「虫の息通信」より


 毎月投稿していた月刊「虫の息通信」(守恵一編集)が第99号にて幕を閉じることになった。発行部数200足らずの小さなミニコミに、それぞれの投稿者がユニークな文、絵を発表していた。

 私が投稿を始めてからでも6年ほどの年数が経っている。その間の投句数は478句。その中から50句弱を選んでみた。時期的に、阪神淡路大震災関連の句が多くなっている。配列は無季、冬、春、夏、秋、冬とした。

 

瓦礫とは物自体かな三ノ宮

枯れ草の砦一月十七日

火事の灰鵯越を駆け上る

枯野ありここに建てるはビルにあらず

造成地音なく暮れて二日かな

寒林に鏡のかけら己が顔

飛行機がプランクトンに夜寒かな

多変量解析理論冬籠

オリオンのちんちん星もよく見える

凍蝶や候補ふたりの選挙板

雪の日の座敷童子の忘れ物

右折車へ歩道橋より雪解水

地震後の一月やっと終りけり

偏屈の店の前なる春埃

まんまんと除湿器に水春曙

地震があった春泥へ打つ丸太の列

どうぞどうぞと絵師のすすめし踏絵かな

液状化せし地面より石鹸玉

顔消えし裸女のポスター黄砂降る

行先を変えたくなりぬ花の雨

バオバブを思える四月二日かな

轍切れ崖に白詰草の帯

日の落ちて新緑故に黒き山

丸虫の村落を訪う蟻二三

梅雨の空冷コーの中やったらなあ

弱冷車瓦礫更地を擦り抜けぬ

星々のしっかり光り出水川

夏草やあの大将も腹目立ち

誰も皆何かぶら下げ油照り

ぬいぐるみショーのダンスへ西日かな

あらがうと見せ風に沿い夏燕

白日傘ダンプの突きを受け流し

駅へ行く軽金属の蛇となり

鳳凰という空缶と月見草

花野にて振り向くことを思いけり

空港にやくざが多し草の花

蜻蛉飛ぶ明石原人眠る地に

秋の蚊の産卵あしたかもしれぬ

鳥威し飯粒糊とせし封書

真葛野に続く更地の神戸かな

かなかなや人の昼餉の獣めき

虫の音のエスペラント語賢治の忌

どぶ川や菊大輪に橋斜め

照柿や山道を抜け山の里

かねたたきテレホンカード穴の列

仮柵の多き通路や秋の風

コスモスの煙るがごとく枯れにけり

皮ジャンパー「つけの会社はなごもたん」

あまりにも雲の静かに風邪の昼

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