[政治屋]

[国民にはそっけなく、対米公約には面目をかける福田首相] 朝日新聞「天声人語」2007年12月18日
異常の人=不正を擁護する安倍晋三首相とおそまつな閣僚:アメリカの属国の政治屋たち
[松岡氏自殺 疑惑も晴らさぬままに]
 朝日新聞 社説 2007年5月29日
[政治の深い闇、晴らせ] 朝日新聞2007年5月29日
[任命責任 揺れる政権] 朝日新聞2007年5月29日
[政治とカネ 踏みにじられた倫理綱領] 朝日新聞 社説 2007年(平成19年)5月24日
[政治資金規正法 改正案は抜け穴だらけ] 中国新聞 社説 2007年(平成19年)5月10日
[首相と靖国 抜け出せぬジレンマ] 朝日新聞 社説 2007年(平成19年)5月9日
[靖国神社に供物 総理大臣名で私人とは] 中国新聞 社説 2007年5月9日
[時評2007慰安婦決議が問う安倍首相の「保守」] 中西 寛 中央公論 2007年4月25日
[「従軍慰安婦」発言で露呈した安倍内閣の情報選別能力] 田原 総一朗 2007年4月11日
[松岡農水相問題 首相がかばう理由 小幅内閣改造「成功例なし」] 産経新聞 2007年3月13 日

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国民にはそっけなく、対米公約には面目をかける福田首相
朝日新聞 「天声人語」 2007年12月18日

福田内閣の発足の際、書体になぞらえて「楷書の首相」と小欄で評した。人臭さや迫力に乏しいが、端然としてまじめな印象があったからだ。以来3カ月、その見立てが、あやしくなってきた▼点や画をおろそかにしない書き方が楷書である。だが年金問題への対応は、点画が崩れっぱなしだ。あげくに「公約違反と言うはど大げさなものかどうか」ととぼけて、大方の失望と怒りを買うことになった▼そのそっけなさと裏腹に、給油を再開する新法への入れ込みは、並ではない。国会は再延長されて越年に。年が明ければ、衆院での再議決という"伝家の宝刀"のさやを払い、参院の反対を一刀両断に封じる構えである▼新法は「対米公約」の位置づけだそうだ。年金と違って、こちらの約束には政治家の面目がかかるとみえる。軽く見られた国民の憤りでもあろう、週末の共同通信と日本経済新聞の世論調査で、内閣支持率は急落した。不支持の方が上回って、楷書の筆は細りつつある▼中国、唐代の顔真卿は、独特の楷書をあみ出した名書家で知られる。その書は「点は墜石の如く、画は夏雲の如く」と評されたと、作家の井上靖さんが書いていた。点は、天から落ちてきた石のように安定して揺るがず、一画一画が悠々と、美しい▼大胆に点画を略す草書体は、首相の持ち昧ではあるまい。国民が望むのは、政権のキーワード「自立と共生」「希望と安心」を実現していく、ていねいな筆遣いだろう。名書家のように悠々と美しくなくても、構いませんから。

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[松岡氏自殺 疑惑も晴らさぬままに] 朝日新聞 社説 2007年5月29日

