memento

MEMENTO



愛する妻をレイプされ殺され、その光景を目撃してしまったショックから10分間しか記憶が保てない
という前向性健忘記憶障害に陥った主人公が、ポラロイド写真のメモと、全身に刻んだタトゥーを手がか
りに妻殺しの犯人を追う。けれども、謎を追えば追うほど更に謎が広がり、まるで迷路をさまよっている
ような錯覚さえ覚える。記憶喪失のミステリアスな世界を描きながら、記憶という奇跡の能力の不思議さ
を意識しないではいられないそんな映画でした。

この映画のストーリーは始まりから終わりへと流れていくのではなくて、時間は断片的でばらばらで
前後し、まるでジグソーパズルのように映像の断片だけを映し出し、観客をも記憶喪失の世界へと引
き込んでいく。そしてそのような映像の断片を拾い集めて一つのストーリーを完成することができれば
いいですけど、できなければそのまま世界の迷子。永久に迷路にとじこもったままになってしまいます。
恐らく、この映画の主人公こそパソコンやテレビゲームで育った人間のデジタル思考そのものを映し
出しているのではないでしょうか?。人間はものを理解する時には、時間空間の中の原因結果で理解
していきます。つまり認識は因果律に従うということ。ところがデジタル思考はしばしばこの因果律を壊
してきます。ですからよく言われることですけど、天才はデジタル思考ではなくアナログ思考から生ま
れるものだと・・・。みなさんもたぶん経験があると思いますが、誰かが一生懸命べらべらしゃべっている
のに一体何をいっているのかさっぱり理解できないという場合が。そういう場合は因果律に基づいて
表現がなされていないからだと思います。例えば文章を書くとき、上手な文というのは起承転結に
なっているものです。最近の若者はすぐに逆切れするという逆切れ現象も、きっと物事を時間空間の
中の因果律でもって思考できなくなった人間の慣れの果てなのかもしれませんね。この映画の主人公
はそのような状況に余儀なく追い込まれた自分の運命に必死に抵抗していく姿を表現していますけど、
これは情報化時代の中を生き抜く人間の誇張された姿そのものなのかもしれません。





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