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歓迎されぬ来訪者

逃すかっ!
Xiao Mihua

プロローグ

年の瀬。雪が舞うアルタイアの街の一角に、ボク達の住まいがある。

ボクは学校に通っている身だけど、友達を自宅に呼ぶことはしないので、訪ねてくる人などめったにいない。

でも今日は、意外な来訪者があった。

第1景 影

「たっだいま〜。」
「あ、おかえりなさーい。」

学校から帰ったボクを、メイド服姿のフィリィ(フィーリアの愛称)が出迎えた。

フィリィとは、ボク達と一緒に暮らしている使い魔で、本名はフィーリア・レイクロスという。ピンク色の髪とラピスラズリのようなブルーの瞳がマッチした、とても可愛らしい少女である。

使い魔というのは魔法によって生み出された半人半獣の生命体。そして使い魔は、主人に仕えることが役目なので、自分の意志を持たない。しかし彼女はクリエイタ(使い魔など生命体を生み出すことができる魔導士のこと、ここではフィーリアの作成者)に「娘」として育てられたため、自らの意志で行動することが出来る。使い魔の中では、ちょっと変わった存在だ。

ちなみに彼女の外見は、半人半獣というか九人一獣くらいで、人間と大差ない。ただ白猫の耳としっぽがあるくらいである。

ボクは鞄を傍らに置くと、とりあえずメイド姿のフィリィに抱き着いた。ハグってやつだね。まぁ実際はハグというより抱っこに近いけど。

聞くところによるとフィリィは、生まれつき身体に異常があるそうで、途中で成長が止まってしまったのだそうだ。そのため彼女は、実際の年齢とは異なり見た目は10歳くらい。なので身長160cm位のボクとは身長差がかなりあるので抱っこに近くなるという訳。

「さて、今日のおやつは何かな?」

ボクが聞くと彼女は。

「鯛焼きがあるよ。まだ温かいはず・・・。」

ほほー、鯛焼きらしい。この寒い時期にはぴったり。個人的にはフィリィを(別の意味で)おやつにしたいけど(笑)。

え? 同性愛レズ自重しろ? アーアー、聞こえない、聞こえない。

「じゃ、早速食べようっ。」

ダイニングテーブルにおいてあった1個の鯛焼きを手に取ると、ボクはアグレッシブに、頭の方からパクリとかぶりついた。

ん〜、この香ばしさと甘さがたまらないっ。

「あれ、フィリィの分は?」

鯛焼きは1個だけだったので、当然、これを食べてしまえば彼女の分はない。

最後の1個なら食べる前に聞けって? 実はボクには秘策があるのだ。うふふ。

「あ、あたしは要らないよ、シャオミィさんが食べちゃって。」

やっぱりそうきたね。外見に似合わずフィリィは甘いものはあまり食べないので、この程度は予想の範疇なのだ。

「じゃ、しっぽの方、あげるよ。このまま齧りついちゃっていーから。」

ボクは鯛焼きのしっぽの方を指さしながら、彼女を誘った。

名付けて、「鯛焼き☆KISS」大作戦っ。

どうでもいいケド、鯛焼きの頭を口に含んだままなのでしゃべりにくい。

「いいの? じゃ、お言葉に甘えまーす。」

ぱくり。

彼女の愛らしく小さな口が、しっぽ部分を覆い隠す。

目標ターゲット捕捉ロックト! その距離、約5cm! 後はこのまま、お互いに食べ進んで・・・。

だが次の瞬間。

「むぐむぐ、ごちそうさま〜。」

一口だけ齧り、フィリィは鯛焼きから口を離してしまった。

「じゃ、洗い物の続き、してくるねー。」
(に、逃げられた・・・。)

引き留めるタイミングすら与えずシンクに向かう彼女。

・・・。

ぼーぜん。

そしてその後に湧き上がる悔しさ。

うう、あと少しだったのに・・・。

悔しさに任せてぎりりと奥歯を噛み締めるボク。その拍子に、フィリィが齧った跡から餡がはみ出て、ぼとりと落ちた。

さて、そんなこんなで鯛焼きを平らげた(さすがに落ちた分は捨てたけど)ボクは、鞄を担いで2階へと上がってきた。そして自分の部屋に入ると、どさっと鞄を放り投げる。

(うーむ、さっきは実に惜しかった・・・。)

鯛焼きの件を引きずりつつ、とりあえずボクは普段着に着替えることに。いつまでも制服だと窮屈だからね。気分的に。

ぽぽいっと靴を脱ぎ捨てベッドに飛び乗ると、ボクは上着とスカートを脱ぎ捨てた。そしてクロースボックスからズボンとかセーターとかを引っ張り出し、いそいそと着込む。

ん、何か変だ。

よく見たら、ズボンに開けておいた穴からしっぽが出ていない。ううむ、ボクとしたことが・・・。

あ、ボクもフィリィと同じく使い魔の身体の持ち主だったりする。彼女と似たような、白い体毛に覆われた耳としっぽを持っている。もちろん他人に仕えるといったことはない、というか普通の人間だ。ボクが人間なのにどうして使い魔の姿をしているのか、それはまた別の機会に話してあげるね。

セーターに手と首を通し終えた、そのとき。

「・・・ん?」

カサッ。

部屋の一角、ごみ箱の辺りから奇妙な音が聞こえた。

・・・、何か、いる。

ボクの三角形の耳は、確実に何者かの立てる音を聞き取っていた。

じー。

ごみ箱を凝視しながら、慎重に近づく。

間違いなく、このごみ箱の辺りに何かがいるはず。ボクの猫の耳が、そう告げている。

そしてごみ箱からの距離が50cm位のところまで近づいたとき。

さっ、と怪しい影がごみ箱の後ろから飛び出した。

(見つけた!)