松岡剰勝農水相が自殺した。現職閣僚の自殺は戦後初めてのことである。衝撃は政治の世界だけにとどまらない。なぜ、こんな形での死を選んだのか。多くの国民が驚いていることだろう。事情はまだよく分からない。それにしても、閣僚を辞任したり、議員を退いたりするなど、ほかの道はなかったのか。何らかの理由で追いつめられた心境にあったのだろうが、残念というほかない。
昨秋の安倍内閣の発足で、松岡氏は念願の初入閣を果たした。農水省の職員出身で、農林族議員の有力者としても知られていた。だが、入閣の直後から政治資金をめぐる疑惑が突きつけられてきた。ひとつは、政治資金の使途についての疑惑だ。収支報告書に数千万円もの事務所費や光熱水費を計上したのに、その使途をまったく説明できなかった。先週の衆院予算委員会の集中審議でも、野党側から改めて追及されたが、「法律に定められた通り処理している」などと繰り返すばかりだった。
もうひとつは、林野行政に深く絡む緑資源機構の官製談合事件に関連するものだ。同機構の仕事を受注していた企業や公益法人などから多額の政治献金を受けていたことが明らかになった。先週、東京地検が強制捜査に乗り出し、同機構の幹部らが逮捕された。松岡氏の地元である熊本県でも、関連の出先機関が捜査対象になっている。国会での追及に対し、所管大臣として「おわび」は表明しつつも、献金については「個人的な形で頂いたものはすでに返した」と言い、不明朗な関係はなかったと強調していた。
これらの疑惑が自殺にどう影響したのか、松岡氏の心の内は定かではない。ただ、もし何らかの関係があったとすれば、なぜ事実を明らかにし、非があるならそれを認めて出直そうとはしなかったのだろうか。死者にムチ打つつもりはないが、それが国会議員として、また閣僚としてふさわしい責任の取り方だった。
安倍首相への打撃も大きいだろう。内閣の閣僚が、理由はともあれ自殺にまで追い込まれたのだ。首相は任命責任を認めているものの、それは決して形式だけのものではないはずだ。松岡氏には、以前から政治資金をめぐる疑惑が報じられていた。それをあえて閣僚に起用したのは、自民党総裁選での論功行賞ではとの見方が強かった。その後、スキャンダルが噴出しても、首相はかばい続けた。昨年末の佐田行革担当相の辞任に続く閣僚更迭となれば、政権への打撃が大きすぎるとの思惑もあったのではないか。政治とカネの問題で、国民の不信は高まっている。それに正面から応えるのが政治家としての、そして首相としての王道である。政治は改めて襟をただす必要がある。

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[政治の深い闇、晴らせ] 朝日新聞2007年5月29日
編集委員 星浩

疑惑の渦中の閣僚が自ら命を絶った。前代未聞の事件である。松岡農水相には、事務所経費の不透明な支出に加え、林道工事の談合関連団体からの献金など多くの疑惑が指揃されてきた。政策論議でも、派閥活動でも、強気で鳴らしてきた農林族議員である。国会での野党の追及にも脱明を拒み続けてきた。その松岡氏が追いつめられたところに、政治とカネをめぐる深い闇がのぞく。戦後最年少の首相が率いる安倍政権は「清新さ」を売り物にして「美しい国」づくりをめざすという。それと松岡氏をめぐる闇との落差は、あまりにも夫きい。安倍首相が、政治とカネの問題に政権の命運を賭けて取り組まない限り、多くの自民党政権と同じように闇を払うことはできないだろう。

松岡氏の疑惑に対して首相は2度、判断ミスを犯した。まず、電気代も水道代もかからないはずの議員会館の事務所に巨額の光熟水費がかかったという収支報告を黙認した。虚偽の疑いがあるのに、その解明は棚上げして、政治資金規正法の改正にすり替えた。しかも、その改正案が抜け穴だらけなのである。林道の官製談合問題では、中央省庁-外郭団体-公益法人-関連企業に族議員が絡むという典型的な癒着の構造が浮き彫りになつた。新人材バンクを設けるといった程度の公務員制度改革で解決する問題ではない。松岡氏への献金も公表しつつ政官業の不明朗な関係にメスを入れるきっかけにもできたのだが、首相は決断を下さなかった。

首相が終始、松岡氏をかばい続けてきたことが疑惑解明を阻んできたのである。「疑惑は承知の上で、農業改革は農林族にしかできないと判断したためだ」(自民党執行部の一人)という。首相はその判断の責任を明確にしなければならない。憲法改正をはじめ「安倍カラー」を前面に出して政権浮揚を進めていたさなか、公的年金記録の消失問題が政権を直撃。頼みの内閣支持率が下落に転じ、政権の体力がそがれている。そうした中で、首相は自民党内に低抗の強い疑惑解明などに踏み込めるのだろうか。与野党の一大決戦となる参院選が迫る。安倍首相が政治の闇を払えないのなら、有権者が安倍自民党への「ノー」という意思表示で闇を晴らすことになるだろう。

