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Business Mode On/Off(ふぁみれす激闘編)
 
                 大沢 純

 
 
(Q:クオータ、Ot:オラトリオ、Oc:オラクルでお送りします。)

 
 

(ファミレスで打ち合わせのちょうど終わるとこらしい、編集と作家アンド絵描き)

Q : では、今回の〆切は、文だけ3日早く設定しますからね。

Ot: なんだと〜!(平日の昼間なので、声はおさえている)

Q : この前、〆切破りをしたのは、どこのどなたでしたっけ。

Ot: この前? お前、予備に半日とってあるって言ってたから、一応セーフのはずじゃねーか!

Q : 〆切が守れなかったことは事実です。

Ot: ありゃあ、な。家族の命にかかわるトラブルだったんだ。しゃーねぇだろ?

Q : 命? どなたか怪我なさった、という話はうかがってませんが?

Ot: スーパーのレジおばちゃんが…

Q : は?

Ot: 俺のカード、磁石でパッチンしてお釈迦にしてくれたんだ。
    育ち盛り食い盛りの多い我が家の生命線、復活させるのに、俺がどんだけ手続きに駆けずり回ったか!

Oc: あれはすごかったよねえ。手も口も早いオラトリオが、止める間もない早業だったもん。

Q : そんなにすごかったんですか?

Oc: すごかったよー。万札預かると磁石でレジに留めるだろ? 
    あのノリでカードをパッチン!とレジに留めちゃってさ。

Q : それは…すごい。

Ot: だろ?

Oc: オラトリオ人気者だからねえ。
    おばちゃん「いつも大変ですねえ」とかニコニコ話しかけてて、ついうっかりやっちゃったんだよね。

Q : ほう? そうですか…人気者はつらいですねえ?(にこ)

Ot: だろ〜?(にこにこにこ)

Q : だからといって〆切を破っていい言い訳にはなりませんよね。

Ot: だからといって3日も早い理由にはならねえよ。せめて1日!

Q : まかりません。

Ot: 0.5日!

Q : どーして増えるんです?! 「譲る」方に来るもんでしょう。

Ot: じゃ1.1日!

Q : では、間をとって、2日といきましょう。

Ot: どこが「間」だ! どこがっ!

Q : くやしかったら、きちんと実績でみせてください。

Ot: 鬼ぃ……

Q : (さっさと、とてもぶ厚いシステム手帳に書き込み始める)

Oc: 1日でも伸びてよかったじゃない?

Ot: おめぇはいいよ…ハナから遅いもん。〆切。

Oc: だって、絵と文じゃ、普通絵の方が時間かかるもの。

Q : オラクルは、毎回きちんと〆切守ってくれますしね。(にこ)

Ot: …あんだよ…俺ばっかり。いぢわるやろ〜。(テーブルに突っ伏して拗ねている)

Q : よし、と。(書き終わってシステム手帳を閉じる)

Ot: (まだ突っ伏してブツブツ言っている)・・・では、あんなにかあいいのに。

Q : !!!(いきなり立ち上がり、両手でしっかり握りしめたシステム手帳で、オラトリオの頭を力一杯
    はたきたおす。ゴチ!という音)

Ot: ってぇ!! なにしやがる〜!(涙目で飛び起きる)

Q : なっ、なに口走ってるんですか!!(耳まで真っ赤)

Ot: 「暴力は嫌い」じゃなかったんかい?

Q : 嫌いでも、やらなきゃいけない時はやりますっ!

    (ざわめく店内。そりゃそーだ。2メーター越す男が二人も立ち上がってわかんないこと叫んでるんだ…)

Oc: はいはい。静かにしてくださいね〜。みんなびっくりしてるよ?

Ot: …や、すいませんね…ちょいと声が大きかったかなっ、と…(愛想ふりまきつつ座る)

Q : …すいません…(渋々座る)

Ot: あ…コブできてるぜ…お前何で殴ったんだ?(ひそひそと叫ぶ)

Q : (システム手帳を開いて悲しそうに呟く)あ…カード電卓割れてる。

Ot: 泣きたいのはこっちだ…思いっきり殴りやがって。

Q : 「殴る時はためらわず全力で」が家訓ですから。

Ot: なんだよ…それ。

Oc: …クオータのきょうだい、皆そうだよね。

Q : そもそも、あなたが悪いんですからね。真っ昼間から公共の場で恥ずかしいことを口に出したりして。

Ot: どこが恥ずかしーことなんだ? 「かわいい」って言っただけじゃねーか。

Q : どこが? 一体、私のどこがかわいいって言うんですか? カルマやオラクルならいざ知らず。

Ot: 全部。(本人いたって真面目)

Q : !!!!(再び立ち上がって手帳を振りかぶる)

Ot: 待て。落ち着け! (同じく立ち上がる)悪かった。ちゃんと言う。

Q : ?(腕を降ろす)

Ot: まず、仕事モードでは沈着冷静冷酷非情なのに、実は…(指折り始める)

Q : !!!!!(再び腕を上げる)数えたてないでくださいっ!(一応小さい声で叫んでる)

Oc: だからー。他の人に〜。迷惑〜。(困りつつもあきれている)

Q : (ゆっくり腕を降ろし、テーブルの上を見据える)私が…かわいくないことは…私が一番知っています。
    私のことなんですから。(かすかに震える声)

Ot: それは違う。(妙にきっぱりと言い切る)

Q : ?(顔を上げる)

Ot: 今のお前には、お前自身が見えてない。俺が…見せてやる。お前を。(正面からしっかり見つめる)

Q : ……(なんとも言えない、少し泣きそうな目で見返す)

Oc: (ふぅ、と息をつき椅子の背にもたれる)

Ot: …(何か言いかけるが)
 
 

店長: あのう…お客様? どうかなさいました? 何か不手際がございましたか?
    (おそるおそる、しかし決然と横から声をかけてくる)
 
 

    (げんなりと、疲れた表情で道を歩く3人)

Q : もう二度と打ち合わせに使えませんね。…あの店は。
    (動揺も残すが、なんとか仕事モードを呼び戻すのに成功)たしかに、叫んだ私も悪かったです…。
    でも、オラトリオ、仕事の話の途中にどうして、ああいうことを言うんですか…

Ot: …俺が悪ぅございました。…はい。お前が、仕事以外じゃ、これほどきれやすいとは思わなかったんよ… 
    今後、気をつける。うん。外じゃ言わねえよ。

Q : 素直ですね。…もう、言わないでくださいね。外じゃ…(何かひっかかる気もするがわからない)

Oc: 残念だねー。あそこの抹茶ムース、クオータ、好きなのにね。

Ot: …オラクル。おめえの一言が印象悪化の最後の引き金引いたんだぞ? わかってんのか? 
    「犬も食わない、だけだから」は、ねーんじゃねえ? 
    「…そんなに不味かったですか?」って一発で店長トサカきちゃってよー。

Q : …そうですよ、オラクル。あなたもの書きでなくてイラストレーターでよかったですね。 
    …時々、日本語が変ですよ?

Oc: 変? …そうかなあ? 「夫婦喧嘩は犬も食わない」でしょ?

Ot&Q: オラクル?!