[医療費を考える]

AIU保険会社世界の医療事情調査を発表:日本は虫垂炎手術で、ホノルルの1/5、 上海の1/4です。
ホノルルでの虫垂炎手術の入院費用は230万円以上。
世界に冠たる国民皆保険制度、でも国民は3重にだまされてインチキ健康保険になって崩壊してきています。
その1:保険を使うときにお金がかかるものがあるでしょうか?→受診抑制のためのインスタントな歯止め=自己負担
その2:診療内容の制限、必要な治療が受けられない→診療抑制のためのインスタントな歯止め=保険適応制限
その3:保険外診療の推進、保険からはずされて自己負担が増加→民間保険の市場拡大、国の責任放棄
「医療改革」といいながら負担増ばかり「改革」という名の医療負担増→高齢社会への不安増大、高齢者と団塊の世代を狙い撃ち

[「薬価」価値に見合った見直しを] 朝日新聞家庭欄「薬の診察室」2002年3月11日
[国民医療費の財源「小泉さん、もうちょっと勉強しないと・・・」] 東京保険医新聞2001年7月15日
[「日本医療の不思議」診療材料の内外価格差] 高田佳輝 広島県医師会速報「編集室」2001年8月25日
[「高い医療器具」日本独特の商習慣が押し上げ] 朝日新聞「ふしぎの国の医療」2000年10月22日
[「止血剤」使うのは効果よりも慣習?] 朝日新聞「ふしぎの国の医療」
[レセプト開示は病院窓口でも] 朝日新聞 論壇 2000年6月30日
[おかしな薬価] 朝日新聞「窓 論説委員室から」1999年8月31日
[技術料を考えてみよう] 東北大学名誉教授 後藤由夫 漢方医学 Vol.23 No.4 1999
[医療費の不正請求をなくせ] 朝日新聞 社説 1997年9月6日
[つくられた医療保険赤字] NHK特集 1997年4月20日
[「生活大国」の医療費とは] 朝日新聞 社説 1992年4月21年
[医療費の「抑制」を見直すとき] 朝日新聞 社説 1991年2月19日

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[「薬価」価値に見合った見直しを]
朝日新聞家庭欄「薬の診察室」2002年3月11日
医と薬を監視するNPO「医薬ビジランスセンター」代表(医師) 浜 六郎

電化製品でも服でも、高価なものは、性能や品質がよくなければだれも納得しない。絶対必要なら少々高くても仕方ないが、同じ性能や品質なら、値も同じであってほしいものだ。薬の値段は性能や品質に見合うものだろうか。時に命にもかかわるものだが、それを自分で判定できる人は少ないだろう。だから、きちんと性能(効果と安全性)を調べ、品質を保証する公の機関が必要となる。薬は、厳格に動物実験や人への臨床試験をし、そのデータを国が詳しく検討した結果、性能が良く、高品質のものには高い薬価がつき、価値の低いものは安くなっている(はずである)。だが、発売前にチェックが有効に働かず、販売開始直後に回収されるものも少なくない。何度か指摘したが、新薬は必ずしも有効安全でなく、評価の定まった既存薬剤の方が安心して使えることが多い。だが、日本では、世界的評価の高い薬剤が"安価なためにかえって敬遠され、評価の定まっていない新薬が、過大評価されて高い価格がつき、よく使われる。

私は94-95年、薬の価値と薬価の仕組みに疑問を持ち調査をした。最近は薬価がやや下がってはいるが、基本的には変わっていないので紹介したい。販売高で上位106品の薬剤を調べたところ同一ブランドを比較すると、日本は平均で英仏の2.5-3倍、米独の1.3-1.5倍だった。どの国も、10年以上たつ薬剤は比較的安価だが、日本の新薬は他国と比べてもやたらと高く、販売1年目の薬剤は、平均で英仏の約4倍にもなった。たとえば、少量のアスピリンは、狭心症の人には心筋梗塞予防に不可欠なものとして定評がある。歴史の古いこの薬は一カ月192円。一方、心筋梗塞予防に、世界的な評価はないのに2万円前後の薬も販売されている。アスピリンの実に100倍。権威ある学者が価値を認め、価格が高いと、医師も市民も患者も価値が高いと思ってしまう。93年調査では、総薬剤費に占める承認9年以内の新薬の比率は、ドイツは10%程度だが、日本はほぼ50%。既存薬を使った場合との差は3兆円。これは無駄遣いと言えるのではないか。健康保険財政が悪化している今、薬の真の価値と連動した薬価を真剣に論議すべきだ。

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[国民医療費の財源「小泉さん、もうちょっと勉強しないと・・・」]
谷山治雄氏(税制経営研究所長)が首相答弁を紙上個別指導
東京保険医新聞2001年7月15日