出入り口の方へ走り去ろうとする、小さな影。

思ったより素早い、しかしボクの両目は、その正体をしっかり判別していた。

ボクの握りこぶしよりも小さい、白いネズミ。

チチチッ、と鳴きながら、それは部屋から退散しようとしていた。

(逃すかっ!)

ボクは果敢に、ベッドからネズミ目がけて飛びかかった!

走り去る影を追い、ボクの身体が宙を舞う。

ベッド、じゅうたん、脱ぎ散らかした服、出入り口の敷居。それらがボクの下を流れ去る。

だが。

ネズミは廊下に出た瞬間に方向を変え、ボクの追跡を振り切った。

(・・・はっ。)

目前に迫る、廊下の柱。

思わず目を閉じる。

だが無情にも。

ごんっ。

「へぶっ!!」

何も見えない空間、赤い黄色いフラッシュがまたたく。

ボクの頭は柱と激突し、勢いを失った体はそのまま真下に・・・。

どすん。

(や、やられた・・・。)

遠のく意識の中、ボクは、自分がかなり間抜けなことをやってしまったことを認識した・・・。

第2景 発展する騒ぎ

「・・・さん、シャオミィさん!」

ボクを呼ぶ声が聞こえる。

目を開けるとそこには、ボクの顔を心配そうに覗き込む、青い2つの瞳があった。

「あ、フィリィ・・・。」

ボクが口を開くと、その2つの瞳に少しだけ安堵の色が現れた。

「シャオミィさん、大丈夫?」

ボクはその問いに答えようとした。

「・・・ッ!」

しかし上体を起こそうとすると、頭にズキッと痛みが走る。ボクは思わず怯んでしまった。かなりしたたかに頭を打ち付けてしまったらしい。

「あ、無理しないで、そのまま寝てていいから・・・。」

フィリィの小さな手がボクの額にかざされる。そして彼女が呪文を唱えると、頭のぶつけた部分がじわりじわりと温かくなってきた。

その人の持つ自然治癒力を高める魔法・・・そう、これは回復ヒールの魔法だ。

魔法学校で教わった内容を思い返すボク。

あれ? でも何だっけ・・・、この魔法には欠点というか、注意すべき点があったような・・・?

と、そのとき。フィリィが魔法の詠唱を中断した。傷口に舞い降りた温もりの天使は飛び立ってしまい、後はいつも通りの感覚が戻ってくる。

「ふぅ・・・、とりあえず今は、止血だけに留めておくね。あんまり一気に治しちゃうとシャオミィさんの身体がもたないし・・・。」

・・・思い出した。いかな魔法でも、その人の消耗する体力までは補えない。一気に回復するということは、回復に使うために体力を一気に消耗してしまうことにほかならない。言い方を変えると、その辺を考慮せずこの魔法をかけ続けると、怪我人のケガは治ってもその人がふらふらになって動けなくなったり、最悪、癒されるべき怪我人の方がバタリと衰弱死してしまうことすらあるのだ。

名前や効能とは逆に、意外と恐ろしい魔法なのである。

・・・うし、説明できたっ。えっへん。

・・・魔法学のかなり最初に、「超初歩」として習った記憶があるけど。(汗)

「ところでシャオミィさん。」

しばらく横になり、体力が戻ってきた当たりを見計らって、フィリィがボクに問いかけた。

「一体何があったの?」

なるほど、当然の質問だ。

「うん、実はね・・・。あ、その前にちょっと耳を貸してくれるかな?」
「?」

フィリィは警戒心ゼロで左耳を近づけてきた。

うふふふふ・・・。

目標ターゲット捕捉ロックト! その距離、約5cm! 後は、彼女の愛らしい猫の耳が近づいてきたところをそのままパクッと・・・。

だが次の瞬間。

玄関に何者かの足音が。

「あ、誰か帰ってきたみたい。時間からして愛さんかな。出迎えてくるね。」

遠ざかるフィリィの横顔。

お、おにょれ・・・。

第3景 八つ当たり

帰ってきたのはフィリィの予想どおり、アイ(愛の愛称)だった。

フルネームは霞ヶ峰・愛。はしばみ色の瞳と、若干癖のあるプラチナブロンドの髪を持つ、一見すると深窓の令嬢といった感じの女性である。多分女性(笑)。しかしその外見に似合わず、本職は砥ぎ師。宮廷の衛兵や自警団の隊員から、砥ぎの仕事を受けて生計を立てている。そのせいで、モリモリとした筋肉質の腕をお持ちだ。一体何人くらいが、そのもこもこした腕で絞め殺されたのだろうか(笑)。こんなコト本人の前で言うと、ボクが犠牲者第1号になっちゃうけどね。

