MMRR 第2部 「ラ・フランスの謎を追え!」 エピローグ 「ラ・フランスの謎」 |
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「ど、どうしたんだキバヤシ?」
「わかったんだよ。」
「な…何がです…!?」
「フランスを操りヨーロッパ全土に大打撃を与え、自らの思い通りに世界を動かそうとする…悪魔の計画の全容がな!」
「今まで謎のベールに包まれていた、あのラ・フランス計画の…ですか!?」
誰に向かって言うとでもなく、己に言い聞かせるようにキバヤシは答えた。
「…ああ。」
「一体、その全容って…?」
「権力を…手に入れるのさ。」
「…権力?」
「権力を手にし、国民全てを味方につけ、軍隊を支配下に置く…」
今までの長く苦しい調査の中で幾度と無く垣間見えていた真実の在り処が、一言一言キバヤシの口から語られていく。まだ現実的な危機が示されていないからか、それはいまだボンヤリとしたイメージのままであり、それ故にまるで夢の中にいるような…そんな感じすら覚えさせる。
「…そうすれば、戦争を起こす事も経済を操作する事も食料をタテに外交を進める事も…何もかも全て思うがままだ。全ては支配下に置かれ、全ては彼らの思うがままに動く事になる。」
だがメンバーの頭脳は、この状況下でも惑うことなく正しく機能していた。
「ちょ、ちょっと待って下さい。」
「権力を手に入れるって…それは選挙で勝つ、という事ですか?」
「………」
「キバヤシ…そうなのか?選挙で国を支配しようだなんて…今時の子供でも考えないぜ?」
さすがのナワヤもキバヤシの態度と理論の不自然さに気付き、黙り込んだままのキバヤシを問い詰め始める。
「ああ…確かに当たり前過ぎて非現実的な方法、そう思うだろうな。」
「そうですよ、それなら権力者のクローンを作ってすりかえた方がよっぽど効果的なんじゃ…」
それまでメンバーからの反論を黙ったまま聞き続けていたキバヤシだが、イケダの言葉を聞くや否やきっぱりとそれを否定した。
「いや。それは違うな。」
「え…」
「確かにクローンによる替え玉や人格改造遺伝子といった、人間を“変えてしまう”手段を使えば、一時的にフランスという国を支配する事は可能だが、それはあくまで“変わった”者による支配であり操作だ。誰の目にも明らかな違和感が映るはず…」
「それでは意のままに一国を操り続ける事は出来ない…?」
「そう、核ミサイルひとつを打ちこんで人類を絶滅させるようなものとは違い、外交・軍事・内政…国家のすべてを支配しなくては成り立たないのがラ・フランス計画だ。一時的な支配でたやすく完遂できるようなものならば、すでに世界から紛争や確執は消滅しているはずさ。」
「でも…幾ら支持を得る事が出来たとしても、それを維持する事の方がより難しいんですよ。そこまで人間の心を支配するにはマインド・コントロールでも使わないと…」
マインド・コントロール…今までも幾度と無く調査の対象となった恐るべき洗脳技術。ことあるごとに彼らの前に姿を表し様々な未来を黒く彩ってきた言葉だが、キバヤシはこの脅威の手法を前に全く動じることなく、堂々とその可能性について語ってみせた。
「マインド・コントロールか…確かに効果は大きいが、それはあくまで対象を絞った上での個人個人の話だ。数百万数千万という人間に向けて使うのならばテレビ等のメディアを利用する必要があるが、例え国営放送を掌握したところで視聴率は50%も無い、過半数にも満たない影響力では効率が悪すぎて使い物にならない。」
「た…確かに。」
「元々テレビなどのメディアは全世界に向けて開かれた業界であり、マスコミは権力の暴走を監視する番犬の役割を担っているんだ。世界のニュースが瞬時に入ってくるこの時代、国営放送以外の放送局を全て掌握したところで国外のメディアからチェックが入ってしまう…違うか?」