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[任命責任 揺れる政権] 朝日新聞2007年5月29日
かばい続け、深い傷
 年金間題に追い打ち

「政治とカネ」をめぐる疑惑の渦中にいた松岡農林水産相の自殺は、安倍政権にとって強烈な打撃だ。与党幹部も「痛撃だ」と悲痛な声を上げ、野党は松岡氏をかばい続けた首相の任命責任追及に拍車をかける。「消えた年金記録」問題で痛手を負い、さらに追い打ちをかけられた政権を立て直す方策はあるのか。安定軌道に入ったかに見えた政権の足もとは、一転してぐらつき始めた。
首相は、衝撃の大きさを隠しきれない様子だった。28日、首相官邸。松岡氏の自殺について、首相は記者団に「慙愧にたえない」と繰り返した。本来の意昧は「恥じいること」。誤用にきづかないほど、首相官邸は動揺していたようだ。
昼の記者会見で、記者の質問で情報に初めて接した自民党の石原伸晃幹事長代理は、目をむいて「エッ」と絶旬。中川秀直幹事長も「ひとつの衝撃だ」と語った。
もともと、松岡氏が自殺する前から、首相官邸や与党は危機感に満ちていた。杜会保険庁改革法案の採決にからんで注目された「宙に浮いた年金」問題が反発を浴び、内閣支持率が急落。その情報が流れた日曜日の27日、首相は中川幹事長に電話をかけ、救済策の議員立法を前倒しして今国会に提出するよう、急きょ指示したほどだ。中川昭一政調会長は「松岡さんのショックな情報と杜保庁のおそまつな話と、ダブルで落ち込みやすい状況が続きますな」と記者団に漏らした。
ただ、松岡氏の自殺のダメージはより重い。光熱水費問題などの疑惑が取りざたされた松岡氏を、首相は一貫してかばい続けたからだ。緑資源機構の理事らが逮捕された24日も、首相は「攻めの農政を進めるうえでも、私は必要な人材だと判断している」と述べたぱかりだった。「やましいことがなければ自殺しない。その松岡さんを首相がかばってきたこと、それがまずい」と党執行部の一人は事態の重さを解説する。

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[政治とカネ 踏みにじられた倫理綱領]
朝日新聞 社説 2007年(平成19年)5月24日

「われわれは、政治倫理に反する事実があるとの疑惑をもたれた揚合には、みずから真摯な態度をもって疑惑を解明し、その責任を明らかにするよう努めなければならない」国会で議決された政治倫理綱領の一節である。田中元首相が有罪判決を受けたロッキード事件を受けて、85年につくられた。政治への国民の信頼を取り戻すため、倫理問題をめぐる政治家の説明責任を明確にした。国会規則と同様の拘束力を持つとされている。当時、松岡農水相と安倍首相はまだ国会議員になっていない。だからこの規定は知らぬ、とはいかない。
衆院予算委員会で政治資金問題に関する集中審議が行われた。最大の焦点は松岡氏の「ナントカ還元水」疑惑だった。家賃も電気代もタダの議員会館に事務所を置きながら、なぜ数千万円もの事務所費や光熱水費を政治資金の収支報告書に計上したのか。野党の質問に対し、松岡氏は「法律に定められた通り処理している」と言い続けた。そんな松岡氏を、ひたすら首相がかばったのもこれまで通りだった。民主党の岡田克也元代表に「首相は松岡氏が説明責任を果たしていると思うか」と何度も迫られたが、「法律の求めに従って説明を果たしたと私は理解している」と繰り返すばかりだった。こうした熊度は、明らかに政治倫理綱領を踏みにじるものだ。
集中審議で首相は、民主党の小沢代表の秘書寮の建設費問題を指摘した。国民の疑惑を招いているのは松岡氏だけじゃない、と言いたかったようだ。だが、少なくとも小沢氏は自ら進んで関係書類や領収書を記者団に公開し、説明責任を果たそうとした。なお疑問が残るというのなら、さらに追及すればいい。ただ、小沢氏は政治倫理綱領の精神に沿って行動したとはいえる。松岡氏の態度とはそこが大きく違うのだ。首相は、資金管理団体の1件5万円以上の経常経費について領収書の添付を義務づけるよう、今国会で政治資金規正法を改正すると強調し、こう述べた。「これからやるべきことは指摘、批判にこたえて法律を整えていくことだ。それが責任の果たし方なのではないか」
首相はまだ問題の核心が分かっていないようだ。「やるべきこと」は最初からはっきりしているではないか。松岡氏の首に縄をつけてでもきちんと説明させることなのだ。国民が望んでいるのは、松岡氏の事務所費や光熱水費がまっとうな内容だったのかどうかの説明だ。そこをほおかぶりしたまま、法律を改正しますというのは問題のすりかえである。「ざる法」と呼ばれる規正法の改正は必要だ。だが、たとえ法改正が実現したとしても、国民への説明責任から逃げ続け、国会の政治倫理綱領を踏みにじった事実は消えない。

