[新しい医療]

[「膵がんの痛みを緩和」承認の新薬(ジェムザ−ル)延命効果も] 中国新聞「くらし」2001年4月22日
[「癌転移・再発」微小転移の発見や鑑別診断を可能にするPET] Nikkei Medical 2000年3月号
[ガンマ・ナイフ]<新しい治療法の適応>CLINICIAN '00 No.494

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[「膵がんの痛みを緩和」承認の新薬(ジェムザ−ル)延命効果も]
中国新聞「くらし」2001年4月22日

治りにくいがんの一つである膵臓がんに対し、新しいタイプの抗がん剤「ジェムザール」が四月から登場した。これまでの抗がん剤による化学療法は、主にがん組織を縮小させる効果で評価されてきた。しかし、強い痛みを伴うことが多い膵がんでは、縮小効果は弱くても症状が緩和されれば、患者の生活の質(QOL)が高まる。ジェムザールは、厚生労働省が症状緩和効果に基づいて承認した、初の抗がん剤となる。膵がんは、早い段階では特徴的な症状がなく、胃や十二指腸など多くの臓器に囲まれているため、早期発見が難しい。治療法にも決め手がないのが現状だ。

がんがあまリ進行しておらず、手術が可能な場合の五年生存率が10%台、手術ができずに放射線療法や化学療法だけを行う場合はさらに低い。国内の死者数は約1万8千6百人(1999年)で、肺、胃、大腸、肝臓に次ぐ。

ジェムザールはDNA合成を妨げる作用がある。米国で96年に膵がん治療薬として承認され、厚生労働省が同年、審査期間を短縮する「希少疾病用医薬品」に指定。日本イーライリリー社が国内の臨床試験を経て昨年、同省に申請し、約一年の異例の短期間で承認された。国内の臨床試験では、痛みの緩和とともに、従来の抗がん剤と比べて数カ月の延命効果も確認された。国立がんセンター中央病院の岡田周市内科医長は「患者のQOL改善に重点を置いた新薬で大きな意義.がある」と評価。今後、手術後の補助療法としての投与の効果について、新たに臨床試験を進める計画だ。

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[「癌転移・再発」微小転移の発見や鑑別診断を可能にするPET]
Nikkei Medical 2000年3月号

細胞の機能変化を画像としてとらえるPETは,癌の早期発見に威力を発揮する。小さな転移の診断や術後の局所再発の鑑別にも役立つ。PETの導入により,無駄な検査や手術が省かれ、医療費削減にもつながることが期待されている。

「CTやMRIが病変の形態を見るのに対し、PETは細胞の糖代謝を測定できるので、増殖能力の強弱がわかる。このため、小さな病変でも悪性度の推定が可能だ」と国立長寿医療研究センター生体機能研究部長の伊藤健吾氏は話す。PET(陽電子断層撮影装置)は、陽電子を放出する放射線同位元素で標識した薬剤を体内に投与し、その陽電子が組織周囲の電子と結合して消滅する際に出るガンマ線を力メラで撮影する装置だ。癌細胞は増殖が激しく、正常細胞より糖代謝が活発なため、多くのブドウ糖を必要とする。そこで、PETによる癌の検査では、18F(フッ素一18)で標識したブドウ糖類似物質のFDG(2-fluoro-2-deoxyglocose)という薬剤を使う。18F-FDGを患者に投与し、その分布を測定すれば、18F-FDGは癌細胞に多く集積するので、病変の良悪性の判別や位置が確認できるというわけだ。

1回の検査で5mmの転移も発見
PETを用いれば、1回のスキャンで全身の癌のスクリーニングができる。18F-FDGを患者の静脈に5-10mCi(ミリキュリー)注射し、40-60分経ってFDGが全身に行き渡ったところで断層撮影を開始する。検査時間は約30分ほど。わずか直径5mmほどの癌も検出するため、早期発見・早期治療が可能になるだけでなく、CTやMRIでは捉えきれない小さなリンパ節転移も見つけられる。「PETでは、特にリンパ節転移の有無が正確に評価できる。癌のステージングの決定に役立つため、適切な治療法を選択できる」と福井医大島エネルギー医学研究センター長の米倉義晴氏は話す。例えば、CTで肺癌が発見されたある74歳男性の場合、原発巣以外の全身の癌の転移の有無については、明確に判断できなかった。ところが全身PET検査では、肺の原発巣のほか、頚部や縦隔に複数、小さなリンパ節転移巣の存在が明らかに認められた(写真1)。一方、伊藤氏によれば、転移だけでなく、CTなどでは見分けにくい大腸癌の局所再発の発見などにもPETは役に立つ。ある直腸癌患者の例では、術後のフォローアップで、CTにより肺の転移巣が認められたが、手術局所については、癌の再発か、手術の疲痕なのかはわからなかった。しかしPETでは、癌の局所再発と、肺以外に肝臓や腹膜にも転移癌の存在が確認された(写真2)。