「マインド・コントロールは使えない、そういうことですか。」
「マインドコントロールやクローン技術…こういった特殊な技術は確かに強力だが、それを完全に活かす為の場所を作るのはさらに難しいんだ…新しい技術が生まれれば必ずそれを悪用しようとする輩が現われる、それくらいの対策を立てられないようじゃ今の世界で生き残る事は出来ない…!」
とうとうとマインド・コントロールの可能性について語るキバヤシに痺れを切らしたタナカが、再び質問を投げかける。
「で…でもキバヤシさん、選挙で完全に一国を支配するだなんて…本当に出来るんでしょうか?」
「タナカ…何故そう思う?」
「専制君主制や絶対王制…そしてパリ・コミューンに普通選挙法の施行、フランスの歴史はそのまま権力との戦いだったんです。選挙する権利を戦って勝ち取ったヨーロッパの人達を、歴史の中で磨き上げられた現代の選挙システムをそう簡単に手玉に取れるわけが…」
だが、キバヤシの理論はヨーロッパの数100年の歴史をもいとも簡単に踏み越えていく。
「…それが出来るんだ。」
「え?」
確信に満ちた答えを前に狼狽するタナカを尻目に、キバヤシはさらに衝撃的な発言を続けていく。
「権力を得るためには選ばれなければならない…当たり前過ぎる所がこの計画の1番恐ろしい所なんだよ!民主主義が数百年かけて作り上げて来たシステムを完全に支配する…これがどんなに恐ろしい事かわかるか?」
「しかし、そんな事が…出来るのか?」
「ああ!前例があるんだよ!」
「!?」
『前例がある』という予想だにしなかったその言葉は嫌が応でも場の緊張感を高め、反論を生む隙間すらメンバーから奪い取ってしまった。それを知ってか知らずか、キバヤシは間髪入れず自らの論を展開していく。
「お前達も知っているはずだ、あの男のことを!すでに一度民主主義が敗北したことを!」
「そ、それは…!?」
「抜群の才能と持ち前の雄弁で大衆を短期間で掌握し、世界征服をもくろみその1歩手前まで行った人物…“20世紀最大の怪物”と呼ばれるあの男を…!」
「まさか…!」
「そうさ!アドルフ・ヒトラーだよ!」
「ヒ…!」
「ヒトラー!?」
「そうだ!ヒトラーと言えば独裁政治・軍事政権というイメージが先行しがちだが、彼は何も武力で政権を奪ったわけじゃない。民が…選挙が彼を選んだんだよ!」
「選挙で…!?」
「第一時世界大戦での敗北により重すぎる賠償金を背負わされたドイツ…襲いくる悪魔のようなインフレ、諸外国からの糾弾といった精神的・経済的負担が国民を圧迫していた中で、現われたのがアドルフ・ヒトラーだ。彼は疲弊しきった国民に『悪いのはあなた達ドイツ国民ではない!』と救いの手を差し伸べ、絶対的な悪としてユダヤ人を祭り上げることでゲルマン民族の誇りを鼓舞した…!」
「………」
「無防備なまま生まれてくる赤子が自らを守ってくれる母親を求めるように、人間は潜在的に自由や責任といった個人の負担から逃れようとする傾向がある。人間の中に幾つも存在する欲求の中でも1番強い、生命・安全の欲求が…確実性と防衛と愛情を与えてくれる存在を狂気のごとく崇拝させてしまうものなんだ…!」
「そんな…」
「だ、だがそれはあくまで第1次世界大戦後という特別な環境があってのものだろう?」
必死に状況を整理し、ほころびを指摘しようとするナワヤ。キバヤシに反論する事はそれ事態意味を持たないはずなのだが、頭でそれをわかっていても身体がいてもたってもいられない…まさにそのような状態だった。
「違うな…」
「え?」
「それだけじゃないんだよ…!彼らは人間の根本的な欲求を扱うとともに、演説を行う時間帯を夕暮れ時にし、脳に直接的に働きかける重低音を流すことで心理的な効果を増大させていたんだ!」
「心理的な効果?」
