正午を過ぎたばかりの真夏の日差しが容赦なく肌を射したが、ほたるは一向に気に掛けなかった。
以前はるかに「ほたるももっと日に焼けて真っ黒になった方が、健康的でもっと可愛くなれるんじゃないか?」と言われていたので、丁度いいくらいだった(尤もみちるは「日焼けなんかしたら、折角のこの抜けるような白い肌が台無しになっちゃうじゃない」と賛成しかねていたようだが)。海など数えるほども来たことがないほたるにとって、何もかもがただただ珍しかった。
どこまでも透明なエメラルドグリーンをした遠浅の海、嗅ぎ慣れぬ潮の香り、熱くて裸足ではとても歩けない砂浜、時折海中や浜辺に姿を見せる小魚やらヤドカリやらといったものまでが、まるでかけがえのない宝物のようにキラキラと輝いて見えた。
今こうして波打ち際を歩いていられる事それ自体が、嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
あくまでも穏やかでのどかな海岸の午後。
ほたるは危うく、自分たちが今どんな状況に置かれているのかを忘れてしまいそうになっていた。
* 夏休みを利用していつもの仲間でやってきた南の無人島、かぐや島。
しかしそこでほたるたちを待ち受けていたのは、奇怪な事件だった。
島に行く途中の海上で突然船を襲った大嵐、そして海獣たち。大波の合間から姿を見せる謎の海賊船。
身を守る為やむなくセーラー戦士に変身して戦うが、船はまるで引き寄せられるようにして、一つの島に漂着した。
そこがツアーの目的地、かぐや島。
しかしほたるたちは、自分たちの力が何かによって封じ込められ、変身できなくなっていることを気が付いたのだった・・・。驚き慌てるほたるたちに比べ、船に随行してきたツアーコンダクター達はいたって冷静だった。
みんなの質問や抗議もうやむやの内にごまかし、ツアーのメインイベント、島に隠されているという宝石を探す宝探しを行うことになった。
二人ずつペアになって、島のあちこちに宝石を探しに行く。ほたるはせつなと組んだ。
そして、みんな島のあちこちに散らばっていったのだった。
* 「ほぉらぁ、せつなママ、早くぅ!」
ほたるは再び、後ろのせつなを振り返る。
先を行くほたるほど元気にも、また脳天気にもなれないせつなは、色々と考えこみながら歩いているせいですっかり遅れてしまい、さっきから何度もほたるに怒られる羽目になっていたのだ。
こんな事態でさえなければ、折角来たんだから海で一泳ぎ位したいと考えたろうし、何よりも無論、すっかりはしゃいで辺りを駆け回っているほたるの相手をするだけで、あるいはそんなほたるをただ眺めるだけで、せつなにとっては充分遠出をした甲斐があったというものだったろう。
だが今は、心にかかる不安の影をぬぐい去ることが出来なかった。
(変身できない・・・だけどどうして?)
せつなは自分の手のひらを見つめ、そしてグッと握りしめた。
(私たちの力は、恐らく減ったり無くなったりはしていない。
とすれば、それを解放できないということになる。何かの作用で力が無理矢理押さえ込まれているのか・・・)
「せーつーなーマーマー!!」
思いがけないほど遠くからの声にはっとして顔を上げると、砂浜に点々と続く足跡の彼方に、ほたるがじれったそうに両腕をバタバタさせている。
「あんまり遅いと置いてっちゃうよぅ!早くしないと宝物、ぜんぶ他のみんなに取られちゃうよ!!」
「ああ、ごめんなさいほたる。今行くわ」
あわてて駆け出すせつなを見て、ほたるは再びきびすを返して先へ進む。けれどせつなの歩みは、またすぐ遅くなる。
(やっぱりあのコンダクター達が怪しい。大体こんな島のそこいらに、宝石なんかが転がっているわけがない。
私たちを宝探しに興じさせておいて、一体何をたくらんでいるの?
戦士の力を封じ込めたのもあいつら?けれどそれだったら、船に乗ってた時から変身できなかったはず・・・・)
いくら考えても疑問は尽きず、それに対する答えは一向に出てこない。
そうこうしている内に、またしてもせつなはすっかりほたるから遅れてしまっているのだった。
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