小泉さんは、厚生大臣を三回もやったから、社会保障に精通の政治家と思っている向きも多い。だが、大間違い。それを、小泉首相の国会答弁がよく物語っている。「給付と負担の公平」を力説するが、「負担」の基礎認識はかなりお粗末。この事実を、谷山治雄先生に紙上で”個別指導”していただいた。先生は、国家財政学が専門で欧米の税制に詳しく、いわば「負担」問題の大家。

小泉首相の国会答弁

「今、日本は社会保障の水準におきましてもサミット先進国に遜色のない水準になってまいりました。しかも、欧米諸国、とくにヨーロッパでは消費税はニケタ以上です。日本は幸いにしてまだ消費税は5%という低い水準であります。その消費税5%の水準で25%のデンマーク、スウェーデンの水準をしてくれというのが国民の要望だと思うのであります。これはなかなか難しい。そこら辺を、給付の裏には負担があるのですよと。日本だって欧米、ヨーロッパみたいに消費税20%にすればいいといったら給付はもっと厚くできますよ。ところが、消費税は5%のままに給付はスウェーデン、デンマーク並みにしてくれという国民の要望にどうやってこたえるのかというのに今政府は苦労している。」(5月22日、参院予算委員会で公明党渡辺孝雄議員の質問に答えて)

小泉首相「いま、日本は社会保障の水準におきましてもサミット先進国に遜色のない水準になってまいりました」

谷山:これは、間違いに近い認識ですね。社会保障の水準を比べるときは、一般に「社会保障給付費の対国民所得比」という数字を使います。この数字を、旧・総理府編「社会保障統計年報」(99年版)で見ましょう。日本が15.2%(97年でも17.8%)に対して、イギリス27.2%、ドイツ33.3%、フランス37.7%、スウェーデン53.4%、アメリカ18.7%です。正しくは、日本の社会保障の水準は、アメリカに近く、ドイツやフランスの半分以下、スウェーデンの三分の一以下、となります。

小泉首相「欧米諸国、とくにヨーロッパでは消費税はニケタ以上です。日本は幸いにしてまだ5%という低い水準であります。その消費税5%の水準でデンマーク、スウェーデンの水準をしてくれというのが国民の要望だと思うのであります」

谷山:これは、国民負担の統計の読み不足です。国民負担のGDP比で読みましょう。日本には「国民負担率」という数字がありますが、日本独特の扱い方で、欧米には同様の数字がありません。そこで、0ECDの統計から谷山が数字を作成しました。「国民負担率」は確かに日本より北欧二国が高い。しかし内訳では、北欧二国とも個人所得課税の割合が一番大きいのがわかります。決して小泉さんの言うように”重い消費税”が中心で担っているのではありません。個人所得税の最高税率は、デンマーク75%、スウェーデン76%、日本50%(所得税に住民税合計)。強い累進性の個人所得税が、北欧の充実した社会保障の基礎を支えています。社会保障負担(保険料)で、デンマークの数字がケタ違いに低い。この国はアングロサクソン系の影響が強く、この系統の国はどの国も社会保障は国家(税)でやるという考えで、保険料負担は少ない。お隣のスウェーデンはゲルマン系、この系統の国は保険でという考えです。小泉さんの「欧米諸国、とくにヨーロッパでは…」というのは、誤認です。アメリカには、連邦消費税(付加価値税)はありません(州段階のはあります)。増税が必要なときに連邦段階でそれを実施しなかったのは、クリントンの英断でもあります。この事は後で触れます。

お粗末な「負担」の認識

小泉首相「日本だって欧米、ヨーロッパみたいに消費税20%にすればいいといったら給付はもっと厚くできますよ」

谷山:自民党の政治では、消費税収入が社会保障にまわる保証はありません。仮に、消費税を増税して社会保障に回すとしても、日本の消費税は逆進性が強いので、一般庶民の負担と苦痛は耐え難いものになります。もしもアメリカでこんな政治をやったら、暴動が起きてしまうでしょう。

ヨーロッパの消費税
日本の消費税

私は講演でよく「イギリスでは、消費税の標準税率は17.5%ですが、国民は消費税の負担なしで一年間は暮らせる」と話すと、みなさんにびっくりされます。そのタネあかしをしましょう。イギリスでは、食料品・新聞・書籍・子供の服・旅行運賃・医薬品・住宅などに、消費税のゼロ税率が適用され消費税がかからないからです。消費税の標準税率が25%のスウェーデンも、ゼロ税率や軽減税率があり、イギリスとよく似ています。かつてのイタリアのは面白く、消費税率に九段階あって、ピザなら1%、ダイヤモンドは38%と、ぜいたく税の趣があります。日本の消費税は標準税率5%ですが、ゼロ税率も軽減税率もなく、子供の鉛筆や消しゴムにまで何から何までかける消費税。庶民に過酷です。全消費支出にかかる消費税の割合を見ると、日本九割、イギリス・スウェーデン六割、イタリア五割です。