「…不安感を操るのさ。太陽が姿を消しあたりが漆黒の闇に包まれる…恐怖の夜に怯えながら厳しい生存競争を戦ってきた我々生物が、1番不安になるのがこの夕暮れ時なんだよ!スピーカーから流れる重低音も同じだ、表面的には感じていなくとも我々の脳がそれを聞き取る事で常にストレスを感じ続けている…それが知らぬ間に当人の心を不安で埋め尽くすんだ!」
「不安感を抱いた人間は正常な判断力を失う…これはまるでカルト教団のマインド・コントロール…!」
トマルの口から何気なく出たその言葉が、信じがたい話の信憑性をより一層増幅する。
「マインド・コントロール以上さ…たった一人の政治家のカリスマ性とそれを増幅させる環境さえあれば、例え行く末に待っているものが破滅だとしても人はそこに流れていくのものなんだ…!」
「でも、第2次大戦以前にそこまでの技術が生まれていたとすると…」
「ああ、間違いない!すでに計画に必要な技術は完成しているはずだ!」
「そ…そんな…!」
キバヤシの口から明かされたマインド・コントロールをも上回る、人間の根源的な心理を巧みに支配する恐るべき技術の存在…しかしイケダ、トマル、ナワヤが狼狽している中、唯一人タナカだけはその目の輝きを失っていなかった。
「キバヤシさん…!」
「どうした、タナカ?」
「確かに恐るべき計画ですが、それは机上の空論じゃないですか?」
「どういうことだ?」
冷静に、言葉を慎重に選択しながら、タナカはキバヤシの理論に…絶望的な未来に立ち向かって行く。
「さっきキバヤシさんが言ったことをそのままとれば、その作戦は20世紀最大の怪物…ヒトラーという強大なカリスマ性を持つ人物がいたからこそ出来るもの、ということですよね?」
「ああ…さすがに技術だけで人間の心を操る事は出来ないからな。」
「…ヒトラーのような能力を持った支配者が、そう簡単に生まれてくるものでしょうか?」
「………」
「確かにナワヤさんへの反論で『大戦後という特別な状況以外でも計画を遂行できる』…そう言ってましたが、キバヤシさんの言う通りならば、この計画には突出した能力を持つ支配者が絶対に必要なはずです。世界を混乱に落としこむような能力を持つ人物がそう易々と生まれてくるのならば、世界はすでに全面戦争に突入していてもおかしくないはずです…!」
「そ…そうだよキバヤシ、その通りじゃないか!」
確かにこれはキバヤシの言葉を丁寧に検証した結果生まれたものであり、誰の耳にもタナカの反論は正しいように思えた。だがキバヤシはそれを顔色一つ変えずに聞き取り、完全に理解した上できっぱりと言いきった。
「残念だが、これからは世界のことを案じた方がいいだろうな。」
「…え?」
「…あるんだよ。」
ありえない事。それが全てだった。あまりにも非現実的なキバヤシの説に対して、先程タナカが何とか否定出来たのはありえない可能性、つまり現実的にクリアする事が出来ない問題、たったそれだけだったのだ。
「……」
あり得ない事があり得るならば…そう、現在この世界に存在すらしていない常識の前では、いかにタナカといえども無力以外の何者でもない。
「我々の想像をはるかに超えた…」
そう…あり得るのだ。
「不可能を可能に、非現実的な計画を現実にしてしまう悪魔の技術がな!」
「!!」
「それは…」
(そ、それは…?)
すでに声が出ない。目と耳だけがかろうじてキバヤシの方に向いている状態だった。これは恐怖なのか緊張なのかそれとも別の何かなのか…自らの感覚を抑えつける圧力の正体すら認識できないメンバーだったが、たったひとつ…キバヤシの言葉を聞くまでこの状態が続く事、何故かそれだけをはっきりと自覚していた。
「…神の業さ。」
(神の…業?)
「神の業を使って、最高の指導者を創造するんだよ!」
(創造?)
(!ま、まさか…!)
キバヤシの抽象的な表現の意味を理解したイケダだったが、圧し掛かる圧力を跳ね除けようとした彼の口から出たのはわずかな…わずかな呟きだった。
「い…」
「そう、遺伝子操作さ!!」
(遺伝子…操作…!)