無駄な手術を省いて医療経済効果も
大腸癌の場合、術後再発率は30-40%で、その多くが術後2-3年以内に発生するという。しかし、腫瘍マーカーの血中CEA(癌胎児抗原)値は、再発に対する感度が低い。またCEA値が高値を示すのに、CTやMRIでは、再発や小さな転移を発見できないことも少なくない。「このような場合、全身PETが極めて有用だ」と伊藤氏は強調する。日本アイソトープ協会医学薬学部会サイクロトロン核医学利用専門委員会は、大腸癌の局所再発の診断におけるFDG-PET検査の有用性を調べるため、アンケート調査を行った。名古屋大、千葉大など全国6施設から集まった104症例を検討した結果、PETの検査感度・特異度・正診率は97.5%、91.7%、96.2%で、高い診断能を示した。もっとも日本では,FDGPETへの保険適用はまだ認められていない。PETは、同位元素をつくるサイクロトロンなど付帯設備も含めて極めて高額なため、1人当たりの検査コストが非常に高い。国内では現在、大学病院など約30カ所、約40台のPETが稼働中だが、主に研究目的などに使われている。しかし、「PETの導入による医療経済効果を検討したところ、大腸癌の再発例では無駄な根治手術を半減させ、日本全体で年間約66億円の医療費の節約が期待できるという結果が得られた」と伊藤氏は話す。また、PETの医療経済効果について研究が進んでいる米国では、既に97年から、PETに対し肺結節影の鑑別診断と肺癌のステージ診断に保険の適用が認められているという。

こうした中、今年9月ごろ東京都板橋区に、PET5台を備えた世界でも有数の機能診断専門施設として、「西台クリニック画像診断センター」(院長は元千葉大放射線医学助教授の宇野公一氏)がオープンする予定だ。全米には約60カ所のPETセンターがあり、共同利用システムが確立している。西台クリニック画像診断センターも、高額医療機器を集めることでスケールメリットによるコストダウンを図り、病気の予防や治療などの臨床現場でPETを活用、早期発見・早期治療への対応を目指すという。

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<新しい治療法の適応>CLINICIAN '00 No.494
[ガンマ・ナイフ]
山本昌昭(勝田病院・水戸ガンマハウス・脳神経外科部長、東京女子医科大学第二病院・助教授:脳神経外科学)

はじめにガンマ・ナイフはスウェーデンの故レクセル教授により考案されたもので、正式な名称はガンマ・ユニットである。本来は放射線治療機器であるが、手術の如く切れ味が鋭いことから、長らくガンマ・メスまたはガンマ・ナイフと呼び慣わされてきている。現在では、用語としてガンマ・ナイフが学術雑誌でも広く使われている。ガンマ・ナイフは、半球状に配列された201個のコバルト線源から発するガンマ線ビームが、半球の中心に焦点をつくるように設計されている。丁度太陽光線を凸レンズで集光すると、焦点部で強い熱利得られるのと同様に、一本いっぽんのガンマ線ビームはきわめて弱いものであるが、焦点部で強い放射線効果が得られることになる。そして、焦点から少し離れると、放射線の線量が急速に減弱するため、周辺の正常脳組織への放射線被曝を最小限に抑えつつ、患部には十分な放射線を短時間であてることができる。治療の実際まず患者の頭部に、レクセル定位的脳手術のフレームを4本のピンで固定する。この操作は、12ー3歳以上で協力が得られる患者であれば、局所麻酔下で行われる。照射計画は疾患により、CT,MRI、脳血管撮影のどれか、あるいはいくつかが組み合わされて行われる。これらから得られた画像情報は、治療計画用のコンピューターに送られ、照射計画が行われる。その照射計画に基き、実際の照射が行われるが、患者の頭部はガンマ・ナイフ本体のコリメーター・ヘルメットに固定され照射される。照射時間は線源の経過年数によるが、新しければ一カ所に対して通常5ー10分であるが、病巣の大きさや形態により少しずつポイントを動かして数カ所ー10数カ所に照射する。フレームを装着して全てのプロセスを終了するまでの時間は、通常3ー4時間である。欧米では外来で治療している施設も多いが、わが国では2泊3日の入院で行うのが一般的である。治療そのものの危険性はきわめて低く、苦痛もほとんどないため、治療翌日からは通常の生活に戻れる。もちろん、剃毛の必要はなく、また治療後に頭髪が広範に脱落することもない。

治療対象対象疾患としては、現在どの施設でも転移性脳腫瘍の頻度が最も高く、30ー50%を占めるようになってきている。筆者は20個以上(ときに50ー100個)の多発性脳転移も積極的に治療しており、良好な結果を得ている。余談であるが、江藤淳氏の夫人の闘病生活に関して、「脳に転移し、それが7個もあり、一つが延髄のそばにあるためガンマ・ナイフでも治療できない」というような記載があった。小生は正確な病状を知る立場にはないが、その当時でも数だけからいえば、7個であれば、例えいくつかが脳幹部にあろうと、苦もなく治療できた時代であった。夫人の運命を決定的に変えるほどのことができたかは別として、もしガンマ・ナイフで治療していれば、夫人の病状と、その後の氏の衝撃的な自殺とに、幾ばくかの変化があったのではないかと思われてしょうがない。その他の脳腫瘍では、髄膜腫、聴神経腫瘍、下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫などの良性腫瘍もよい適応となる。しかし、グリオーマや悪性リンパ腫など、病巣の境界がはっきりしないものでは、他の治療法の補助療法として利用される程度である。腫瘍性疾患以外では、脳動静脈奇形胡よい適応となる。なおガンマ・ナイフでは、病巣の大きさに絶対的な制約があり、最大長径が3cm以下であることが望ましい。ただ3.5ー4cmぐらいまでは、病巣の形状と位置によっては治療可能である。これ以上のものは、例えば腫瘍であれば手術により、脳動静脈奇形なら血管内治療により、あらかじめ小さくしてからガンマ・ナイフで治療される。

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