’00 中山グランドジャンプ観戦記

 〜 国際化元年 〜

2000年4月15日

 今年から中山グランドジャンプは国際招待レースである。平地G1のジャパンカップのように各国から馬が(経費はJRA持ちで)日本にやってくる。障害レースと言えば平地以上に各地の文化の差が大きい。コース形態や障害物の難易度、斤量、出走可能頭数など各国でバラバラである。しかも障害はコース適性が重要であるので、海外で実績のあるジャンパーが100%の仕上げでここに出てきたからといって好走するとは限らないし、凡走しても恥じる必要もない。

   競馬新聞の出馬表に目をやり、海外馬の成績欄をみると、ヨーロッパでは70kg前後の斤量を背負うのが普通のようである。日本だと60kg前後が普通なのに。日本の障害レースは本場のヨーロッパと比べてスピード重視だといわれるが、このルールの差が文化の差を生みだしているのかもしれない。G1格上げ前は基本斤量59kgに中山大障害1勝につき2kgプラスという別定戦で、大障害3勝馬ポレールは65kgで出走したこともあった(それでも2着は凄い)。そのポレールの苦労を見かねたのかJRAが急に障害に力を入れ初め、定量戦のG1が出来て、そして今日ついに第1回の国際レースである。ポレールが作ったと行っても良い新たな時代の幕開けだ。ヨーロッパとの文化の違いを考慮してか、斤量は63kgの定量戦である。定量戦なら苦労人ポレールにとってはもってこいだろう。年齢とブランクが気になるが、ポレールに期待を託したい。そう思い馬券はポレールを軸にワイドを買った。

   この日のターフビジョンではイギリスで行われたグランドナショナルの模様が放映されていた。30頭近い頭数が出走して、その半分ぐらいしかゴールができない。コースが広く、途中の直線も日本と比べてかなり長い。コースの総距離も7100mであり、斤量も重いのでまさにスタミナ勝負。やはり中山大障害と比べてもレースの規模が違いすぎる。土地の無い日本にはそういうレースをできる競馬場を作るのは無理なのかもしれない。

   当日はあいにくの雨模様。しかし、私は中山まで行き、内馬場の大生け垣や大竹柵のあるところに陣取った。準メインが終わりレースが近づくと内馬場の大障害の回りにも人が増えてきた。大生け垣の近くでは大きな(といってもターフビジョンほど大きくないが)移動モニター(トラックで運ぶヤツね)が設置されていた。私はそのテレビの裏側の襷コース沿いで大生け垣や大竹柵を馬達が飛び越えるシーンを生で見ることにした

   年に2回しか鳴り響くことのないJ・GI用のファンファーレが演奏され、レースのスタートである。まず3コーナー付近のスタート地点から正面スタンド前へ馬達が向かう。大障害の真ん前にいたためその様子は私の視界には入ってこない。そして正面スタンド前を走っているところが目に入ってくる。「各馬、無事ここまでまわってきてくれよ。」

   そして馬群は再び私の視界から消え、2コーナーのバンケットを通り、いよいよ襷コースの大竹柵へと向かう。下って登る中山独特のバンケットから姿を現した馬達は最大の難関の一つである大竹柵を跳び越える。 「ボコッ」という音を立てながら馬達は竹柵を飛び越える。間近で見ていると結構大きな音がするものだ。競馬はゴール前が一番いい観戦場所かもしれないが、大障害に関しては襷コースの障害の前が一番迫力がある。何せ日本一の障害なのだから。

   再び馬たちは通常コースに戻りまわってくる。先ほどと逆回りでコースをまわってきた後は再び襷コース。大竹柵のすぐ隣りにある大生け垣を飛び越える。大生け垣は私のすぐ目の前だったが、馬が飛び越える時は生けてある木の葉っぱがかなり飛び散っている。やはり間近で見ると迫力が違うものだ。大生け垣の後は襷コースに馬がくることはないので、レースの続きを見るために大モニターのところに移動。

   大生け垣前から大モニターに移動している途中で実況が「ポレールが落馬競走中止」ということを告げた。この時点で私の馬券のハズレは決定(他の馬すべてが落馬したら買い戻しだが)。しかし、折角だから最後までレースを見たい。

