■2002/01/29

 まだ暗い午前4時、リッキーに起こされる。

 「もう起きないと間に合わないよ! 朝ご飯があるから食べて」

 サディおばさんの家からラスベガス空港までは約2時間。
 8時の便に乗らないといけないので、1時間の余裕を見て
7時には空港につかなければいけないのだ。

 サラダ中心の献立の朝食を食べて、空港へ出発。
 クラレンスパパが運転。親父とリッキーが見送りにということで一緒に。

 サディおばさんが「ノリツグ、hug me」と言うので、
「また遊びに来るよ。今度はひとりで来るね」と、抱きしめる。


 果てしなく続くように思えるハイウェイをどんどん飛ばしながら、
雑談が始まる。


親父 「リッキーは本当に偉くなったなあ。日本に来たときはやんちゃで
イタズラばかりしてたのにな。
 お前もよく泣かされててさ…。目が恐いとか言って。
 それが今は神父さん。優しくて明るい神父さん。
 パパの育て方が良かったんだね」

パパ 「ハハハ、勝手に育ったらこうなっただけヨ」

リッキー 「オジサン、誉めてもなにも出ないよ!」


 ハイウェイをしばらく行くと、ラスベガスの街の明かりが見えてきた。
 午前4時だと言うのに、暗闇の中、煌煌と輝いている。

 欲望の明かり。
 欲望は果てしない。
 けれど、夢も希望も、野心も、野望も、愛も、献身でさえ、欲望。
 欲望は、前進する力。
 欲することを望むこと。

 道を間違わなければいい。
 選択を誤らなければいい。
 手段と目的を、間違わなければいい。

 常に、誰にとってもよい選択をすればいい。


    *  *  *


 空港に着く。

 手荷物を預ける。
 テロ対策なので、ぜんぶ調べますよ、ということで、
荷物はすべて検査。
 パソコンは電源をつけてください、とのことで
電源を入れる。壁紙が「スタークラフト」のデスクトップ画面が立ちあがる。

 するとリッキーが「Oh! starcraft! すごい面白いよネ!
なんだ、ノリツグ、プレイしてるんだ、今度一緒にやろうよ! マイクも
うまいんだよ!」などと言う(笑)。
 スタクラは本当に人々を魅了し続けてるなあ。


 検査は無事終了し、ロビーで待つことに。

 なんと、スロットマシンが空港内にもあり、
 「ここにもあるのかよ!」
 と、思わずツッコミ(笑)。
 暇つぶしにやってみるも、それは罠。
 思いきり吸いこまれる(笑)。


 1時間後、搭乗の時間が近づき、親父、パパ、リッキーと別れの挨拶。

 ここからは東京までは、ひとりで帰らないといけない。
 言葉が通じないのがちょっと不安だけど、まあわからなくなったら
適当な英語でぶっつけ本番コミュニケーションすればどうにかなるだろう、
と、あまり心配もせず。

 搭乗前の検査はかなり厳しくて、服を脱いだり、靴を脱いだり、
手を上げさせられて携帯物検査したりと、調べられるものは
すべて調べる、という感じだった。
 ちょっと緊張。
 テロ以降どこの空港でもこれをやってるらしい。

 特に最近はニュースで知っている人もいると思うが、
靴に爆弾を仕込んで持ちこんだテロリストがいて、
靴を脱がせる検査などが追加され、ますます厳しくなったようだ。


 やっとのことで、飛行機に乗る。
 国内線ということで、けっこう空いている。
 窓側の席に着き、窓から景色を写した。



 飛びたってすぐ。
 綺麗に区画されたラスベガス郊外の街並みが見える。




 ラスベガスは山の上にある。
 なのでちょっと離れると荒涼とした山々が広がっているのが見える。




 人っ子一人いない、森林もない乾いた山が、延々と続いている。
 地平線すら見える。
 単純に、広い。とにかく広い。土地が余りまくっている。

 下を見ると、長い道路が果てしなく続いているのが見える。
 それが、分岐して山の中に入っていったり、ちょっとした街に続いていたり。
 まるでアリの巣の断面図を見ているようで面白かった。


 1時間ほどして、ロサンゼルス空港に到着。
 朝の9時。

 乗り換えのため、てくてくと目的の国際線ターミナルを探す。

 乗り換える時、またもや手荷物と靴を厳重に検査される。

 しかも、入るとすぐに銃を持った迷彩服の軍人が2人、立っている。
 本物の銃! しかもあれはサブマシンガン。
 初めてリアルな大型銃を見たけど、ちょっと緊張だった。


    *  *  *


 帰りの国際線は、11時間で東京に着く。
 ほぼ半日、飛行機に乗っているのはちょっとつらい。
 あの気流の音さえなければまだいいんだけど…。

 飛行機に乗ると、自分の席にアジア系のおばさんが座っていた。

 「Excuse me, That is my seat.」

 と言っても通じない。英語はわかるみたいなのだが、自分の席だと思っているらしい。
 困った顔をするので、しょうがなくおばさんの席であろうところに着く。

 おばさんはタイからロスに来て、今帰るところだと言う。
 やはり飛行機の中は苦しいらしく、時々、

 「What hour is it to Tokyo?」(東京まで何時間ですか?)

 などと聞いてくる。
 おもむろにつらい表情をしてるので、席を倒して休むといいですよ、
と、片言で教えた。
 おばさんは「Thank you, sir.」と言い、寝苦しそうだったが、そのまま
寝入ったようだった。


    *  *  *


 成田空港に着き、チェックアウトを済ませる。

 重い荷物を抱えながら、帰国の感慨を感じた。

 自分の国があることへ感謝。
 こんな感謝は、初めてだな。

 今回の旅は、単なる観光でもなく、親戚の付き合いだけでもなかったと思う。

 広い世界にいる、さまざまな人種の、さまざまな人達。
 それぞれの暖かい部分に触れて、世界で唯一共通する想い、
誰もが持ち欲する想い、永遠に続く想いを知った。
 その「アムリタ」を味わった気がした。


 そして、自分の中では、とりもなおさず、リッキーの存在がとても光った。

 いつか、彼にまた会いたいと思う。

(了)