについてお教え下さい。」
もし癌であれば手術をしますが、できれば、なるべく小さく取るようにします(転移との場合)。経験の豊富な医師がすれば特に危険な手術ではないと思います。
3.方針決定までに本人及び家族が実施すべきこと、考えておくべきことがあれば、アドバイスを頂きたくお願い申しあげます。

担当医の話に納得されれば、すすめられた治療を受けてください。分からないことは、その場で分かるまで聴くことです。検査で腫瘤が癌かどうかを確かめてからのほうが良いと思います。検査の方法は色々あります。ではまたいつでもメイルをください。

(返礼)1999..1.13
数野先生へ、早速の回答ありがとうございました。担当医と納得するまで、話を聞くように致します。また何かありましたら、相談させていただくと思いますが、宜しくお願い申しあげます。

(相談)1999.1.20
数野先生へ、拝啓、時下益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。先日は丁寧な回答を頂きありがとうございました。お手数をおかけいたしますが、また御意見をお聞かせ下さい。先日頂いた回答に、腫瘤が癌かどうかを確かめる方法が色々あると教えて頂きましたが、具体的にはどんな方法があるのでしょうか?痰は先日提出しましたが、担当医からは、CTで確認する以外には方法はないとのことです。前に癌で手術してといるとはいえ、これだけで本当に腫瘍がガンと判断できるのでしょうか?お手数をおかけいたしますが、御意見をお聞かせ下さい。宜しくお願い致します。敬具

(答え)1999.1.21
お答えします。間接的な検査方法としては、CTやMRI、シンチグラムなどがあります。これらの検査で、癌の疑いがあるかどうかということが、ある程度分かると思います。直接的な検査方法としては、気管支ファイバースコープやCTガイド下の針生検(胸の皮膚から針を刺す)で腫瘍の細胞を取って顕微鏡で調べます。どうしても検査で分からないとか、検査で癌の疑いがあれば、最終的には手術して取るしか方法はありません。ではまたいつでもメイルをください。

(相談)1999.1.26
数野先生へ、拝啓、時下益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。先日は丁寧な回答を頂きありがとうございました。お手数をおかけいたしますが、また御意見をお聞かせ下さい。昨日、本人も含めて家族で担当の外科部長、放射線科医員と話をしてきたようです。話の内容としては、下記の通りです。
 ・左肺の下葉に2.5〜3cmの腫瘍が3〜5カ所ほどある
 ・比較的おとなしい癌である考えていたが、前回施術時に削除した腫瘍の生体検査、過去のレントゲンやCTの検査結果等から、再発性転移癌であり、ほっておけばさらに転移する可能性があり、後2〜3年の余命だと推測する。前回の手術時には見つからなかったが、既に転移があったものと考える。
 ・本音を言えば、現時点で白旗をあげざるを得ない状況ではあるが、もし右肺や他への転移が認められなければ、左肺の患部(最悪は左肺全摘出)すれば、助かる可能性はあるのではと考える。
 ・最終的には本人の意志に従うが、手術するかどうか決めて欲しい。

残念ですが、思った以上に悪い結果でした。そこで質問させて頂きたいのですが、片肺を全摘出した場合、体力の低下等、どのようなリスクを想定しておけば良いのでしょうか?「他に転移が認められない場合」と言われたのですが、前回の手術で見つからなかったのに、も本当に転移がないと言えるような検査方法はあるのでしょうか?手術をしないとした場合、今後の治療方法としてはどのようなものがあるのでしょうか?

数野先生であれば、この状況で本人及び家族に対して、どのようなアドバイスをして頂けますか?最終的には本人が決めることではありますが、周りの私たちもそれなりの情報収集や勉強をし、しっかりと支えてゆきたいと思います。今後支える側の私たちが何をしていけばよいか、アドバイスがあればお教え下さい。お忙しいところ誠に申し訳ありませんが、宜しくお願いいたします。

(答え)1999.1.27
お答えします。残念ながら、大変きびしい状況です。手術の時点ですでに転移していたわけですから、「ほっておけばさらに転移する可能性がある」というよりは、すでに他のところにも当然転移していると考えるのが常識的だと思います。あと1年前後と考えたほうが良いと思います。治せる可能性は奇跡に近いのではないでしょうか。そのような状態で、左肺を全部摘出するような身体に大きな負担がかかり、手術から立ち直れるかどうかというような侵襲の大きい手術をする意味があるかどうか、私には分かりません。「助かる可能性」が「どれくらい」あるのか、良く聴いてみてください。ではまたいつでもメイルをください。

