【たうぇねぇ】

「酒休二日制」と、よく言われる。1 週間に 2 日、続けて酒を飲むのを休め、ということだ。
 無理な話だ。年休 2 日制なら別だが。
 かつて、「酒休 1 日制」が言われた頃、月曜日に休んだ。しばらく続いた。
 それにしても、秋田衆に「酒を休め」ということは、人間に「空気を吸うのを時々休め」ということと同じだ。
 がっこが美味くて鍋物が絶品で、心を込めた酒の美味いところに生まれ育った働き者?!は、決して自棄酒や憂さ晴らしの酒など飲まない。
 日本一の自殺県だが、酒の上での首くくりや刃傷沙汰などほとんど聞かない。 
 ただただ、美酒と旨い肴に酔い痴れ、民謡に聞き惚れて時を過ごす。
 それにしても、酔って後のたうぇなさは、どうしようもない。オレのことだが。
「だらしない」「分別がない」。
 語源は、「他愛ない」。

【だお だおどり】

 鴇。
だお」は、鴇の鳴き声から。
 その昔、秋田にも鴇がいっぱいいて、田の泥鰌や螺などを好んで食べたため、ある種、害鳥だったという。
 そのデンで行くと、今のやり方だと、やがて、サルも熊も、絶滅危惧種みなり、鴇と同じ道を辿る。
 手なずけ、残飯をばら撒き、山を荒らし続ける人間の責任はどうなる。

【〜だおん】

 〜だもの。

【〜だずおん】

 〜だそうだよ。

【たがらもの】

 役立たず。道楽者。バカモノ。
「宝は、飾っておくだけ。」
「このたがらもの!」
 と言われたら、ビビロ。

【たがや】

 桶屋。
 桶、樽は、ビシッと箍で締めて完成。故を持って、「箍屋」。
 でも、今では、高級民芸品以外に見ることが少なくなった。
 人間はアホだから、そういうものをドンドン捨てて、舶来のモノをよしとしてきた。そして今、食い物も、食器も、家も、着るものも、考え方まで舶来崇拝。結果として、粗悪舶来品に席巻され、窒息状態。
 オレは、秋田杉製、ビシッと箍のはまった超高級品のジョッキで金麦を飲む。贅沢な気分になるぞ。 
 

【たっぺもす】

 もてなす。『答拝申す』。
 でもこの言葉、どっちもあまり聞いたことないなあ。

【たでめ】

 棟上。上棟式。建築祝い。
 たぶん、「建て前」が語源だね。

【たでめ】

 資料を見ていたら、もう一つ「たてまえ」があって、「傲慢なこと」。
 これも知らなかったなあ。
「立ち上がろうと身構えること」から「立ち身」、即ち「たでめ」。でも、立ち上がろうと身構えることがなぜ、「傲慢」なのだろう。
 ま、いっか。

【だんぶ だんぶり】

 トンボ。
だんぶ』は、池や水溜り、淵、淀、ドブなどの意味を持つらしい。そしてそこが、トンボが卵を産みつけ、幼虫の育ったところ。故にトンボは「だんぶり」。
 秋田県鹿角地方に伝わる『だんぶり長者』という昔話はいいぞ。 (知りたければ、自分で調べること)

【ちぢぎ】

 これは「つつじ」。
 なぜそう呼ばれるかは知らない。

【ちとがる】

 尖る。
ちとげる』。子供のころ、エンピツを削る時、おふくろに、「よぐつとげれよ」と言われたものだ。
 川反 (世界に誇る秋田の、夜の歓楽街) で飲んで午前様のときは、アバ (このばあいは愚妻) の頭の角がちとがってる。

【ちまけぁり】

 ちまけぁりするのぁ
 うるだぐがらだ
 ゆっくり歩 (あり)
 ゆっくりゆっくり
 一歩 (えっぽ) 一歩 (えっぽ)
 前 (め) さ進め
 うるだげば
 ちまけぁりして
 ちのめるど (つんのめるぞ)

 そういわれで
 ゆっくり歩 (あり) ていだば
 オメァ
 どごの角で曲がったもんだが
 見 (め) なぐなってしまったじゃ

【ちゃもれぁ ちゃもれぁかが】

 現実のこととして、見たり聞いたりしたことはないが、継母の継子いじめは、古今東西の物語に多くあるし、今でも、メデイアのネタとして登場する。
 分からない訳でもない。
 女は、十月十日も我が身の中に子供を抱えて、摂取した養分のほとんどをその子に注ぎ、死ぬ思いで産み、産んで後も我が身を搾り出して栄養を与えて育てる。それぁ、我が子が可愛くて堪らない。後妻に入って、そこに先妻の子供がいても、それほどかわいいはずがない。
 そこに、我が子が出来てご覧。当然、先妻の子供が邪魔になる。
 しかも、だ。乞われてきたはずなのに、身分が「茶貰い」とは何事だ。
ちゃもれぁ」とは「茶貰い」。お茶を貰って話し相手になる女のことだ。おまけに老人語らしい。貶められているとしか言いようがない。先妻の子をいたぶりたくもなる。
 でも、最近は、若者たちの間で、乗り込んできた「後夫」が、「先夫」との間に出来た子供をいたぶったり、二人でいたぶり殺したりする。
 性の営みを快楽と感じるのは人間だけ、と聞いたことがあるが、その結果を考える能力が、今の若者たちから欠落してしまった。
 あ、脱線してしまった。 

