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乳房を取っても乳房に再発する! 乳ガンの基礎知識&手術法のメリット、デメリット
ドクターのところを訪れても、ある程度の知識がないと同じ土俵で話ができないので、乳ガンというものの正体について少しお話ししておこうと思う。
もっとも私は医療従事者ではないので、科学的な解説ではなくあくまで患者としての体験に基づいたものである。
病気仲間の話を聞くと「家族に話したら、ガンが残っているかもしれない乳房を残すなんてとんでもない。全部取ったほうが安全と言われた」「医者から全部取ってすっきりしましょう、と言われた」などという話が山ほど出てくる。私自身、マスコミの片隅に生息しながら、乳房温存療法という名称を聞いたことがなかったのだから世間一般の知識としては推して知るべしだ。
しかし第1章でもお話ししたように、アメリカをはじめヨーロッパ諸国では乳房温存療法が望ましい治療法として取り入れられて10年以上(米国国立衛生研究所=NIHの勧告時にはすでに普及していた)経っているのだから「乳房を取れば安心」という考え方は、世界の標準からはずれた日本独自のものである。
乳房を取って確実に根治するのであれば、その考え方もありだとは思うが、実は乳房を全部取っても再発があるとしたらどうだろう?
乳房を切除すればもちろん乳房自体への再発は起こりようがないが、傷痕周辺、胸部の筋肉、リンパ節への再発はあるし、遠隔転移については乳房温存療法と同様の率で発生する。大きく取ったからといって安心というのは、錯覚だと言ってよいだろう。
乳ガンのメカニズムを簡単に説明してみよう。
胸にシコリを見つけた場合、どれぐらいの率でガンが発見されるのかというと、医療施設によってもバラつきがあると思うが、だいたい40代で1〜2割、60代は8割だそうだから、シコリ=ガンというわけではない。
悪性腫瘍、すなわちガンとは正常細胞が変異を起こしたものだが、その特徴は浸潤、転移、再発。浸潤とは、ガン細胞が周囲の正常な組織にしみこむように入って増殖すること。転移とはガン細胞が原発腫瘍から分離して血管やリンパ管に入り込み、その結果からだの他の部分に入って新しいガン細胞をつくること。再発とは腫瘍を取り去ってもすでにからだに広がったガン細胞が育って、それが腫瘍として現れてくることだ。
と、書いてしまうとものすごくコワイ感じがするが、正常細胞がガン細胞に変異するのにはあきれるほどたくさんの難関をクリアしなければならないので、ちょっとやそっとじゃガンにはならないのだそうだ。
乳房は、乳汁をつくるための分泌腺が集まった器官である「乳腺」と脂肪からなっており、乳腺は乳をつくる「小葉」とそれを運ぶ「乳管」に分かれている。乳ガンはこの乳腺にできるガンで、タイプは100以上あるというが、大きく分けると乳管ガンと小葉ガンに分かれ、その大部分は乳管ガンである。ちなみに私は浸潤性乳管ガンというエラそうな名前のガン患者である。タチが悪いという評判も聞く。
腫瘍の大きさにより0から4までのステージ(病期、進行度)に分けられる。
このほか、非浸潤ガンと呼ばれ、ガン細胞が発生した部位の近くにとどまって周囲の組織に広がっていないものもある。0は病巣がエコー(超音波検査)などの画像にも映らないものということだが、これはめったにない。1期(ステージ1)は腫瘍の大きさが2センチ以下で乳房の外に広がっていない、2期は腫瘍の大きさが2・1〜5センチで、腋の下のリンパ節にまで広がっている場合もある、3期は腫瘍の大きさが5センチを超えるもので、腋の下のリンパ節にまで広がっている場合は2期より多い。4期はガンが乳房以外の部分に広がっている。多くの場合は骨、肝臓、肺、脳に転移しており、転移性乳ガンとも呼ばれる。
第1章でも触れたように、乳ガンは全身病なので、外科手術と放射線治療、ホルモン療法、化学療法などの補助療法との組み合わせで退治するというのが、基本的な考え方だが、手術の術法、放射線は照射するのか、化学療法はどの方法で、サイクル数は、などさまざまな組み合わせによる方法が考えられる。手術だけの局所療法では太刀打ちできないし、大きく取ればよいのではないという理由がここにある。
まず慎重に選ばなければならないのは外科手術。外観と機能は手術いかんによって決まるし、放射線治療や化学療法は途中で変更したり中止したりできるが、手術は切ってしまえば元には戻らない。また切っている最中は麻酔で眠っていて自分で操作できないのだから、手術の方法は特に注意して選ぶ必要がある。
外科手術には大きく分けて、ハルステッド手術(定型的手術)、非定型的手術、乳房温存療法の3つがある。