(相談)1999.1.28
数野 先生へ、お忙しい中、いつも私の我侭な質問に、迅速にかつ親身にお応え頂きありがとうございます。先生の回答に、彼女や母親だけでなく、本人も心力強く感じているようです。先生が御指摘頂いたように、不安なことについては担当医に納得ゆくまで聞くようにします。ただ聞くところによる(この点はご容赦下さい)と、担当医は「手術をするかどうかを決めなさい」と言うだけで、手術をした場合の後の処置や手術をしない場合の今後の措置などは、こちらから聞かないといけないのかもしれませんが、話してくれないようです。余計なことですが、「再発した癌の位置は下葉のどのあたりですか?」と聞いても、「下葉は下葉です」というだけで、レントゲン等で位置を示すなどもしてくれないと言います。そのため、ちょっと頼りないというか、信頼しきれていない感じです。そこで、先生もホームページに書かれていますが、私たちとしても、「セカンド・オピニオン」を持ちたいと考えています。しかし、どこへお願いすれば良いのかわかりません。もし御存知でしたら、現在大阪府堺市に住んでおりますので、大阪近辺で良い先生を教えて頂ければと思います。その際、紹介状等はいるのでしょうか?また、現在の担当医が、他に「セカンド・オピニオン」を持つことに対しどのように対応するか不安ですし、それならそっちで今後の処置はしないさいと突き放されてもと考えます。どのようにお話しすれば良いのか、レントゲン等の過去の検査結果も拝借する必要もあると思いますし、話し方等のアドバイスがあればお教え下さい。とりとめもなく、思いつきで質問して申し訳ありませんが、宜しくお願いいたします。

(答え)1999.1.28
お答えします。日本では、まだ「セカンド・オピニオン」について理解を示さない医師が多いと思います。少なくとも現在かかっている病院よりも権威があると思われる病院にしなければいけないでしょう。となると大学病院が無難ではないでしょうか。もちろん担当医に「セカンド・オピニオン」の希望を話して、紹介状とレントゲン写真などの検査データを貸してもらうほうが良いでしょう。受診先の病院の選択を担当医に任せるという方法もあります。そのほうがスムーズに話しが進むかもしれません。

いずれにしても、複数の選択肢を示された場合には、それぞれを選択した場合としなかった場合に予想される結果についての説明をしてもらわないと決められないと思います。それは本来、専門的な知識を必要とする事柄ですので、担当医がある程度自分の意見を述べて患者と家族の決定の助けにするべきです。ある程度、本人と家族の希望や考え方を伝えたうえで、「先生だったら、どうされますか?」とか「先生は、どの治療方法をおすすめになりますか?」というように聴いてみてはどうでしょう。

本当は、患者と家族の当然の権利ですので、分かるまで積極的に話しを聴くべきですが、今度の場合のような対応しかしてくれない医師が多いのが現状です。今の病院や医師にこだわることもないかとも思いますが。ではまたいつでもメイルをください。

(相談)1999.2.5
数野 先生へ、お忙しいところ申し訳ありません。またお教え頂きますようお願い申しあげます。セカンドオピニオン等のこともあり、本人の最終的な結論はまだですが、切除することなくこのままでゆく方向になりつつあります。そこで質問なのですが、切除しない場合、ただ何もせず時間を費やすだけになるのでしょうか?今後実施すべき治療方法は何があるのでしょうか? 何ができるのでしょうか?本人は、手術をした方が無駄でも治療したという意識があること、手術をしない場合は治療をあきらめたというような感じを抱いているようです。御意見をお聞かせ下さい。宜しくお願いいたします。

(答え)1999.2.6
お答えします。「切除しない場合、ただ何もせず時間を費やすだけになるのでしょうか?今後実施すべき治療方法は何があるのでしょうか? 何ができるのでしょうか?本人は、手術をした方が無駄でも治療したという意識があること、手術をしない場合は治療をあきらめたというような感じを抱いているようです。」

