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style No 41:


わたしは、貴方の為に、貴方の理想に沿う様に整形手術を繰り返してきた。回数にすれば15回。整形を繰り返してきた。お金にすれば数千万。わたしの顔、体の為に使ってきた。生活が苦しくて自分の内臓を売った事もあるし、保険金目当てで親も殺した事もある。それに人体実験で新薬を飲んで危うく死にそうになった事もあるんだ。あの時はホンとに死ぬかと思ったよ。でもね、その事は全然後悔して無いし、悪いことをしたって思ってないし、貴方の愛情を一身に受ける為なら大したことじゃ無いと思うの。わたしは。やっぱり好きな男に愛されるのが女としての喜びだと思うし、生きがいだと思うの。わたしはね。他の人は知らないけど、わたしはそう思うの。だから貴方は理想通りなわたしに恋をすれば良いと思うの。30年間ちょっとの間、愛情と言うものを感じたことの無いわたしにたっぷり愛情を注げば良いと思うの。それが一番だと思うの。

 わたしは、貴方の為に、32年間処女でいた。わたしは貴方に抱かれることだけを夢見てわたしの一番大事な部分を守り通してきた。寂しく無かったって言ったら嘘になるけど、それでも他の男とセックスしなかった理由は一つだけ。貴方の為。これしか無いと思うの。でもね、初めてのセックスの時に貴方に満足してもらう為に一所懸命勉強したんだよ。わたしには友達が少ないから誰かに聞くってことは出来なかったけど、その関係の本を片っ端から買ってきて一週間くらい家に閉じこもって勉強したんだよ。だから初めてのセックスの時は大丈夫。きっと貴方を満足させる事が出来るよ。

 わたしは、貴方と精神的、肉体的に一つになる為に生まれてきたの。

 わたしは、貴方と巡り会うためにこの世に誕生したの。

 わたしは、貴方に愛される為に生きてきたの。

 でもね、一つ疑問に思うんだ。


 いまわたしの目の前の鏡に映っている、

 肌がボコボコで吹き出物がたくさんあって

 髪も異様に少なくて落武者みたいな

 いかにも整形失敗みたいな

 醜い女は誰?

 ねぇ、誰なの?

 ねぇってば。



style No 42:



トントントントン。

今日も仕事を終え、満員電車に揺られ我が家に帰ってくる。
この家が僕の居るべきところ。
一番落ち着くところ。
家に入る時、僕は必ずドアの前に立ち止まる。
今日の献立を確認する為に、だ。
クンクン。
お、今日はカレーだな。
質素かも知れないけど、僕は君が作るカレーが一番好きだ。
昔僕の母が作ってくれた味に良く似ていて、凄く美味しい。
まあ、君の作るモノならなんでも美味しいんだけどね。
さて、今日も晩御飯の献立を確認したところで家に入るとするか。

ガチャ

「ただいまー」

「あ、おかえりー。今日は早かったね」

「まあねー。仕事が早く終わったもんでね」

「そっか。今日は飲みに行かなかったの?誘われたんでしょ?」

「うん。でも今日の献立が気になって気になって」

「あはは。それは残念でしたー。今日はカレーだよ」

「全然残念じゃないよ。君が作るカレー美味いもの」

「またまたぁ。おだてても何も出ないよ」

「や、そんなつもりで言ったんじゃないけどね」

「そっか。ありがとうございます、こんな安っぽい料理を好きだと言ってくれて」

「あはは。なんだそれ」

「あはは。あ、もうすぐできるからさ、着替えて座っててよ」

「おー、了解」

「スーツはちゃんとハンガーに掛けてよ」

「ははは。わかてるって」

 君に釘をさされた僕は、ちゃんとハンガーにスーツをかけいつもの指定席に座り、キッチンに立つ君の後ろ姿をボーっと眺めながらタバコに火をつける。

「はーい。お待たせー」

「早いなぁ。タバコ吸い始めたばっかだよ」

「あはは。早く消すの。タバコとこのカレー、どっちが大事?」

「はいはい。わかりましたよ」

 と、またもや君に叱られ渋々タバコを灰皿に押し付ける。灰皿に水が入っていたのか、ジュ、と火が消える音がしてタバコの匂いの代わりにカレーの匂いが僕の鼻をくすぐる。

「じゃあ食べようか」

「うん。いただきまーす」

 そして僕たちはスプーンを持ち、パクパクとカレーを食べ始めた。美味い。やっぱり君が作るカレーは美味い。ふと目線を君の方へなげると、よほどお腹が減っていたのか一心不乱にスプーンを口へと運んでいる。

