裕のページ
 裕のページを永遠に工事中にしておくのもいいかもしれない、などとも考えたがやはり出すことにした。

 1998年1月1日から、12月31日までに作った俳句の中から未発表のものを選んだ。私信を含めて、何らかのコミュニケーションの場に登場させたものは全て既発表扱いとしてこの場には登場させないことにした。これは著作権うんぬんよりも私の気分の問題であり、我ながらオリジナリティーという近代病に侵されているなと思うが気分を優先させることの方がこの際大事だと判断した。

 配列は時系列に沿って並んでいる。炎天下に第五氷河期の白昼夢を見るようなことがあるので、必ずしも四季の順とはならない。そのつもりで。

ヒーターにでろりとプラスチックかな

膝ばかり冷えて酸っぱい雨が降る

雨垂れに気付いてよりの風邪心地

紅梅やサナトリウムのふるきあと

エルニーニョナズナハコベラオドリコソウ

寒禽や進化の書より眼を上げて

孫の手のごとく芥へ冬日かな

啓蟄や草転がりし西部劇

季語の海五七五の海母語の海

少年の息ゆるやかにシャボン玉

春昼や携帯電話糸電話

氷嚢となりし女身の夜にあり

春の蚊や買うてこうてと声かかり

冴え返り桜木の樹脂濁りそむ

春月や壁に居並ぶガスボンベ

稜線にビルの有り処や春の闇

世田谷にマルクスを置くおぼろかな

クレジットカード栞とせし論語

躁鬱も風も変幻雪柳

かきぞめの地図は大陸ばかりかな

花万朶チェルノブイリのごとき湯気

みっしりと潮の煮凝り蟹の肉

花散るや立ってあくびのパイプ椅子

モノレール海へせりだし薬降る

遠蛙予言ふたつのともだおれ

やりすごす車の列や草いきれ

縄文杉の知らぬペロポネソス戦争

ワイパーの一枚二枚梅雨入りかな

海原やコロッケ五円之助昼寝

マダ記憶アリマス冷やし中華ほど

このティッシュ何処の雪の森よりか

凌霄や次の瓦礫を思う頃

言霊や喜連瓜割のアマリリス

ぽんと立つパチンコタワー青田風

歳時記の乱丁薔薇は忌にまじる

沖縄の少女の神話雲の峰

一面の古代史の記事濃紫陽花

手扇を二枚ふるいて人来たり

冷房につるんと目玉焼きが出る

椰子殻やスペイン砲の海に向き

朝涼や空に小さな絹篩

ナマケモノ腹に飼いたき夜長かな

曼珠沙華シルクロードの果てに咲く

モニターの色のとろけて夜の秋

黙々は手の形容詞木の葉降る

風船を追う風船の鏡かな

麦秋やメルヘンになき共和制

小春日の風入れにけり電脳室

叱責のいつかぐちゃぐちゃみかんかな

金属の飛跡一本冬木立

 戻る