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[政治資金規正法 改正案は抜け穴だらけ]
中国新聞 社説 2007年(平成19年)5月10日

領収書添付を義務づけるかどうか与党内で協議が続いていた政治資金規正法の改正案は、自民党が公明党案をのむ形でまとまった。ところが中身は抜け穴だらけ。しかもこの国会に提案しても成立は難しいとみられる。これでは一体何のための改正案だろうか。
ポイントは@これまで領収書が不要だった経常経費(事務所費や光熱水費など)のうち、一件五万円以上について領収書添付を義務づけるA政治家の資金管理団体のみを対象にする―の二点だ。しかし一見しただけで、大きな抜け穴が分かる。
五万円以上の支出があっても、領収書をそれ以下の小口に切り分けてしまえばどうだろう。その気になれば、いくらでも細工ができそうだ。議員は、資金管理団体だけでなく政治団体も持てる。高額の支出をこちらの経常経費に付け替えてしまえば、チェツクを免れることができる。透明化を図ろうとする意欲はまるで見えない。本気でやるなら、「政治団体もすべて」「一円から」としなければなるまい。光熱水費がただの議員会館にいながら五年間で二千八百八十万円の経費を計上していた―そんな松岡利勝農相の資金管理団体の支出の不明朗ぶりに世論が怒ったのが一月はじめだった。それから四カ月。やっと与党が出した結論がこの中身のなさである。
しかも議員立法による同法改正は与野党の合意意によるという慣例があり、「領収書は一万円超から」などと主張している民主党が反対すれば、この国会での成立は危ぶまれる。とすればこれは「政治とカネ」に取り組んでいるポーズをとるためだったのか、とさえ思えてくる。松岡氏の「開き直り」も、同じ根っこにつながるようだ。三月の参院予算委員会では「公表の基準を決めてくれれば率先して答える」と、これまでの支出の詳細を明らかにする姿勢を見せていた。ところがこの八日になると、法案ではそうするようになっていない、と過去のことにふたをし続ける態度に戻った。塩崎恭久宮房長官も、それを容認した。
しかしこのままでは国民は納得できない。政治への不信も強まるばかりだ。各党は、参院選を意識した政略という次元を超えて、より実効性のある改正案を練り直し、松岡氏の言い逃れを許さぬ方途を探ることはできないか。

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[首相と靖国 抜け出せぬジレンマ]
朝日新聞 社説 2007年(平成19年)5月9日