「来たる21世紀は生命科学の時代だと言われている。遺伝子研究にクローン技術…太る体質になる因子を操作し、先天性の病気が根絶される未来がもうそこまで来ているんだ。人々を支配するカリスマ性を秘めた因子がすでに発見されていてもおかしくは無い!」
「…冗談じゃないぞ!」
精一杯の力を振り絞り、ナワヤが何とか声を張り上げる。だが、反論は思わぬ所から帰ってくる。
「いえ、おそらく見つかっているでしょうね…」
「タナカ…」
受け続けた圧力を跳ね返すかのように、タナカが喋り始める。キバヤシは彼の意向を汲み取り、自ら行なうつもりだった補足説明をタナカに任せることにした。
「現在僕達の前に発表されている科学の成果はおよそ80%といわれています。証明が不完全で理論上実用に耐えないようなもの、そして人道的立場から公開が控えられているもの…特に遺伝子情報の特許は莫大な利権が絡んでいる為、水面下ではかなり熾烈な争いが繰り広げられているらしいんです。」
「……」
「僕達の目の前に提示されたクローン技術ですら、あれだけの論争が交わされているわけですから…」
「…タナカの言う通り、科学技術は素晴らしいものであると同時に恐ろしいものでもあるんだ。特に昨今の生命科学における革新とその歪みは人類史上最大のものといえる。『遺伝子を扱う企業にはこの情報に間する特許を認めない』という共同宣言まで飛び出す始末だからな。」
「な、何!?」
「やっぱりそうなんですね、既に国家が介入する規模にまで…」
顔色一つ変えず呟くタナカ。その何気ない言葉の意味する所を悟ったトマルが思わず口走る。
「と…言う事はまさか…!」
「ああ、そう考えてまず間違い無いだろうな。」
「じゃあ、遺伝子操作の技術は既に…完成しているって事なんですか…!?」
誰に向けられたわけでも無いトマルの言葉があたりに響きわたる。だがその場にいる全ての人間が、その言葉に対する明確な答えを導き出していた。完成…しているのだと。
「馬鹿な…!」
「いいかみんな…ここの時点でのポイントは、如何にして人を惹きつける指導者を創りあげるかだ。それこそ圧倒的なカリスマ性と政治手腕を兼ね備えた指導者を、支配者と呼ばれるにふわさしい指導者をな。みんな…ここでひとつ思い出して欲しいことがある。」
「…え?」
「われわれが真実を追い求めた末に辿り着いた、ノストラダムスのあの詩を…思い出して欲しい。」
「あの詩?」
突然の問い掛けに少々戸惑ったメンバーだが、すぐに平静を取り戻したイケダが素早く返答する。
「『ひとりの皇帝がイタリアの近くに生まれ 帝国に多大の犠牲を強いる 彼が同盟者と並んで君主というよりも虐殺者とみなされる』…ラ・フランス計画を予言した詩です、よね…?」
「そうだ…この詩にはラ・フランス計画の全てが予言されているんだよ。」
「ラ・フランス計画の…全て?キバヤシさん、それって…」
「別に今までの解釈が間違っているというわけでは無い。少し考え方を変えればいい…そう、一度原点に帰ってみるだけでいいんだ。」
「原点、というと…?」
「1番最初にこの詩がどんな解釈をされていたか…憶えているか?」
「1番最初…?」
「無敵の軍隊としてヨーロッパを席巻し、みずから皇帝として君臨したあの英雄を、思い出してくれ…!」
ふと、メンバーの脳裏にある同一のイメージが浮かんだ。
「………」
「彼の辞書に不可能という文字は無い…そうさ、不可能は無いんだよ!」
キバヤシのその一言で、ボンヤリとしていたイメージが正確な映像へと変換されていく。馬に乗り勇ましいポーズをとっている男の姿が少しずつ明らかになり、映像が脳から様々な記憶を引き出してくる。瞬間、映像と記憶が合致し今まで抱えていた霧がパッと消え去った。
「!…ま、まさか!」
「ああ!それは…皇帝、ルイ・ナポレオンだよ!!」
「ナ…!」
「ナポレオン!じゃあ…!」
「ノストラダムスはこのたった一つの詩で、ラ・フランス計画の始まりから終わりまで全てを予言していたんだよ!フランスに生を受けた英雄そして皇帝であるナポレオン…彼の台頭・栄光の道筋、人としての限界・失脚、そして…神の業による復活・君臨をな!」
「ふ、復活!?」
「そうか、DNA解析による復元…!」
「復元…か。」