国家財政支出

アメリカの成功日本の失敗
国防費と公共事業費

アメリカの国防費は、1998年度には、92年度に比べてGDP比で35%も減っています。軍事費の肩代わりを他国に押しつけるのがうまいこともありますが、いわゆる「平和の配当」でしょう。日本の公共投資のGDP比は一貫して、アメリカの国防費のGDP比より高い。国防費と公共事業費を同列に論ずるわけにはいきませんが、国家財政収支の赤字原因への対応が、両国の明暗を分けているのはまぎれもない事実です。日本の公共事業費を最低でも三分の一渡らすことは、もはや論争の段階を越えた国家財政収支からの必須の要請でしょう。

所得税と消費税
両国の政策の違い

所得課税での税率引き下げは、高額所得者に有利に作用するが、減税によって増加した所得は消費にではなく主に貯蓄に向かう。一方、逆進性の強い消費課税の税率引き上げが、消費を抑制・減少させる。この現象を疑う者はいません。この点、アメリカが所得課税の累進性を強め、連邦段階での消費税(付加価値税)の採用を「頑として」拒否したのは、民主党政権の賢明な政治の選択だったといえるでしょう。共和党政権がどうでるかは、まだ定かではありません。

***

聖域なき改革を叫ぶのであれば、国家・地方財政の基本的構造に手を付けないと駄目です。その際、欧米先進諸国の税制のあり方が、大きな参考になるでしょう。(東京歯科保険医新聞7月1日号から転載)

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日本医療の不思議
-診療材料の内外価格差-
高田佳輝 広島県医師会速報「編集室」2001年8月25日

日本の医療には常識で考えると不思議なことがいろいろあります。毎日新聞七月十日号に載った記事をご紹介しましょう。大阪府立中河内救命救急センターの岸本正文医師の医療材料の価格に関する調査結果で、そこには私自身が日頃感じていた「なぜ日本の医療材料はこうも高いのだ」という疑問そのものがみごとに数字で表されていました。岸本医師は日本でも一般的によく使われている骨折手術用のチタン製の髄内釘について調査されています。それによると大腿骨用の釘は米国では56000円、ドイツで41000円、韓国で58000円で販売されているそうです。同じく脛骨用の価格は米国で75000円、ドイツで33000円、韓国で58000円だったとのことです。ちなみに日本での価格はいくらだと思われますか?なんと日本ではどちらも400000円というのが正解です。ゼロの数を間違えているのではありません。この価格差について岸本医師が業者に問い合わせをしたところ、四社のうち三社は回答を拒否されだそうです。まあ、業者にとっては答えにくい質問だったとは思います。それでも良心的(?)な一社が回答してくれたそうですが、それによると価格差の理由は@輸入品であることA中間業者が存在することB種々のサイズを取りそろえておくため業者が大量の製品を在庫しておく必要があることなどが挙げられたそうです。しかし、日本と同じくメーカー国でない韓国においての販売価格を見れば、これが正当な理由になっていないことは自明です。

日本の保険制度では、ふつう診療材料については必要個数までは購入価格での保険請求が認められているため、直接病院側の損にはならない仕組みになっている関係で、たとえ価格が不当に高いと思っても、医師や病院から問題提起されにくいシステムになっています。実際には病院の収入にはつながっていなくても材料費で治療費が高騰し、その結果厳しい審査を招き、結局のところ損失につながっている可能性がありますし、現場で働いているものとしてもっと頭に来るのは、何年もかかって会得した手術技量や診断技量への評価(診療点数)を、これちの診療材料費が軽々と凌駕していることで、自分たちは診療機器メーカーのために手術をしているのかという錯覚に陥ってしまうことです。いやこれは錯覚ではなくてれっきとした事実なのです。目に見える損がないことからこの不当ともいえる流通価格に関しての改善案はあまり表だって論議されていないようですが、これが今の医療費高騰の少なくとも一部を形成していることは間違いありません。現在、医療費を削減しようと包括医療の導入や高齢者医療保険の改革が検討されていますが、なぜかこの分野にはメスがふるわれていないように思います。輸出国である米国へ気を遣っているのか、それとも業者からの強力なロビーがあるのか、邪推もしたくなりますが、日本医師会としてもこの問題についてもっと大きな声を挙げるべきではないでしょうか。

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[「高い医療器具」日本独特の商習慣が押し上げ]
朝日新聞「ふしぎの国の医療」(54)2000年10月22日