【ちゅうぎ】

 結局、酒と、ガッコと味噌汁と醤油たっぷりのふたしこ(おひたし)なのかなあ。
 以前、知人で、美人の食生活研究家から、
「あゆかわさん。なぜ、おひたしに醤油をかけるか知ってる?」
 と問われて、答に詰まったことがある。
「味付けして、美味しく食べるためでしょ」
 と答えたら、彼女は、
「お母さんとお父さんがそうしたからよ」
 と言って、ニヤリと笑った。
「馬だってニワトリだって味噌をつけたり、塩を振りかけたり、醤油に浸して餌を食べないでしょ」
 そういうものを使うのは、人間だけの悪しき生活習慣なのよ、という。
「じゃ、そういう生き物は、卒中にかからないのか。海の魚は全部卒中にかかるのか」
 と言おうと思ったが、軽蔑されるのが分かっているからやめた。
 秋田県人は、卒中日本一で、死亡率も高い。青森と競争して、時々負けるが、王者であることに代わりがない。その原因を、大酒飲みで塩分の取りすぎと言われた。いや、言われている。
 食生活の改善を、徹底的に指導されているが、依然として、改善の足取りは遅い。
 でも、「親がそうしたから」というのは面白いではないか。
 しかし、歯にまで染むようなしょっぱいガッコや、飲むとき、喉がヒリヒリするおぢげっこ (味噌汁)、醤油が滴り落ちるふたしっこや刺身っこなど、地酒の肴として絶品だし、それこそ、親から子へ、子から孫へと受け継がれてきた秋田の食文化。
 その病に苦しむ人を、『ちゅうぎたがれ』という。
 「中気」は、漢方名で、古語みたい。

【ちゅうぶ】

 中風。「卒中風」の簡略化したもの。
 こちらは口語で、現代風。

【ちらちけねぁ】

 秋田衆は「しょしがり」で、内弁慶の引っ込み思案。「せやみこぎ」だ。それが県勢の遅れの原因だ、とよく言われる。
 こういう県民性を克服しなければいけない。
 そう思っているのは土着の現地人だけなのではないかしら。しかもそれは、オカミのピントはずれと思い上がりだ。
 秋田衆は、せやみこぎだが、「ええふりこぎ」だし「きさじこぎ」で、「かだっぱりこぎ」でもある。
 おまけに、しょしがりは猫かぶりで、外から見れば、ちらちけねえこと夥しい。しかも、「世間知らず」だから、人と人の繋がりで社会が成り立っているとか、そのために自分が何をしなければならないかとか、なにをわきまえるべきか、など身に着けていない。
 だから、他人の領分に土足で上がりこむことを何とも思わない。
「あつかましさ」「図々しさ」を抱え込んでしまっている。
 これらは、豊かな資源と中央コンプレックスと、オカミの圧政に耐えて生きてゆくための術として、長い間に身につけた骨がらみの処世術。
 その呪縛から抜け出せるかどうかが課題なのだ。
 頭を柔軟にして、それを使う訓練をしなきゃ。

【ちらましねぇ】

うだでぇ」とも言う。
 無残だ。いたわしい。やりきれない。
 秋田の県民性だね。

【つぁ ちゃ】

 「お父さん」 「一家の主」。
 中年以上の男の総称として使うところもある。
 これ、たぶん、「ちゃん」の簡略化されたものだ。
『子連れ狼』で、「ちゃん」は定着した。
 山本周五郎の小説かなあ。

【てぎ】

 こういう特に、鼻濁音を表現する文字が欲しい。
「ぎ」と発音すれば「敵」だし、鼻濁音だと「大儀」。
 金田一京助博士の孫さんよ、TVでバカやって、祖父と父の権威を落とし、面汚ししている暇があったら、鼻濁音の文字化のために汗を流してみろよ。
 祖父は日本の言語学の神様、と同時に石川啄木の最大の理解者で援助を続けた大恩人。そのために生活が苦しく、それを見ていた貴方の父が、ある種、反面教師として、ちゃんと言語学を究めながら、TVなどでも稼いだ。
 あなたは、父のそこだけを見習ったのかい。
 ま、いっか。
2009/2/15
続く

メールけでけれ

ホームページ

あゆかわのぼる の 秋田弁豊穣記