「そんなに慌てて食べなくてもカレーは逃げたりしないって」

「モゴモゴモゴモゴ」

「あははは。何言ってるのかわかんないよ」

「(ゴクン)はー。」

「落ち着いた?」

「なによその言い方」

「あはは。だってさ、何言ってるのかわかんないんだもん」

「うー」

「そんなに怒るなって。食べよ食べよ」

「うー。しょうがないなぁ」

 と、君は怨めしそうな顔で僕を見ながらスプーンを口へと運んでいく。僕もつられてスプーンを口に運ぶ。

ガリッ

「わっ。なんか肉の中に固いのが入ってる」

「え?なになに?」

「ちょっと待ってね」

ペッ

「あ。ボルトだ。てか、今日の肉はどこの部分を使ったの?」

「んーっとね。モモだよ」

「誰の?」

「隣の田辺さんとこの長男だよ」

「あー。田辺さんとこの長男って前に事故で足の骨を折ったって言ってたじゃん」

「あー。そっかそっか。その時にボルトを入れたのかもね」

「多分そうだよ」

「ごめんなさい。気付かなかったよ」

「まあ、君の作るモノならなんでも美味しいんだけどね。」




style No 43:



 今日は僕の24回目の誕生日なんだけど、会う約束もしていなかった彼女からいきなり電話が掛かって来た。その電話の内容ってのが、渡したい物があるから今から私の家まで来てって事だったんだけど、その電話を切った30秒後には僕は家を出ていた。
 最近僕達は所謂倦怠期と言うやつで、僕の誕生日の事なんか忘れられてるかと思ってたけど、なーんだちゃんと覚えてるじゃん。倦怠期なんてのは僕の思い違いだったみたいだね。なんてことを考えながら、彼女の家に着くまでの1時間、僕は車の中でニヤニヤしっぱなしだった。
 彼女の家の前に着き、クラクションを数回鳴らす。いつもなら30秒も経たない内に出て来る筈なんだけど、今日は出てこない。ちょっと不安になった僕は車を路上駐車して彼女のマンションの階段を駆け上がり、ドアをノックした。

 コンコン

 …出て来ない。

 コンコンコンコン

 ……やっぱり出て来ない。

 失礼な事だとは思いながらも僕はドアノブを掴んで右に半回転させると、ドアは素直に開いた。部屋の中は電気が点いてなく、おっかしーなぁ。と、ブツブツと独り言を言いながら部屋の電気のスイッチをオンにすると、僕の目の前に映し出されたのは全体重をピンクのリボンで支えられている彼女の姿だった。彼女の手はダランと真下に突き出して宙を漂っている。両目はカッっと開ききっていて彼女じゃないみたい。勿論舌も30cmほど口から投げ出されている。僕はなんとか意識を保って彼女の傍に駆け寄った。
 彼女の傍に駆け寄り、体を触ってみると既に血の気は引いていて冷たい。そこにあるのは人の形をした50`弱の肉塊だった。彼女が首を吊っているピンクのリボンは、まるで僕に捧げる誕生日プレゼントみたいな感じがして、僕はその場に跪いた。
 ふと、彼女の丁度真下に視線を投げると、そこには「ハッピーバースデイ」と書かれた茶色い封筒が置かれていた。僕宛なのは間違い無い。僕はその封筒を急いで開けると、そこには「私のお腹の中には3ヶ月になる赤ちゃんがいます。この子はタカシ君の子だよ。私がどんなに不安な素振を見せても、タカシ君は全然気付いてくれなかったね。一人で悩むのには、もう、疲れました。誕生日おめでとう。天国で待ってるから」と、書かれていた。

 僕は彼女の後を追って自殺する勇気も無く、警察に電話した。



style No 44:



「豚が離婚してできるお菓子はなんでしょう」

「トンガリコーン」



style No 45:



「このはし わたるべからず」

この看板を見た一休さん、得意の頓知で解決を試みます。

ポクポクポク…

チーン

すると頓知で有名な一休さん、この言葉を気にも留めずにズンズンズンズン、ほれまたズンズンズンズン橋の中央を渡って往きます。

「一休さん危ないっ!」

カヨちゃんが叫びました。

「へへーんっ、へっちゃらだい!」

一休さんは返答しました。

「一休さん危ないっ!」

もう一度カヨちゃんが叫びました。

「へへーんっ、へっちゃらだっ……!!」

バシャーン





この橋は改修工事中でした。




さて、今日も懲りずに頓知を飯のタネにしている一休さん。今日はお城にご招待。

「一休や、このトラを見事生け捕ってみせよ」

お殿様は言いました。

この言葉を聞いた一休さん、得意の頓知で解決を試みます。

ポクポクポク…

チーン

すると頓知で有名な一休さん、殿様に向かってこう言い放ちました。

「任せてくださいっ!でもその前にこのトラを……このトラを……ひぃぃぃっ!」

ガブリ



一休さん、全治4ヵ月。



style No 46:


俺は勇者

悪の大魔王から世界の平和を取り戻す為に日夜戦っている

旅を始めてかれこれ三年になるが

大魔王を倒すにはまだまだ時間が掛かりそうだ

ある日、いつもの様に見ず知らずの人の家に勝手に押し入り

タンスやら本棚やらを物色していたら警官が来やがった

ここで捕まっては明日のスポーツ新聞のトップは俺だ

「まあ!勇者のくせに泥棒するのね!」

と。愚民供に悪態を吐かれ兼ねない

別に泥棒自体は罪悪感は無いのだが

悪態を吐かれるのはモリッとムカツクので

ある呪文を唱えることにした

「メ ガ ン テ」

警官はメがテンになった

目が点てププゥ!

俺は勇者

悪の大魔王から世界の平和を取り戻す気が最近無くなってきた




俺は勇者

悪の大魔王から世界の平和を取り戻す為に日夜戦っている

旅を始めてかれこれ三年になるが

大魔王を倒すにはまだまだ時間が掛かりそうだ

ある日、いつもの様に町民に話し掛けると

俺に頼ってばかりの町民はこんなことを言った

「伝説の剣ってこの町の何処かにあるらしいですよ」

これは聞き捨てならない

伝説の剣といえば俺がずっと捜し求めていた代物

詳しい情報を聞こうと、もう一度町民に話し掛けると、

「伝説の剣ってこの町の何処かにあるらしいですよ」

同じ答えだ。こいつは俺を馬鹿にしてるのか

誰の御陰で今の生活ができると思ってんだ

俺様の御陰だろ

この時、町民の態度に憤りを覚えたので、

四人の力を合わせ、ミナデインで皆殺しにした

秋風が爽やかに吹く昼下がりの出来事だった

俺は勇者

悪の大魔王と世界を二分しようか本気で考えている


style No 27:


「キャッ キャッ」
「ほらほらあんまり走ると転ぶわよ」
「だって早くいっぱいの動物さんたちにあいたいんだもーん」
「全く、しょうがない子ねぇ」

パタパタパタパタ…。

「おかーさーん!」
「なあに?」
「あそこにいるのってキリンさんだよねー?」
「そうそう。キリンさんよ」
「じゃあさじゃあさ。あそこにいるのはー?」
「あれはライオンさんよ」
「ふーん。ライオンっていうのかーなんかつおそーだなー」
「あのライオンが動物の王者なのよ」
「おうじゃー?」
「一番強いってこと」
「ふーん。じゃああそこにいる黒やら白やら黄色の動物はー?」
「あそこにいるのは哺乳類ヒト科の生き物でね、7000万年くらい前から地球にいる人間って生き物なの。この人間は地球を破壊することに専念した地球上唯一の生き物なのよ」
「へー。ニンゲンっていうんだー。おっかしななまえー」
「この人間も他の動物達と同じように絶滅寸前でね、今世界中で人間保護の活動が行われているの。だからマー君も人間を見つけたらちゃんと保護してあげようね」
「うん!わかったよママ!」




style No 28:


「いらっしゃいませー」
「ども」
「105円がいってーん、265円がいってーん・・・・・・あっ、あとこちらのお弁当は、金属に当たると反射し、プラスチック・セラミクスなどは透過し、水などに当たると吸収されるという性質を持った2,450MHzのマイクロ波と呼ばれる周波数の高い電磁波を使用し、マイクロ波によって食材に含まれる水の分子が1秒間に24億5千万回というすごいスピードで動かされ、分子同士で摩擦熱を発生させることにより材料自身が熱を発する、物を暖める機械。即ち、電子レンジで暖めますか?」
「・・・えっと、あの・・・・。それって普通の電子レンジですよね?」
「ええ。業務用の普通の電子レンジですよ」



style No 29:


「…あっ!樽崎?樽崎じゃねーの!?」
「おー!ひさしぶりー!」
「中学卒業してからだから何年ぶりだろなー」
「7年ぶりだなー。それにしてもお前ちっとも変わってないな」
「それを言うなって。気にしてるんだから」
「あはは。ごめんごめん。で、今日はなんでこんなことろにいるんだ?」
「そう言うお前こそ」
「俺か?俺は…まあ、人生色々あるんだよ」
「そうか。あまり深いところまで聞かないけど、なにかあれば相談にのるよ」
「ありがと。やっぱり持つべきものは友達だよな」
「なに言ってんだよ、照れ臭い」
「照れるなって。こっちが赤面するじゃないか」
「…そーだ!中学の頃クラスで一番美人だった塩谷っていま何してるか知ってる?」
「塩谷かー。AVに出たってとこまで聞いてるけどそれからは知らないなぁ」
「マジで!?えー!あの塩谷がAV…。見てぇなぁ」
「あっ。ごめん。俺見ちゃった」
「うわーまじかよ」
「マジマジ。でも知り合いが出てるのって気分悪いな。やっぱり」
「やっぱりそうか」
「でもやるべき事はやったけどね」
「抜いたんかい」
「わはは。当たり前でしょ」
「それにしても懐かしいなー」
「そうだなー」
「あっ。そうそう。こんな事話してる場合じゃなかった」
「何か用でもあんの?」
「うん。用って言うか、事情聴取。かな」
「あ。そうか。お前、警察官だもんな」
「…で、お前がやったんだろ?今回のメルトモ殺人」
「すいません刑事さん!つい…つい魔が差したんです…」




style No 30:


「勘弁して下さいよ」
「いいや、許さないし」
「だからさっきから何回も謝ってるじゃないですか。いい加減許して下さいよ」
「何回も謝ればいいってもんじゃない。君の謝り方には誠意が感じられないんだ」
「誠意を込めるには一体どうすれば」
「いいか。先ず、自分がした何がどう悪かったのか述べる。そしてそのことに対してこれから自分がどういった対応をするか明瞭且つ5歳の子供でも理解できるように説明するんだ。話はそれから」
「ええと、じゃあ。今日、取引先の常務のカツラが明らかに反対を向いていたので、常務、カツラずれてますよ。と下手な親切心をだして常務に恥をかかせたのは社会人として有るまじき行為だと思いました。これからは常務のカツラがずれていようが斜めになっていようが無視して、決して笑わず、話を進めていこうと思います」
「なんか腹が立つから駄目だな」
「何故です!ちゃんと常務の言った通りに解り易く説明したじゃないですか!」




style No 31:


「はい、この手のひらをよーくご覧下さい。いいですか?いきますよ」
「いいですよ」
「ワン、ツー、スリー……ハッ!」
「おお!手のひらのペンが消えた!」
「では、次いきます。えー次はこの500円玉を消してご覧に入れましょう」
「ええ」
「アー、べー、ツェー……ハッ!」
「おお!手のひらの500円玉が消えた!」
「じゃあ最後に。先程からの貴方の記憶を消してご覧に入れましょう」
「え。記憶ですか」
「ではいきます。イー、アル、サン……ハッ!」
「…」
「はい、この手のひらをよーくご覧下さい。いいですか?いきますよ」
「いいですよ」
「ワン、ツー、スリー……ハッ!」
「おお!手のひらのペンが消えた!」




style No 32:


あの暑さで僕は狂ってたのかもしれない。

 あの時の気温は35度。真夏日と言うには相応しい日。

 あの暑さで僕は狂っていた。

 あの瞬間、僕は自分がいま何をしたのかが理解できなくてただ蹲った。

 あの、嫌な感じだけは覚えている。

 あの、僕の周りの世界が簡単に崩れたことだけは覚えている。

 あの日、僕は初めて人を殺した。

 あの子は16歳で家出をしていて泊まる所が無かった。

 あの日、僕はその子に声を掛けた。

 あのー、泊まる所が無いのでしたら家にでも来ますか?

 あの子はコクンと頷いた。

 あの夜、僕はあの子を抱いた。

 あの子にしてみれば、泊まる所を提供してくれたお礼の愛情も何も無いセックスだったんだろうけど

 あの時の僕は違った。

 あの子が、歩道橋の下のガードレールの上でずっと空を眺めていたあの子が、愛しくてたまらなかった。

 あのまま、ずっとあの子とこの部屋にいれたらいいなと思った。

 あの時の僕の気持ちを解ってくれなかったのか、

 あの子はその日の内に僕の部屋から居なくなった。

 あの日の僕は狂っていた。

 あの子を狂ったように探した。

 あの子を見つけた。

 あの子を引きずって家に連れて帰った。

 あの子は嫌がった。

 あの子の髪を掴んだ。

 あの子は痛いと言った。

 あの子を殴った。

 あの子を殴った。

 あの子を殴った。

 あの子を殴った。

 あの子の顔は2倍近くまで腫れ上がった。

 あの子を殴った。

 あの子を殴った。

 あの子を殴った。

 あの子を殴った。

 あの子の悲鳴が聞こえなくなった。

 あの子の鼓動を感じなくなった。

 あの子は僕に殴り殺された。

 あの暑さで僕は狂ってたのかもしれない。

 あの暑さで僕は狂っていた。




style No 33:


僕は、プラットホームの時計を見る。

 今の時刻は午前5時30分。約束の時間まであと15分。
 時が経つのは早いもので、こうして君を待ち続けて 20年が過ぎようとしている。でも、未だに君は来ない。約束の日に行かなかった僕が悪いんだけど、その日はしょうがなかったんだ。行きたくても行けなかったんだ。
 一緒に親に内緒で上京しようって約束してたあの日の朝。僕はこれからの生活、これからの君との生活に夢を膨らませ親に黙って家を飛び出した。大荷物だと親にばれるから、僕の誕生日に君から貰った手作りのトートバックに必要最低限の物を詰め込んで、僕は家を飛び出した。
 僕は早く君に会いたくて、サビだらけの自転車のペダルを精一杯踏んだ。僕の吐く息は真っ白で、慌てて家を出てきたからうっかり手袋を忘れちゃって手が悴んでたけどちっとも気にならなかった。君との待ち合わせの時間には余裕で間に合う時間。でも、君よりも早く駅に着きたくて、君が改札を抜けて笑顔で僕に向かって走ってくる姿を見たくて、そして僕も笑顔で君を抱きしめたくて、僕は急いで駅に向かったんだ。
 でも、駅に向かう途中、僕はトラックに跳ねられた。僕の信号無視だった。
 僕は真っ黒な空に跳ね飛ばされ、カメラのシャッターをきるみたいに僕の目は周りの景色を写した。僕の血は雪を真っ赤に染め、ぼんやりと目の前に浮かんできた君を掴もうと手を伸ばしたけど、僕の手は雪しか掴めなくて、その赤雪は手のひらですぐに溶けた。
 だから行きたくても行けなかったんだ。
 そして丁度今、約束の時間。
 5時45分。
 僕は、プラットホームの時計を見る。
 でも、君は来ない。





 ハァ、ハァ、ハァ。
 私は、走りながら腕時計を見る。

 今の時間は朝の5時40分。約束の時間まであと5分。
 もう、彼は駅に着いてるかな?遅刻するのは私の得意技だけど今日だけは駄目だよね。だって上京するんだからね。でも、さっきからずっと走ってるんだけど、全然進まないの。玄関の扉に手が届かないの。
 上京するって決めたあの日の朝。その日に限ってお父さんに見つかっちゃって問い詰められたの。私は嘘を吐けなくて本当のことを話したんだ。そしたらね、お父さん、有無も言わさずに私のこと殴りつけたの。何回も、何回も、殴りつけたの。お父さんの顔はすごく怖くて、私は何もすることが出来ずにただ頭を抱えて蹲るだけだった。何回も、何回も、殴られたから耳と口からは血がドバーって出て、苦しくて息ができなかったけど、これからの貴方との生活を考えると我慢できたよ。偉いでしょ?だから、会った時はたくさんなでなでしてね。私が息苦しくなるくらい、抱きしめてね。
 それで私、何時の間にか気を失ってたみたいで、気が付くとお父さんはいなかったんだ。だからチャンス!!!って思ってさっきからずっと走ってるんだけど、玄関に手が届かないの。あともう少しなんだけど、駄目なの。届かないの。
 そして丁度今、約束の時間。
 5時45分。
 私は、走りながら腕時計を見る。





 僕は、私は、時計を見る。




style No 34:


 只今、私の目の前には断崖絶壁がございまして、ここから飛び降りるか否か、それを熟考する次第であります。ここまでの経緯と致しましては、私の営んでおりました会社を手放すことになった事が第一の原因に挙げられ、第二の原因と致しましては、二十年と言う長き年月を過ごしてきた私の妻が娘を連れて家から出て行った事が挙げられるのであります。家庭を顧みず仕事に打ち込んできた私に愛想を吐かせたとでも申しましょうか、先日、私がいつもの様に起きると妻と娘は何処にも見当たらなく、判を押された離婚届と「離婚してください」と書かれた書置きが居間のテーブルに無造作に放置されておりました。この様な事態に陥るという事は、当の昔に私自身十二分に予測しておりましたので、来るときべき時が来たか。という心境でその事態を簡単に消化できたのであります。さて、第一の原因である会社の事なのですが、ある男に騙されて会社の権利を騙し取られてしまいました。勿論私を騙したその男を殺した事は言うまでも無いのですが、これ以上、この現実の世界で生きるのが辛くなって参りまして自殺を決意したのであります。
 目の前は断崖絶壁。ここから落ちれば苦しまずに死ねます。私の決意は固く、意を決しこの四十五年間連れ添ってきた私の体を宙に放り投げようとした時、我が家にいる柴犬、ジョンの事を思い出しました。私がここで死んでしまってはジョンはどうなるのでしょうか。誰からも餌を与えられず餓死する事は目に見えています。