欧米と比べ、日本は医療器具の価格がずは抜けて高い。理由は様々だ。主な器具は製品ごとに保険で支払われる公定価格が決まっている。薬価と同様の仕組みで、安く買うほど病院に入る利ざやが大きい。そもそも、厚生省が決める公定価格そのものが高すぎる。心臓ペースメーカーの平均価格は、日本が米国の約2.5倍(1996年通産省)、1.7倍(97年公正取引委員会)と報告されている。ある病院が調べた日米欧の病院の購入価格リストを先日、チラッと見せてもらった。ペースメーカーの日本の公定価格を100とすると、米国9二九、欧州6。つまり日本で2百万円の製品が米国で58万円、欧州は12万円ということになる。使い捨ての治療用PTCAカテーテルだと米国25、欧州5、人工心肺は米国56、欧州25前後といった具合だ。日本の購入価格は病院ごとのはらつきが大きい。ペースメーカーは90前後から80で、中には70以下もある。70で購入している病院の場合、2百万円の製品一個で60万円の差益が入る。

日本の公定価格が高く設定された背景には、米国政府の圧力もある。米国の医療機器業界の窓口である在日米国商工会議所医療機器小委員会は「医療機器は医療費全体の13%に過きず、従来の治療に比べてむしろ医療費を節約している」と強調したうえで、「日本の商習慣で高くなっている」と説明する。日本では多くの病院がペースメーカー植え込み手術をするが、一病院当たりの数は米国の八分の一しかない。販売・流通コストがかかるうえ、取引量も少なく、技術的な支援が必要で、業者は手術や操作、検査などのための機器や人手を常時提供している。厚生省の認可が遅く、日本向けだけに旧型を供給することも多い。関係者によると、このほか病院や医師への謝礼、販売担当者への歩合給なども大きい。「欧米にはない費用がかかるのは分かりますが、同じ製品がアジア各国でも格安で売られているのを見ると、日本の保険財政が食い荒らされている感じがします。でも、厚生省も医療界も真剣に対応しているように見えません」と、この問題にくわしい医師は嘆いていた。(編集委員・田辺功)

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[「止血剤」使うのは効果よりも慣習?]
ふしぎの国の医療(10)朝日新聞日曜版

手術後の点滴には、抗生物質のほかに「止血剤」も入っていることが多い。うまく血が止まらない場合の予防として、血管壁を丈夫にするカルバゾクロム剤と、血液凝固系に働くトラネキサム酸剤がセットでよく使われる。しばしばビタミンKも加わる。外科手術ばかりか、組織をとって調べる内科の生検でも使われる。「私は特別な理由がない根り、止血剤は使うなと指導しています」と、田村和夫・福岡大学医学部教授(内科)。1970年代に5年間研修をした米国では、「外科手術はきちんと縫い、止血剤は使わないのが常識で、カルバゾクロム剤そのものがなかった。以前は田村さんも、肝臓組織を腹腔鏡でとって調べる肝生検時には、必ずカルバゾクロム剤とビタミンKを点滴していた。米国では止血剤を使わず、約百人に肝生検をしたが、とくに出血で困ったことはなかった。また、田村さんが、前にいた公立病院の外科には、力ルバゾクロム剤を必ず使う医師と、あまり使わない医師ががたが、手術後の出血量や再出血の頻度でとくに差はなかった。

手術後の血液は、実は固まりやすくなっている。欧米では血液の塊が肺の血管を詰まらせ、死亡の危険もある肺塞栓症、足や腹部の血管を詰まらせる深部静脈血栓症が問題になっている。その予防のため、手足を動かして血液の流れをよくするうえ、血液を固まりにくくする薬ヘパリンを使う。止血剤が肺塞栓症などを増やすとの証明もないが、日本の治療が、欧米とまるっきり逆方向を向いているのは確かだ。抗生物質や止血剤がなぜ安易に使われるのか。「臨床試験で効果が確かめられていない薬を、医師は先輩から教えられた通り使っているだけ。本当に必要かどうかなど考えない。保険もちゃんと支払ってくれる。抗生物質は何といっても病院の大収入源だから」と、ある外科系の医師。カルバゾクロム剤は国内の売り上げが年百億円規模で、病院の収入源というほどではないが、四千億円を超す抗生物質は経営を左右する。有名病院の外科が、手術後6日間使っていた抗生物質を三日間にしたら、かえって感染や合併症が減り、検査も減って科の医療費が25%も減った、という。(編集委員・田辺功)

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[レセプト開示は病院窓口でも]
医療情報の公開・開示を求める市民の会事務局長 勝村久司
朝日新聞 論壇 2000年6月30日

