金鯱賞之巻

 桶狭間の中京劇場ではスズカはヒーローである。前回書いたように逃げ馬が活躍する舞台だからである。その中京で今度はフクキタルと再び競演することになったのだ。名古屋名物金の鯱を讃えるための舞台、金鯱賞である。

 フクキタルとは関西お笑い界の最大手マチカネ新喜劇において、タンホイザが引退した後の棟梁的存在である。秋の天皇賞のときにもちょっとだけ書いたがスズカとフクキタルは宝塚で行われた神戸新聞杯で競演しているのである。当時はスズカのパートナー役は、現パートナー武豊よりもお笑いセンスのある上村であった。その上村騎手がゴール前勝ったと思って手綱を緩め、フクキタルにゴール前差されるという名演(迷演?)をおこなって場内を沸かした。しばらくの間惜しまれつつも休養中だったフクキタルが7ヶ月ぶりに舞台に上がる。その共演者としてスズカが選ばれたのであった。

 「中京は俺の庭の様なもんだ!」とスズカは言う。

 大スターの復活の日であるにも関わらず、フクキタル休養中に人気が上昇してきたスズカが前評判でもフクキタルを上回っていた。

 当日はスズカ見たさに大勢の観客が劇場につめかけていた。そして舞台では例によって馬鹿逃げを披露する。この中京劇場は舞台の構造として、馬鹿逃げがしやすい様に設計されているのだ。だからそれをウリにしているスズカは、地の利を生かして演じるのが一番である。

 そして観客の喝采を浴びながらゴールを過ぎても、まだまだ馬鹿逃げは続いていた。ほとんど一人で舞台にあがっているといってもいいぐらいであった。しかし、フクキタルは久々の舞台のせいかあまりパッとしなかった。

 関西最大手のお笑い軍団の売れっ子が競演していても、その売れっ子が目立たないぐらいに主役として脚光を浴びる。スズカはそこまで成長したのだった。

 フクキタル「しばらく見ない間に変わったな、スズカ」

 スズカ「まあね。香港にもいったしね。でもコンビを組むのが上村さんだったらよかったと思うことが時々あるよ。」

 フクキタル「そうだな。武さんは名優だがお笑いには向いてない面もあるからな。それはさておき宝塚では俺が主役なんだからよろしくな」

 一月後、この二人は宝塚で競演する予定なのだ。タイプの違う芸人だが同期でもありお互いライバル意識もあるのである。


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