退 職 金 の 支 払


退職手当は通常の賃金の場合と異なり、あらかじめ就業規則等で定められた支払い時期に支払えば足りる( 26.12.27 基収5483)


■労基法第23条(金品の返還)

「使用者は、労働者の死亡又は退職の場合においては、7日以内に賃金を支払、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を変換しなければならない。」ここでいう「賃金」とは労基法第11条に規定する賃金すべてをいう。

 

■労基法第24条第2項(賃金の支払)

「A 賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第89条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りではない。

 

■行政解釈

「労働協約、就業規則、労働契約等によって予め支給条件が明確である場合の退職手当は法第11条の賃金であり、法第24条第2項の「臨時の賃金等に当る。」「退職手当は、通常の賃金の場合と異なり、予め就業規則等で定められた支払時期に支払えば足りるものである。」(昭26.12.27基収5483、63.3.1基発150)

⇒退職手当は、通常の通常の賃金の場合と異なり、予め就業規則等で定められた支払時期に支払えば足りるものであるとしているので、通常の賃金は労働者から請求があった場合、7日以内に支払わなければならないが、退職金については退職金規定に基づき支給すればよい。

 

     日々の労働に対する賃金債券は、日々の労働が終了した時点で発生するもの

     労基法第23条は、すでに権利が発生している既往の労働に対する賃金については所定支給日前で
あっても
7日以内に支給することを義務付けている。

     退職金の場合は日々の労働に応じて権利が発生するのではなく、退職前においては期待権(停止
条件付債券)と解されており、毎月払いの対象とされていない。

 

■判例

・直接払:退職金は労基法11条にいう労働の対償としての賃金に該当し、その支払については、性質の許すかぎり、直接払の原則が適用される。(最高三小43.5.28)
・全額払:退職金は就業規則においてその支給条件が予め明確に規定され、会社が当然にその支払義務を負うものというべきであるから労基法11条の「労働の対償」としての賃金に該当し、したがって、その支払については、同法24条1項本文の定めるいわゆる全額払の原則が適用されるものと解する。(最高二小48.1.19)

■労基法893号の2(作成及び届出の義務 / 退職に関する事項)

「退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」

 

<解説>

退職金は賃金と異なり、労基法上、使用者に支払いが義務付けられているものではない。労基法において退職金を支給する場合、(1)適用される労働者の範囲、(2)退職手当の決定、計算および支払いの方法、(3)退職手当の支払いの時期――について就業規則に規定しなければならないと定められているにすぎない。(労基法89条3号の2)。  「支払いの時期」については具体的に規定することが必要で、例えば、適格年金契約に基づき、年金あるいは一時金が支払われる場合で、保険会社の事務的理由等によりあらかじめ支払い時期を設定することが困難なときは、確定日とする必要はないが、いつまでに支払うかを明確にする必要がある。(昭63. 3.14 基発150、婦発47)。 退職金の支給時期を「退職後6カ月以内」と定めている場合が多いが、これは(1)退職後に在職中の不法行為が発覚した場合の損害賠償請求権の担保のために、あるいは、(2)退職後の競業避止(ひし)義務履行の担保のためにである。
(1)においては、不正行為などの発見のための調査期間を6カ月間設け、調査完了時に退職金を支払うと規定することにより、不正行為が発覚したときの損害賠償請求権と退職金支払い債務を相殺することがねらいである。この場合、業種等の諸条件にもよるが、調査には半年ほど時間が掛かることは社会通念の範囲内と解されるので、公序良俗に反するとまではいえない。調査によって不正行為を行っていないことが明らかとなった場合には、直ちに支給すべきであろう。 (2)においては、退職後半年間の競業行為を禁止する旨を就業規則に規定し、競業禁止期間が経過した後に退職金を支払うとすることにより、その実効性を担保する点にある。

<参考>

三晃社事件(最高裁二小昭52. 8. 9判決労働経済判例速報958号) この事件で裁判所は、「同業他社へ転職した場合、退職金手当の2分の1のみ支給する」旨を定めた就業規則に基づく退職金規程について、このような条項は、営業担当社員が退職後の「ある程度の期間」に同業他社へ転職した場合、勤務中の功労に対する評価が退職手当に関し一般の自己都合退職の半分に減額される趣旨であり、「本件退職金が功労報償的な性格を併せ有することにかんがみれば、合理性のない措置であるとすることはできない」と判示した。  上記判例にかかわらず、退職金減額条項一般の効力については、個別具体的に、使用者の業種、従業員の職種と地位、競業禁止の範囲、およびその代償との関係で判断されるべきであると解されているので、注意が必要である。


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