靖国神社の春季例大祭で、安倍首相が神前にささげる供え物を出していた。「真榊(まさかき)」と呼ばれるサカキの鉢植えだ。「内閣総理大臣」という木札が付けられていた。首相の奉納は中曽根元首相以来約20年ぶりのことである。政府は、首相のポケットマネーで払い、私人としての事柄だから、「コメントすべきことではない」(塩崎官房長官)という立揚だ。首相の肩書で、神事に使う供え物を奉納し、神杜側も「お気持ちを示されたのだと思う。ありがたい」と歓迎している。これが「私人としての事柄」とは、なんとも奇妙な話である。政教分離の原則から疑問があるのはもちろんのこと、忘れてならないのは靖国神社の性格だ。
靖国神杜は、隣国を侵略し、植民地化した戦前の軍国主義のシンボルだ。その歴史はいまもなお神杜内の戦争博物館「遊就館」で正当化されている。さらに、先の大戦の責任を負うべき東条英機元首相らA級戦犯を合祀したことで、天皇の参拝も75年を最後に止まり、首相の参拝をめぐって国論も分裂した。首相名で供え物を奉納することが政治色を帯びないわけがない。そのことは首相もわかっているだろう。本当は参拝したいが、中国や韓国との外交問題になるので控えている。一方で、参拝しないままでは本来の支持層である参拝推進派に見限られてしまう。せめて供え物ぐらいはしておきたいということではないか。こうしたどっちつかずの態度をとるのは、いまに始まったことではない。昨年の春季例大祭のころは、自民党総裁選を前に、靖国神杜参拝が争点になっていた。当時小泉内閣の官房長官だった安倍氏は「外交問題化している中、行くか行かないか、参拝したかしないかについても言うつもりはない」と述べた。その実、ひそかに靖国神杜に参拝していたのだ。
安倍首相は就任直後に中韓両国を訪問し、両国との関係を劇的に改善した。その後、靖国神杜に参拝していない。首相は慰安婦問題でも、日本の責任をあいまいにする発言をして国際杜会から批判されると、訪米時にブッシュ大統領に謝罪した。こうしたことが保守の支持層からの批判を招き、ここにきて「安倍氏の登場が保守つぶしの巧妙な目くらましとなっている」(評論家の西尾幹二氏)と嘆かれるほどになった。首相としては気が気ではあるまい。だが、首相がかつて掲げた勇ましい右寄りの課題は、実際に政権を担う身になると、実行することはむずかしい。国際社会の一員としての日本の地位や9条の改憲を望んでいない世論などの制約の中で、ナショナリズムの地金を小出しにする。そんなやり方を続ける限り、首相がジレンマから抜け出す道はない。

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[靖国神社に供物 総理大臣名で私人とは]
中国新聞 社説 2007年5月9日

サカキの鉢植えにつけられた木札には「内閣総理大臣安倍晋三」と書かれていた。五万円の「真榊(まさかき)」料はポケットマネーで支払ったといっても、これで私人の立場だと言えるのか。安倍首相が四月二十一〜二十三日に行われた靖国神社の春季例大祭に、供え物を奉納していたことが明らかになった。首相による奉納は中曽根康弘元首相以来、二十二年ぶりだ。首相の参拝を求める神社側や自民党内の参拝支持勢力に対し、一定の配慮を示す狙いもあったとみられる。
外相や自民党幹事長ら政府与党は「私人としての事柄なので問題はない」と外交への影響を否定する。だが、韓国政府は「非常に遺憾」と批判。中国政府も「重大かつ微妙な政治的問題」と指摘し、慎重な対応を求めた。またあつれきを生じてしまった。日中関係は、小泉純一郎前首相の時代に「敵対関係」といわれるほど悪化していた。昨年十月の安倍首相の訪中で小泉政権以前の関係に戻った。そして、中国の温家宝首相が今年四月に来日。首脳会談でも日中対立のトゲ「靖国神社」には触れなかった。「戦略的互恵関係」をキーワードに、未来志向で対立を避けた。この「友好関係」はお互いの演出が目立つ。対立や傷口を表面化させない「薄氷を踏む」ような状態といってもよい。歴史認識に限らず、東シナ海のガス田開発など先送りされた懸案も多い。日中関係は単なる二国間関係にとどまらない。経済関係、環境、エネルギー問題、北朝鮮の核開発や台湾問題など東アジアの将来にかかわってくる。対立、論争はあっても、信頼関係を回復するには首脳会談を重ねる必要がある。
安倍首相は宮房長官当時の昨年四月、春季例大祭直前にひそかに参拝している。首相になってからは「外交問題、政治問題になっている以上、行く、行かないということは言うべきではない」と明言を避け続けている。しかし、いつまでもあいまいなままでは済まないだろう。私人の思想、信条をとやかくいうつもりはない。首相が「国のために戦った方々のご冥福をお祈りし、尊崇の念を表する思いは持ち続けたい」というのも分かる。ただ、一国の首相ともなると「個人の心情の問題」では片付けられない。信頼回復の一歩を踏み出したばかりの日中関係を、靖国参拝問題で損なっては元のもくあみである。

