憂愁を帯びた風景の中に、静かに立ち、横たわっている裸婦。その大きく見開かれた
瞳は人形のように無表情で、覚めている。そしてその肌は、淡い月明かりの中、燐光
を放つように蒼白く神秘的に見える。それ故に、その禁欲的な冷たさの下に、かえって
はげしいエロスの情感が、波打っているように感じられてくる。死や老いへの恐怖は、
若さや美貌や快楽といった正反対と思えるテーマと表裏一体なのかも。そして、この死
とエロスのテーマこそ、彼の芸術の中心に静かに横たわるもの?・・・
肉体は肉体故の、儚さと愚かさと悲しさをもっている。月光の中、蒼白く浮かび上
がる女体の美しい柔肌からは老衰がかい間見えてくるかのよう・・・。絵全体を
おおっている、やさしいまでの死の翳。死の闇にあらわれたまばゆいほどのエロス。
しなやかに曲線をくねらすとき、その肌の内部にかくされた官能的な疼きに気づく
ものはどれだけいるのだろう?・・・。
エロチックというのは、何も胸が大きいとか、腰がくびれているとということでは
なく、もっと微妙で奥深いもの。エロティシズムが繊細なものであるならば、それが
一種の芸術であるならば、エロスは極めて女性的かも・・・。