まったくごもっともなご質問です。ほとんどの日本人が同じような思いで、最期まで癌との壮絶な闘いをすることになります。残された時間の使い方が分からず、治るという希望が無くなったとき治るという希望以外の希望をもてないことが原因だと思います。日頃から自分の生き方や死に方について考えたことがないからだと思います。生と死について考える機会を与えられたと思って考えてみてください。ご本人については、本人の意志を尊重し、担当医とよく相談して決めてください。残念ながら世界中どこへ行っても、著しい進行癌や末期癌を治す決め手となる方法はありません。自分で治すか奇跡を祈るのみです。

私たち日本人は、神を信じない人が多く、自分しか信じないにもかかわらず、自立もしていないということだと思います。「赤信号みんなで渡れば怖くない」という生き方、「和をもって尊しとなす」という心情、「お上の言うことはご無理ごもっとも」という姿勢。良く言えば調和と協調を大切にする国民性ということになりますが、個性を認めないということにもなります。生き方や死に方に答えやマニュアルはありません。

先日、NHKラジオ「心の時代」で、映画監督・吉川 徹さんが「生と死とは隣り合わせ」という話しをされましたので紹介しておきます。
「幾千のはずれの音はシンフォニー 遥か宇宙の秘めし轟き」、死は宇宙への挑戦であり、人間はターミナルの時期に最も速い速度で成長し、死の間際に昇天力を授かる。「人生は自我像の展覧会」であり、自分を全うし自我を生かすことが他人を生かすことになる。「死の恐怖」にたいしては、救いが無いと絶望する以外に救いは無い。

参考までに6年前に新聞に掲載された私の文章を紹介しておきます。

「自然治癒力」
中国新聞夕刊 1993年6月4日 コラム「でるた]
わたしたち日本人の8割は宗教を聞かれると無宗教と答えるそうだ。しかし、決してそうではなく、またそう答えてはいけない。宗教を持たない人は人間ではない、というのが国際的常識である。
正月には初詣にお宮に行き、クリスマスを祝い、結婚式は神前で葬式は仏式、家には神棚と仏壇がある。本来われわれは多神教なのである。ルーツはアイヌ民族らしい。自然と共に生きた時代の人の宗教とも言える。
八百万(やおよろず)の神を祭り、苦しいときには神頼みをし、それでもだめなら神も仏もないとうそぶく。結局われわれは多神教でありながら人間しか信じない人間主義なのである。どんなことがあっても神を信じる神様主義の人達から見ればきわめて特異な存在なのである。
ところで、最近、新しい医学の一分野として人間本来の自然治癒力を高めてガンでも治してしまおうという方法が注目されている。全人医療(ホリスティック・メディスン)という。
それは決してある特定の薬を飲むとか特定の治療法を受けるということではなく、心の問題であるらしい。どんな病気でも自分で治すのだという信念をもって、人間が本来持っている自然治癒力を高める治療や訓練をして、病気という人生のハードルの一つをうまく飛び越えようという試みである。精神神経免疫学という学問的裏付けもある。

自分で治すという信念と自然治癒力に基づいた治療こそ、人間主義の日本人にとって、病気を克服するための最も適した方法ではないかと思う。

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[。A期の肺癌(腺癌)で手術を受けたが、化学療法はすべきか?]

