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もーにんぐ・こーる
 
                 大沢 純

 
 

ある朝。

家族の弁当と朝ご飯作りと叩き起こし回りに追われ、戦場真っ只中のオラトリオに、不審な電話がかかって来た。

「・・はい」

「たまごかけ(^^)」

「もしもし?」

たった一言で切れた謎の電話。

しかし、内容は謎だったが、かけて来た人物は謎でも何でもなかった。声でわかる。

わからないのは、こういうおちゃめなことをするのは大抵従兄のはずなのだが、今回は何故か担当編集だという点だ。

嫌がらせにしては手ぬるい。番号通知もONにしてかけてきている。

さらに困った事に、彼の記憶の片隅にナニカがひっかかっているのだ。

「コーヒーのお代わりはもらえないのか?」

「ごっはんーごっはんー♪」

考え込む猶予も与えられず、背後から催促の声がかかる。

「今ポットを持っていきますって。おめぇは自分でよそえ〜」

電話の前を離れようとした時。再びベルが鳴った。

十分警戒して出る。

「・・・・・・はい?」

「なっとーごはんー♪」

「おい!」

切れた。

今度こそ従兄だった。

一体全体、連中よってたかって何の真似を。

大体俺はシンプルな白ご飯に前の日の残り物のカボチャの煮付けを乗っけて食う方が・・・。

そこで稲妻のように記憶が蘇る。

昨日の晩、従兄の家でうちあわせ終了後宴会になだれこみ、かなりできあがって腹が空いて来た頃に、ご飯談義が始まったのだ。

それぞれお気に入りを食いたいと騒ぎ、一時はそのままコメを炊き、コンビニに卵や納豆を買いに行く勢いだったのだが。

流石に(周囲が)キケンだし御近所に迷惑、と言う事で取り止め、「でも朝になったら忘れているかもしれない」とだだをこねる従兄を「覚えてた奴が他のにモーニングコールしてやるから」と説得し・・・。

そこでオラトリオは重大な事に気づいた。卵と納豆はめいめい帰り道のコンビニで買って帰ったが。

「このタッパのかぼちゃ食っていいよねー?」

「おべんとにいれてもいいですかー(^^*)」

「・・・食ってから聞くな〜!」

「だってだって! 物足りなかったんだよ〜」

「昨日の晩御飯には出なかった品だな」

「2日目は特においしいんだよねっ。ねっ?」

「ちゃんとお前の分も残しておいたぞ」

「・・・ありがとー。みなさん」

よさげなかぼちゃが従兄の家の台所にころがっていたのをいいことに、鍋いっぱいの煮付けを作り自分の分を以前貸し出していたタッパに入れて持って帰って来たのだが。

オラトリオはやおら久しく使っていなかった自分の弁当箱を取り出し、白ご飯をぎゅいぎゅいつめ始めた。

「おにーさんも今日はおべんとーですかっ?(^^)」

「おかず・・ 足りるかなあ?」

「おかずはいらねぇ」

今日はみんなを送り出し終わって、朝の家事がすんだら従兄のうちに行こう。

行って、まだたっぷり残っているであろう煮付けをおかずに白ご飯を食べよう。

そんな野望を胸にせっせと準備をするオラトリオだった。が。

豆なら豆、りんごならりんご。

一点集中食いまくり型の従兄の台所に、昼時までかぼちゃが残っていたかどうかは・・・。
 
 

神のみぞ知る事実であった。