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[時評2007慰安婦決議が問う安倍首相の「保守」]
Yahoo!みんなの政治:政治記事読みくらべ:中西 寛 中央公論 2007年4月25日

米下院で上程された慰安婦問題に関する決議をめぐり、安倍首相のコメントが波紋を広げている。決議は、一九九三年に宮沢内閣の河野洋平官房長官が発表した談話を尊重し、謝罪や教育への反映を求めるものであり、これに対して安倍首相は「狭義の強制性はなかったと考えている」と発言して、河野談話を否定するかのように受け取られた。その後、政府は辻元清美議員の質問に対する答弁書で、河野談話の基礎となった資料でも「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述は見当たらなかった」と述べる一方で、河野談話を継承する意向を示し、問題の収束を図ろうとしている。この決議は提案者のマイケル・ホンダ民主党議員らが過去何度か提出してきたものであり、民主党が議会多数派となったことなどから成立する見込みが高まっている。決議自体が日米関係に影響する可能性は小さく、日本国内で論争が高まることや、この段階で日本政府が表立ったロビー活動を行うことはかえって事態を紛糾させるであろう。日本政府としては火に油を注ぐことは避けるのがよい。
ただし、今回の決議は、慰安婦問題を含めた歴史認識をめぐる論争が歪んで米国にて政治問題化するという構造を改めて示した。その点では靖国神社問題やアイリス・チャン氏が火をつけた南京虐殺問題などとも類似する。私は、閔妃殺害事件や張作霖暗殺、柳条湖事件など日本が行った謀略だけでも、帝国主義時代でさえ正当化しがたいし、朝鮮統治や戦争中の日本軍の行動も非人道的な側面を多く持っていたと考えるが、日本のアジアでの行動については事実関係が不明瞭なことも多くあり、曖昧な反省や謝罪を行うよりも実態究明のために日本政府が誠意をもって内外の研究者を支援することを優先するべきだと考えてきた。河野談話やその基礎となった調査が性急な形で行われ、その反動として極端な否定論を呼び起こした面も否定できないと思う。日本政府としては客観的事実として明らかな過去の非については率直に認めるという姿勢を貫くことが、中韓だけでなく、米国を始めとする国際社会で日本の信用を高める方法だと思う。
それにしても安倍首相の発言がこれほど波紋を広げたのはなぜだろうか。靖国神社参拝について言及しないという方針で中国、韓国との首脳外交の再開に成功したものの、支持率が下降気味の首相がそろそろ「歴史カード」を切るのではないかという永田町的な観測もないとはいえない。しかし、より本質的な問題は、首相の思想的曖昧さへの問いかけにある。つまり首相の標榜する「保守主義」とは何を意味するかという疑問である。首相の著作『美しい国へ』を読んでみると、首相はこの言葉を二重の意味で使っているようである。一つは、日本古来の伝統や歴史を尊重する立場としてであり、それは明治維新政府を支え、祖父岸信介元首相に受け継がれた長州の思想的系譜に連なる。もう一つは、アメリカにおける「リベラル」批判の文脈で、平等主義的な「大きな政府」に反対する立場とされる。そこには東京で生まれ育ち、アメリカ留学を経験し、父安倍晋太郎の外相秘書官を長く務めた都会派の感覚が窺える。
この二つの顔は必ずしも矛盾するものではない。日本の伝統の中に自由や民主主義の要素を見出し、アメリカの保守主義との協調を主張することは不可能ではないからである。しかし首相が関心を持つ憲法や教育、さらには歴史認識問題となると難しい事態に直面することになる。戦後六〇年間、日本が自由民主主義と平和と繁栄を謳歌したことは確かであり、その成果は誇ってよい。しかしそのことと「戦後レジームの見直し」を掲げることに矛盾はないだろうか。約六〇年前に制定された憲法や教育基本法が時代に即さなくなったなら、その修正を提起することには文句のつけようがない。しかし連合国の占領の正当性を否定するところから議論を始めるなら、首相は激しい国際的抵抗を覚悟しなければならないだろう。現在世界で進んでいるのは、連合国が作りだした戦後秩序の修正ないし再編ではあっても、否定ではないからである。日米同盟を対外政策の基礎とする安倍首相にとって、首相の「保守主義」も前者の範囲内でのみ可能であることを、今回の慰安婦決議問題は改めて示したといえよう。 (なかにし ひろし 京都大学教授)