(相談)1998.12.14
はじめてメールさせていただいきます。先生の親身なご相談を拝見させていただきました。もしも父と似たような例があったら思いメール致しました。ご相談致させていただきます。父が肺腺癌(非小細胞癌)と診断され原発巣(2cm)が右肺下葉にみとめられ、手術し摘出しました。リンパ節転移が縦隔と肺門にあったので、病期としては。A期でした。顕微鏡の結果、組織分類では乳頭型に属し、進行度の性質は「特にはやいもでもないし、遅いものでもなく、標準的なもの」ということで、今のところ骨、脳など他の臓器への転移は認められませんでした。術後は食欲もあり、排便肺尿ともに良好です。(手術前も特に自覚症状はなかったのですが。)ただ、術後一週間たった退院の前日に「左の肺が息を吸うとちょっと痛い感じがする」といっておりました。父と私の間では「右(の下葉)をとったから、反対の左の肺がバランスをとろうとして、負担がかかってるのでは?抜糸に来る時(それから6日後)まで様子をみてみようか」という素人考えになっていたのですが、担当医は「左?(手術して)とったのは右だよ。」と言っていて、特に心配していないようです。父が「何でしょうか?」と聞いたら「わからない」と言っていたそうです。あと、たまに喋りながら軽く咳込むことがあります。これも同じくでてきた術後の症状です。こういうことはよくあることなのでしょうか?心配です。そして、「今後の治療方針としては、抗癌剤が望ましいと思われる」ということでカルボプラチンとビンデシンとの組み合わせの提案をうけました。他にトポテシン、タキソール、シスプラチンという抗癌剤もあるがこちらは副作用が大きいのでおすすめできません、ということです。抗癌剤治療を開始するとなると、来年1月のはじめのほうからになるのですがセカンド、サードオピニオンとして他での意見を考慮の上、本人の希望を含めて治療法を慎重に選択していこうと考えています。しかし、セカンドオピニオンを希望する病院の予約がいっぱいで、1月のおわりか2月のはじめになってしまい、その間の選択をどうしたらいいかも迷っています。(1)1月に1回目の抗癌剤治療を終えたのちの症状を含めてその病院の意見もきいてみる(2)抗癌剤治療の前に意見をきけるさらに他の病院をあたっておく…あせってもしょうがないのですが、やはり抗癌剤には抵抗があります。非小細胞癌は抗癌剤が効きにくいという記述もみられます。カルボプラチンとビンデシンについて、何かご意見をお聞かせ下さい。また治療法の選択に関してもご意見をお聞かせ下さい。また、抗癌剤は摘出した癌細胞に対して「感受性試験」でのある程度の効果をふまえた上で、「でも体の中にある癌細胞には効くか効かないか、やってみないとわからない」ということなのでしょうか? それとも「どんなものでもやってみないとわからない」のでしょうか? そしてその効果のほどは1回の抗癌剤治療後に何らかの数値によって比較することはできるのでしょうか? 癌細胞に効かなかった場合、抗癌剤により抵抗力の落ちた体は、癌にとっては好都合になってしまうと考えていいのでしょうか? 例えば抗癌剤治療を1回だけやるとして、服作用が激しく、しかも効果の有無が判定できないのであれば、やらないほうがいいような気がしています。

担当医は、機能性食品や丸山ワクチンなどについては「止めはしないがご自由に」という姿勢で、「治ったという正確なデータがない」としながらもそれらの代替療法に関しては「よく知らないしお金がかかるだけですよ」といわれました。しかし、こちらの質問には全て先生なりの回答をいただけましたし、セカンドオピニオンにも協力的でデータも出してくれるということです。「即答する必要はないのでゆっくり考えて決めて下さい。抗癌剤はやらないで普通に働いて再発したら治療する、というのも1つの選択だと思いますよ」とも。確かにそれも生き方だとは思いますが、これからの治療にどのように対応してくれるのかは正直、心配になってしまいました。検査、手術、病理の結果、今後の治療法の検討、と短い期間で気持ちの整理、癌についての正確な知識と情報を迫られ、まだ混乱しているところがあります。が、本やホームページで調べているうちに、結局、「本人と家族が望み、本人に一番あっていそうな治療を信頼できる先生の意見を参考にしてやっていく」しかないというように考えました。まとまりなく状況をご報告したようなかたちになってしまいました。お忙しいところ大変申し訳ございませんが、先生のご意見をお聞かせ願えると、大変心強く思います。よろしくお願い致します。

(答え)1998.12.16
遅くなりましたが、お答えします。残念ながら、肺癌は大変予後の悪い(治りにくい)病気です。まず、病気の進行度による5年生存率は、1期:65%ー75%、2期:60%ー70%、3A期:25%ー35%、3B期:10%ー25%、4期:0%ー25%となっています。参考までに、現在日本の医師が最も良く利用する参考書から引用してみます。

肺癌Lung Cancer(新海 哲  国立がんセンター中央病院・生理検査室医長)

