Shapley 値について(誰か、見てくれたの?)

1998年10月20日の早稲田交渉学会では、Shapley値のおさらいをしました。
Shapley値というものが、実際にどういう意味を持つのか、は各自でゲームの理論系の本で調べましょう。ここでは、限界貢献度とかの堅苦しい専門用語は抜きにして、こんな考え方もあるのだよ、という感じでまとめさせていただきます。(本を読んで分ることなら、本を読んだほうがマシでしょう(笑))

さて、当日はキャビアの話をしました。キャビアがどうしたかっていうと…
A社
£250/100g
B社
£300/100g
C社
£350/100g
で、キャビアを作ってるわけです。値段は加工にかかる費用です。原価の部分は引いてあります。(この部分、研究会では話しませんでしたが、こうしないと都合が悪い、理由は皆さんで考えて下さい)で、このキャビア、質は全く変らない。ちなみに、作ってる量はどの社も毎日100gです。さてさて、話は飛ぶのですが、このABC社が協力してキャビアを生産することになりました。なぜならば、これまでよりもコストが安く生産することができるからです。実際に、ABC社が一緒になってキャビアを生産するとトータルで£750でいいのです。もちろん、これは300g当りの数字です。
ところで、ABC社が協力(提携)したことで、£150がうきました。Shapley値というのは、このういた部分をどのように分ければよいか、ということを(難しい言葉で、限界貢献度の平均値をもって)示してくれるものです。
上のような状況では、ABC社の間で交渉が行われるのは当然のことといえます。そういうときに、一つのよりどころとして、また別の交渉項目との比較の項目として、Shapley値というものが利用できることになります。(註)
では、どのように£150を分けるのでしょうか。まず、一般論として次のようなものが考えられます。

1 3社が協力したのだから、ういたお金は3等分するべきだ。(上の例の場合では、各社とも£50ずつ減らし、£A200,B250,C300となります。このわけ方を公平だと思われる方もおられるでしょう。しかし、実際に自分がそれぞれの立場だったとしたらどうでしょうか。A社としては、もともと生産性の良かった自社が協力したからコストを削減できたのだ、と詰め寄りたいでしょう。逆にC社としては、A社に対してコストの比率が1.5倍になってしまう、それじゃ競合する業社としては立場が弱くなる、と反論したくなります。)


2 ういたお金はもともとのコストの比率と同じだけ配分しよう。(特にC社がいいたそうな論理です。%でいうとA:B:C=27.8%:33.3%:38.9%になります。£A208,B250,C292(四捨五入済)となりますね。これだと、結果的にABC社のコストの比率は変りません。C社としては、コストの比率は変らずに、一番大きい額を提携によってうかせることができます。面白くないのはA社で自分のところの生産性の成果を他社に多く奪われる、と文句を付けるでしょう。)

3 2とは逆にもともとの生産性の割合に応じて配分しよう。(計算は面倒なのですが、£A189,B252,C309となります。A社としては、自分の会社の生産性が他の社の分を引っ張ったと主張することで、この値段を得たいところです。が、BC社にしてみれば、量産によってコスト削減ができた、と主張したくなります。)

次に、この3社の交渉の中で起こりうる状況を考えてみます。というのは、ABC社が提携している状況で、どれか1社が協力をやめる、と脅す場面です。
ここでは、A社が協力をやめる、と主張する場合を考えてみます。現在、ABC社が協力して£750というコストに押さえられています。しかし、A社が撤退することで、BC社は£600/200gという生産性になったとしましょう。そうすると、A社が協力関係にいることで、全体のうち£100がうくことになります。とすれば、A社の貢献度は£100だと考えられますね。だから、A社としては、£100に近い額を自社のコスト削減分として主張したいところです。
ところが、この場面は、BC社にとってもあてはまります。どれだけ、BC社の生産性が低かったとしても、ある程度の量産効果はうまれますからね。ですから、B社もC社も自分がいなくなった場合に生じるであろう、コスト削減分の損失を自社の貢献分として主張できるわけです。こうなると、交渉は大変なことになります。そこで、導入されるのが、今回話題のShapley値です。

それでは、Shapley値を考えてみましょう。
Shapley値は上のような交渉において、交渉主体それぞれが提携する場合場合を全て考えて、提携への参加の順序に捕らわれずに、利益の配分を適性にしようとするものです。事例を考えてみましょう。

A £250/100g

AB £480/200g

ABC £750/300g

B £300/100g

BC £600/200g

C £350/100g

AC £540/200g

という状況が考えられたとします。AB,BC,ACの数字は、2社が協力した場合の数字、言い換えれば、3社連合から1社が抜けた状態です。
この数字を元にShapley値を出してみましょう。表は完成したものを掲載しました。実際の手順は、提携への参加の順番どおりにコストの表を埋めていきます。で、後から参加したものが、自分の参加によって生まれた利益を全て横取りできる、ということにします。全組み合わせをやることで、平等になるだろう、というものです。(分らない人は別に掲載する練習問題をやって下さい。)

提携への参加の順番

A社のコスト/100g

B社のコスト/100g

C社のコスト/100g

ABC

250

230

270

ACB

250

210

290

BAC

180

300

270

BCA

150

300

300

CAB

190

210

350

CBA

150

250

350

合計

1170

1500

1830

合計/6

195

250

305

上の例は、生産性のいいものと協力することで、より生産性が良くなるという場合のものです。技術主導のモデルだということができましょう。逆に、下の例では、生産性の悪いもの同士が協力するほうが、生産性のよいもの同士の協力よりも、より生産性が良くなるモデルです。こちらは、量産効果によって無駄が省かれるモデルだといえます。二つの事例を比べやすくするために、ACの協力関係での生産性は変らないように設定しました。(どこがどう違うか、よく見比べて下さい。)

A £250/100g

AB £500/200g

ABC £750/300g

B £300/100g

BC £580/200g

C £350/100g

AC £540/200g


提携への参加の順番

A社のコスト/100g

B社のコスト/100g

C社のコスト/100g

ABC

250

250

250

ACB

250

210

290

BAC

200

300

250

BCA

170

300

280

CAB

190

210

350

CBA

170

230

350

合計

1230

1500

1770

合計/6

205

250

295

この、二つのモデルを見て、先の一般的な状況(上の方です、リンクはしますが、もどってきませんよ)の3と2がそれぞれに対応しているような気がしませんか。
実際の交渉においては、全ての協力関係についての数字がわかるわけではありません。だから、ある人(社)がいなくなったら、どれくらいの利益の損失があるか、ということをそれぞれ査定してやらねばなりません。(査定の際の基準がすべて同じ程度ならまぁ良しとしましょう。この査定のやり方は、今回の勉強の範囲ではないので割愛します。)

やり方を理解していただけたでしょうか。実際の交渉では、この数字だけが正当なものだ、というわけではありません。それよりむしろ、この数字を根拠として、自分の取り分がいくらすくないのだから、別の交渉項目で譲歩しろ、と交渉することに使用するほうが建設的です。けっして、Shapley値だけが、取り分の分配方法であったりはしません。あくまで、指標の一つです。この点をお忘れなく。

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