現在、国民医療費は歯止めなく膨張し、健康保険組合など保険者の財政はまさに危機的状況だ。しかし、医療費の中身には不明瞭な部分が非常に多い。病院窓口で自己負担分を支払う際に受け取る領収書には、投薬料、検査料などの小計が記されているのみで、何という薬をどれだけ使ったか、単価はいくらかなどの詳細を知ることはできない。明細を記した診療報酬請求明細書(レセプト)は、医療機関がら直接、健保組合などの保険者に送られるが、厚生省は長い間、これを患者には見せないよう指導していた。一般社会では、明細のない請求に対して簡単にお金を支払わない。ところが医療においては、すべての国民が明細を知らないまま支払い続けて来たのである。医療被害者たちの声に押された厚生省が、患者本人の請求があればレセプトを開示するよう全国の保険者に通達してから三年になる。しかし、その後も医療費の中身を明朗にしていく努力を厚生省は怠ったままだ。

窓口での自己負担分の払い過ぎが月に一万円以上ある場合は、本人に通知されることになっている。ところが、昨年、それを約半数の保険者が実施していないことが発覚した。しかも、今もほとんど改善されていない。行政による監査で、医療機関が過剰に受け取ったお金を保険者に返還させる際には、患者に自己負担分も返すことになった。しかし、監査と同様の個別指導で保険者に返還させる場合、患者本人への返還は一切なされていない。また、「レセプトでは単価が二百五円以下の薬剤については数量がいくらであっでも明細を記さなくてもよい」とするいい加減なルールが不正請求の温床になっているという専門家の指摘を何度も受けていながら、厚生省は放置したままである。

健康保険証はクレジットカードと同じである。クレジットカードで支払いをする際には、必ず商品名、単価や数量などの明細を確認してサインをする。そして、その写しが手渡される。同じように、医療機関の窓口で自己負担分を支払う際にも、レセプト相当の明細書を患者が確認の上サインし、その写しも手渡すシステムを作るべきだ。情報公開の時代には、専門家に任せてしまわず、市民一人ひとりが確認する制度が望ましい。現状でも、レセプトは第三者の専門家が審査していることになっているが、国民すべてのレセプトをチェックすることは物理的に不可能だし、第三者が架空や水増し請求を見つけだすことは論理的に不可能だ。厚生省が集めた専門家がいくつもの審議会などで何度も医療保険制度の改革を論じたが、医師会や製薬企業などの利害調整に終始し、抜本改革はできなかった。市民に情報を与えず専門家の密室の決定を下ろしていくやり方をいくら繰り返しても、本当に必要な改革はできない。

利害を代表する専門家が決めてきた「医療の価値観」を示す医療単価(診療報酬)が、消費者(患者)のニーズとどれほど隔たりがあるかを明細書の提示で明らかにし、消費者自身が健全な医療保険制度の確立に向けた議論に参加できるシステムを作ることが、唯一、抜本改革の実現につながる道ではないか。医療費を請求する医療機関には、患者に明細を提示する義務がある。その前提があれば、必然的に、日常の診療において、カルテを間にはさんだ真のインフォームド・コンセントが実現するだろう。電算化の進んだ国立病院では、窓口での自己負担分の計算時に、既に医療費の詳細は打ち込まれている。プログラムを少し変更するだけでレセプト相当の明細書が簡単に発行できるはずだ。電話会社が料金請求の際に行っているように、どの程度の明細を希望するかを消費者に聞き、ニーズに合わせた明細書を発行することも可能だろう。保険料や自己負担分の増額を強行する国には、医療費を透明化・健全化する責任がある。国立病院が率先して窓口での明細提示を進めていくべきではないか。=投稿

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[おかしな薬価]
朝日新聞「窓 論説委員室から」1999年8月31日

「こんなことが許されてよいのでしょうか。開いた口がふさがりません」知り合いの岐阜県の病院長から、医療保険で使う薬の価格について、なるほどひどいと思う事例を教えてもらった。医療保険で使える薬は、価格やどの病気の治療に使えるかを厚相が決めて告示している。病院長の話はこうだ。白血病などの抗がん剤で、関節リウマチの治療にも効き目がある薬がある。これまで抗がん剤としては認められていたが、関節リウマチの治療に使うことは認められていなかった。一錠(二・五ミリグラム)の保険薬価は五十三円十銭だった。この夏から、保険で関節リウマチの治療にも使うことが認められた。ところが、同じ薬が錠剤からカプセルに変わり、一カプセル(ニミリグラム)四百四十九円十銭の薬価を厚生省から認められて、売り出された。「内容量が減量されて、価格は八・五倍。厚生省と製薬会社が結託して、まさに薬九層倍」と病院長は憤る。

