CHAPTER 5
 
夫婦でUO     

 木こりをしていると、赤いローブの日本人がいた。この人はさっき町で別の日本人に話しかけていたのだけど、無視されていた人だ。     

 「なにをしていいかわからないんです」。MJはUOを始めて2週間だという。30歳で、テレビ局につとめていて既婚。通産省の仕事をやめて、テレビ局に入った。仕事は楽しい。夜は酒とゲーム。普通だけど、ほんわかした生活を送っている。今、妻がUOの画面を見て「私もやりたいな」なんて言ってるらしい。     
 ああ、なんて穏やかな生活をしてるんだ。しかしなんだ、なにをしていいかわからないなんて、人生相談でもしてる気分になってきた。     

 強くなるには、マジックポイントを上げるには、いろんな質問に答えていたら、今度は女の人が来た。彼女はnatasyaという名前で、どうやら夫婦でUOをやっているらしい。彼女はお金を稼ぐためにテイラー(洋裁屋)をやっていて、それで家と船を買ったらしい。歳を聞くと、23歳。若けええええ!     

 彼女はお金の儲け方をよく知っていて、詳しく教えてくれた。ダンナは今(UOの)おうちで私を待っているんですよー、にゃはは、なんて…くーっ、幸せがにじみでてますよ奥さん!たまらんね!ああたまらん!     

 しまいに「今度夫婦同士でダブルデートしましょう」なんて言い出す。     
 カーーーーーーーーこうなっちゃおいらの出る幕ねーっちゅーの、勝手にダブルでもトリプルでもしやがれってんだ!     

JOE&JJ     

 僕はSTR83だというのにPKされることに、まったくわからなくなった。なにがわからないかというと、どういう状態が強いのかということがだ。     
 しょうがないので、また木こりをしてSTRを上げ、金を作ることにした。     

 おそらく、パラメータは申し分ないはず。たぶん、parryingという攻撃をかわすスキルが足りないんだろう。     

 道ばたでPKに出会う。こちらが木こりをするために素っ裸なのをいいことに、ガンガン矢を放ってくる。だけど全然しつこくないのですぐにやり過ごす事ができた。その後装備を整えてそのPKのところに行くと、いやがった。     

 しかし、装備を整えた状態だと襲ってこない。     
 「hey,why don’t attack me?」(なんで襲ってこない?)     
 なにも喋らない。なんて情けないヤローだ。「weaker!」(弱虫め!)と言っても反応なし。PKするならもっとかっこよくやれや!     

 町に戻るとJOEとJJという日本人がいた。     
 「仲間になろう!」と話し込んでいたのだけど、どうも様子がおかしい。JJはSTRが85だというのに、自分を初心者だという。サーバーが落ちる時間を知らないところからすると、どうやら本当のようだが…。     
 もしかして最近出回っている「UO EXtreme」というチートソフトを使っているのか?しかし決まったわけではない。     
 「今度一緒に冒険しよう」と言い、今日は別れることにした。     

弱者と強者     

 コブトスのダンジョンに1人で行く。     
 そうするとどうだ、入り口に2人組のドロボーがいるじゃないか。     
 ドロボーはしつこくつきまとい、僕は必死に逃げる。結局ポーションをくすられた。くそッ、最近多いぞこういう連中が!姿を消してやりすごそうと思ったが、姿を消してもピーキング(バッグを盗み見)される!なんでだ!?姿を消していれば大丈夫なはずなのに…。     

 ううううう、コノヤロー!テメーら許さねーぞ!ブッ殺してやるから覚悟しろ!!僕はハルバードを構え、ドロボーのうちの1人に切りかかる。しかし、盗んだポーションを使って回復しやがる。僕はもうポーションを持っていない。しかも、どうやら相手の攻撃力、防御力の方が高い。僕のHPは次第に真っ赤になってくる。     

 ヤバい!これじゃあ殺すどころか殺される!逃げないと…。しかし不運は続いた。最近パシフィックサーバーはラグが酷いのだ。僕はこの酷いラグのために止まった画面を眺め、「死ぬ、死ぬ、死んじまう!」と焦った。     

 やっと画面が動き出した。と同時に「You are dead.」…。     
 灰色になった画面の中、ドロボーは僕の荷物を漁り、次々にアイテムをlootしていく。     
 なんという屈辱だ…!ドロボー相手に敢然と立ち向かった僕は、情けないことに返り討ちに合ってしまった。なぜ、なぜ、なぜだ!畜生!     

 …そうなんだ、いくら正しい行為だとしても、ここは弱肉強食の世界。強いもの、頭のいいものが勝つのだ。正邪の違いは、強弱の違いと対応しない。都合よく正義が勝つように予定調和のある物語なぞ、ここにはないのだ。     

 UOの社会は秩序が非常に緩い。だから、道を歩いていて山賊に襲われて殺されるのは日常茶飯事。三国時代の中国のようなものだ。しかし違うのは、リアルワールドの山賊は生きるために殺すが、UOの山賊は快楽のために殺す。     

 UOに存在する悪役はすべて快楽殺人者(シリアルキラー)なのだ。     
 死のない世界にある殺人は、快楽のためなのだ。     

カギの顛末     

 掲示板でカギのことを聞いてみたら、「カギ盗まれただけなら大丈夫だよ」ということだったので、ひとまず安心。     
 そう、UOワールドに無数にある家、その中でカギの合う家を探すのは眩暈のするほど困難な作業なのだ。     
 だけどまずった。あの元ギルドマスターの家に入れない。これだと、あそこに置いてきたいろんなアイテムが取り出せない。     

 これはもう、元メンバーに会ってカギを貸してもらうしかない。     
 僕も自前の家を早く持たなきゃな。