あり得ない事がまるで常識のように聞こえてくる…これ以上の心理的負担が他にあるだろうか。キバヤシの口から発せられる言葉はまさにそれ以外の何物でも無く、ひとことごとに言い知れぬ圧力がメンバーを包み込む。
「し、しかし…ひとつの詩にそこまで深い意味があるものなのか?」
「ナワヤ、ノストラダムスの大予言…諸世紀の記述が曖昧なのは何故だと思う?」
「何故…って言われても、元々そうだったんじゃないのか?」
「いや、これにはちゃんとした理由があるんだ。諸世紀…いや当時の予言書の記述がすべからく曖昧だったのは、『人心を惑わす』としてカトリック教会側から弾圧を受けていたからなんだ。そこでノストラダムスは記述を抽象的なものにして協会の監視から逃れようとした…」
「そ、そうだったのか?」
「おそらくノストラダムスはフランスの栄光の歴史を予言した詩を創ることで、規制の目を逸らそうとしたのでは無いだろうか?簡単な解釈を見せておけばそれ以上深入りしようとは思わない…そうだろう?」
「た…確かに。」
「そう考えればあの予言詩がナポレオンの出現を意味していた、と単純に解釈されていた事にも説明がつく。すべてはカモフラージュだったんだ…!あの詩の真実は栄光の裏に予言されていた、フランスを襲う恐怖の計画にあったんだよ!」
すでに非の打ち所が無かった。メンバーに出来る事はキバヤシの話を少しでも理解する事、たったそれだけだったのだから。
「と、いうことはやはり…ラ・フランス計画は…!」
「世界を再び戦いの歴史に…再びあの悪夢を繰り返すつもりなんでしょうか?」
「………」
「キバヤシさん…!?」
先程と同様に突然口を閉ざしたキバヤシに向かってイケダが問い掛ける。イケダの声が届いたのかそれとも届いていないのか、キバヤシはそれからしばらくして絞り出すような声で呟いた。
「違うんだよ…」
「え!?」
「繰り返しなんかじゃないんだ。」
「…!?」
今までに無く厳しい顔つきをするキバヤシ。
「確かに優秀な遺伝子を持ちヨーロッパを席巻したとはいえ、ナポレオンは全知全能の神ではなく人間だった。連戦連勝にも限界が見え始めた頃、彼の持ついくつかの脆さが決定的な失敗に結びつき…彼は失意の内に絶海の孤島でその生涯を終えたと言われている。」
「栄光に輝く道を歩き続けた前半に比べ、敗戦に次ぐ敗戦にまみれた後半…如何に優れた人間にも限界がある、と言うことですか…」
様々な思索を巡らせながら、キバヤシはある一つの言葉を選び出した。
「…だが、ここでナポレオンに脆さが無かったとしたらどうだ?」
「…!?」
「そ…そうか!」
この言葉が最後の引金となり、与えられていた様々なヒントがある一つの答えに収束する。あり得ない未来、恐るべき未来、信じたくない事実へと…!
「人類は神からもたらされた才能の在り処を解読することに成功した…つまり支配する為の遺伝子を、優位に立つための遺伝子を手に入れたんだ!英雄の遺伝子を操作する、これがどういう事だかわかるな?」
「英雄を創りあげるだけは無く、さらに強化まで…!」
「悪魔の技術…いや、神の奇跡…!」
「もはや英雄は生まれいずるものではなく、作り上げられるものとなったんだ!」
「な、なんてことだ…!」
「心理的側面から揺さぶる事で人々の不安感を煽り、遺伝子操作によって強化された英雄のカリスマによって一国を意のままに支配する…これが謎に包まれていたラ・フランス計画の全貌さ。」
明かされたラ・フランス計画の全貌。すでにメンバーには反論する気力すら無く、訪れるであろう西ヨーロッパでの騒乱から始まる世界経済の激変、戦力図の刷新を頭に浮かべるだけで精一杯だった。
「殺人兵器を使うわけでも超自然的危機が訪れるわけでもない…だが、この計画は合法的な裏付けのもと人が人を完全に支配するという…今までの歴史の中では考えられなかった恐ろしい未来を示しているんだよ。民主主義が長い年月を賭けて勝ち取ってきた選挙というシステムの終焉をな…」
「しかし…まさかこんな計画が…」
「もしこれが完全な状態で実行されれば…フランスは…」
「アメリカ、いや軍産複合体による新たな経済地図が生まれる…!」
「………」
皆が口々に絶望的な未来について口走る中…ただひとり目を閉じたまま考え込んでいたキバヤシは、かなり長い沈黙を挟んだのちに再び語り出した。