 自殺するのは明日にしましょう。




style No 35:


僕は空を見上げた。そこには当然の様な星空が広がり今の僕の気持ちを落ち着かせてくれる。
僕は目を閉じた。君の形を思い出そうとして目を閉じた訳だけど全然思い出せない。
僕は思い出そうとした。忘れるという行動で人は人として生きていけるってどこかの学者が言ってた気がするけど、君の事だけは忘れたくなくて僕は必死に思い出そうとした。

 僕はいま、君と最後に来た丘っいぽところの木にぶらさがっている。この丘ってのが星空を見るには最高の所で、君はこの場所が一番のお気に入り。暇があってはこの場所に来て星のことを話したりこれから先の事を話したり、時にはどーでもいいことを笑いながら話したりしてたよね。あの頃の僕達は…なんて言ったらいーんだろう、上手く表現できる言葉が見つからないけどとにかく楽しかったって事だけは覚えてるよ。心変わりを責めるつもりは無いけど、正直、この場所で別れ話を切り出された時はさすがにビビッた。つーか信じられなかった。君的にはヤバイよサインをビンビン飛ばしまくってたんだろーけど、男ってのは鈍感にできてんだよね。全然気付かなかったよ。
 まぁそんな訳で、未だに君の事を想いながら男一人こんなところで星空を見上げるのは傍から見たらちょっとキモイんだけど、ここにはいま僕しか居ないから特に問題は無いよね。って思ったら、君、向こうの方から歩いて来た。忘れていた筈の君の顔がかなりリアルに甦える。
 僕は呆気に執られてボーっときみ みる

 きみのよこ おとこ いる

 ぼく きのえだで ぶらぶら

 きみ おとこのよこ いちゃいちゃ

 ぼく くび ろーぷ

 きみ くび きすまーく




style No 36:


 

 僕は小さな頃から絵を描くのが好きで、画家になりたくてずっと絵を描いてきた。 10代の頃は流行の音楽や服に興味も持たずただがむしゃらに絵を描いていた。そんな僕を見て周りの奴等は頭がおかしいだの油臭いだの言っていた。お前たちの香水の方がずっと臭いんだよ、と思っていたが僕は言葉をかみ殺す日々を続けていた。 20代の頃は結婚や就職に興味が無い振りをして絵だけと対話をしていた。いつか有名になることを願って。いつか、僕を馬鹿にしてきた奴等を見返してやろうと思って。しかし願いは届かず、僕の夢や希望は30歳という節目と共に終わる。それが明日。僕の30歳の誕生日、だ。
 何故30歳が僕の中での節目かと言うと、母さんと約束したからだ。僕の母さんは僕がまだ25歳の時に他界した。母さんは、いつも僕にお父さんみたいにならないで将来は絶対有名な画家になってね。と、毎日毎日しつこいくらい言っていた。僕は全然覚えてなけど、父さんは僕がまだ幼い時に僕と母を残して死んだ。父さんも売れない画家だったらしい。そして、30歳になったら絵をやめて普通に働きなさい。とも言っていた。そんなこと言われなくても僕は画家になるのに。有名になるのに。と、その頃は思っていたが、30歳の誕生日を明日に控え僕は戸惑っていた。ここでやめて本当にいのだろうか。中途半端でいいのだろうか。 2時間ほど前からそのことばかり考えて筆が一向に進まない。絵をやめることになるならば、最後の絵になるだろうこの絵を前にして、僕の筆は沈黙を保っていた。
 時計は今の時刻を正確に示している。11時36分。あと24分で僕の29歳が終わり30歳が始まる。いい加減今のその日暮らしをやめて、普通に働いて普通の家庭を築いて普通に死にたいという気持ちもある。あるけど、このまま絵だけを描き続けていきたい、という気持ちもある。
 とりあえずこの絵だけは完成させようと、僕は沈黙を保っていた筆を無理やり動かした。途中まで完成しているこの絵は、僕の中でかなりいい出来でこの絵だけは今日中に完成させたかった。残り時間はあと20分をきっている。

僕は必死に筆を動かす。

僕の今までの人生を精算するかの様に筆を動かす。

僕はこの絵に僕の全てを塗り込む為に筆を動かす。

僕のこれまでの人生が間違ってなかったことを確認する為に筆を動かす。

僕は、誰の為でもなく自分自身の為に筆を動かす。

 そして、僕の筆は急に動きを失った。完成した訳じゃない。あと、あと一色が、あと一筆が上手く描けない。これさえ出来れば完成なのに僕の腕は遮断機の様に固まっている。29歳が終わるまで、あと1分。僕は焦っていた。今日中に完成させないとこの絵に僕の魂が入らない感じがして、駄作になる様な気がして、僕は焦っていた。

あと、40秒。僕は焦っていた。

あと、30秒。僕は焦っていた。ゴホッ。

あと、20秒。僕は焦っていた。ゴホゴホッ。

あと、10秒。僕は焦っていた。ゴホッゴホゴホッ。咳が止まらない。

あと、5びょ…ゴホゴホゴホゴホゴホッ。ゴホッ!

