第27回 一番熱の入る学校祭!部活と学級の狭間で その5

 かくして、文化祭まであと1週間もなくなり、どのクラスも(演劇をやるクラスも、展示をやるクラスも)にわかに活気がでてきて、教室内をダンボールやらどこから拾ってきたのかしれないガラクタが置かれたりしてきたが、わがクラスはマイペース。合唱フェチの担任に仕切られて、泣く泣く私の仕事が増える。本当だったら、手の空いたグループに手伝ってもらって1つくらいコンテンツが増えるのだが、それすら出来ずに、ネタを当初計画から更に増やしていた私は、個人的にガッカリ。男子グループにも、それ相応に仕事を与え(紙漉き用の木枠・アミの製作)ておき、一応水面下では「クラス全員一丸となって取り組んだ展示」を装えるだけの軌道に乗せた、と自負していた。

 ストレスの異常にたまった私は、休養と気分転換をかねて、小学校時代からの友人と、長野県は碓氷峠へ電車の旅行に文化祭直前の金曜日から出掛けることに。ここはこの年を持って廃止になり、長野(行)新幹線《正式には「北陸新幹線」の部分開通》に振り替えられるのである。そんなわけでお楽しみに出発し、土曜日に東京から新幹線で帰ってきた。学校祭の準備期間とはいえ、このような「お楽しみ」出掛けられるとは、去年は疎ましくさえあった『学校休業の土曜日出校準備禁止』も、ありがたくはあるのだなぁ・・・などと、今年だけは歓迎したのであった。

 さて、休養とはいえ夜行1泊なので、否が応でもある程度は残る疲労を残して出勤、もとい出校。朝8時、開門と同時に速攻部室へ。先日でかけている際に放送されていた「全国高等学校クイズ選手権」の問題を追加製作(リアルタイムでいいでしょ?・・・予選すら出場できない我が校の生徒たちへ、我が科学部物理班からせめてものプレゼント。このクイズが解けるなら、本当なら本選出場だって出来たのに・・・という目安に位はしてね・・・という気持ちから)したクイズをパソコンにコピーしている所で、朝一番から聞きたくない人物に呼び出し放送をかけられる。しぶしぶ職員室にいくと、担任は自分の机にふんぞり返っており、「部活ばっかりやってないで、クラス行って準備を軌道に乗せて来い!」というゲキと、「木枠作りの工作を男子だけにやらせて、という不満が出ている」というご指摘。んなこといったって、俺は「展示が出来るように準備はする」と夏休み前に宣言しておいたから、いまさら何もしてやれることはないのに・・・それに、木枠が作りたいんだったら、俺に直接行ってくれれば、いくらでも作りかた教えてあげるのに・・・どうせ男子のことだから、いいかげんなものしか作っていないんだから。と思いつつクラスに到着。覗くと数人の女子と、真面目な男子が木枠製作にいそしんでいるではないか。担任の情報は遅れているようである。みると、男子のほうが工作が下手なようである。私も、夏休みに苦労して製作したはいいが、結局ボツっぽいものしか作れず、器用な父親に助け舟を出してもらっている身。興味津々眺め、さりげに自分の失敗談を話し、場を和ませる。ということで、模造紙の清書が終了した女子で、工作がやりたいという方には、この木枠製作を手伝っていただくことにする。枠は多いに越した事がないし。

 この日私は、部活のほうの装飾をめどをつけておこうと心に決めていた。教室と違い、普段は授業に使わないので、展示を前倒ししようが全然問題ないのである。写真はなんとか金曜日までに現像し終えていたので、それを模造紙に張り、コンテンツごとに分類し、さらに通し番号を振る。その片手間で我が班の冊子の印刷・製本。当然、製本に手が回るわけなく、その日は製本順に並べるだけで終了となってしまう。教室のほうはといえば、それなりに私の理想に近いレポートが完成していた。後は飾り付けと、紙漉きのガイダンス(手順の説明)だが、これも明日にならないと出来ない(←例によって、「前日準備」の日も午前中は平常授業である)ので、今日は打ち切る。ただし、飾り付けを明日1日でやるので覚悟するようにと言っておく。

帰宅後は、例のごとくレジュメの製作。突然仰せつかった『展示の見張り番のシフトを組んで来い』も私の仕事に。俺、正直ここまで1人でやらされるとは思わなかったがなぁ・・・。ま、いいか、どうせ明日は部活の準備で忙しいから、室長に任せきりになるから、これくらいは我慢してやらないと・・・。ということで深夜2時近くまで、さまざまな場合を想定したFAQを作成したのであった。