「ここまで言うべきかどうか…あくまで可能性の話なんだが…聞いて欲しい。」
「!?」
「確かにいままで話してきたのはラ・フランス計画、アメリカがフランスを支配する為の方法についてだった。だがこれは何もフランスに限った話じゃない、同じ技術が他の場所でも流用出来るとしたらどうだ…?」
「……!」
おそらく誰もが心のどこかに持っていたであろう限りなく絶望的な可能性。絶望的だとはいえあくまで可能性の話なのだが、迷ったすえキバヤシはあえてそこに足を踏み入れる事を決意したのだった。逃げるわけには…いかないと。
「強大なカリスマ性を持つ指導者の創造と人間の心理を巧みに操る技術がこの計画のポイントだ、つまりこれを適用する事が出来ればいつどこにおいても…民主主義、選挙制を適用している国を支配化における…そういうことなんだよ!」
「…!!」
「一体、どうすれば…?」
おそらく誰もが理解していた。
「理論上、この計画を防ぐ方法は存在しない。」
…というキバヤシの答えを。
「合法的なんだよ、全ては。それに一度発動すれば誰もそれを止めることはできない…!」
「じゃあ、このまま手をこまねいているしかないんですか?」
「フランスがアメリカの思い通りに操られ、世界が…民主主義が崩壊していくと言うのに…!」
「ひとりひとりが正しい自覚を持って正常な判断を行なう事…それしかない。」
歯を食いしばりながら…キバヤシは呟いた。
「俺達に出来ることは…何も、無いんだ………」
その男の身長はおよそ170cm。
小さな容姿にコンプレックスを持っていた彼は、
わざわざ自分の絵を大きく書かせたとも言われている。
もし人間の英知・精神が英雄のそれをも上回るならば、
これから先、長身のフランス大統領を見かけたならばあなたは彼にこう問うべきだ。
「あなたの辞書を見せて下さい」…と。
MMRR第2部
ラ・フランスの謎を追え!
完
なお、この作品は事実をもとにしたフィクションです。実在する人物・団体名とは一切関係ありません。
内容に関する御問い合わせは電話では一切受けつけておりません。ご了承下さい。
今回使用した画像です、御協力感謝!
缶詰さま | …ラ・フランス | もう随分昔に貰っていたんですけど、ようやく使うことが出来ました!缶詰さんには色々と面白い画像をいただきました、ありがとうございます! |
まず言っておきます、これがMMRです!この終わり方がMMRなのです!ラストを読んで『ふざけるな!』と思った方は是非単行本を読んで下さい!理屈で説明しているこの話の方がよっぽどマトモな話です!
と、いうわけでようやく終わりました。「ノストラダムスの大予言を適当な解釈でギャグにしてしまえ」という思いつきから始めたこの企画、先の見とおしの出来ない管理人らしく結局全編シリアスで終わる事になりました。「ラ・フランスってなんでラ・フランスって言うんですか?」という命題に真正面から取り組んだ情熱の産物といえば聞こえはいいですが、わかりやすく言えばギャグを書くには全てを決めておかないといけない、シリアスにするならば伏線を張って緊張感を持たせれば良い…ギャグってやっぱり難しいですよ、本当。
最初の方は殆ど何にも決めないまま、ただ間伸ばしする為だけに、適当に伏線をばら撒いてましたからね。今読み返すと全消去したいくらいですわ。中盤から後半にかけては前半にばら撒いた伏線を苦労しながら処理しつつ、ようやっと決めたラストにむけてヒイヒイ言いながら書いてましたねぇ…結構きつかったけどラストが見えている分楽しかったですね。
でも最後の最後で配分を大きくミスりました(笑)適当に書いて終らせようと思ってたんですけど、いざ最後の大弁論を書く段階になって説得力の無さが気になりまして…結局思いつくだけマイナスの因子をつぎ込んだらこんなに長くなりました。これだったらいつもの連載形式にした方が良かったかな…でもそれだと繋がりの面で行き当たりばったりになるし…やっぱりエピローグはまとめて書くしかないですよ。2ヶ月以上も待たせた事をここでお詫びしておきます、誰が読んでいるかは今もって分からないんですけどね(笑)
