【あねさま】
ねずみという動物は、賢いのか、ずるいのか。
古代、神様が動物たちに、「新年に挨拶に来い。12 番までその年の大将にしてやるよ」とオフレを出した時、ねずみは牛に早出をさせ、その背中に乗り、玄関前でトンと降りて 1 番乗り、十二支の中のトップに名を連ね、猫にはそこを尋ねる日を次の日と教え、結果、猫は十二支の中に入れず、故を持って、ねずみは、猫に追いかけられ、襲われ続けることになったという。
バカなことをしたものだ。
牛には、親切にしたのだから、猫とも適当に付き合っておけば、末代、こんな辛い思いをしなくてもよかったのに。
知恵が浅いのかもしれない。
ねずみのことを、『
あねさま』所謂「お姉さま」「お嬢様」というのは、米作り県秋田の生活の知恵かもしれない。『
おくらコ』とも言う。
「
御倉コ」。ねずみは大抵倉の中にいる。悪さをされたくないから「御」をつけ、秋田では可愛いものには「
コ」をつけるが、敬意と愛情の二つをつけている。
『
あねさま』といい、『
おくらコ』といい、異常にねずみに気を使っている。
それにしても、教育と農政は、引きずり回され、引っ掻き回され、瀕死の重傷というか、気息奄々というか。ネエ。
田舎モンだから、都会のことはよく分からないが、ねずみといえば農家。農家には小屋。あ、そうか。我々は小屋といったが納屋か。その納屋があり、そこに籾米が貯蔵されていた。納屋も米の貯蔵庫も木製だから、ねずみは簡単に食い破り、食糧難などどこの世界。猫がいるといっても、まあ、全滅されることは、まずない。畠には野菜。冬でも土中、というか雪中に保存されているから、こちらも大丈夫。
しかし、ここに来て、納屋もモルタル、貯蔵庫は金属製、野菜なんて、保存している農家なんてない。
したがって、ねずみも農村にいても生きてゆけない。
見なくなったネエ。
みんな都会へ行っちまった。
猫は缶詰とカリカリで、ねずみを捕ることなど忘れてしまった風。
世の中、平和だネエ、しじみ (我が家の猫)。
【あだる】
秋田県を代表する生活習慣病。
他県を圧倒して、何年も、もしかすれば何十年も ダントツの1位。
数年前、《
ゆきのまち通信》という雑誌で畏友の
伊奈かっぺいサンと対談した時、お互いの県の日本一比べをした。
かっぺいサンは、出稼ぎ者が日本一、労働時間が日本一長くて、賃金の安さが日本一などと並べた。 私も負けずに、睡眠時間が日本一で小中学校の学童一人当たりの校庭の面積や、県民一人当たりの持ち畳面積が日本一であることなどを列挙した。
その話の中で、かっぺいサンが、秋田県の日本一の座がなかなか揺るがず、青森は万年 2 位に甘んじていたが、このたび、遂に秋田県を抜いて 1 位になったものがある。それが何かというと、脳卒中の死亡率だという。
『
あだる』とは、「脳卒中」のことを言う。脳梗塞も。心筋梗塞もかな。「中 (あた) る」だ。
しょっぱいものを食って、大酒の飲むせいかもしれない。
ついでに、『
かする』という、関連のある言葉があって、これは軽症の脳梗塞、脳卒中。見事に嵌った言葉だ。
こんなことを自慢してもどうしょうもないけど。
【あえ しか】
何かしくじったり、思わぬ出会いと直面した時など、秋田の人は、咄嗟に『
あえ しか』と言う。
「あら、どうしましょ」ということだ。
『
あえ しかだね』
とも言う。
この、『
あえ しかだね』について、秋田県出身の女優の
浅利香津代さんが面白いことを言っている。使い方で、どんな場面にも当てはまるのだ。
例えば、何年ぶりかで友人と会う。
「
あえッ しかだねッ」
と言って相手の肩を抱いたり、手を握ったり。
または、親類縁者、友人知人が亡くなり、その枕辺に座り、
「
あえー しかだネエ」
と目頭を押さえる。
大変な忘れ物をしたことに気づいた時、
「
あえッ しかだね」。
エッチな男友達にお尻をサッと撫でられた時、
「
あえッ しかだねじゃ」
と相手の手を払ったり、ほっぺを平手打ちしたり。その他、いろいろ。
ま、『
あえ しか』とか、『
あえ しかだね』を最初に持ってくれば、その場の本人の意思が伝わりやすい便利な言葉。
やってご覧。
【えっかだ】
しょっちゅう。度々。
【おがじょどめ】
「陸早乙女」。
「早乙女」を、『
しょどめ』と言う。田植えする女性。
一方で、田植えの時、その時、家でせっせと食事の支度をすり女性をそう呼ぶ。
農家にとって、田植えと刈り入れは、ある種お祭り。身内や隣近所が挙って作業する。『
よいこ』が生まれた。「結い」だ。
昼食は、重箱が並び、酒も出て、ちょっとした野宴。従い、食事のしたくは重要。『
おがじょどめ』は、きわめて大事な裏方。
【おしゅ かげる】
「けしかける」。「扇動する」。「唆す」。
『
おしゅ』は、けしかけたり、唆す時の掛け声。
【おじゃされね】
「手に負えない」。
『
おじゃ』は、「往生」カナア。
ちょっと手に負えないけど、それにしよう。
【おわりはぢもの】
「終わり初物」。
「
これで、今年ァ最後だじゃ」
など、旬の山菜や魚の料理が出される時に言う。
【おんじかす】
オレのことを言うんだなあ。
長男は『
あに』。
次男は、『
おんちゃ』。
三男は、『
おんじ』。と呼ぶことが多いが、四男から下は大抵名前で呼ばれることが多い。
戦争に持ってゆかれるし、流行り病や栄養失調で死ぬ。産制用具も余り発達していないから、昔は子供を一杯産んだ。男の子でも三男までが限界だったのだろう。したがって、呼び方がない。だから、まとめて『
かす』。
おれは粕だ。
【おさらばえ】
その昔、士族の妻たちが使った言葉が、今に残った。
「さようなら」。
さすがだネエ。
「さらば」という武士の言葉に「お」をつけて、なお、「え」をたして女性言葉にする。
ま、でも、これは、秋田衆が使った言葉ではなく、佐竹家の武士たちが水戸から持ってきた言葉のアレンジが定着したものだろう。
それにしても、「賜る」が変化して『たもれ』、それが県内あちこちに広まって、形を変えて『
たんえ』『
たんせ』『
たんしぇ』、あるいは『
たんひぇ』として定着しているなど、秋田弁は豊かで深いなあ。