 やってきました前日準備!!午前中はもちろん授業だが、教師も生徒もどこか上の空。45分授業×4コマに短縮されて(我が校ではこれを「Bチャイム」と呼ぶ)、昼食を摂る。もちろん5分で弁当をかっ食らったら、部室へ直行し、昨日やりきれなかった分の装飾を行う。ただし今日はいったんは教室へ戻らないといけない。特活課主任のガイド放送に従って、教室の机の移動や、その他委員会がらみの作業をしなければならないのである。幸いにも私は、科学部部長であるため、お呼び出しがかけられるのである。これ幸いと脱走しようと画策しておく・・・。
当方の教室は、紙漉き&(最後までもめた)折鶴用に机を20本、イスを20本申請しておいたので、さほど移動はなく、ドタバタも私の要領で最小限にとどめる。この時間は一応担任の指揮になるのだが、私は最後の奉公とばかり率先して動いた。で、教室のレイアウトを決める。図面を特活課に提出したので、そのとおりに配列を組もうとすると、担任から横槍が入る。「それでは折鶴が目立たなくなるからだめだ、ここにしろ。」と。俺の展示にイチャモンつけるとはいい根性だ(笑)。今までの悪行に対しいいかげん頭にきていたので反論する。「私はここにレポートを吊り下げて、こうやって教室を巡回してから、折鶴や紙漉きを体験してもらおうと思ってこのようなレイアウトを組んだのです。紙について勉強もしない人間に体験コーナーを楽しんで欲しくはありません。」来た来た再反撃。
「そんなものレポートを吊るす必要がどこにある?!ん?!そんなものは壁や窓にぶら下げたらいいんだ!紙漉きと折鶴がメインなんだ!」
・・・私、この瞬間この男を絞め殺そうか、はたまたその辺の机かイスで撲殺してやろうかと思いましたよ。いったいどれだけ俺が苦労してこれだけのものを造ってきたと思ってるんだ。貴様のせいで夏休みもロクに楽しめず、カネはポケットマネーをつぎ込み、さまざまなものを犠牲にしてきたのに、今まで合唱と違ってロクに口出しをしなかったくせに、最後のおいしいところだけ持っていくつもりか・・・!もう好きにしろ!!俺はこのクラスの指揮を降りる!!
「そうですか。じゃあもう僕は一切装飾については関知しません。先生のお好きなようにしてください。」 後ろから「お前『最後までやります』そういったじゃねぇか!」という声が聞こえたが、それは無視して部室へ駆け込んだ。(ちなみに俺は「(紙漉きの)用意は準備します」、といったのであり、決して「最後まで責任もちます」といった覚えはない。部活があるのにそんな無責任なこと言える訳がない)
その後、前回同様に机やイスへ八つ当たりをしたのは言うまでもない。しかしいつまでもこんなことをしているわけには行かない。なにせ部活の展示も遅れているのだ。ここぞとばかりに、あれこれと展示物を配置し、それように天井から看板を吊るし、去年大好評だった、廊下にある本校唯一の「感想ボード」を飾り付ける。隣には、この日のために集めまくった「UCC 新世紀エヴァンゲリオン缶コーヒー」を貼り付けていたところで、担任から呼び出し放送をされる。あの男が我を譲るわけはないから、たぶん合唱練習なんだろうなぁ・・・。と思いつつ教室に入ると、まだ展示の装飾に取り組んでいた。なんだヘタクソめ、どうせ女といちゃついていたんだろうが助平ジジイめが・・・。と想像をしていたら後ろから本人があらわれる。「紙漉きの手順をちゃんと説明しろぉ!」だと。俺じゃなきゃいけない理由なんかないではないか、室長にレクチャーペーパーを渡してあるんだから、向こうにやらせればいいじゃないか・・・」と思ったのだが、これはヤツが俺いびりの為にやらしているのだろう。渋々教壇に立ち、レクチャーを開始。プリントはちょうど2人に1枚程度用意できていた(もちろんポケットマネー)ので、これを配布する。担任のヤローにはなし。欲しければ後でコピーをもらえ。

 一通りレクチャーを終え、質疑応答の時間」となったが、実はこのクラス、3人も紙漉き経験者がいらっしゃった。もっと早く言ってよ。そんなわけで、「私のような素人より、やったことのある人の方が詳しいでしょうから、実演してもらいましょう」で逃げる。もうこのクラスの面倒に巻き込まれるのは嫌だ。早く部室に帰って一人でそっちの準備をするんだ・・・。人に説明をさせておきながら、心は上の空。とりあえずそこで一旦、STタイムとなったので、終礼かたがた休憩になる。で、翌日のシフト表だが、当初は俺が作ったもので行く予定だったのだが、担任に取り上げられ、物の見事にダメ出しを食らう。ということで担任の豪腕政治で次々にシフトを仕上げていきやがる。いったい俺のシフトに関する前夜の画策はなんだったんだ?!友人同士くっつけたりとか、なけなしの頭を使って組み上げたのに・・・。まぁいいか。俺、もう関わらないんだから、気楽に行けばいいんだ。
 終礼後も引き続き各クラス、準備に余念がないが、私は早々とかばんを持って、飾り付けを楽しんでいる教室を後にし、最終下校時刻を1時間も回るまで、必死になって部活の展示に奮闘したのであった。

子が親元を離れたときの親の思いが、この日何となく分かった気がした。


さて次回は、第28回 一番熱の入る学校祭! その一部始終 をお送りいたしいたします。