ニックネームはアイ。ってかこれ以上縮めようがないんだけど。

アイを出迎えるために階下へ行ってしまったフィリィが戻ってくるのを、ぼんやり待っていると・・・。

ちゅう。

(何か聞こえた・・・。)

音のする方を見ると、さっきのあのネズミがいる。

ボクと目が合うや否や、そのネズミはたたたっと駆け、ドアの隙間から室内に侵入していった。

(・・・、思いの外、かわいいかも・・・。)

真っ白な体毛に深紅の瞳。きっと白色個体アルビノだ。

(でも、よりによってアイの部屋に逃げるとは・・・。なむ・・・。)

そしてさらに時間が経ち。

アイが2階にのっしのしと上がってきた。

(いよいよ、ラスボスの登場だ・・・。)
「あらシャオミィ。変わったところで寝ているわね。」
「いろいろとあってね。」

さぁ聞くがいいっ。ボクの活躍劇をっ。

「あらそう。風邪を引かないようにね。」

・・・あっさりスルーされた。

「・・・よければ詳しく話すけど?」
「興味ないわ。じゃ、私は着替えてくるわね。」

・・・本気スルーモードだ・・・。むぅ。

「聞いといた(聞いておいた)方がいいと思うなぁ、ボクは・・・。」
「はい、はい。着替えたら聞いてあげるわ。」

アイは本当にボクの話を無視し、自分の部屋に入って行ってしまった。

暇つぶし相手を失い、しばらくボクはぼーっとしていた。すると・・・。

「きゃああああああああっ!!」

身の毛もよだつアイの絶叫アイズ・スクリーム氷菓子アイスクリームを一気に食べた時のような頭痛が走る。そして、耳を塞ぎたくなるような破壊音が・・・。

どすん、どすん。ガシャーン。

ひとしきり破壊音が続いた後。

部屋の主でもあるアイが出てきた。随分とご立腹の表情、というか疲れ果てているようにも見えるけど・・・、で、肩で大きく息をしている。

「・・・どーしたのさ?」
「な、何でもないわ・・・、ぜぇ、ぜぇ。」

目付きがこわい・・・。

「そだアイ、ボクの部屋にネズミが出たんだよ、そっちに行ってるかもしれないから気をつけてね♪」
「・・・、もう遅いわよ!」

ぽかっ。

「ちょ・・・何で殴るのさっ。」
「そーいうことはもっと早く言いなさいッ!」

ってことは、あの悲鳴はやっぱり・・・。

「むぅ・・・聞きたくないって言ったのはそっちじゃないかー。」
「それとこれとは話が別よ。」

ぽかっ。

「いたいイタイ、暴力反対っ。そんなに暴力ふるってると、お婿にいけないゾ☆」
「だーれーがー、お婿ですってぇー!?」

ぽかっ。

「うぁごめん、素で間違え・・・ぎゃーーー!!」

這うように逃げるボク。しかしアイは容赦なく馬乗りになりボクの動きを封じると、ボクの頭をボコボコ殴り始めた。

「・・・大人をからかうのも程々にしなさい。全く・・・。」

ボクがアイの全体重から解放されたのはその1分後。そして結局、またもやボクはフィリィ回復ヒールの魔法のお世話になることになったのである。

第4景 寝室チェンジ

「困ったわ・・・。業者に依頼しないとだめかしら・・・。」

シャオ家の晩餐・・・というほど大袈裟でもないけど、晩御飯タイムでの会話。声の主は家長にして政治家でもあるボクのかあさんである。名前は蕭・梨花リィホァ。そーいやボクの本名、まだ言ってなかったっけ。蕭・蜜花ミィホァ、通称「シャオミィ」。

「1匹見たら30匹はいると思え、と言われるくらいですし・・・。」

ため息をつき、フォークで晩御飯のエビフライをつつきながらアイが応じる。

それって、ゴキブリだったよーな・・・。

「とりあえず・・・、毒餌でも仕掛けてみますか?」

フィリィが問う。しかしかあさんはトンデモない理由でその提案を却下した。

「いえ・・・、蜜花が拾い食いするといけないわ、止めておきましょう。」

アイも応じる。

「そうね・・・、そんなことで翌日の新聞に載りたくはないわね・・・。」

ってか、自分の娘をもっと信じようヨ・・・。

かあさんとアイが敵(?)に回ってしまった今、味方になってくれそうなのはフィリィだけ。

(フォローよろしくっ。)

ボクは目配せしてフィリィに伝えた。

「? ・・・、!」

彼女は最初、キョトンとしていたが・・・、ややあって力強く頷いた。

うし、通じたらしい。さすがはボクの恋人だねっ。

「シャオミィさん、おかわりだね。茶碗に七分目くらいで良い?」

ちっがーう!!