ゴーン ゴーン ゴーン ゴーン ゴーン ゴーン
ゴーン ゴーン ゴーン ゴーン ゴーン ゴーン

 正確に時間を刻んでいた時計が12回鳴り、僕の30歳の誕生日を告げた直後、僕の口からは鮮血が飛び散りその血はカンバスに降りかかった。僕が想像していた通りに、僕が今まで描けなかった一筆の代わりに、僕のドス黒い血がカンバスに飛び散る。
 そして、絵が完成した。
 僕はあまりの苦痛に椅子から転げ落ち、完成した絵を横目で眺めながら満足感と頭がボンヤリする位の苦痛に浸っていた。僕の口の中は僕の血で埋め尽くされ、満足に呼吸が出来る状態じゃなかったけど、それもまた気持ちの良いものに思えた。




style No 37:


 私は、死ぬ為にリストカットをしてる訳じゃないし、周りの注目を集めたいからしてる訳でもない。ただ、自分が生きてることを確認したいだけ。人としてちゃんと生きている事を確認したいだけ。私の手で切った私の腕から流れる黒い血を眺めるが私の一番の幸せ。その血が、血小板よって固まってゆくのを眺めるのが最も生きていると実感できる瞬間。他に手首を切る理由なんて無い。
 私の腕にはたくさんの切り傷がある。手首から二の腕にかけてたくさんの切り傷がある。でも、この、カッターとか剃刀とか包丁で傷つけた自分の腕を別に恥じてはいないし、夏になれば半袖で外にも出る。周囲の視線は私の手首に集中して、ひどく居心地が悪いけどそれにももう慣れた。
 私は自分のことを変人と思ってないし、むしろ正常だと思ってる。私が人として生きているのを確認してる訳だから、その為に一番切り易い手首を切るのは当然。全然変な事じゃない。
 そんなことを周りの友達に話したら、友達は私のことを変人だと言った。様な気がした。口には出さないけど、電話をくれなくなったし偶然会っても妙によそよそしくなった。
 こんなことは初めてじゃないから私は気にしてないけど、私から言わせもらえば変わってるのは私以外の周りの人。自分の思っていることを口に出さずに腹の内に溜め込んで、それをストレスとしている。自分のやりたい事をやらずに、それが出来ないのは周りのせいだと責任転嫁をし始める。愚痴を漏らすだけ漏らして、それをストレスの捌け口にしている。自分は何もしてないくせに、愚痴だけを漏らす。
 みんな変わってる。
 私は、やりたいことはやるし、自分の考えを持ってこの22年間を人として生きてきた。誰かに迷惑を掛けた訳じゃないし、他人に非難される覚えは無い。だけど、周りの人は私のことを変だと言う。ただ、生きていることを実感したいだけなのに、周りの人は私のことを変人だと言う。

 そして今日も、私は手首を切る。

 私が、人として生きている事を実感する為に、リストカットをする。

 今日も私の血は赤黒い。今日も私は生きている。




style No 38:


カチャカチャカチャカチャ…

「君の神憑り的なピッキングを以ってすればこんな金庫を開けるなんて容易いと思うよ」
「いやそんな、自分たいした盗人じゃないッスから。そんな事言うより手伝って下さいよ。警備員来ちゃいますよ」
「またまた謙遜しやがって。俺よりもピッキングが上手いからって俺を馬鹿にした挙句に見下した目で俺を見て自分がこの世で一番偉いとか自分は日本で一番ピッキングが上手いとかそんなことを考えてはいるけれども決して自分の口からは出さずにいい子ちゃんぶってゆくゆくはおもくそベッピンでスタイルデリシャスな大金持ちの娘のハートの鍵をピッキングしちゃった(爆)なんてことを言いながらその娘と結婚して新婚旅行は世界一周だにゃん☆とかほざきながら俺がこのしみったれた町でちまちま泥棒をしながらしがない一生を送っている時に君は家族5人で丹沢でバーベキューです。そんな君は、俺に喧嘩を売ってると言うのか」
「喧嘩なんて売ってないッスよ。しかもヨシトミさんの想像の話じゃないッスか。それより仕事しましょう。仕事」
「おぉ、そーだった。仕事しないと生きては往けないからね」
「そッスね」