c.3A期:T1-3,N2 第一選択の治療法がいまだ確立していない病期である.
 病理学的N2症例は,術後化学療法の対象として臨床試験が行われている.かつてCAP療法(エンドキサン+ブリプラチンまたはランダ+アドリアシン)が有効とされていたが追試試験において否定された.術後化学療法の有効性は不明確である.縦隔鏡N2症例は,手術療法が基本であるが,術前化学療法+放射線療法の臨床試験が行われている.単純胸部X線写真で明らかなN2症例および気管支鏡検査にて気管分岐部が明らかに開大しているN2症例は,癌化学療法と放射線療法の合併療法が第一選択の治療である.シスプラチン(ブリプラチンまたはランダ)を含む併用化学療法(処方例を参照)を2コース施行後に標準的照射法である1日1回2グレイ週5回(60グレイ/30 fractions/6週)の胸部放射線療法が標準的治療である.放射線療法のスケジュール,タイミング,照射方法については,小細胞癌と同様に最適な方法はいまだ明らかではなく臨床試験が行われている.最近,病期3Aに対する術前化学療法と手術療法単独との比較試験の成績が報告されシスプラチンをベースとした術前併用化学療法群で有意に生存期間中央値,無病生存期間の延長がもたらされたと報告されている.しかし,少ない症例数での比較試験であり,術前に縦隔鏡でN2を証明していない,外科療法単独群の成績が悪すぎるなどの問題点があり,標準的治療としていまだ評価されていない.(今日の治療指針1998年版/(c)1998 IGAKU-SHOIN Tokyo)

癌をはじめとして病気の治療方法には、こうしなければいけないというものはなく、色々な治療方法から自分で選ぶことになります。特に進行癌の場合には、まだまだ確立された治療方法というものがありません。どの方法でも治すことは難しいということです。しかし最近、化学療法(抗癌剤治療)の進歩で、治療成績の向上が見られますので、大変つらい治療ですが受けてみる価値はあると思います。3A期の肺非小細胞癌は、手術で治すことも、化学療法や放射線療法で治すことも難しく、これらを色々と組み合わせて治療を試みているというのが現状です。「今後の治療方針としては、抗癌剤が望ましいと思われる」というのが正直なところでしょう。使用する抗癌剤については、副作用が強いものほど効果も強いということになりますが、使用する医師の経験と病院の設備や体制によって決まると思います。「本人の希望を含めて治療法を慎重に選択していく」ことは大切ですが、化学療法や放射線療法は、手術と組み合わせて行うことでより効果が期待できるものですので、普通は手術に引き続いて(最近は手術の前に行う場合もある)行う病院が多いと思います。手術の前に、主治医の頭の中には病期によってその病院で行うべき治療計画はあったはずで、専門医に聴いたところ、先進国の中には、3期の肺癌は手術しない国もあるそうです。ありきたりの回答ですが、今の病院で、今の先生にベストと思われる治療を受けて、自分でもできるだけのことをするということになります。どの方法を選んでも、結果は時間がたたないと分かりません。1年で結果が出る(再発)か、5年たって結果が出る(治癒)かということだと思います。

「癌細胞に対する感受性試験で、抗癌剤を選択する」というのは良い考えだと思いますが、現実は「やってみないとわからない」というのが普通です。「どんなものでもやってみないとわからない」のです。ただ言えることは、どの方法でもある程度効くかも知れないが、治すことは難しいということです。その効果の判定は、現在目に見える癌があるか、高い値を示す腫瘍マーカーがあれば、それを指標にしますが、そのようなものが無い場合には時間がたたないと分かりません。つまり、無いことが良いことだと考えるということになります。抗癌剤により抵抗力の落ちた体は、癌にとっては好都合になります。やらないほうが良いという考え方もあります。

病院での治療以外の方法は、自分で信じられるものがあれば、自分で決めて、自分ですることになります。そうすればある程度の効果はあります。機能性食品や丸山ワクチンなど、どれも同じと考えても良いでしょう。主治医の本音は「抗癌剤はやらないで普通に働いて再発したら治療する、というのも1つの選択だと思いますよ」ということかも知れません。『結局、「本人と家族が望み、本人に一番あっていそうな治療を信頼できる先生の意見を参考にしてやっていく」しかないというように考えました。』その通りだと思います。

「左の肺が息を吸うとちょっと痛い感じがする」という症状は、「左の肺に負担がかかっている」ということで特に心配はないと思います。肺の手術のあとの咳は、術後の症状としてよくあることです。ではまたいつでもメイルをくだっさい。