「良く食べるわねぇ・・・。」
「あはは、怪我しちゃったから、その分、身体の方がご飯を欲しがっているんじゃないかな。」

そーいうフォローはいれなくていいから・・・。

「とりあえず・・・、ネズミは愛さんと蜜花の部屋に出たのよね?」
「あ、はい。」

本題に話を移すかあさんに、フィリィが応じた。

「最後に見たのは私の部屋ですわ・・・、でも、もう移動しているでしょうね・・・。」
「そうね・・・。どうしたものかしら・・・。」

アイとかあさんが腕組みをして悩んでいる。別にボクとしてはどーでもいーんだけど・・・。ネズミ、平気だし。

するとフィリィがすっごく魅惑的な提案をしてきた。

「愛さん・・・、ネズミが出た部屋で寝るのは抵抗ありますよね・・・? 良ければ今日だけ、あたしの部屋で寝ますか?」

フィ、フィリィのお部屋で就寝っ!?

むっはー。このチャンスは絶対、モノにしないとだめだね、バチがあたるねっ!

「はーいはいはいっ! ボク、フィリィの部屋で寝るっ♪」

間髪を空けずに手を挙げるボク。アイとかあさんが、すっごく呆れた顔になっている。でもそんなの関係ない♪

「え、えと・・・、シャオミィさん、ネズミ、平気なんじゃないの・・・?」

突然のボクの発言にやや戸惑いながら、フィリィが尋ねてきた。

「そんなことないよ、ネズミに耳をかじられたりしたら、あまつさえそれが原因で顔色が青くなったら・・・っ。」
「ない、ない。」

ボクの返答に、アイが肩をすくめながら突っ込む。でもそんなの関係ない♪

フィリィは少々考えていたが、ややあって。

「じゃ、シャオミィさん、あたしの部屋で寝てください。」

ボクの希望を受け入れてくれた。

(きぃーーーたぁーーーーー!! 今夜は永遠にボクのターン!!)

すでにボクの妄想スイッチはON。空想の中でボクは、フィリィといっしょに布団に入り、彼女のパジャマを優しく脱がせていく。そしてその小さい身体を、壊れないようにそっと抱き締めながら、まずはその愛らしい唇をボクの口で・・・。

うふふふふふ♪ 今夜は寝かさないゾ♪

そして食事も終わり、待ちに待った就寝タイム。

ボクは、念願のフィリィの部屋で、二人っきりになった。

・・・。

アイと(血涙)。

「愛さん愛さん。どーしてキミがここにいるの?」
「・・・、寝室をフィーリアちゃんと交替したからよ。」
「愛さん愛さん。どーしてボクは簀巻きにされて床に転がされてるの?」
「・・・、私のみさおを守るためよ。」
「愛さん愛さん。ボクは異性には興味ないよ?」
「・・・、それがあなたの遺言ね?」

翌日。ボクはかあさんから、夜中に絶叫しないようにきつく叱られてしまった。

第5景 捕獲

ボコボコにされた顔をフィリィの魔法で治してもらった後、ボクは学校へと向かった。

そして学校の授業は終わり、部活も終えて帰宅。体力的にちょっときつい(汗)。回復の魔法で体力、使い過ぎたからねぇ。

「ただいま〜。」
「あ、お帰りなさーい。」

さぁ栄養補給だっ。

「今日のおやつは・・・ん?」

ボクがキッチンを覗いてみると、フィリィが手のひらに何かを乗せ、もう片方の手を近づけている。手の位置は胸の前、何かを大切に抱えているかのような図だ。

あれはもしかして・・・。

近づいて確認。フィリィの右手の中にいたのは、あのネズミだった。左手にはニンジンのヘタ。ネズミはそれを一所懸命ボリボリとかじっている。

「それ、どうしたの?」

ネズミは長いリボンで体をくくられ、フィリィのしっぽに繋がれている。そしてなぜか、ネズミの胸元で小さな鈴がカラコロと鳴っている。

「あ、えと、昼寝から目が覚めたら、あたしの手の中にいたのです・・・。無意識に捕まえちゃったみたい。」

聞くところによると、目が覚めたときには、ネズミはフィリィの手と布団との間でじたばたしていたらしい。そこで彼女は、アクセサリのリボンをほどいてネズミに結わえ付け、自分のしっぽに繋げて逃げられないようにしたのだそうだ。鈴はなぜかネズミのそばに落ちていた、とのこと。

「たぶん、ネズミが興味本位でどこからか持ってきたんじゃないかな・・・。」
「ほむ。」

案外、フィリィに鈴をつけるのが目的だったり・・・? 猫に鈴ベル・ザ・キャット、なんつって。

でもこれ、なかなかおもしろそうなオモチャだ。

「ねーフィリィ、そのネズミ、貰っていい?」
「あ、うん、いいよ〜。逃がさないようにしてね。」

ボクもフィリィと同じように、しっぽの根元にネズミを繋げると、とりあえずリビングに向かった。歩いている間はリボンの長さが足りないので、ネズミは宙ぶらりんに・・・なるかと思いきや、しっかりボクのお腹の辺りにしがみついていた。何だか妙に人間慣れしているなぁ・・・。