カチャカチャカチャカチャ…

「で、ちょっと不思議に思ったんだけど」
「なんスか」
「おもくそベッピンでスタイルデリシャスな大金持ちの娘のハートの鍵をピッキングするコツってなに?」
「知りません」
「特殊な道具とか使ったりすんの?ギュイーンとか言うやつ」
「だから知りませんって」
「知らないってなんだよ!!!こっちは本気で聞いてるのに!!!」
「わわっ。ちょっ、ちょっとヨシトミさん。声でかいですって」
「馬鹿野郎!!声がでかいのは生まれつきだ!!!」
「いやそれはいいですけど、警備員に見つかっちゃいますよ」

コツコツコツ……

「シッ。誰か来たみたいですよ」
「誰か来たね。おもくそベッピンでスタイルデリシャスな大金持ちの娘かもね」
「いやそれは有り得ません」

コツコツコツ……ガチャ……コツコツコツ…

「(シー)」
「(コクン)」
「…」
「…」
「ヒッ…はっ…ヒッ……」
「(ヨシトミサさん我慢して!!!)」
「ひっ…………」
「(ヨシトミさん!!!)」
「プーー」
「オナラッスか!!!」
「そっ、そこにいるのは誰だ!!!」
「ギャ―!!!逃げろー!!!」

バタバタバタバタバタ……

 怪盗0号の異名を持つこの二人。ヨシトミさんとタナベ君。今までに出された被害届は

 無し。(2002年6月26日現在)




style No 39:

「で、先生。診察の結果はどんな感じだったんですかね」
「うん。まぁ。特に悪くないと思いますよ。頭以外は」
「頭以外ってなんですか」
「だから頭が悪いって事ですよ」
「えっ。もしかして脳腫瘍とか、脳内出血だとか?」
「ややや、違います」
「だったらなんです」
「だから、馬鹿って事ですよ」
「あぁ、じゃあ病気じゃないんですね」
「いや、一概にそうとも言い切れません」
「?」
「馬鹿にも病気みたいに種類と言うものありまして、治り難い馬鹿というのもあるんですよ」
「そうなんですか。って言うよりもなんで貴方に馬鹿馬鹿言われなきゃならないのか」
「知らないんですか?今年からWHO(世界保健機関)で馬鹿という病気が認められて、病院で診察出来る様になって保険も効くようになったんです」
「馬鹿ってのも病気になったんですか」
「そうです」
「で、僕の馬鹿は治るんですか?」
「それがですねぇ。貴方は考え方や精神における部類の馬鹿、いわゆる神経性馬鹿というのに当てはまりまして、これがなかなかどうして治り難いんです」
「手術とかはしなくて大丈夫なんですか?」
「いや、我々はまだ馬鹿の分野の研究をさほど進めていないので手術なんてとんでもない。なんたって馬鹿ですし」
「でしたら薬とかは頂けるんですよね」
「いやー。それがですねぇ。実は無いんです。薬」
「馬鹿につける薬は無い。と」
「そういうことですね」
 



style No 40:


18歳の時から6年間付き合った彼女に別れを告げた。
別れる理由なんて無い。
ただ、なんとなく。
その場の雰囲気でね。

別れ話の時、彼女は至って冷静で僕のことなんかどうでもいいのかななんて事を考えたり
彼女にとって僕という存在は必要としないものなのかななんてことを考えたり。
いろいろな事を考えながら僕はどーでもいい言い訳をしていた。

そんな最中、彼女は僕の言い訳を知らぬ顔で聞いている。
私には関係ないのよ。と言わんばかりの顔で僕の黒い眼球を見つめ返す。
僕は彼女の黒い瞳に映った自分を客観的に見てこの6年間を振り返ってた訳だけど
何を考えたのか彼女。
いきなり台所の下の棚にある包丁を取り出して
躊躇せずに自分の首を切りつけた。
死んでやる!!!みたいなドラマ臭いことは一切言わず
笑顔で動脈を切りつけた。
狙いがピッタリだったのか僕達人として生きている生物に流れる赤黒い血が部屋中に飛び散って
辺りの全てのものを朱に染めた。
あぁ、僕は彼女のこういうところが好きだったんだ。
なんてことを考えながら僕は痙攣している彼女の震える手が持つ包丁を拝借して
自分の首を切りつけた。
自殺する理由なんて無い。
ただ、なんとなく。
その場の雰囲気でね。












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