(相談)1998.12.22
先日、父の肺腺癌のことでご相談したものです。お忙しいところお返事いただきありがとうございました。1人で心配していたので、気持ちの上でも大変助かりました。がんセンターでもはっきりとした治療法が確立されていないんですね。例えば、ステージ分類による比較試験のデータには個人個人の体力や低効力といった数値化しにくいデータは含まれていないのでしょうか。「治す」というのは、癌細胞を完全に体からなくす、ということでしょうか。そして、それは可能なのでしょうか?「抗癌剤の副作用がわかる本/近藤誠著」を読んだので、心配しています。主治医でない先生の日に診察にいくことがありまして、副作用を心配している旨を伝えたところ、「今はほとんどありません。本などには危険なことが書いてありますけど、データが古いということもあります。カルボプラチンとビンデシンの併用は最も多く使われている組み合わせですし、心配ないですよ。」と言われました。前に主治医は一応考えられる副作用を書いてくれましたが、その都度対処(薬による対処)します、と。「データが古い」のもそうなのか?とも思いましたが、同じ病院でも先生によって抗癌剤に対してのニュアンスが微妙に違うのも、また迷うことの原因になってしまいました。ただ、どちらの先生も「効くか効かないかわからないけれど、再発防止のためにやっておく価値はあると思う。しかし、強制はしない。」ということには変わりありません。抗癌剤をやるとすると、このケースを心配しています。癌には効かない、正常な細胞もダメージをうける、だと悪いことづくめになるのではないか、と。自分がどの治療を「信じて」、「かける」かによる、と言うことなのでしょうか…父の場合、術前と術後の腫瘍マーカーの値も、手術中に検査したという胸水の成分にも異常はないということでした。それらが癌細胞の存在を示すひとつの目安であって、絶対的な判断材料じゃないにせよ、少し安心しました。しかし、効果を判定するものがなくなったことにもなるのでまた迷っています。2月の始めに帯津先生の診察を受けてみることにしました。他に肺癌の専門医の意見も聞いてみたいのですが、「この先生の意見をおうかがいしたい」という先生がなかなか見つけられません。主治医のほうからは1月半ばごろには治療法(抗癌剤をやるかどうか)を決めて下さい、といわれております。がんセンターや癌研などはやはり参考になるとお考えですか?

咳はだんだんおさまってきました。手術後に、考えていたより病期が進んでいてIIIAと判明したこと、父にも私にも家族にも癌に関する知識が少なく、突然つきつけられた現実を自分のなかにとりいれていくのは辛いものでした。もちろん今もそうなのですが、父は家に戻ってからのほうが、気持ち的にもかなり落ち着いているようで元気にしているので安心しています。癌について調べていく過程で一喜一憂するのはつきものなのですが、今のところ数値的にも肉眼的にも癌細胞は見当たらないということ、もともと体が悪いところが他にないこと、を「立ち向かう体として決して悪い条件ではない」と考えたいと思います。常に油断はできませんが、家族としてできる最大の治療は気持ちの上での平穏だと思いました。いろんなことを理解した上で、全然深刻にしたくない、というのが理想です。数野先生、またご相談させていただくことがあると思います。気持ちの持ち方や考え方のヒントに大変救われます。まだ、ささいな変化でも何かと心配してしまいます。お時間がございましたらお返事いただけると幸いです。どうかよろしくお願い致します。失礼します。

(答え)1998.12.23
お答えします。
「ステージ分類による比較試験のデータには個人個人の体力や抵抗力といった数値化しにくいデータは含まれていないのでしょうか。」
医師の経験や感触として、ある程度の傾向というものはあるでしょうが、データとしては出てこないと思います。

「治すというのは、癌細胞を完全に体からなくす、ということでしょうか。そして、それは可能なのでしょうか?」不可能ではないですが、それが大変難しいから皆が苦労し、怖い病気と言われるわけです。こうすれば、必ずこうなるというような公式のようなものはありません。一人一人で違います。

どんな薬でも副作用のない薬はありません。そのようなものを薬として使うのは、副作用以上のメリットがあるからです。そして、薬を使うときにはそのようなことを考えたうえで、副作用がでないように、慎重に使います。医師の立場から言えば、癌が再発することと、薬の副作用とどちらが怖いかということを考えて欲しいということになるでしょう。

最近は、治療方法の選択を患者さん側にしてもらう病院が増えています。インフォームドコンセントといって、医師の方は十分説明しましたから、あとはあなたが決めてくださいというもので、治療方法の選択の責任は患者側にあるということです。癌の治療の場合のように、治療の結果が予想しにくく、しかも治療が成功しなかったら、結果は「死」という病気の場合には、医師は特に慎重になります。

