潮来−茨城県

 小杉未醒(放菴)は、記録に残っている限り、とくに大正年間、しばしば、潮来周辺の水郷地帯を訪れている。その主な目的は水鳥などの狩猟と、そして、水村に画材を求めることであったとされる。

 現存している小杉未醒の初期の代表作《水郷》(東京国立近代美術館の所蔵)は、一般的に、潮来辺りの漁師を描いた作品として知られているが、未醒自身の著述(『正則洋画講義』応用美術講話「水郷」の日記)によると、実際の制作は、潮来から常陸利根川を北東へ遡った、現在の行方市玉造の霞ヶ浦の畔に取材して行なわれたという。

霞ヶ浦から利根川に注ぐ常陸利根川(潮来市)

霞ヶ浦から利根川に注ぐ常陸利根川(潮来市)

 しかし、《水郷》の背景に描かれた対岸の様子などに注目すると、やはり、川に沿った潮来の風景に近いようにも思われる。

 いずれにしても、潮来の水村は、小杉未醒がお気に入りの風景だったのであり、当時の日記にも、潮来に滞在中のこととして、以下のように記されている。

  小舟を雇ふて北利根小利根、加藤洲に泛ぶ、
  此辺一帯何時来ても佳き風景かな、 午后三
時又小船にのりて佐原に行き五時発車
帰京、

小杉放菴の『日記』(大正9年7月8日の項)より

潮来の船着き場付近より、常陸利根川を挟んだ加藤洲を望む

潮来の船着き場付近より、常陸利根川を挟んだ加藤洲を望む

常陸利根川に抜ける路地

常陸利根川に抜ける路地

 潮来の市街地から少し外れた、幹線道路から常陸利根川に抜ける路地では、小杉未醒による《水村長夏》などの作品と共通する風情が感じられる。

常陸利根川から北側内陸部を望む

常陸利根川から北側内陸部を望む

調査:2006年6月3日[小杉放菴記念日光美術館]