コタツに入り、テーブルの上においてある蜜柑に手を伸ばすと、ネズミもテーブルの上に登ってきた。

「む。キミも食べるのかな?」

試しに、剥いた蜜柑の皮を与えてみると・・・。

ネズミは端っこの方の臭いを嗅いだだけで口をつけなかった。意外と美食家グルマンらしい・・・。

と、その直後。

「!! 臭っ!」

ネズミは蜜柑の皮の上で、食事中には相応しくない行為に及んだ。

よりによってこのボクがおやつを食べている目の前で・・・っ! これはボクに対する宣戦布告に違いないっ。

「このっ! 鼠丼(?)にしちゃうぞっ!」

かくして、ボクとネズミの壮絶なバトルが始まった。

ドタバタ、ちゅーちゅー。

逃げ惑うネズミ。追いかけるボク。完全に弱者と強者との立場がわかれている戦い。しかしネズミはすばしっこく、ボクの手から見事に逃げ続けた。

「・・・、貴方、何をやっているのよ・・・。」

ふと気づけば、いつの間にか和室の入り口にアイが立っていた。隣にはロビン(ロバートの愛称)もいる。

「む。いつの間に・・・っ。とりあえず、おかえりー。」
「(帰ってきたのは)ついさっきよ。ただいま。」
「俺は今日は休みだからな。(リビングが)妙に騒がしかったんで、トイレついでに様子を見にきたんだが・・・。」

ちなみにこのロビンというのは、うちに居候している傭兵である。今は酒場の用心棒だけどね。本名はロバート・バーン。

短めにセットされた金髪が印象的な爽やか風の男だが、実はかなりの肉体派だ。そして無類の酒好き。蕭家唯一の男性でボクらのお兄さん役でもある。

「で・・・、シャオミィ、貴方は何をしていたのかしら?」
「いや、ボクの目の前でフンをした、この不埒なネズミを取っ捕まえようと・・・。」

ボクの言を聞いて、アイは手で額を押さえ、溜め息をついた。

「ねぇシャオミィ、こんな話、知っているかしら?」
「ん?」
「猫のしっぽにソーセージを括りつけておくと、猫はそのソーセージを食べようと追いかけるのよ。でも猫の首としっぽは胴体でつながってるから、追いかけた分、ソーセージは逃げてしまい、猫はソーセージを捕まえられずに、くるくる、延々と回り続けてしまう・・・。」
「ほほー。って・・・。」

そういえばこのネズミ、ボクのしっぽと繋がってたんだっけ。

「つまりアイは、ボクと猫とが同じレベルだと言いたいのかな〜?」
「あら、ちゃんと気付けたみたいだわ。猫よりかは頭はいいみたいね。」

・・・おにょれっ。そーゆーアイだって、脳みそより二の腕の方を鍛えているくせにっ。直接言ったら多分絞め殺されるけど。

「ああでも愛さん、そのソーセージの話は作り話だぜ?」

アイの長ったらしいせりふを黙って聞いていたロビンが口を挟んできた。どうやらロビンはボクの味方になってくれるらしい。

「子供のころ試したことがあるんだが、その時の猫は器用に体を曲げて、いきなりぱくっと食っちまいやがった。」

・・・。

「あらロバート、追い打ちも程々に、ね?」
「ん? 俺、何かまずいこと言ったかい?」

信じたボクが馬鹿だった。

その後、アイはここでは寛げないからと言い残し、洋室の方のリビングに行ってしまった。ネズミとのバトルで荒れてしまった和室のリビングには、ロビンとボクとが残されている。

「で、そのネズミ、どうするんだい? 飼うのか?」
「んー、晩御飯のおかずにしてもいいかも。ネズミの肉って、牛肉に似ておいしいらしいよ?」

ちゅーちゅーちゅー。ボクとのバトル以降おとなしくなっていたネズミが、急に騒がしく鳴き始めた。もしかして人間の言葉が分かるのだろうか。

「まぁ確かに、俺は傭兵時代に食ったことはあるが、なかなかの味だったな。」

ほほー。それは初耳。

「鼠丼?」
「いや、姿焼きだ。味付けは塩と胡椒だったかな。傭兵時代は何かと大変だったからね。」

なるほどねー。ロビンのことだから、お金が全部酒代に消えて、仕方なく野鼠を捕まえてご飯にした、ってあたりかな。

「とりあえず、このネズミの名前、決めておこうよ。このままじゃ呼びづらいし、さ。」
「そうだな・・・。」

ボク達はネズミに相応しい名前を考えるべく、うんうん唸り始めた。当のネズミは、リボンがピンと張るくらい、必死になって逃げようとしている。

「『やきにく』ってのはどお?」
「おいおい、また随分とストレートだな。」

ちゅーちゅー。

「じゃ、『そぼろ』とか。」
「ストレート過ぎるだろ。『非常食』辺りが良いんじゃないかな。」
「そっちの方がストレートじゃん。」

ちゅーちゅー!

