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のっくあうと・ばれんたいん
 
                 大沢 純

 
 

「明日はいよいよバレンタインか〜。今年はどんなに素適な手作りチョコがもらえるのかな」

「聞こえよがしに言ったって何もでませんよ」

「ひでえ〜! 釣った魚には餌はやらねぇ主義ってか?」

「私『が』あなたを釣ったとでもおっしゃるんですか?」

「じゃ。お前が釣られたってことにしといてやるよ」

「何を言ってるんです! 大体・・」

「まあまあ。どっちがどっちでも同じことだと思うなあ」

「・・・今年は作家も編集も悪性の風邪で壊滅的状況ですから。編集長もチョコ作れとは言いませんよ」

「クオータも倒れたヒトの仕事までやってて忙しすぎだもんねぇ。無理しないで倒れたもん勝ちだよ?」

「だからなぁ。企画としてぢゃなく純粋にこう・・」

「純粋にロハのチョコが食べたいのなら、チロルチョコ袋詰めでも買って来てさしあげます」

「私はセコイヤチョコでもいいなー」

「・・・・・・」
 

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「あの・・クワイエット。もし使わないなら店の方のキッチンを貸してください。後片付けもしてから寝ますから」

「もう終わったからいいぞ。材料買ってきたのか」

「これから一年間ず〜〜〜っとぐちぐちやいのやいの言われたくないだけです」

「トリュフだな」

「『溶かしてこねて丸めるだけ』くらいのですむなら安いものでしょう。えーと。鍋は面倒だから電子レンジで溶かして。酒でも入れておけばとりあえず大人向けっぽくなるかな、と」

「計量スプーンは右の引き出し」

「大匙二杯。・・なんだか少ない。よしブランデーは二倍に・・おや。まだ溶けますね。ではサービス」

「お、おい! 直接瓶からどばとば注ぐ奴があるか〜! ・・ああ。十センチも減っている」

「大丈夫。混ぜれば・・ほら溶けますよ」

「・・・そういう問題か?」
 

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飽和点の限界まで挑んだあやしい不定形トリュフをうれしそうにひとくちで丸ごと食べた某作家が、一撃で昏倒したかどうかは。

・・・どうやらナイショらしい。