ノロウイルス 一連の事件の背景と問題点、今後の展望について


 感染力が強いノロウイルス

ノロウイルスは、1968年に米国のノーウォークという町の小学校で起きた集団感染で、はじめて確認されました。我が国では97年に「かきの生食」等によって引き起こされる食中毒の原因物質として認められた胃腸炎を起こすウイルスです。当時は小型球形ウイルス(SRSV)と言われていました。

このウイルスは感染力が強く、10個から100個程度の少量のウイルスで感染し、発症します。食品や環境中では増殖しませんが、人の腸内では爆発的に増えて、便とともに数千万から数億のウイルスが排出されます。治癒してからも、1〜3週間ほど排出されます。アルコールや逆性石けんなどの消毒薬は効果がなく、加熱消毒するか、次亜塩素酸ナトリウムで消毒するのが効果的です。

 事件の背景

03年に起きたノロウイルスを原因とする食中毒は事件数で278件、患者は10,603人となっており、このウイルスによる食中毒防止が食品衛生の最重要課題となっていました。

ノロウイルスは、「かきの生食」以外にも、調理従事者の手指から、食品を介して感染したり、患者の糞便や吐物によっても感染するので、特別養護老人ホームや保育園などの福祉施設で、吐物の飛沫による感染や患者の糞便、おう吐物を処理した人から感染する事例も多く発生しています。しかし、死者が出た事例はありませんでした。

<なぜ死者が>

 ところが、今回の福山市の事例では7名の死者を出してしまいました。その後、各地の特別養護老人ホームなどで、ノロウイルスに感染した患者が死亡したとの報告が続いていますが、大部分は、おう吐したものを誤って飲み込んでしまった誤嚥(ごえん)性肺炎が原因です。

福山市の例では、市の調査委員会の報告でも死因の特定ができず、委員会の関係者も「体力のないお年寄りは一般的な感染でも容態が急変する。ノロウイルス感染がきっかけとなったと考えられるが、最終的な立証は困難」と発言しおり、死因の究明は困難になっています。

 感染の拡大を防ぐには<発生初期での適切な対応>

集団給食や飲食店などでのノロウイルスによる食中毒の場合は、原因となる食品を食べてから24時間から48時間で集中的に患者が発生します。しかし、食品を介さず、人から人へ感染する場合は、最初に少数の感染があり、そこから施設内で長期間にわたって発症が続きます。

今回の事例では、発症が確認できた早期の段階で保健所や市役所に連絡して、適切な対応すれば、感染者や死亡者を少なくできた可能性があります。

 発生防止に向けて<ノロウイルスの特性に合わせた予防策を>

 ノロウイルスは、少量のウイルスで感染すること、糞口感染(糞便から手指を介して口に入る)することなど、腸管出血性大腸菌O157と似た部分が多くあります。しかし、大きな違いは、ノロウイルスはアルコールや逆性石けんの消毒効果が無いこと、患者の吐いた吐物の中に排出され、飛沫や乾燥して埃ともに口に入ることで感染する場合があることです。

 石けんを用いての徹底した手洗い、加熱(851分)、塩素消毒と、おう吐物中にあるウイルスを飛散させないことが感染を広げない最も重要なポイントです。介護者や食品調理従事者は、冬場腸内にウイルスを蓄積する「かき」や「しじみ」などの2枚貝の生食を避けるようにしてください。ウイルスに感染しても症状の出ない不顕性感染もあるので、症状有無にかかわらず、手洗いが重要です。

また、感染を広げないためには、適切な治療をするとともに、夜間など職員の少ない時におう吐などの患者が発生した場合、優先的に対応し適切な介護をすることです。