エピソード1

シックスセンス



ある日突然、カウンセラーである主人公の前に、子供の頃に彼のカウンセリングを受けて いたという青年がやって来ます。そして、「あなたは約束をしたのに、自分は苦しみや 恐怖からずっと解放されないままだった」と、悲痛な悲鳴をあげながら、そのカウンセラー をピストルでうち、次に自らの頭を撃って絶命します。その時、カウンセラーは命をとりと めたかのように見えたのですが・・・・・これが、この映画の冒頭のシーンです。 実は、このあとのストーリー展開には、一つの謎が隠されています。つまり、主人公が命を とりとめて、話が展開していってるかのように思えたのですが、最後の場面にくると、 もしかして、このお話は、死にゆく彼が、意識の混濁のなかで見た夢かもしれないということです。

夢って、不思議ですよね。なぜかというと、自分たちは、自らが夢の支配者なのに、大抵の場合、 夢の主人公でもあるのですから・・・。つまり、夢をコントロールするのも、夢に翻弄されるのも 自分であるという分裂した状態があって、それは、目覚めているときは到底ひきうけることので きないものにもかかわらず、夢の中では容易く引き受けてしまうのです。この映画も、現実的な 現実感ではなくて、夢の中の現実感で綴られています。夢の中では、現実には有り得ないような ことが身に降りかかってきたとしても、ほとんど全ての人は、のっぴきならない恐怖を感じ、 本気になって驚き、かなしみ、怒る。まさにリアルそのものとして・・・。そして、夢から覚めると、 それらのことは何の根拠も持たず、あの時のリアルさは遠のき、非現実な夢として、片付けられる。 でも、果たして、夢の中のリアルさは、単なる夢にすぎないのでしょうか?。あののっぴきならなさ こそが現実とは言えないでしょうか?。正面から対峙するには手強すぎるリアルさを、実は夢に 引き受けてもらってるのではないでしょうか?。ところが、ときどき、夢に引き受けてもらえない 人達がいます。映画の中の少年のように・・・心が苦しくなって、誰にも理解してもらえなくって ・・・彼にとっては現実そのものなのに・・・。でも、小さな心で一生懸命耐えようとしている 少年の姿はけなげで、涙を誘います。

この映画の「シックスセンス」というのは、少年の死人が見えてしまうということを、 もちろん指していますが、夢も含めて、人間の心の中で起こる感覚を本当はいっているのだと 思います。五感までは、物質の世界で起こる感覚。でも第六感は違うのです。精神の中、心の中、 頭の中で起こる感覚なのです。ところが、精神的なものってとても個人的なものだから、 自己以外の他に流出できないし、誰かに話したとしても、すれちがった次元でうけとられて しまうだけ・・・。そこに、苦しみがあり、悲しみがあるのです。

この映画には、実はとっても素敵なシックスセンスが描かれているのです。全能でもなければ、 絶対でもない、バランスの悪い人間の精神と精神の交流なんて夢物語のように思うでしょ?・・・。 でも、可能なのです。難しいけれど・・・。この映画は、それをとっても切なく描いています。

カウンセラーは自分が救うことのできなかったかつての少年のことを思うたびに、この少年の 苦しみを助けたいという衝動に駆られます。でも、だんだん絶望的な気分になって、ほとんど 諦めかけます。自分の力ではどうすることもできないと・・・。でも、少年は「僕を救えるのは あなただけだ」と涙ながら訴えます。(なぜ少年はあなただけといったのか?・・・実はここ にはある秘密がかくされています。でも、その秘密は内緒です。これから映画を見ようという 人のために。)カウンセラーは、少年の涙の訴えに答えるがごとく、必死に少年の言っている ことが真実であるという証拠を探します。そして、とうとう見つけるのです。彼はテープに 残っている微かな音から、死者の声を聞くのです。(なぜ、彼は死者の声を聞くことが出来 たのか?。それも隠された秘密のせいです。)ここで、初めて彼は少年を受け入れることが できたのです。それによって、少年だけでなく、彼自身も救われたのです。彼は自分のこの 経験から、拒絶よりも受容の大切さを知り、少年に死人を怖がるのではなくて、彼等の言い分 を彼等の気持ちになって聞いてあげることをアドバイスします。そして、少年は彼の助言通り に実行し、死人に対しての恐怖は和らぎ、自分の秘密を母親に打ち明ける勇気をもつのです。 しかし、カウンセラーは少年を救うことができたという安堵の気持ちもつかの間、衝撃の真実 を知ってしまうのです。これが、この映画の冒頭にでてくる”ある秘密” です。誰にも しゃべってはいけないというあの注意書きにある・・・・・

相手の苦しみや痛みが、自分のことのように分かる・・・これもシックスセンス。この映画に 秘められた素敵なメッセージ・・・・・。つまり、true love というのは相手の苦しみや痛みが 自分の苦しみや痛みのように感じることができるということ。そして、それ以外のあらゆる愛は 自己愛であり、自己満足なのだということ・・・。きっと、素敵な人生は、このシックスセンス なくして、語ることはできないでしょうね。






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