何だか鳴き声の必死さがレベルアップしたよーな・・・。

「じゃ、こうしよう。お互い、良さそうな名前のリストを作る。後は二人で、その中から選べば良い。」
「おっけー。」

メモを前に虚空を睨んでいるロビンの横で、ボクもリスト作りに取り掛かった。

(とりあえず『やきにく』と『そぼろ』は入れるとして・・・、後は何が良いかな・・・。)
「『すきやき』・・・『みずたき』・・・『たたき』・・・生はまずいかな・・・。」
(『カツ』・・・『フライ』・・・。『ステーキ』もいいな〜。)

ボクたちが悩んでいる間、ネズミはコタツにもぐりこんでガタガタ震えていた。

第6景 命名

ロビン、どんな名前、思いついた?」
「おう、俺の方はこんな感じだ。」

ボクは彼のリストを覗き込んだ。

「『焼酎』・・・あはは、ロビンらしいや。」
「良い名前だろ?」

そりゃ、酒好きのロビンにとってはぴったりだろうけど(笑)。

「他には・・・?」
「ああ悪い、これしか思いつかなかった。」

こらこらー。

「そっちはどうだい? ・・・おお、いろいろ考え・・・って、どれもこれも食べ物の名前だな。」

ロビンが茶化すように感想を漏らす。ボクも笑いながらそれに応じた。

ロビンも全部、お酒じゃん。」
「全部、ったって1個だけだぜ?」

ロビンが肩をすくめる。

いや待って、それ、ボクがすべきリアクションだから。

「1個だとそもそもリストじゃないじゃん。」
「おおっと、痛いところを突かれたな。成長したじゃないか、シャオ(シャオミィの愛称)。」

今度は後頭部をぼりぼり掻くロビン

あさっての方向を見たところで、ごまかせないゾ?

「で、『焼酎』以外だと、何が良いかな。」
「そうだなぁ・・・。」

ロビンは頭を掻くのをやめて、ボクのリストを覗き込んだ。

ややあって。

「うーん、『炙り焼きブロイル』か、『網焼きグリル』だな・・・。」

どうやら彼の頭の中では、2つにまで絞れたらしい。うし、後はボクが独断で・・・。

「じゃ、『グリル』にしよう。」
「了解。決定だな。」

ちなみに判断基準はボクの「気分」。今はどっちかと言うと、グリル料理を食べたい。

そのとき。母さんが仕事から帰ってきた。そして玄関から、ボクを怒鳴りつけた。

「蜜花! カバンくらいきちんと自分の部屋に持っていきなさい!」

・・・そーいや、カバン、玄関に放り出しっ放しだったっけ。

「あいさー。」

ボクはネズミをコタツの足につなぎ止め、忘れてしまわないようにリストの『グリル』にチェックマークを付けると、カバンを処理しに玄関へと向かった。

第7景 ネズミの正しい飼い方は?

2階の自室に戻ると、ボクはカバンを放り投げ、ずっと着っ放しだった制服を脱ぎ捨てた。ネズミに夢中になってたから気にならなかったけど、今にしては随分と窮屈だったからね。

普段着の袖に腕を通しながら、ふと気になってごみ箱の方を見てみた。

(そういえばグリル、最初はあそこにいたんだっけ。)

床をたたたっと駆け抜ける姿が思い出される。

(次に出会ったのは確か・・・。)

柱に頭をぶつけ、回復してもらった後、アイの部屋に逃げ込む姿が脳裏に蘇る。

(その次は・・・。)

フィリィに取っ捕まって、餌をもらっていたんだっけ。

(餌をかじる姿、可愛かったなぁ・・・。)

ボクは机の上を見た。今は本やノートが平積みになっている。

ボクの想像力は、その積まれた本の陰からこちらを窺うグリルを生み出した。

空想の中のグリルは、ボクの姿を見るや否や、机から飛び降りボクに駆け寄る。そしてボクの体をよじ登り、頬擦りをした。

手で包むように、グリルを優しく抱き抱えると、グリルは指の隙間から顔を突き出す。そして野菜の切れ端をあげると、グリルは両手でそれをつかみ、もしゃもしゃと食べ始めた・・・。

(・・・可愛い♪)

