[医学教育・卒後教育・生涯教育]

[「医師の言葉」患者を傷つける暴言も] 朝日新聞「ふしぎの国の医療」2000年12月3日
[「研修医」生活保障のない薄給が慣習] 朝日新聞「ふしぎの国の医療」2000年10月1日
[「大学勤務医」使命感だけが過重勤務支え] 朝日新聞「くらし」欄 2000年4月27日

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[「医師の言葉」患者を傷つける暴言も]
朝日新聞「ふしぎの国の医療」(60)2000年12月3日

医師の言葉に傷つく患者は少なくない。医療事故が訴訟に発展する原因の一つは、誠意のない医師の態度や言葉だ。医療消費者ネットワーク・メコン(東京)が昨春開いた勉強会で、信じられないような医師の暴言が報告された。脳こうそく患者のコンピューター断層撮影(CT)を撮らなかった理由の説明を求めた家族に医師は「CTはただじゃない。おれは気が短いんだ」「助けるんじゃなかった。放っておけばよかった。放っておけば患者は即死だ」と怒ったという。一般から募集した短文集「言いたくても言えなかったひとこと・医療編」(1997年、ライフ企画)にも、非常識な医師の言葉がいくつも並ぶ。「あと一年の命」だった患者が十年後に来院したら「まだ生きていたのか」▽脳しゅようの娘に「吐くな。吐くのは甘え、わがまま」▽膠原病の患者に「がんは死刑、膠原病は終身刑」・・・。

「人間関係の基本ができていない医師が少なくありません」と、メコン代表世話人の清水とよ子さ、ん。病気の時は、だれもが気が弱く、傷つきやすくなりがち。ごく普通の言葉でも落ち込む。名前ではなく「おばあちゃん」「おじいちゃん」と呼はれるのを嫌がり、病院を変える人も多い。子どもをあやすような看護婦の言葉遣いも評判が悪い。欧米の医師は、診察前にきちんとあいさつし、初めての患者には簡単な自己紹介をする。富山医科薬科大学で「医療面接」も担当する斎藤清二・助教授(内科〉は、医学生にそう教え始めてから、外来で自然に名乗れるまで二、三年かかったという。「会ってあいさつするという当然のことができなかったのは医師と患者が対等の人間関係でなかったからです」

厚生省が来年の医師国家試験からコミュニケーション能力を重視することもあり、医学部では「医療面接」の授業が増えている。富山医薬大では医学、看護、薬学科一年生合同の医療学入門で最初に体験する。五回の授業で、あいさつ、言葉遣い、上手な質問の仕方や話し方などを学ぶ。私が訪ねた日は「相手の話をまとめる」。.三人一組で、聞き役、話し役を交代しながら「こういうことですね」と要約する。こうした経験もないまま、一人前になってしまった医師にはだれが教えるのだろう。(編集委員・田辺功)

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[「研修医」生活保障のない薄給が慣習]
ふしぎの国の医療(51)朝日新聞 2000年10月1日

大学を出て医師免許を取っても「一人前の医師」とはいえない。多くは大学病院の医局で、一部は外部の病院で、研修医として働きながら診療技術を磨く。就職すればふつう、見習い期間も月給は出る。看護婦の初任給は二、三十万円、裁判官や弁護士の卵の司法修習生も二十万円以上の手当がある。ところが、研修医は一部を除くと、生活できるほどの月給をもらっていない。私立医科大学は平均六万円程度、中には二、三万円台もある。国立大学や国立病院は日給制で月に十九万円ほど。親のすねをかじるか、寝る時間を削ってアルバイトするか。医療界に続く不思議な慣習だ。

「三十四歳で助手になり、初めて国家公務員としてボーナスをもらいました。『お医者さま』とおだてられ、外の社会を知らないまま安くこき使われ、社会的にもおかしな存在でした」と、ある国立大学教官は振り返る。「研修」の内容も大学や病院任せで、医師の基本的な診療能力がばらつく一因だ。改善をめざす厚生省は、2004年度から「二年間の臨床研修」を義務づける法案を今国会に出す。「研修内容の充実、研修後のきちんとした評価、それに研修医の生活保障が重要です」と、日本医学教育学会副会長の斎藤宣彦・聖マリアンナ医科大学教授(内科)は要望する。

黒川清・東海大学医学部長(内科)は、臨床研修の義務化を「医療の質を高める好機」とみて様々な提言をしている。例えば、出身大学医局での研修は「二割まで」と制限する。米国のように大学・病院側と研修希望者が条件を出してコンピューターで配分する。一つの病院でいろんな大学出身者が交じって研修すれば大学の壁は小さくなり、競い合って研修も医学教育も向上する。研修二年目の四カ月を全国に約千カ所ある無医地区での研修にあてれば無医地区はなくなる……。研修を受け入れる大学や病院に給料の一部や経費として厚生省が補助している予算は年に約四十億円。義務化で約一万六千人の研修医の二年間の生活を保障することになれば千億円近くに増えるが、黒川さんは「銀行救済に何兆円もつぎ込む時代、『他流試合』を広め、いい医師をつくる費用。国民は納得してくれるはず」と話す。(編集委員・田辺功)

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[「大学勤務医」使命感だけが過重勤務支え]
「募る医療不信」医者だって悩んでいる
朝日新聞「くらし」欄 2000年4月27日

医療現場の忙しさが、医師や看護婦の注意力を低下させ、ミスを招くという指摘が少なくなかった。ミスは許されないが、医師の仕事の実態を知ってほしいという声だ。生活のためのアルバイトも含めて、84時間は連続勤務をしているという大学病院の医師からのEメールは、患者の医療不信の投書が相次いでいることについて、こう記していた。

「朝の二時、三時ころ、一生懸命患者さんの救急診察にあたっている医師のほとんどが、ただ働きをしているなんて、知っていましたか?わたしの去年の年収がわずか三百万円であることをみんな知っているのですか?そんな生活の中で、病気で困っている人の役に立ちたいという、己の信念だけに基づいて明日もがんばる医師がほとんどだということを、理解しているのですか?」続けて、「この労働環境」を、そのままパイロットやバス、タクシー、電車などの運転手さんにあてはめてみるがよい。医療ミスがいかに少ないか、認識されるでしょう」と激しい調子で書いている。

小児科医である夫を支える妻からも「医療事故を、医療従事者が今のままの体制で防止するのは難しいのではないでしょうか?」という意見が届いた。救急患者が出たり、入院患者の容体が悪くなったりすると、夜昼なく働きづめになる夫の体を気遣い、「まじめに仕事をしている医師が過労死にならないよう、世の中の人にも理解していただきたいです」と訴えていた。

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