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とりっく・おあ・とりーと
 
                 大沢 純

 
 

「・・・あ。ここにもある。最近ハロウィンも国民的行事になりつつあるのかなあ?」

いつもの喫茶店のドア横にも、一抱え以上ある本格的ジャック・オゥ・ランタンが転がっているのを見て、相棒が首をかしげる。

「いんや。ここのは保育園と商工会の共同企画でさ。カボチャが飾ってあるお店に仮装していくとお菓子がもらえるっつー」

ドアベルをならして店内に入ると、先に着いていた担当編集がカウンターで手をあげる。

「お待ちしていました」

「『トリック・オア・トリート!』」

すかさず手を出し、満面に笑みを浮かべて言ってやる。

「サービスは子供だけだ」

打てば響くように、カウンターの奥からマスターの声。

「知ってますって」

にやにやと編集の方を向いて待つ。

「さあさあ。『いたずらかお菓子か』」

「なに無理言ってるの。クオータ仕事なんだからそんなの用意しているわけないじゃないか」

横から相棒の抗議。だが。編集の答えは意外にも。

「お菓子が欲しいんですか?」

お子様ですねぇ・・などとぼやきながら書類鞄からゲーセンのお持ち帰り用ビニール袋を引きずり出し、俺の手の上で逆さに降る。
ざらざらざらと雪崩のようにぶちまけられカウンターにまでこぼれる『30分おまかせ』棒付きキャンデーの山。

「わぁ! どうしたの、こんなに! 私ももらっていい?」

「どうぞどうぞ。いえね、時間が余ったので駅前で100円だけ試したら大当たりが出まして」

楽しそうに、キャラメル味あるかなイワシ味はないよね、と盛り上がる2人の横で、俺は哀しくじっと手(の上のキャンデー)を見る。
 
 

オカシヨリ、イタズラノホウガ、ヨカッタノニ・・・