普段は開かれることのない百科事典。積もったほこりを吹き飛ばすと、ボクはそれを開いた。

ぱらぱらとページをめくると・・・。

「あ、あった、あった。」

科だか目だかの専門的な説明が並ぶ。その後に。

「雑食性で食欲旺盛、食料品を始め、日用品や衣類まで食害する・・・か。」

つまり、餌は残飯でおっけー、と。

「うし、いけるっ。」

ボクはバタンと事典を閉じると、それを本棚に戻した。

後はかあさんさえ説得できれば、グリルを新しい家族の一員に迎えられそうだ。うふふふふ・・・。

その時。

「シャオミィさーん。晩御飯、できたよー。」

階下から、フィリィがボクを呼ぶ声がした。

第8景 ショック

夕食。

それはこの世で最も甘美な響きを持つ言葉。

・・・なんつって。

「今日の晩御飯は何かな〜。」

ダイニングと廊下とを仕切る扉から顔を覗かせるボク。ダイニング中央にでんと鎮座するテーブルには、所狭しと・・・言うほどじゃないけど、いろいろな料理が並んでいる。

フィリィやかあさんはもちろん、ロビンアイも既に席に着いている。居候2人と、ボクの将来のお嫁さん(ぁ)含め、蕭家全員集合である。

「今日は豚肉と野菜の炒め物、白菜と油揚げの煮浸し、それとシメジのお味噌汁だよ。」

おおー。豚肉かぁ。良いねぇ。

っと、いけない。忘れるところだった。グリルの件、いつ切り出そうかな。

「あ、でもシャオミィさんには特別メニューがあるよー。」
「ほふ? 特別メニュー?」

何だろう・・・?

「あら、良かったわね、シャオミィ。」

からかい半分のアイの言葉は無視。

フィリィが指さすその先には・・・、ちょっと小さめの、「焼き網の跡」が付いたハンバーグがあった。

フィリィが申し訳無さそうに、ボクに説明する。

「ごめんね、もうちょっと肉の量が多ければ、ちゃんとした網焼きグリルにできたんだけど・・・。」

・・・、まさか・・・!

「えー・・・っと、どうして、また・・・?」

恐る恐る聞くボク。するとフィリィは。

「あ、えと、これ、シャオミィさんの字だよね・・・?」

1枚の紙切れをヒラヒラさせながら聞き返してきた。

その紙はまさしく、あのときコタツの上に置きっ放しにしてたリストだった。

網焼きグリルのところにチェックマークがついてたから・・・。」

目の前が、真っ暗になる錯覚。

う、嘘・・・、だよね・・・?

ハンバーグの上に、ネズミグリルの姿が重なる。

グリルはこちらの方へ首を傾げ・・・、そして、幽霊のようにすっと消えた。

(そ、そんな・・・。)

思わず喉が詰まる。今の今までご飯の匂いに反応していた腹の虫も、完全に鳴き止んでいる。

(う、嘘だ・・・!)

ややもするとこぼれそうになる涙を、ボクは必死に堪えた。

「・・・ん? どうした、食わんのか?」
「いつもなら真っ先に食べ始めるのに・・・、具合でも悪いの?」

ボクのただならぬ雰囲気に、ロビンとかあさんが反応した。

「本当に・・・、料理しちゃったの・・・?」

喉の奥から無理やり絞り出すようにして、やっとのことで出てきた言葉。フィリィは一瞬、どう答えていいか分からない、という表情を見せたが。

「あ、はい。ミンチにするのが大変だったけど、頑張って作ったんだよ〜。」

無邪気な口調で肯定した。

信じられなかった。

かわいらしい顔をしたフィリィが、包丁を手に、暴れるグリルをまな板に押さえ付け・・・。

ボクは耐え切れず、目頭を指で押さえた。

「おいおい、どうした、どうした?」
「本当にどうしたのよ、シャオミィ。フィーリアちゃんが作ってくれたのよ?」

無理だ、無理だよ。いくらフィリィが作ってくれた料理でも、食べられるワケないよ!

ちゅう。

網焼き料理ハンバーグの上に幻が現れ、寂しそうに鳴いた。

今この状況のせいかその鳴き声には、1週間外界を彷徨さまよい続けた末に生家へたどり着いた時のような懐かしさと、橋の上から激流渦巻く川に宝物を落としてしまったかのような無念さが感じられた。

ちゅうちゅう。

再び、幻のネズミが・・・、ん? 今、本当に聞こえたような・・・?

「あーうー、出てきちゃだめだよ〜。」

声の主、フィリィの方へ顔を向けると、そこには・・・。

彼女の胸元、紺色のメイド服の下から、もぞもぞと這い出そうとする1匹のネズミの姿が。

あ、あれ・・・?