結果は時間が経ってみないと分かりません。こちらの方が良いとはだれも言えないのです。自分の命ですから、自分で決めることです。

「がんセンターや癌研などはやはり参考になるとお考えですか?」
肺癌の治療は国立がんセンターの方が専門と思います。参考にはなると思いますが、最後に決めるのは自分です。家族としてできることは、共に悩み、共に苦しみ、共に悲しみ、共に喜ぶことです。ではまたいつでもメイルをください。

(返礼)1998.12.23
数野先生、お答えいただき本当にありがとうございます。たびたびおそれいりますが、再びメールさせていただきます。医師の立場、自分で責任をもって治療方法を選択していくこと、よくわかりました。どの先生もその先生なりの最良の治療方法を提案してくださることには変わりないと思います。なるべく「後でああしておけばよかった(そんな選択肢もあったのか)」とならないようにしたいと思うと(これもきりがなくなってもしょうがないのですが)できる範囲での情報をふまえた上で決めたい、となってしまいます。もちろん父の考えを尊重して決定していきたいのですが、私で調べられる範囲のことが父の気持ちの助けにしていきたい、と思っております。相談するにも知識が少ないところだとどうしてもお互いが「不安なままでの予想」でしかなくなってしまいそうです。「家族としてできることは、共に悩み、共に苦しみ、共に悲しみ、共に喜ぶことです。」という先生のお言葉、その通りだと思いました。癌によって死というものをはじめて真剣に考えることになっています。生きている、生きていく、死ぬということ、人生をどうとらえているのか…「共に悩み、共に苦しみ、共に悲しみ、共に喜ぶこと」は癌であろうと何だろうと、自分の愛する人とともに「こうありたい」と思う共通の想いなのではないでしょうか。入院していた時よりも、家にいる時の父をみていると、安心している感じがよくわかります。癌に関しての本も自分で買ってきて、ようやく自発的に読み始めているところです(入院時は不安でそんな気持ちも起きていないようでした)。

父も私たちも、病気のこと、後の治療のことをより把握するために、国立がんセンターも含めて、専門医の意見をきく病院の検討をしつつそろそろ治療方法を決めていこうと思います。また何かご相談することがあると思います。毎回、丁寧なお返事をいただき大変感謝しております。ありがとうございました。

(返事)1998.12.23
メイルありがとうございました。生と死について考える機会を与えられたと思って、頑張ってください。いずれは、誰にでも訪れる「人生の危機」です。次は、あなたかもしれません。うまく乗り切られることをお祈りいたします。ではまたいつでもメイルをください。

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[塵肺に併発し肺癌の手術を受けたが痛みが強くなる]

(相談)1998.12.7
HP拝見させて頂きました。個人の相談にとっても詳しく判りやすくお答えされていて、頭が下がる思いで見させて頂きました。早速で申し訳ないのですが、私も相談したい事があります。義父の事なのですが、今年3月に肺ガンが発見されました。どこかが具合悪かったとかで受診したのではなく、昔トンネルを掘っていたという事から「塵肺」の認定を受けるようにと昔の仕事仲間から電話があって、その為受診して肺ガンが発見されたのです。発見された時に既に腫瘍自体直径4cm、予後的にもとても悪いという事でした。発見した病院では肺の手術は出来ないという事で、転院してすぐに手術を行いました。左の肺を半分切除、腫瘍はきれいに取りきれず腫瘍にメスを入れて取り除いた為、抗がん剤で洗浄したとの事でした。後の病理検査により浸潤していなかったと説明を受けました。手術後落ちついた頃を見計らって放射線療法を受けました。25回受けて退院をしまいしたがその後も痛みが取れず、半年以上も経つのに未だ鎮痛剤、座薬は欠かせません。担当医に聞いても「一年くらいは痛いよ」と言うばかりで、鎮痛剤がどんどん強くなっていると思われます。今飲んでるもので効果がなかったら次は麻薬だと言われています。今は、朝・晩でソセゴン25mgを1Tづつ(処方箋では2Tになっていますが、本人が胃が痛くなると言って1Tづつ飲んでいます)と、ボルタレン座薬50mgを日に1回と言う感じです。そして、あまりにも痛みが取れないというので本人が精神的に耐えられないと担当医に訴えて、やっとRI、CTと言った検査が始まります。