厚生省の担当課長は、「確かにおかしい。しかし現行の薬価決定のルールを当てはめるとこうなってしまう」という。薬価の決め方には、類似薬効比較方式と原価計算方式がある。類似薬効方式は、すでに似た薬効の薬がある場合、先行薬の価格を参考に決める。実際のコストに関係なく、先行薬が高い薬価なら、あとから出てくる薬も高くなる。おかしい、と指摘されて久しい。まったく新しい効能の薬は、製薬会社の提示する原価計算を判断材料に決定される。この方法も、製薬会社の言い値が通ってしまうと批判されている。保険財政が苦しいからと、医療費を抑え、患者負担を引き上げてまで国民に負担増を強いているのに、こんなことがまだ改善されていない。〈丘〉

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[技術料を考えてみよう]
東北大学名誉教授 後藤由夫
漢方医学●巻頭言 Vol.23 No.4 1999

■後藤由夫先生(ごとう よしお)1948年、東北大学医学部卒業。68年弘前大学医学部内科教授、76年東北大学医学部内科教授。88年東北大学名誉教授、東北厚生年金病院院長を経て、94年同名誉院長。専門は糖尿病の成因、合併症、診断法、治療。日本内科学会会頭などを歴任。現在、日本臨床内科医会会長、日本糖尿病協会理事長。近著に『医学と医療総括と展望』(文光堂、99年)がある。

この頃気になることがいくつかあるが、その一つは診療報酬体系がこれでよいかということである。マスコミは、「日本の医師は余分な薬まで処方しているから欧米先進諸国に比べて、薬剤費の医療費に占める比率が高い」という趣旨の記事を流している。実態は技術料が桁外れに安いので薬剤費の比率が高くなっているだけの話である。医療費は毎年約一兆円ずつ増加している。「日本は医療費がかかりすぎているのではないか」という疑問を持たせるような記事が多い。しかし実際は国民総生産に占める医療費の割合では、日本は世界で第19位である。国際的にみると、少ない金で世界一の長寿を保ち、最低の乳児死亡率を維持している。その秘密は何かと言えば、医療従事者の奉仕の心、使命感を当然のこととして成り立っている低報酬にある。この低報酬の根源は健康保険制度設立のいきさつにある。

わが国の健康保険は貧民保険(1889)、労働者保護(1926)という考えから、当時年収、1200円以下の小額所得労働者本人だけそ対象とした政管健保から始まった。労働者が病気をしたら早く治して働かせ生産をあげるのが事業主の思惑であったから、家族は入れなかった。しかも医師会の協定料金よりもかなり低額で医師会が請負わされて発足した。十年経過したら死亡率が低下し有益とわかったので国民健康保険も発足し、紆余曲折を経て今日に至るわけである。この間に点数操作や単価値上げの話はされても、医療の本質ともいうべき技術料については本格的論議はされることがなかった。標準より低額で発足したため、先進諸国からみると超格安の初診料、再診料、手術料が現在もまかり通っている。虫垂炎切除術74,000円、胃全摘術276,000円といり現行料金に対し、外保連は手術者、協力者の人件費、間接経費、技術度などを根拠にして前者は197,930円、後者は857,840円と先進国並みの料金を提示している。

医療が高度化され、より費用がかかるようになるが、高額の先端医療を保険適用すれば健保財政が破綻するので適用されない。混合診療が認められないから、命が助かるには全額私費か民間医療保険になり、今後は民間保険の普及しかない。現在の保険制度を維持しながらその欠陥を補完するのはさして難しいことではない。勇気がいるだけのことである。

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「医療費の不正請求をなくせ」
1997年9月6日 朝日新聞社説

今月から、病院や医院の窓口で支払う患者負担が上がった。薬代の一部負担も新たに加わった。「それにしても、患者ばかりが財政赤字のツケを払わされるのはおかしい」と感じている人は多い。今回の改正のように、医療費が増え続ける構造をそのままにして、目の前の財政赤字を患者負担の引き上げで埋めても、数年後には再び医療保険は赤字となる。保険料や患者負担の引き上げが操り返されるだけだろう。医療費がむだに膨らみ続ける構造にメスを入れなければ、ほんとうの制度改革にはならない。なかでも許せないのは、医療費の不正請求だ。厚生省は、病院などへの立ち入り調査をする監査の見直しや、診療報酬明細書(レセプト)の審査体制の強化に、本腰を入れて取り組んでもらいたい。

