■2002/01/27 (sun)

 今日は移動日。

 これから車で5時間ほどかけて、サディおばさんとクラレンスパパの家がある
ラスベガスへ行くのだ。

 自分と弟はリッキーの車で行くことになった。

 ロス→ラスベガス間は、日本でいう東京→秋田間に相当する。

 東京→秋田間は制限速度を守って行くと約8時間かかるが、
 フリーウェイは基本的に制限速度がなく、直線道路なので、
安全運転でも平均約140Km/hの速度で移動できる。

 だから4〜5時間くらいでラスベガスに着くことができるわけだ。


    *  *  *


 リッキーはとにかくよく喋る。

 「マイケルは英語読み。ミシェルはフランス読み。ミカエルはイタリア読みだよ」


 「イエスタデイはね、教会の曲なんだよ。教会でもかかっていたでしょ?」


 「なんで神父は結婚できないのかって? ボクは教会と結婚して14年になるけどネ」


 「車は必ずシートベルトだよ! シートベルトをしてないと、運転手以外の人も
罰金を取られる。同乗者にシートベルトをさせてないと、運転手の罰金はハネ上がるよ。
1500ドルも取られる。日本円にすると…すごい額だろう!」


 「ほら、見てごらん、あの標識。窓からフリーウェイにゴミを捨てると1000ドルの
罰金だ! すごい額だろう? アメリカは景観についての法律が厳しいんだ」


 「見て! 山がとても綺麗だよ! 日に照らされて上だけ赤くなってる!」



 「ネットゲーム? やってるよ! 今はディアブロIIをやってるよ。レベル60のファイターだ。
マイクはレベル76のマジックユーザーだよ! よくLANでやってるよ」

 「ラピュータにトトロは見たよ! あのシリーズの映画は、顔の表情がすごく
変わって、わかりやすくて面白いネ!」


 キャシーによると、リッキーはなんでも好きだ。ゲームもするし、アニメも大好き。
 弟もそれにはびっくりだった。
 マンガやアニメはひとくくりで、全部カートゥーンと呼んでいた。

 しかし神父さんがディアブロIIとは! あのバイオレンスと呪いのゲームを(笑)。


    *  *  *


 車がラスベガスのあるネバダ州に突入すると、耳がツーンとすることが
多くなった。ベガスは海抜1000メートル以上の山の上にある。

 まわりの景色も、岩山と砂漠が多くなってきた。
 ほんとになにもない光景だ。
 一面、荒地が広がっている。
 更地が、地平線の彼方まで続いている。



 ここはマウンテンバイクの練習以外に使い道がないんだよ、などリッキーが言う。

 途中、クラレンスパパとキャシーに合流。簡単な食事を取る。
 パパも元気そうだ。このところドライブばかりだけど、疲れてないのだろうか。



 再び走り出す。
 リッキーがビートルズのベスト集「ONE」のCDをかける。
 ネイティヴな英語でどんどん歌っていく。

 ネバダの砂漠と、ビートルズ。
 今まで見たことのない景色をリアルタイムで見ながら、
ネイティヴ英語で歌われるビートルズを聴く。
 今までにない、新しい感覚だった。

 「Come together」を聴いてると、リッキーが言った。

 「come togetherは、一緒になろうよ、ってこと。結婚とかでなくて、一緒に寝ようと
いう意味ね。over meはオレの上になれってことだよ。セックス描写だね」

 そういう意味でしたか(笑)。


 リッキーといろいろな楽しい話をしているうちに、あたりはどんどん暗くなっていく。
 最後の「The long and winding road」を歌うころには、すっかり暗くなってしまった。

 すごいスピードで直線道路を飛ばしていく。
 目の前には、山の上に向かって吸いこまれていく車のテールランプの列があった。
 こんなに遠くまで車のテールランプが続いているのを見るのは初めてだった。

 リッキーが言う。

 「見てみなよ! 雲が町の明かりに照らされてる!」



 「あれはラスベガスの街の明かりだよ。すごい量の光が一年中途切れることなく
街から出てるんだ。それから一箇所だけひときわ明るく光ってるでしょ?
あれはね、ルクソール、日本で言うピラミッドの建物から出てるんだ。
ほら、よく見ると下からレーザーが出てるのが分かる」

 なんだありゃ!! すげえぞ!!
 こ、こんなものがベガスにあったとは!!

 近くまで来たのでデジカメで取ってみる。
 走りながらだったのでちょっと光が流れてしまったけど、
そのすさまじい光線はまさに衝撃的!!



 「この街はね、マフィアが大統領に大金を積んで、ギャンブルと売春を合法化した
と言われているんだよ。カトリックではそういうことは許されない。
だからカトリックでは、この街を『Sin city』、『罪の街』と呼んでいるんだ」。

 罪の街とはね…。
 そういう街があること自体驚きだよ…。


 そしてカジノについた!
 と思ったのだけど、ここはまだ序の口で、もっと奥に行くと
この100倍はすごい街の光が見れるそうだ…。
 明日はそこをまわることになるだろう。




 サディおばさんの家に着く。

 壁に、ヴァチカンのローマ法王、ヨハネ=パウロ2世とリッキーが
写っている写真があったのが印象的だった。



 リッキーが手を合わせてローマ法王からパンを貰っている。

 アメリカはキリスト教の影響を強く受けているが、そのおかげで
人々は、ほどほどの、明るさ、気安さ、善良さを持っているような気がした。

 信じること。
 祈ること。

 その行為の持つ力は大きい。

 それから私は、日常的に「Thank you」、つまり「ありがとう」が使われていることに、
この国が高い精神的文化レベルを持っていると感じた。

 駐車キップを貰うと「Thank you」、料理が運ばれてくると「Thank you」、
荷物を持ってもらうと「Thank you」、はては、にっこりするだけで「Thank you」。

 感謝。とにかく感謝。
 「人々は生きていることに感謝するために、日常的に『Thank you』を使っている」、
とさえ思えた。