でも今回MMRR第2部を書き上げたことで、嘘と裏づけの無い知識で塗り固めれば、それなりに絶望的なシナリオが書ける事を始めて知りました(笑)本当にこういったくだらない知識は多いですわ、今回ほとんど取材や調査というものをやってませんから。逆にいえばウラをとってないので、あまり鵜呑みにすると管理人の知識違いでとんでもない事になりますからご注意を(笑)
ではここから懺悔タイムです(笑)
・他のメンバーの印象が薄い
基本的に喋るキバヤシに頭の悪いナワヤ、キバヤシの話に反応する他のメンバー。賢いタナカに海外で強いイケダ君はまだいいとして、トマル君の印象が薄いこと薄いこと。実際マガジンのマンガでも驚いたりうろたえたりしているだけで、喋らせないと存在すらわからない小説では非常に使い方が難しいんです。もうちょっと動かしても良かったかな…と後悔。・情景描写がなってない
基本的に熱弁するキバヤシに見守るメンバーという方程式が決まっているので、気を抜くと毎回同じ情景描写になるんですよ。ま、気を使っていても毎回同じ情景描写になっているので仕方が無いですけどね(笑)・伏線を放棄している
はい、これに関しては何も言う事はございません。モルディブなんてもう弁解するもの悲しいですわ、フォアグラに関しても誤魔化しきれなかったんですけどね…あと謎の組織ですが、今回は接触のみです。彼らは一体何者なのか?そして彼らの目的は?すべては第3部以降で明かされる…はずですが…これに関しては後述。・世界が滅亡していない
これに関してはいいでしょ、だってMMRリアルなんですから。早々世界が滅亡してたらリアルもへったくれも無いでしょうが!滅亡滅亡ってみんな聞き飽きてますから、少々リアルな話にしないと面白みが無いかなぁ…と。本当は嘘で地球を滅亡させる事に罪悪感を感じたんです(笑)一通り懺悔が終わったところで、もう少し核心に迫る話をしましょうか。
・マンガと違い絵が無い。
まずこれが最大の失敗でした。マンガのMMRの何が凄いかっていうと、無茶苦茶な理論でもインパクトの強い絵があれば全てが真実になる所なんですよ。文章であの絵を表現するのははっきり言って不可能ですよ、力不足とかそういう問題ではなく(笑)・元々ただの編集者、何が出来るわけでもない。
これにも困りました。MMRを読み返してみるとキバヤシ君が異常に分析力に優れているだけで、彼ら何のスキルも持っていないのですよ。射撃の腕があるわけでも天才的ハッカーなわけでもなく、格闘能力も立場から生じる権力すらも無い…本当に自分たちで調べて話し合う事ぐらいしか出来ない…これではストーリーも単調になる事うけあいですよ(笑)・結局果物のラ・フランスの名前の由来がわからなかった。
調べるのが面倒くさいし、どうせラストにゃ使えないだろうということで…缶詰さん、ごめんなさい(笑)
さて…と。半年間以上も他のコンテンツの更新を阻んで来たこのMMRR、これが終わった事でようやく他のコンテンツを更新することが出来ますよ。いい加減リンク先の皆様が怒っている(被害妄想)んですから、こんな思い付きで始めた企画に手を焼いている暇は実際ないのです(笑)
え?次回作はいつかって?だから言っているでしょう、手を焼いている暇は無いって(笑)「じゃあの謎の男はどうするんだ?」「第2部って言ったんだから第3部で早くスタンド出せよ」とか言いたい事があるでしょう…そういう思いをメールや掲示板で僕にぶつけてください、もしかしたら続編が始まるかもしれません(笑)
その際には追求して欲しい謎、その謎に関する様々な知識、こういった展開はどうか?という提案を同封してくれないと多分駄目です。いい加減自分の嘘で塗り固めるのに疲れました、手助けを下さい。あとゴーストライター希望者も募集中です、最大限の協力はしますのでモニターの前の君、どうかな?
これだけ色々要求すれば早々続編を書けという人も早々いないでしょう(笑)
でもこれだけ文章を書いたのも、長い物語をちゃんと完結させたのも始めてです。「小説家とそうでない人間の違いは実際に書き上げるか否かだ」という言葉通り、今回のMMRRは非常にいい経験になりました。これからもホームページで色々と文章を書くでしょうが、これより辛い作業なんて無いと思えば楽なもんです。
最後まで、そしてこんな後書きまで読んでくださった皆様に感謝の意を表して終わりにしたいと思います。ではごきげんよう〜