痛みは主に、左の肩から腕に掛けてと左の鎖骨の辺りです。それと、今日「塵肺」の月に一度の検診の日で胸部X-Pを撮ったのですが、写真と報告書なるものを持たされて帰って参りました。写真は10月に撮ったものと、今日のものが入っていましたが、私の眼からみても明らかに黒い影が映っているのが判ります(直径1cm〜1.5cm、左肺)。報告書は当然封がしてあるので見る事は出来ませんが、転移でしょうか?今の段階で何か判る事がありましたらお教えください。私の方での資料が足りなければご指摘ください、すぐに調べて送りますので。今日の写真を見てから落ち着かず困っております、よろしくお願い致します。

(答え)1998.12.10
遅くなりました。お答えします。残念ながら肺癌は大変予後の悪い病気です。腫瘍がきれいに取りきれなかった、半年以上経つ、ソセゴン(癌の痛みだけに使う)を飲んでる、次は麻薬だとのこと、明らかに黒い影が映っている、などのことからは再発や転移が考えられます。おそらく今後はっきりした腫瘍の存在が分かるようになるのではないでしょうか。

鎮痛剤の使い方も、かなりの知識と経験を必要とします。鎮痛剤だけでは取れない痛みに対しては、ほかの薬(鎮痛補助剤など)を一緒に使うこともあります。麻薬を使えば、必ず痛みが取れるとはかぎりません。もし癌による痛みでなくて、手術の傷の痛みであれば、ペインクリニックで治療を受けることも良いでしょう。いずれにしても、とにかく痛みを取ってもらうことです。ではまたいつでもメイルをください。

(相談)1998.12.15
肺ガンの義父について質問した○○です。返事が遅くなってしまい失礼致しました。10日に「骨シンチ」と「CT」の結果が出たのですが、私達が心配していた再発・転移は全く見られないとの答えでした。私が病院についていけなかったので、胸部X-Pの黒い影がなんだったのか聞いてくる事も出来ず、他の病院から持たされたレントゲン写真に担当医からの返事を持たされて帰ってきました。肺の方も大丈夫、放射線科の方からも放射線療法による痛みではないとの事で、明日整形外科に紹介され(同じ病院内)受診する予定です。再発・転移がないとの事で安心したものの、では、なぜあんなに痛がるのだろう?と言う疑問が残ります。本人曰く「退院した時よりもどんどん悪くなってる」と言います。周りで見ていても左手(手術した側)の痛みは、退院した時にはなかった痛みのように思います。

先生からご指摘頂いた「ペインクリニック」も幸い近くにありますので、整形的にも何も異常がないと言う事になれば、そちらへの受診も考えております。最後にまた質問で申し訳ありませんが、患者がもう既に手術の対象でない場合も家族に内緒にしておくなどと言う事はありますか?何故こんなありもしない事に対して質問するかといいますと、担当医がどうしても信頼出来ないんです。痛みがあって受診日でない日に行くとまるで「何で来たの?」みたいな顔をしますし、痛いと訴えても「手術したから痛いのは当たり前」(我慢できないの?)と言われているような気がしてなりません。本人も「今日は聴診器も当てなかった」「まるで馬鹿にしている」と言って怒りますが、今まで診て頂いた所の方が余計な検査等せずに済むと言う事もあって、病院を変える事が出来ません。(もう少し細かい事まで言いますと、塵肺による労災が適応になっている部分があるので、病院を変えるとその手続きがとても大変と言う事もあります)担当医に家族全員、患者本人も信頼が持てないので、他の病院からの診療情報提供書に対する返事に何が書いてあるかがとても気になり、開けないようにはしていますが、とても気になります。やはり開けてしまってはいけませんよね?くだらない質問で本当に申し訳ありません。今は、痛みを取ってあげられるものなら何でもという感じで、漢方薬、民間療法等、何でも試してみようと思っています。では。

(答え)1998.12.16
お答えします。とりあえず目に見える癌がなかったということは大変良かったと思います。しかし、あくまでも今のところ「目に見える」再発・転移がないということです。整形外科でも異常がなければ、手術後の痛みとしてペインクリニックで、治療してみてください。

「患者がもう既に手術の対象でない場合も家族に内緒にしておくなどと言う事」はないと思いますが、たとえ癌があっても検査では分からないということはよくあります。担当医が手術した医師でないということが、不信の原因かと思います。なにごとも手続きは面倒になっていますが、手続きさえすれば何でもできるということです。病院を変わることもやればできるはずです。診療情報提供書は医師以外の人が読んでも分からないことが多いと思います。病院での治療以外は、自由ですので色々試してみるのも良いでしょう。

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