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[「従軍慰安婦」発言で露呈した安倍内閣の情報選別能力]
Yahoo!みんなの政治:政治記事読みくらべ:ジャーナリスト・田原 総一朗 2007年4月11日

唐突にアメリカ、アジアのマスコミを席巻した日本の「従軍慰安婦」問題。これは戦後生まれの造語で、中国・大連生まれの千田夏光が、一九七三年に『従軍慰安婦 正編』を上梓した際に初めて使われた。なぜいまごろ、「従軍慰安婦に対する決議案」をアメリカ民主党のマイク・ホンダ議員が下院外交委員会に提出したのかは理解しがたいが、一つはマイク・ホンダ議員の選挙区事情にある。選挙区にアジア系とりわけ韓国出身の有権者が多い。下院で従軍慰安婦問題を取り上げれば、有権者の反応もいいということだ。実は、日本政府は、これを下院外交委員会で決議されないような工作を進めてきた。加藤良三駐米大使は「日本政府は謝罪ずみ」の文書を下院外交委員会の小委員長に提出。その作業の最中に改めて驚き、危惧を抱いたのが中国のアメリカ議会におけるロビー活動のすさまじさだった。ワシントンにおける世界各国のロビー活動は、まさに戦争といっていい。ところが、日本は、日米は同盟国であり、両国は今後も友好関係を保つと疑わず、ロビー活動を一切行っていない。
こうした決議案が出てきた背景には、日中のワシントンにおけるロビー活動の格差があるといっていい。ところが安倍(晋三総理)さんは、女性を集めた業者らが事実上強制をするような「広義の強制性」はあったが、日本軍が人さらいのように連行するといった「狭義の強制性」はなかったと説明した。そして、この発言によってアメリカ、韓国、中国から非難を受けた。
三月二日付の『ワシントン・ポスト』は軍当局の関与と強制性を認めた一九九三年の河野洋平官房長官談話の見直しの動きが日本にあることを伝え、『ニューヨーク・タイムズ』は同月六日付で「安倍は謝罪すべきだ」とし、同月八日には「Sex Slaves」と一面で報じた。問題は安倍さんが「強制性を裏付ける証拠がなかったのは事実」と述べた点だった。それに気づいた安倍さんは、その後は、河野談話の踏襲を語っているが、「性の奴隷」に関して、広義の強制も狭義の強制もない。誰が安倍さんにそうした発言をすべきだと進言したかはわからないが、そんなことをいっては身も蓋もない。総理への進言者がよくないということだ。振り付けが実に下手である。河野談話を踏襲するといっていればよかったのだ。つまり、安倍さんにアメリカの現況を伝え切れていない。必要な情報が安倍さんにあがっていない表れといえるだろう。一方で、どうでもいい情報はたくさんあがっている。ここが安倍政権の大きな問題点である。安倍さんに的確な情報をあげて、振り付けをしなければならないのにそれができていない。小泉(純一郎前総理)さんは安倍さんよりリーダーシップがあった、指導力があったといわれるが、基本的に二人に大きな違いがあるとは思えない。小泉さんには飯島勲秘書官がすべての情報を収集し、選別をして情報をあげていた。現況の安倍内閣ではこれができていない。大問題である。