ハルステッド手術は、考案した外科医の名前からそう呼ばれているが、乳房のみならず大胸筋、小胸筋、まわりのリンパ節まで、取れるものはすべて取ってしまおうとばかりにゴッソリこそげ取るもので、形状はあばら骨が浮き出た湯たんぽのような感じになる。これは欧米では1970年代に死滅してしまった術法だ。が、日本では10年ぐらい前まではこれが主流だったという。数は減ったとはいえ、恐ろしいことに現在でも行われている。
昔、ハルステッド手術が主流だったことからこの手術を定型的と呼び、大胸筋、小胸筋の両方、あるいは大胸筋を残す術法を非定型的手術と呼んだ。胸筋保存乳切とも呼ばれ、イデアフォー(1989年に乳房温存療法を受けた患者が中心になって発足した市民団体)が1999年1月に発行した「乳がん治療に関する病院&患者アンケート」(以下イデアフォーのアンケート)によれば現在日本で最も多く行われている術法だ。
そして乳房温存療法は、腫瘍に周囲の脂肪組織をつけて取り去るもので、腫瘍を周囲の乳腺組織をつけてくりぬく腫瘤摘出術(一般にはくりぬきまたはランペクトミーと呼ぶ)と腫瘤を含む乳腺組織をくさび形に切除する乳房扇状部分切除術(4分の1切除術)に大別される。
デメリットがメリットを大きく上回るハルステッド手術を受けていた人たちはほんとうに気の毒だと思う。美観は著しく損なわれ、それによる精神的負担はいかばかりか。いくら本人のせいではないとはいえ、夫やボーイフレンドに二度と胸を見せられずにいる人や、子供と一緒にお風呂に入るのがためらわれる、友達と温泉旅行に行けないなどの深い痛みを抱えることになる。
機能障害もたいへんだ。「ずっと胸を鉄板でギュウギュウ挟まれている感じ」と表現した人がいたが、痛みもさることながら腕や肩の動きが制限される。
一方、非定型的手術は、胸筋はとらないので、外観も骨が浮き出るわけでなく、男の子の胸のようになる。機能障害はハルステッド手術に比べたらはるかに少ないが、決してムダについているわけではない器官を取るわけで障害は必ず出る。数キログラムある乳房を取るのだからバランスが悪くなり、まっすぐに歩けないという人もいる。腕や肩の上がりはもちろん悪くなる。
さまざまな理由で、温存療法が適応されなかった人はしかたないし、敢えて選ばなかったという人もいるが、私は技術的に可能であれば、この療法が美容的だけでなく機能的にも優れていると思う。
くりぬきだと切除する量は人にもよるが50グラム以内で卵1個より軽いから、あまり形も変わらなくてすむだろう。4分の1切除術は、正確に4分の1の量を切除するのでなく、くりぬきに比べて大きい切除範囲になるというものなので、個人差はあるにしてもふくらみが残る。
いずれの手術も、技術の高いドクターを選ばないと、傷痕が汚いばかりでなく、内出血や癒着などの合併症が起こることがある。私は担当外科医の雨宮医師が行った非定型手術の痕を見せてもらったが、大変にきれいで、もし乳房内に再発して再切除する場合でも安心だと思った。
切除する範囲が小さくなれば、乳房内再発率が高くなるのは当然で、切った断面にガンの取り残しのある「断端陽性」の場合には再切除をする場合が多い。
が、「断端陽性で再切除したがそこにガン細胞がなかった」「切ったところの断端がまた陽性でキリがないからやめた」ということもありうるから、抗ガン剤、放射線治療に賭けるという考え方もできる。
くりぬきで放射線をかけないというドクターはさすがにいないと思うが、4分の1切除で大きく取ったのだからと放射線照射を省略してしまうという危険な方法を取るドクターはいる。非定型的手術やハルステッド手術でさえ、放射線をかけないと、傷痕に再発する確率は3倍になると言われているのだ。乳ガンは全身病なのだということをくれぐれも忘れないで治療法を選んでほしい。
術法同様、考えなければならないのは、腋の下のリンパ節郭清の問題である。
ガンはいちばん近いリンパ節に最初に転移すると考えられており、乳ガンの場合は腋の下のリンパ節にいくつ転移があったかで、遠隔転移の発生する率をはかる目安にするため、明らかに腫れていない場合でも郭清する(根こそぎ取る)、というのが現在の治療の標準となっている。それにより化学療法を行うかどうかを決めるのだ。
が、私がリンパ節郭清を行わなかったように、リンパ節郭清に反論するドクターもいる。というのは、リンパ節が腫れていなくてもすでに全身に広がっている場合もあるため化学療法はガン患者全員に行ったほうがよい、ならば機能障害の出るリンパ節郭清をわざわざ行う必要はないのではないか、との説だ。
実際、腋の下のリンパ節を取ると、リンパ液の戻りが悪くなり、腕に水がたまることから、腕がむくむ浮腫が出ることが多い。私のガン仲間にも腕が丸太のように太くなってしまった人がいる。
浮腫になるとちょっとした切り傷からばい菌が入って赤く腫れあがることがあるので、虫さされやヤケドなどにも注意しなければならないのだ。
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