   最後の直線では外国馬に交じって日本馬ゴーカイが奮闘している。ポケットにははずれることが確定した馬券しか入っていなかったので、ここでは勝って欲しい馬を応援しよう。日本で1走もしたことのない馬に大障害(グランドジャンプ)を勝たれてたまるか、と思ったので「ゴーカイ、行け〜!!!」と思わず叫んでしまった。そして見事にゴーカイの勝利である。とりあえず日本の馬が勝ててよかった。

   2着に来たのがフランス代表の「ボカボカ」。変な名前の馬である。馬名だけで馬券を買った方が当たったのかもしれない。ヨーロッパ勢の中で最も評価の低い馬だったが、地元での実績ではなく「日本の障害に合っていた」とか「騎手が日本の障害の速いペースに戸惑うことなくついていけた」というのが勝因だろう。鞍上のドゥーメン騎手の好騎乗が光った。まだ20歳の騎手であるが、パリ大障害を史上最年少(19歳)で制した若手のホープらしい。

   レース後に気になる放送が。ポレールが落馬したことを告げた後に、別の馬がポレールに躓いて落馬したというアナウンスがあった。ホクトベガの例もあるので、「ポレールは大丈夫だろうか」とかなり心配になった。家に帰ってJRAのホームページで馬・騎手共に無事ということが確認できたので、良かったけど。

   障害レースを内馬場の障害の近くで見たのは、東京競馬場の最後の襷コースを見にいって以来2度目のことであった。直線で見る時と違って、ターフビジョンでレースの流れを追うことはできないが、目の前で馬達が障害を飛び越えるのは迫力がある。特に今回は大生け垣の近くに特設モニターが用意されていたので、目の前の攻防が終わったらモニターを見にいけばよかったし。(最後の直線ぐらいはちゃんと見たいよね。) そのモニターが今回(あるいはG1昇格後)初の試みなのか前からやっていたのかはよくわからないが、大モニターでちゃんとゴール前の様子もわかって何よりである。

着順 馬番 記号 馬名 負担
重量
騎手 タイム 着差 調教師 単勝人気
1 5 9 ゴーカイ      8 63.0kg 横山義行 4:43.1   郷原洋行 1
2 3 6 [外] ボカボカ      せん 7 63.0kg T.ドゥーメン 4:43.2 3/4馬身 F.ドゥーメン 11
3 3 5 [外] ジアウトバックウェ せん 11 63.0kg N.ウィリアムソン 4:44.1 5馬身 V.ウィリアムス 10
4 1 1 メイショウワカシオ 7 63.0kg 嘉堂信雄 4:44.7 3 1/2馬身 池添兼雄 3
5 8 16 [外] メイビーラフ    せん 10 63.0kg B.スコット 4:45.9 7馬身 J.ウィーラー 6
6 2 4 [外] シドニーオペラ   せん 7 63.0kg C.ゴンボー 4:46.7 5馬身 J.デラポルト 5
7 6 11 ファンドリロバリー 8 63.0kg 出津孝一 4:46.9 1 1/2馬身 岩元市三 4
8 7 13 ノーザンレインボー 11 63.0kg 田中剛 4:47.2 1 3/4馬身 鈴木康弘 2
9 1 2 [外] ナインピンズ    せん 14 63.0kg A.キングズリーJr. 4:47.7 3馬身 J.シェパード 7
10 7 14 [外] ヒルソサエティー  せん 9 63.0kg P.カーベリー 4:47.9 1 1/2馬身 N.ミード 13
11 5 10 ケイティタイガー  12 63.0kg 山本康志 4:48.6 4馬身 吉岡八郎 14
12 4 7 コバノスコッチ   せん 8 63.0kg 宗像徹 4:50.0 9馬身 高松邦男 15
13 4 8 ヨイドレテンシ   7 63.0kg 酒井浩 4:50.3 1 3/4馬身 吉岡八郎 12
14 6 12 (父) シャンパンファイト 10 63.0kg 大江原隆 4:52.7 大差 川村禎彦 16
中止 8 15 [外] セリベイト     せん 10 63.0kg C.ルウェルン   C.マン 8
中止 2 3 ポレール      10 63.0kg 三浦堅治   岩元市三 9


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