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[松岡農水相問題 首相がかばう理由 小幅内閣改造「成功例なし」]
産経新聞 2007年3月13 日

松岡利勝農林水産相の資金管理団体が光熱水費無料の衆院議員会館内に事務所を置いているにもかかわらず、年間数百万円の光熱水費を計上している問題について、安倍晋三首相は一貫して松岡氏を擁護する立場をとっている。参院選に向け反転攻勢をかけたい安倍政権にとってこの問題はかなりの重荷のはずなのに、安倍首相が松岡氏をかばう背景には、閣僚の辞任や追い詰められた形での内閣改造は与党内の求心力低下につながるとの判断だけでなく、政策上の思惑もありそうだ。

松岡氏の光熱水費計上の仕方はいかにも不自然だが、首相も塩崎恭久官房長官も、苦しい答弁を繰り返してまで野党や記者団の質問をかわそうとしてきた。
「松岡氏は、法令にのっとって(政治資金を)処理していると聞いている」(首相)
「政治家の問題であり、政府としてあまりコメントするべき問題ではない」(塩崎氏)
しかし、首相は昨年12月には、事務所費の不適切な処理をめぐる佐田玄一郎行政改革担当相の辞任を認めている。この対応の差は一体どういうわけか。この違いについて、政府高官は「1月の施政方針演説のころから首相は吹っ切れた」と解説する。実際に、佐田氏が辞任しても内閣支持率は上がらなかった。このため、その後に、女性を「産む機械」に例えた柳沢伯夫厚生労働相の失言問題でも、首相は辞任を許さなかった。

一方、自民党内には松岡氏を含めた内閣の小幅改造論がくすぶるが、首相は心機一転のつもりの内閣改造がかえって自分の首を絞める結果になることを懸念しているようだ。閣内にも「労多くして功少ない。過去に小幅改造をやって成功した例はない」(麻生太郎外相)との声があり、首相自身も小幅改造が得策ではないと判断しているとみられる。

そもそも、首相が特に接点が多かったわけでもない松岡氏を農水相に起用した背景には、「首相の対中国戦略が関係している」(首相周辺)。首相は存在感を高めている中国に対抗する目的もあり、豪州やインドとの経済・安全保障上の連携強化に力を入れている。松岡氏は農水族の実力者ながら、国内の農業団体などに慎重論が根強い豪州との経済連携協定(EPA)に前向きで、「首相は松岡氏に国内調整、とりまとめ役を期待している」(同)とされる。

ただ、松岡氏の光熱水費問題には与党内でも疑念を示す者が多く、首相が松岡氏をかばい続ければ、窮地に陥る可能性もある。
【用語解説】松岡農水相の光熱水費問題
松岡利勝農水相の資金管理団体「松岡利勝新世紀政経懇話会」は、光熱水費が無料の衆院議員会館に事務所を置きながら、政治資金収支報告書で、平成17年までの5年間で計約2880万円もの光熱水費を計上していた。政治資金規正法施行規則によると、光熱水費は「電気、ガス、水道の使用料およびこれらの計器使用料等」とされる。多額計上が問題となった事務所費と同様に、報告の際に内訳の記載や領収書の添付は必要ない。松岡氏と同じく議員会館だけを都内の事務所とする場合、「ゼロ」と報告している閣僚もいる。野党側は、表に出しにくい支出を光熱水費に潜り込ませた可能性があるとみて松岡氏を追及。松岡氏は「還元水、暖房代などが含まれる」と説明する一方、「それ以上の報告は、現行の法制度が求めていないので差し控えたい」として詳細の公表を拒否している。

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