じゃ、じゃあこのハンバーグは・・・。

必死に服の中にそのネズミを押し戻そうとするフィリィだったが、当然、アイや母さんの目に止まらないはずもなく。

「ちょ、ちょっと、食事中にネズミは困るわ。」
「食卓には上がらせないでね、フィーリアちゃん。」
「す、すみません。ちゃんとつないでるので、安心してください。」

あわてて弁解するはめになっている。

「えーと・・・。」

ボクは疑問を口にした。

「このハンバーグの材料、って・・・。」
「あ、大丈夫、タマネギは抜いてるよー。」

おーさすがフィリィ、ボクがタマネギ嫌いだってこと、ちゃんと覚えてくれてたんだ。

って、そうじゃなくて。

「ミンチにした肉って・・・?」
「あ、豚のコマ切れです。野菜炒めにも入ってるよ〜。」

よかった・・・。そういうことだったんだね。

安心すると、堪えてた涙が急にぽろぽろ落ち始めた。

「お、おい、どうした?」

ロバートが驚きながらボクに声をかける。ボクは笑いながら(半分は照れ隠しだけど)答えた。

「いやー、フィリィがグリルを捌いてハンバーグにしちゃったのかと・・・。」
「グリル?」

アイが問い返す。するとロバートが、テーブルのジョッキに手を伸ばしながら代返してくれた。

「ああ、そうか。もともと非常食っぽい名前にしようってのがあったからな。グリルってのはそのネズミの名前だよ、愛さん。」

それを聞いて、今度はフィリィが納得した。

「あ、ということはこのメモ、このネズミの名前を考える時に使ったのかな。」

さすがフィリィ、理解が早い。

「うむ。その時に出てきた名前の候補だ。」
「すみません、てっきり晩御飯のリクエストかと・・・。」

しばらくの間、蕭家の食卓は、暖かい笑いに包まれた。

ボクが食事を半分ほど済ませたころ。グリルの話題はまだ続いていた。

「最初見かけた時は驚いたけど、こうやって見ていると随分可愛らしいものねぇ。」
「小さいし、余計可愛く見えるのかもしれないですね。」

アイの感想に、フィリィが理由を付ける。

「まだ子供なのかな。」
「んー・・・、ハツカネズミじゃないかな。ハムスターとかだと、もっと大きくなるんですけど・・・。」

そしてロビンの疑問に、答えを出している。

そろそろ、頃合いかな・・・?

「ところでそのネズミ、どうするのかしら? まさか本当に非常食にする訳にもいかないでしょう?」

おお。アイがすごく話題を振りやすい台詞を・・・っ。

ボクはそれに答えるように口を開きかけた。しかし。

「うちでは飼えないから、引き取り手を探した方が良いわね・・・。」

なんと、かあさんが先制攻撃を仕掛けてきた。

「うちで飼えばいいじゃん。引き取り手、探さなくてすむし。」

ここで負けてなるものかっ。ってわけで無理やり提案。

しかしかあさんは、にべもなく却下した。

「駄目よ、ただでさえ、うちには大食らいがいるんだから。」

むぅ。

ロビン、ちょっとは遠慮しようヨ。」
「お、俺のことか・・・?」

いきなり話題に登場させられたロビンが、少々慌てながら応じる。するとかあさんは。

「訂正するわ。うちには大食らいの猫がいるでしょう?」

むうぅ。

「かあさん、それはフィリィに失礼だよっ。」
「ほぇ?」

フィリィは、なぜ自分が話題に登場したのか、分からないといった態度。

やばい、ボケが通じてない・・・っ(汗)。

(あーもう、せっかくボケてるんだから、誰か突っ込んでヨ・・・。)

微妙にテンション下がり気味のボクの横で、ロビンが口を開いた。

「どうする、俺の勤め先で引き取り手を探そうか?」
「あら、あなたの勤め先って、酒場よね。飲食店でネズミの話題は好まれないんじゃなくて?」

むむ・・・。話題が良くない方向に・・・。

よし、ここは強引に軌道修正かけちゃえ。

「んー、ボクがちゃんとお世話すれば問題無さそうだけど?」
「先に自分の世話をしっかりしなさい。」

あっさり却下された。かあさんには、これっぽっちも、うちで飼う気はないらしい・・・(泣)。

「じゃ、こういうのはどうでしょう?」

フィリィが口を開いた。

「シャオミィさんの学校で、飼ってくれる人を探してもらう、学校ならたくさんの人がいますし、場合によっては学校で飼育してもらうというのも・・・。」

学校で飼育、か・・・。それはありかも。さすがフィリィだ♪

「あら、それは妙案ね。」
「そうね・・・、じゃ、(飼ってくれる人を探す件については)学校の方へは私から連絡しておくわ。蜜花、1週間以内に新たな飼い主を探すか、学校で飼育してもらえるよう頼み込むこと。いいわね?」

結局、うちで飼うというボクの目論見は、潰えることとなった。

それにしても「連絡」って・・・。政治家という立場を濫用している気がするゾ・・・。ま、いいケド。

エピローグ

学校へグリルを連れて行くと、たちまちクラスで話題になった。そしてその日のうちに・・・。

「あ、マイキー!」

ちゅー!

隣のクラスの女生徒が叫ぶと、それに応じるようにグリルが鳴いた。そして、その女生徒の胸に向かって大きくジャンプ・・・!

しかしグリルの体は空中でぴたりと止まり、直後、円弧を描いて落下した。

そーいや、リボンで繋ぎっぱなしだったなー(汗)。

事情を聴くところによると、このネズミは彼女の家で飼っていたらしいのだが、3日ほど前、巣箱を掃除している間に脱走してしまったらしい。多分ネズミ本人は、脱走というより、単に好奇心の赴くまま行動してただけなんだろうけどね。

ボクはその女生徒に、マイキーを手渡した。もちろん、ときどき会わせてもらうという約束も一緒に取り付けておくことも忘れない。

かくして、蕭家のネズミ騒動は幕を閉じた。

それにしても、もし、本当に食べちゃってたら・・・。

いや、想像するのは止めておこうっと。

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