不正請求は方法も金額もさまざまだ。大阪府の安田病院グループは、看護婦の数などをごまかして、院長らが起訴されただけでも、数千万円の診療報酬をだまし取る、病院ぐるみの大がかりな不正をしていた。当の高齢者が8月に亡くなっているのに、9月になっても通院治療の医療費を請求していた医院の例もある。不正請求をチェックするには、二つの方法がある。一つは監査だ。安田病院グループの場合は都道府県の係官が立ち入り調査をして、保険医療機関の指定を取り消した。ただ、この事件のように刑事罰に相当する不正が明らかな場合には、指導をせずに直ちに監査することもできるが、通常はまず指導をして、それでも改まらない場合に監査をするとされている。このような手順は、1959年に監査を受けた保険医二人が相次いで自殺したことから、厚生省と医師会の間で見直し協議があり、決められた。しかし、問題があれぱ直ちに監査に入れるように、制度を見直す必要がある。もう一つの方法は、医療機関に医療費を支払う前に行われるレセプト審査だ。各都道府県の支払基金や国保連合会で審査されているが、全国で月に6千万枚ものレセプトが出てくるから、あらかじめ問題のある医療機関をチェックして重点的に審査する方法がとられている。レセプト審査を早く機械化し、基本的なチェックは機械に任せ、人による専門的な審査をもっと効率的で目の行き届いたものにすべきだ。脱税に重加算税がかけられるように、不正請求にも経済的な罰則を設けることを検討してはどうか。今年夏からレセプト開示が行われ、患者本人が見られるようになったことは、不正請求の歯止めに大きな力になるだろう。負担増によって、患者がレセプトを点倹し、おかしな点を追及することが多くなれぱ、不正請求はもっと少なくなるはずだ。

不正請求を多くの医師や医療機関が日常的にしているわけではない。しかし、一部であれ、不正請求が繰り返されれば、医師と患者の信頼関係は損なわれる。日本医師会会長だった故武見太郎氏は在職時代、「不正請求は医療への国民の信頼を失わせる」として、「故意に不正請求をした場合は医師会を除名する」処置をとるよう都道府県医師会に指示した。身内に厳しい姿勢を、改めて医師会に求めたい。

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つくられた医療保険赤字
NHK特集を見て国民医療費の国庫負担率について考えたこと
ドクターちゃびん 1997年4月20日 

1997年4月20日夜、"NHKスペシャル「日本再建・医療保険改革(2)医療費をどう抑制するのか」医の倫理とコスト"という番組が放映された。医療保険財政の危機を理由に医療費の抑制をテーマとした2回シリーズの後半であった。この番組は、医療費高騰の原因とされる「老人医療費」「出来高制」「薬剤費」を取り上げ、「老人の保険料負担」「定額制」「薬価の上限規制」などを検討したものだった。

番組は日本の医療保険財政が底をついていることを前提にしているが、その根本的原因である国の医療・福祉(社会保障)に対する方針の転換や、国庫負担率の低下、さらに日本の国民医療費の国際比較などは全く問題として取り上げられなかった。わずかに日本の国民医療費がアメリカの半額であることと、国庫負担率が30%強であることを述べていた。ところが、国庫負担率30.6%という数字は1983年の数字であり、国庫負担率はこの年をピークに低下し続け、1996年では23.5%と7.1%(約2兆円)も削減されている。さらに支払うべき国庫負担金のうち約1兆円を「繰り延べ」と称して滞納しており、国の負担金を本来の姿にもどすだけで、患者の自己負担の増額などは全く必要無い。マスコミの報道は正確性に欠け、意図的に世論を操ろうとしているように思える。一つ一つ検証しなければならない。

日本の医療費は諸外国と比較しても決して高くはない。「いつでも」「どこでも」「だれでも」少ない医療費で治療を受けることができる日本の国民皆保険制度は、世界に誇るべき制度である。日本の医療が、いかに貧しいかは病気療養のために入院してみるとよく分かることであり、その最大の犠牲者は病院や施設のお世話になっているご老人達である。「枯れ木に水をやるな」と言った国務大臣がいたが、最近の老人病院の状況を見ていると「命の尊厳」などということとは全く無縁の世界であり、医師だけでなく家族までもが「無駄な医療はしない」というマインドコントロールを受けているようである。命を大切にしない国になってしまった。それでも我々医師の仕事はやはり「命を守る」ことであると確信している。

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「生活大国」の医療費とは
朝日新聞 1992年4月21年 社説

「今年度の国民医療費は、前年より1兆5千億円増え、23兆千7百億円になる見通し。これは82年以来の高い伸び率」と厚生省が発表した。他方、医療費が値上げされたばかりだというのに、全国公私病院連盟は「病院経営は年々苦しくなる一方」といっている。いったい、日本の医療費は高すぎるのか安すぎるのか。とまどってしまう。宮沢首相は「真に先進国家と誇れるようなずっしりと手ごたえのある生活大国づくりをすすめていきたい」と約束した。この約束にふさわしい医療を実現するにはどのくらいの医療費が必要なのか。いまや説得力ある試算をして国民に提示すべきときだ。「赤字で苦しい」と嘆いている医療関係者も、経理をガラス張りにして国民に判断の材料を示してほしい。

