今回のプリマドンナはロルナ・フェイホ。彼女の特長は「波打つ腕が表現する 奇蹟的な優雅さ」。細くてしなやかな腕が美しく優雅に波打つのです。あれはもう アートを超越した美しさでした。会場からも感嘆のため息が・・・。ほんとうに 見とれてしまいました。私がバレエが好きなのは、世俗的な日常で忘れがちな 気品というものをやさしく見せてくれるからです。特に女性のとっては大切だと 思います。子供を産む性として。何故かというと赤ちゃんは身近な人達から たくさんの影響を受けて育ちますから・・・。気品というのはまた感受性の問題 でもあると思います。だからこそ大切なのです。 七年前に日本人のお友達とイギリスのロイヤルオペラハウスで、 やはり英国ロイヤルバレエの白鳥の湖をみた時に、終わった後、彼女はこんなことを 言いました。「もし私が少女の頃にこのロイヤルバレエをみていたなら、私の人生は 変わっただろう」って・・・
西洋の芸術をひもといてみると、たくさんの芸術家が十字架を通して、 苦悩に美をみいだしてきました。「白鳥の湖」も苦悩を通して深い美を表現して いるんだと思います。苦悩が深ければ深いほど、また美も鋭くなるのです。 サザンクロスという言葉を聞いたことがあるでしょ?。南十字星、白鳥座ですね。 「白鳥の湖」の白鳥はもしかして十字架そのもの?、つまりキリストの苦悩と だぶります。人間の歴史の中で、キリストの苦悩ほど深いものは存在したでしょうか?。 私にはわからないけど、とにかく「白鳥の湖」はそれほど深い苦悩のなかに美を 表現しようとしている作品だと感じました。そういえば、この作品に出てくる 白鳥に矢を放った弓も十字の形をしていました。
最後に、ル・フィガロのコメントを紹介します。
「今日、パリで一躍有名になった若きロルナ・フェイホは、まさにオデットと
オディールの化身であった。2幕の白鳥のアダージオはたおやかで感動的で
情感に溢れ、3幕の黒鳥では驚くべき安定感とバランスの輝かしいテクニックを
見せた。人をひきつけて離さない魅力をもそなえたこの偉大なアーティストのことを、
私達はしばらくの間忘れることはできないだろう。」