日本の医療費水準について参考になる統計が経済協力開発機構(OECD)から発表されている。その一つに、自己負担を含めた医療費支出が国民総生産(GNP)に占める割合を国際比較したものがある。それによると、米国11%、スウェーデン9%などに対し、日本は7%。この日本の医療費の中には、福祉サービスが乏しいため病院を下宿や福祉施設代わりに使わざるをえないための費用が合まれており、実質の医療費は、他の先進諸国に比べてかなり低い水準にあるといえる。そのしわは、とくに医療のかなめである看護婦などスタッフによせられてくる。ベッドあたりの日本の看護婦の数は先進諸国の二分の一から四分の一。夜勤が一カ月に8回なら良い方、といった海外では例のない過酷な労働である。看護婦、看護士を志望する若者は多いのに、短期間で職場を去っていく人が絶えない。歯科でも深刻な間題が起きている。入れ歯などを加工する歯科技工士は彫金などの仕事に転職している。歯そうのうろうや虫歯の予防に欠かせない歯科衛生士も志望者が滅っている。

日本の医療の貧しさは、「人」を粗末にしているところにある。先進国型の医療への挑戦も現れている。聖路加国際病院が近く完成させる新病院は、小児科などごく一部を除いてトイレ、シャワーつきの個室。520室のうち5割は健保だけで入れる差額なしの部屋だ。看護婦の数も先進諸国に近い。個室は、プライバシーが保たれるだけでなく、院内感染を防ぎやすい、早く離床できる、医療スタッフや家族と密接に按触できるといった医学上の利点も数多い。北欧や西欧では差額ベッド料などは必要なく病院も赤字の心配をする必要がない。この新病院は医学界の長老で80歳になる日野原重明氏の信念と実力でやっと実現した。現状では大赤字のこのような病院の水準が、平均的になるべきだ。

香川医大病院に、患者の身になった病院のあり方を求め続けた名物院長がいた。その恩地裕さんが自身の死の近いことを悟って録音テープにこんな遺言を残した。「医療はその国の文化の表れです。病院をみると日本の文化は本当に貧しいなあと思います」財政再建を至上命令としてきた大蔵省は、医療費の中の公費負担を抑え込むことに努めてきた。その結果、日本と並んで、租税と社会保険料の低い米国でさえGNPに対する公的負担医療費の割合は4.7%。日本はその三分の一である。「生活大国」を掲げる以上、医療と医療費のありかたも根本から改めてほしい。

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医療費の「抑制」を見直すとき
1991年2月19日 朝日新聞社説

数字は怖い。表現の方法、分析の仕方によって印象がまるで違ってしまう。国民医療費に関する数字もそうだ。何と比較して伝えられるかによって、人々の判断は大きく変わる。たとえば厚生省は、この数字を読む「ポイント」を四項目の個条書きにして、記者発表用資科に示した。「平成3年(1991年)度の国民医療費は21兆7千億円と見込まれ、年間増加額は1兆円を超えている」「2年度の年間増加額は、やはり1兆円を越えている」「元年度は9千億円増となっている」ふつうの人が読めば、「日本の未来が医療費に押しつぷされるのではないか」と恐ろしくなってしまうだろう。四項目に「国民医療費の伸びは、昭和63年以降、国民所得の伸びの範囲にとどまるものと見込まれる」とあるのをみて、「やれやれ、よかった」と安心するかもしれない。

同じ数字を諸外国の医療費や他の経済指標と比較すると、たとえば、こうなる。「日本人一人当りの国民医療費は、先進国水準よりはるかに低い。OECD加盟国で日本より低いのは、ポルトガルスペイン、トルコといった国々である」「昭和63年度の国民医療費の伸びは3.8%、国民所得の伸びは6.3%だった。以来4年、医療費の伸びは国民所得の伸びを下回っている。平成元年のレジャー産業の市場は63兆円で前年比8.1%増、建設投資は73兆円で9.8%増」厚生省は、こうした比較を避けてきた。「豊かになった日本で医療費の伸びだけをなぜ抑えなけれはならないのだろう」と人々が疑問を抱くのを恐れたのだろうか。

薬価差益をあてにした点滴や不勉強による過剰処方、医学的には必要のない長期入院、水増し請求・・・。こんなことで医療費が増えることはごめんだ。しかし、それを制裁するという大義名分で医療費全体を抑制してきた結果、たとえぱ看護婦さんたちの労働条件は、日本の他の職場でもめったにない過酷で、しかも報酬の少ないものになってしまった。それが、患者の病気の回復を損ね、安らぎを奪うという本末転倒の結果を招いている。「国民医療費の伸び」を国民所得の伸び」以下に抑えるという政府の目標は、中身を見直す時期がきていると思われる。

<ドクターちゃびんのコメント>
主要先進国中では最低の日本の医療費(右のグラフ、2007年 中国新聞) →
国民一人当りの医療費は対GNP比ではOECD加盟国中第19位

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